観光と情報
夕食まで時間があるため、二手に分かれて旅の準備をすることになった。ナナミ、アズール、セイブルが日用品の買い出しを、私とマスターが携帯食の買い出しを担当する。とはいえ、実質マスター用に一人分だけ買えばいいため、それほど手間はかからないだろう。
適当に二、三件の店を物色する。この干物なんかは美味しそうである。ひとつ買って食べてみたが、噛めば噛むほどに広がる旨みと香りがたまらない。やや甘めの味付けが私の好みにぴったりである。いや、私の好みのものを見つけてどうするのだ。マスター用の食事を買いに来たはずである。
「気に入ったのなら、もう少し買っていこうか」
「……いや、私の好みで買うものを決めなくても」
「でも、食べたいんでしょ?」
「……うん」
流される私も私だが、マスターが甘すぎるのも問題ではないだろうか。もちろんただの責任転嫁である。この後にも数件店を回ったが、私とマスターの好みをだいたい半々くらいの割合で購入した。
思えば、マスターと二人で過ごすのも久し振りなのかもしれない。アズールが加わり、ナナミとセイブルまでついてくることになったため、思ったよりも大所帯になっている気がする。だが、悪い気はしない。なにしろ、こちとら千年も孤独をこじらせてきたのだ。ようやく他人と話しながら過ごせる機会が訪れたことに腹を立てるはずがない。
「さて、買い物はこれくらいで良いかな。もう少し時間はあるけど、どうしようか」
「適当に飲み物でも買って、町をぶらつきましょうか。ここに戻ってくるかもわからないのだし、今のうちに観光を楽しんでおきましょう」
「そうだね。あそこの店で飲み物を買ってくるから、ここで待っていてくれる?」
「ありがとう。それじゃあお願いできるかしら」
適当に腰掛ける場所を見つけ、マスターを待つことにした。マスターが並んでいる店はそこそこの人気店らしく、帰ってくるまで数分かかるだろう。しばらくは町中の音に耳を傾けることにする。少し遠いがせせらぎの音が、近くでは子供たちが球技に勤しんでいるようだ。遠くに飛ばして球が川に流されたりはしないのだろうか。
やがて飲み物を両手に持ったマスターがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。思ったよりも早いおかえりである。店員の客捌きが良かったのだろうか。まあ、早いことは良いことである。ひとりで退屈するよりは、マスターと世間話していた方が何倍も良い。
そこまで考えたところで、私はゆっくりと首を傾けた。背後からボールが飛んでくるのがわかっていたからだ。ボールはついさっきまで私の頭があった場所を通り過ぎていく。そのままではマスターに当たる恐れがあったため、手でボールを受け止める。うむ。我ながらナイスキャッチである。子供たちに投げ返してやると、大きな声でお礼が返ってきた。
「……すごいね。完全に死角から飛んできてたけど、なんでわかったの?」
「ああ、魔力を感知しただけよ。どんなものでも微弱ながら魔力を発しているから、それを察知すれば見なくてもどこに何があるかはわかるようになるわ。魔力制御の修行の副産物みたいなものね」
「すごいね。じゃあ、目をつぶって人ごみを歩いたりもできるの?」
「できるけど……まあ、普段は全く役に立たないスキルね。目が見えなくなる事態なんてほとんどないし、私の身体能力じゃ反応したところでたかが知れているけど」
しかも検知可能な距離はだいたい五メートル程度である。はたしてこのスキルが役に立つ時が来るかは微妙なところだ。
「さて、それじゃあ観光の続きをしましょうか。ついでにルルベルの情報でも集めておいた方が良いかもしれないわね」
「そうだね。大型の魔物の情報も集まると良いんだけど」
確かに、ルルベル付近に出没するという魔物も気になるところである。せめて属性だけでもわかれば対策の立てようがあるのだが。
適度に観光をしつつ、情報を集めていく。どうやらルルベル付近に出没する魔物は、トカゲ型の魔物らしい。しかもただのトカゲではない。話を聞く限りだと、炎を吐くという。
「火属性の大型の魔物……アズールたちは相性が悪いかもしれないけど、ちょうどセイブルが仲間に加わったから何とかなるかもしれないね」
「そうね。でも、出没する位置が悪いわね。ルルベルは林間都市の名前の通り、木に囲まれている町だから、火を放たれると厄介なことになるわ」
戦いとなったときは、位置取りも重要になってくるだろう。魔物はこちらの事情などお構いなしだが、魔物と戦った結果、町に被害が出ましたでは済まないのだ。
「だけど、一番気になるのは……ルルベル付近で魔石が転がっていたという噂ね」
思い出されるのは城塞都市ガドでの記憶。炎の寄生剣に襲われる直前にも魔石が落ちているところを目撃していた。つまり。
「寄生剣も近くにいる、ってことかな」
「十中八九そうでしょうね。……頭が痛いわね。魔物を倒さないといけないけど、寄生剣のことも気にかけないといけないなんて」
寄生剣に限っては話し合いもできない。ナナミという例外はあるが、基本的にはガドで出会った寄生剣のように問答無用で襲い掛かってくると見ていい。
「これ以上の情報は集まらなそうね。寄生剣のことは気になるけど、これだけ仲間も増えた今ではめったなことは起きないでしょう」
「それ、フラグっていうんだけどなぁ……」
「やめてちょうだい。私もうすうす思っていたんだから」
雑談を切り上げ、宿に戻ることにした。集合時間までまだ余裕はあったが、宿にはすでにナナミたちの姿があった。ナナミたちも順調に準備を進められたようである。
こうしてデモインでの準備を終え、翌日私たちはルルベルに向けて出発した。
第四章完結です。
次の投稿は7/7(土)を予定しています。




