金の寄生剣と火の魔物
ルルベルの町を出て数時間歩くと、いくつか魔石が落ちていた。おそらく寄生剣の仕業だろう。魔石は一定の方向に点々と転がっている。
「向こうの方に続いてるね。魔物も同じ方向にいるらしいけど……」
「寄生剣と魔物の挟み撃ちは避けたいところね。同士討ちしてくれると助かるのだけど、そううまくいったら苦労はしないわね」
寄生剣と魔物の同士討ちを望むのは精霊剣としてどうなのかとも思うが、仕方ないだろう。マスターにとって寄生剣は基本的に敵である。例外が私たちのパーティにいるが、今回の寄生剣にそれを望むのは無理があるだろう。敵対してくると考えるのが無難である。
「……ちょっと待った」
先行していたアズールが片手をあげて私たちを制してきた。
「何か来るよ。多分一人……一応人間の形はしているけど、何か違和感があるんだよな……」
腕を組みながらアズールがうなっている。ナナミとセイブルも警戒態勢に入ったようだ。――何も感知していないのはどうやら私だけのようである。なんだ、みんな一体何が見えているんだ。
やがて、がさごそと音を立てながら、草むらから人影が出てきた。思わず身構えてしまったが、よく見てみると相手は小柄な少女だった。肩のあたりで切りそろえられた銀髪に青い瞳。白地のシャツに灰色のニットベストを着ている。人形のような、という表現が似合う、無表情の少女だ。
「寄生剣……にしては剣を持っていないけど」
マスターが不思議そうにつぶやいたが、ナナミの方を見て何かを察したようである。手ぶらのように見えるが、相手が寄生剣ならば何を仕掛けてきても不思議ではない。
ただの民間人の可能性もあるのだが――町から離れた、魔物が出没する場所に手ぶらの少女がうろついているとは考えにくい。少女が発する気配も人とは違う何かを連想させる。なんというか、生きている感じがしないのだ。
少女は言葉を発することはなく、代わりに片手をあげ、マスターの胸元辺りを指差した。
少女の指先が銀色に変わったかと思うと、次の瞬間には針のように尖った指先がマスターの胸元に迫っていた。マスターはとっさに体をひねらせて回避したが、マスターの反射神経が無かったら今頃串刺しにされていただろう。
「やっぱり人間じゃない、か……!」
マスターが剣を構え、少女との距離を詰める。
「足止めは僕にお任せってね」
アズールが木の根を操り、少女の足首に絡ませる。だが、少女の足首が銀色に変わり、ずるり音を立てて拘束をすり抜けた。液状化した少女の足は、すぐに元通りになっている。
マスターが牽制のつもりで繰り出した斬撃を、少女は避けなかった。剣先が沈み込むように少女の体を切り裂くが、血は全く吹き出てこない。代わりに、断面からは銀色の液体が見える。やがて断面同士が静かに重なり合い、先ほどの攻撃が無かったかのような、無傷の少女の姿がそこにあった。
「……コンセプトは液体金属、かしら」
「多分そうだね。……となると、普通の攻撃は効果がないかな」
ナナミが銃弾を少女に叩き込むと、勢いに押されるようにして少女は数歩後退る――だが、それだけである。体の表面が波打ったかと思えば、次の瞬間には何事も無かったかのように再生される。
「私の再生とは種類が違うようですが……どうやら、相手も不死身のようですね」
「あなたの場合はダメージを再生するけど、こいつはダメージそのものを無効化させているようね。でも、種のある不死身だわ」
「……核を壊せばいい、ってこと?」
「その通り」
マスターの言葉を肯定する。おそらく核は体内のどこかに隠されているのだろう。それを見つけて破壊すればこちらの勝利である。
「問題はどうやって核の位置を特定するかですね」
セイブルが指摘する通り、核の位置を特定する方法は悩みどころである。先ほどの様子を見る限り、適当に切りつけても効果はないだろう。
「ならば、端から打ち抜いてみましょうか」
ナナミが言うと同時に、無数の弾丸を少女に向かって打ち込み始めた。少女は大きく体勢を崩し――やがて、体の断面から白色の水晶が見えた。それを見逃すマスターではない。一撃で水晶を両断にした。
すると、真っ二つになった水晶がどろりと溶けた。これにはマスターも虚を突かれた。だが、すぐに思い至る。
「まさか、偽物?」
剣を振りぬいた直後であるため、マスターは硬直状態になっている。その隙をつくようにして、少女の刃がマスターに迫る。いつの間に再生したのか。なんにせよこのままではまずい。
「――凍れ」
少女の刃はマスターに届くことはなかった。すんでのところでセイブルが少女の全身を氷漬けにしたからだ。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ、油断しないでください。まだ完全に仕留めたわけではないのですから」
確かに、少女の動きは封じたものの、相手は寄生剣である。氷漬けにされた程度では死にはしない。氷が解けたら再び襲ってくるだろう。
「偽物の核を作れるとなると、厄介だねぇ。いっそこのまま放置して行くかい?」
「油断するなと言ったばかりでしょうに。そういうところですよ、アズール」
氷漬けにされた少女をつつくアズールをセイブルがたしなめる。だが、アズールの提案も捨てたものではない。倒すことができないのならば、封印するのも一つの手である。
「この氷はどれくらい維持できるの?」
「何もなければ二、三時間は融けないとは思いますが……それでも何かしらの対策は打っておくべきだと思います」
さて、決断しなければならない。相手が復活するリスクを負ってでもとどめを刺すか、後々追いかけてくる可能性が残るがこのまま放置して行くか。どちらにも相応のリスクがある。
「どうするマスター? 倒すにしろ封印するにしろ、メリットデメリットはあるけれど……」
だが、迷っている時間はなかった。突如として轟音と咆哮が聞こえたからだ。
「今度は何……!」
音がした方を見ると、木々をなぎ倒しながら大型の魔物が迫ってくるのが見えた。口や体のところどころから炎が漏れている、トカゲ型の魔物である。体高はマスターの倍くらいだろうか。体当たりでも食らえば、ひとたまりもないだろう。
魔物は大きく口を開くと、こちらに向かって火を吐いてきた。幸いにして危なげなく避けることはできたが、問題はそのあとだった。
「まずい……! あいつが生き返るよ!」
炎が氷を融かし、少女が再び動き出した。同時に魔物も相手にしなければならない。できれば避けたい状況だが、やるしかないだろう
次回の投稿は7/10(火)を予定しています。




