1-6 冒険を始めよう
武器屋を出た後、私たちは街の外を目指して東の大通りを歩いていた。
こうやって歩いていると、この街の構造は思っていた以上に複雑だってことが非常によくわかる。
まず北側にはこの街で一番の目印になるとても大きなお城があって、そこから少し南に下りた所にある噴水広場から東西南に主要の大通りが走っており、更に主要の大通り以外にも東南と西南方向にも一直線にそこそこ大きい道が通っている。
それ以外にも各大通りを繋ぐ細々とした路地も多く、正直迷ったら無事に帰れる自信が無いほど広い。
噴水広場から眺めてた時はあまりに広かったせいかいまいち実感は無かったけど、こうして歩いてみてようやく実感できた。
下手に路地に入り込んだら迷う気がする。いや、絶対に迷う。
「ねぇお姉ちゃん。最初にこの街に来た時も思ったんだけど、この世界ってゲームって感じが全くしないよね」
「そうだね。あの武器屋のおじいさんやクリアさんも、今こうして周りで話している人たちも実際に生きてる人たちとなんの違いも無いように感じるし」
「それに匂いとかも本物と全く変わりないよね。なにも知らずにこの世界に来たら、ゲームの中だって思わなさそうだよ」
本当に、私もそう思う。
辺りを眺めているだけでも、この街のNPC達は何の変哲もない日常を過ごしていた。
通り沿いの店先では店主と思われる人が呼び込みをしてたり、買い物に来た人と値段交渉で盛り上がり。街路樹下にあるベンチ付近では、この近所に住んでいるらしきおばあさんたちがのどかにお喋りをして。見回りをしている騎士さんに元気に挨拶をしている子供たち。
自分たちとは環境は全く違うけれど、現実に過ごす人たちと何一つとして遜色が無い光景が広がっている。
そんな光景を見てもこの世界がゲームの中だと理解できるのは、ステータス画面などのウィンドウが開けたりするからだろう。これらの要素が無かったのだとしたら、この世界をゲームの中だなんて思うことは無かったと思う。
「わかるぞ、その気持ち。βテストで最初にこの世界に来た時、俺も思ったし」
「あ、キョウさんもだったんですか」
「そりゃそうだ。こんな世界に来て、少しもそんな事思わない奴なんてそうそういないだろうさ」
だよね。例外は、よほど景色とかに興味が無い人とかくらいなのかな。
そう言えば景色とかの話で、聞いてみたかったことがあったのを思い出した。気になるからこの流れで聞いてしまえ。
「ねえ、キョウ。一つずっと疑問に思ってたんだけど、なんでアバターだっけ。が、現実と同じ姿なの? それだったらタイトルにあったキャラエディットって意味が無いと思うんだけど」
「あー……それか。実を言うとそれな、よくわかってないんだよ」
「わかってない?」
「ああ、なんでアバターが現実の姿が元になってるのかはさっぱりだ。
キャラエディットの方は、実際はそんなに大層なものじゃない。このゲームのキャラエディットは一からアバターを作るんじゃなくて、現実の姿を基にしたアバターの細部や色、種族の変更くらいしか出来ないものなんだ。種族は一度ゲーム開始したら変更不可能だけど」
なるほど、色とかの変更が出来たんだ。だからシズクの髪の色が澄んだ水色になってたのか。
種族変更とかもそっちで出来たんだし、センス無いからって遠慮するんじゃなくて、やっぱり確認だけでもしておくべきだったかもしれない。
「ちょっとストップ。ここでちょっとアイテム買ってくぞ」
のんびり話をしながら大通りを歩いていると、キョウが急に立ち止まり一軒のお店を示していた。
お店の名前は『ヘルス・アイテム』。名前からすると道具屋みたいだね。
「この街だと、回復アイテムは回復量も値段もどの店でも変わらないから、買うなら通り道にあるここが一番楽なんだよなー」
回復量とか値段が変わらないのなら、妥当な選び方ではある……のかな? んー、ちょっとだけ納得は出来ないかなぁ、買うのが楽なのはわかるけど。
そうして、このお店で幾つか回復アイテムを購入してから再び街の外へと、話を再開しながら歩を進め始めた。
「っと、もうすぐ外か」
言われて、話を止めて意識を前に戻してみると、東門がもう間近に迫っていた。のんびりしていたからか、かれこれ20分以上歩いてた気がするけど……そこまで気にしないでおこう。気にしたらきりが無いし。
近くで見る東門はこの街に見合うだけの大きさを誇っていて、その高さは大体2~30メートルくらいある。横幅も15メートルくらいありそう。
そして門くぐった街の外には、青々とした草原が地平線の向こうまで広がっていて、小さな牛や豚みたいな動物たちが歩いているどこかほのぼのとしている光景を見ることが出来た。
こんな光景を見て、改めてこんなに広大な世界が凄くリアルに作られてるなんて、一体どれだけの時間をかけて作ったんだろう。――そう思うよりも先に、正直ここまで広い草原を見てしまうと、次の町までどのくらいかかるのかの方が非常に気になってしまう。仕方ないよね、ある意味人の性だよ。
でも、ここもなんだか見たことがあるような気がする。いや、気のせいだと思うんだけど……ね。
「さて、まずは俺たちのクエストクリア兼レベリングだな。トアのクエストをクリアするためにも、ちゃっちゃとレベルを上げないとだし。どうにも少し出遅れたからか、この辺りにはモンスターの姿は見えないけど、すぐポップするだろ」
という事で、初めての戦闘をするためにさっそくモンスターを探し始めた。
だけど、キョウが言ったように周囲の見える範囲にモンスターはいないようである。いや、そこら中に掃いて捨てるほどいられても困るけどさ。と言うか、そんなにモンスターがいたらまともに進めなくなる気がする。
ちなみにの話。さっきまで見えてた小動物は全部こっちから攻撃しないと敵にならないタイプみたいなんだけど、うまみがまるでないから狩るだけ無駄らしい。
「初めて相手にするならどいつが良いかなーっと。あいつなら丁度良いか」
そう言ってキョウが目星をつけたのは、プルプルしていてきゅうきゅう鳴いているどことなく愛嬌のある丸い物体だった。
何だか、触ったら心地の良い感触してる気がする。
すっごい触りたいな、あれ。触っちゃ駄目かな? ……駄目だよね。
いや、でもさ。あれ触ったら絶対に気持ち良いってば。プルプルしてるし、きっと張りのある弾力を持ってるだろうし。
「触ってもいいけど、下手すると死ぬから気を付けろよ」
密かに苦悩していたら、キョウにそれを見透かされたかのように苦笑されながら注意されてしまった。またか。
でも、こんな可愛い見た目してるのにそんなに凶悪なんだ。ちょっと意外。
「こいつらな、可愛いからってあんまりにも無防備に近づいてくる油断したプレイヤーの顔に張り付いてくるんだ。そんでそのまま窒息死、ってオチがβの頃によく見られたんだよ。主に、見た目に騙された女性プレイヤーに。……うん」
まるで目の前で見て来たかのような、苦々しそうに、どことなく遠い目をした顔をしながら教えてくれた。
話を聞いて、βテストのときに何かあったんだろうか……。とかのんきな事を考えていたら、不意に何かが悲鳴を上げるような声と、地面が抉れるような音が聞こえてきた。
あまりいい切りどころが無かったので、今回は少し短めです。
そして今回の解説コーナーは無いです。というかあれですね、解説って言ってはいますけど解説なんでしょうか、あれ。




