1-5 武器選び
「よーし、着いたぞ」
案内されたのは路地裏にひっそりと建っていたお店だった。店名は『キリムの武器屋』というらしい。
場所は東の大通りの半ばから一本道を外れて、そこそこ奥に進んだ辺り。
なんだか知る人ぞ知るって感じが何となく好きだな……っと危ない、また思考が飛びかけた。
「ここが例の武器屋ですか?」
「ああ、他のNPC武器屋に比べてもだいぶ安いし、質の良いのが多いんだよ」
良いお店なんだね、まさしく老舗って感じだし。
でも、だとしたら何でお客さんが少ないんだろう。こういうお店があるのならすぐに情報が広まりそうなのに。
「こういった店は意外と穴場なんだ。NPC店舗の武具なんて最初の頃しか使わないから手軽に済ませようとか、適当に目につく店で良いやってのばかりで碌に探そうともしない奴ばっかでな。
そんなこんなで、この街には見つかってない質の良い店が多いんだ。俺がβのときにここを見つけたのは偶然だったけどさ」
……また読まれた、そんなにわかりやすいのかなぁ。
不満だと表すようにむくれてると、キョウに笑いながら頭をポンポンされながら「トアは顔に出やすいからなー」って改めて言われた。……これはこれで悪くは無いかも、と思った自分を殴りたい。
「何やってるんですか、入りますよー」
シズクに呆れた様に言われてしまったけど、概ね自分のせいなだけあって何も言えなかった。
少し反省しながらシズクに続いてお店に入ると、ファンタジー作品とかで私たちがよく見るような西洋の剣とか、自分の身長くらいあるんじゃないかって位巨大な剣とか多種多様のたくさんの武器に歓迎された。
現代では考えられないようなその光景に、私もシズクも圧倒されてしまっていた。
そんな私たちの横で、キョウがカウンターに座っていたおじさんに気さくに話しかけていた。
「爺さん、少し良いか?」
「どうした坊主、何か探しもんでもあるのか」
カウンターの向こうで、座って何かをしていたおじさんがこちらを向いたとき、思わず体が強張った気がした。
この人、すっごく怖い顔してる。いや、顔だけで人を判断しちゃいけないのはわかってるんだけど、怖いとしか言えない。顔の半分くらい傷で覆われちゃってるし。
でも、こういう人ほど優しい人だと思うんだ! ……たぶん。
「いや、この二人に武器の試し振りさせてもらいたいんだけど良いかな」
「試し振りは構わんが、今はそこまで武器の種類は多くは無いぞ」
「そっか……何が無いんだ?」
「そうだな、普通の種類ならバスタードに投擲、ハンマー系に槍系の武器だ。特殊なものになると全種無い」
特殊なもの? 武器で特殊なものなんて、何があるんだろう。……鎌とか?
「なるほど、だったら大丈夫だろ。基本のがあるなら十分」
「そうか。クリア、話は聞いていたな。俺はこっちでやることがあるから頼むぞ」
「はい、わかりました。それでは、お二方はこちらに来てください」
おじさんに呼ばれてカウンターの奥から出てきたのは、キリッとした凛々しげな雰囲気をしていて、不思議な魅力のある眼を持った白いとしか言い表せない様な女性だった。
いや、違う。何だろう。この感じは白というより――透明、かな?
なんだか澄み切った水晶のような人だなって思った。
「俺はこっちで待ってる、幾つか武器もピックアップしとくから」
キョウの言葉に背中を押されながら、クリアさんに呼ばれたカウンター奥に入ると、その先は教室より少し大きめな工房みたいな所に繋がっていた。
「まずは基本の長剣からにしましょう。こちらをどうぞ」
言って渡してきたのは、剣といわれて真っ先に想像するような、シンプルな形の諸刃の剣だった。
「これを振ってみて重かったり、軽かったりしたら教えてください。そうすることで、どの系統の武器が一番向いているかが大体判別できるので」
「はい、わかりました」
言われたままに片手で何度か剣を振ってみる、次は両手で。
重さ自体は片手で持つには丁度良いくらい、振るにしてもバランスが崩れる感じもしないから特に問題は無いけれど、なんだかこれだけでは足りないって感じがする。
かと言って、これより大きかったりとか小さかったりとか、重いとか軽いとかってなると……。うん、たぶん自分には合わないと思う気がするから、とりあえずこのままで良いや。
「んー、私はこれで良いかな。これがたぶん、一番しっくりくるから」
「わかりました。そちらの方はどうですか? なにか『軽いですっ!!』――はい?」
クリアさんがシズクに具合はどうか聞いた瞬間、シズクが凄い勢いで返答したせいか、クリアさんは少し惚けてしまった様子。
私もあまりに唐突の事に、言葉を失ってしまったけれど。
えっと、これでもそこそこの重さがあると思うんだけどなぁ……。と、手元の剣をまじまじと見つめながら、そんなことを考えてしまった。
「だから、軽いんですっ! 軽すぎるし、なんか短くて逆に振りにくいです」
「そ、そうですか。でしたら、こちらの大剣はどうでしょう。しっかりとした重さと長さを感じれるかと思うのですが」
そう言ってクリアさんが次にシズクに渡した武器は、シズクの身の丈を超えるような大きさの大剣だった。
……いや、あの。流石に、ちょっと大きすぎないかな、これ。
「えーっと――あ、なかなかにいいですね。片手で振るにも丁度良い重さです。でも、実際に片手で振るにはちょっと大きすぎますかね」
「平然とそれを片手でぶんぶん振り回しながら言いますか、良いですけれど。
でしたらバスタードソード辺りが長さ的にも丁度良いのかもしれませんが、こちらでは取り扱っていないのですよね。……まぁ、おそらくあの特殊武器が一番合いそうですが」
本当にすっごく軽そうに振ってるなぁ、あんなのを片手で振るなんて私には考えられないや、うん。
それと最後にクリアさんがぼそっと何かを言った気がしたけど、その言葉自体はよく聞き取れなかった。
「そうなんですか、残念ですね。だったらこれで良いです」
「わかりました、それでは表に戻りましょう。こちらにあるのは刃を潰した試し振り用の物か、未完成の屑鉄くらいですから」
未完成品を屑鉄って、思ってたよりこの人辛辣だ!?
「そうでもないですよ? ある程度ははっきりと物事を言う方だとは自覚していますが。ですが実際にここにある未完成品は、あの人が技量不足で作り切れなかったものですし」
「なるほど……って、初対面の人にも心読まれた!?」
って、それでも結局辛辣なのには変わりない気がする。
「わかりやすかったですから」
微笑まれながらに言われてしまうと、どうにも毒気が抜かれてしまう。って言うか、そんなにもわかりやすいんだ……。ここまで来ると否定できないなぁ。
あれ、いくら顔に出やすいとは言え、そんな細かいところまでわかるのかな。ちょっと疑問が残る。
「ふふっ、行きましょうか」
「お、戻って来たか。さっそくだけど、二人は何を選んだんだ? まぁ初期ステは確認してるから、何となく予想はつくけどな」
店舗部に戻ってきたとき、待ち構えていたキョウが開口一番で聞いてきた。あれ、物色してるって言ってなかったっけ。
「私は長剣で、シズクは大剣だよ。予想通り?」
「ああ、予想通りだ。シズクは初期ATKとSTRが異常に高かったからな、たぶん長剣とかは重さとかの関係でないだろうと思ってたし。……つーか、噂でしか聞いたことないけど、やっぱりあれを持ってんのかな」
シズクの初期のステータスが異常に高いって、どれくらい高いんだろう。
少し気になるし、ちょっと聞いてみよう。
「どれくらい高いの?」
「んっと。こんな感じだよ、お姉ちゃん」
そう言うなり、すぐに見せてくれたシズクのステータスはこんな感じだった。
NAME:シズク Lv1 残SP:2
HP:500、MP:200、ATK:245、DEF:112、INT:92、MIND:84、STR:240、VIT:117、DEX:108、AGI:110
武器スキル:剣
魔法スキル:なし
補助スキル:熟練度上昇量増加(50Lvまで)
えっと……、なんだか本当に異常な値のステータスが二つほどあるんだけど、これはなんなんだろう? 見間違えじゃないよね。
疑問に思ってキョウのほうを見るも、わからないというように首を振るだけだったが、それでも聞く。
「ねぇキョウ。一つ聞きたいんだけど、HP・MP以外の初期ステータスの最大値って――幾つ?」
「確か120だな」
「じゃあなんで、240オーバーのステータスが二つもあるの?」
「俺もいまいち確証が持てないんだよ、それ。噂で聞いたものの中だと、当てはまるものが一応ありはするんだけど……。やっぱりわかんね」
キョウはお手上げだ、と言わんばかりに両手を上げて降参ポーズをとりつつ、売り場の奥の方に歩いて行った。
だけど、その言いぐさが不満だというようにシズクが口を出してきた。
「確かに凄く高いステータスはあるけどさ、その二つはスキルで強化できなかったんだよ。だから別に良い事だけって訳じゃないよ」
「強化できないって、ATKとSTR強化は取得できなかったの?」
「うん、なんでか知らないけどスキル一覧にはどっちも無かったんだ。お姉ちゃんには無いの? そういうの」
「んー……。急いで取っててあんまり確認してないから、ちょっとわかんないかな」
でも、見た限りではそういうのは無かった気がするけど。
そういえば、なにかを見落としてる気がする。それに、一つだけ確認すらしてない種類があったような……
「まぁ良いじゃんか、そんな事。わからないものは考えてもわかんないんだからさ」
「そうなんですけどね。気になるじゃないですか、こういうのって。ところで、キョウさんは何をしてたんです?」
「いや、二人に合う武器を見繕ってたのから取りに行ってたんだよ。やっぱりこの店は、最初にしては良い武器がたくさんある。選び放題だったさ」
そう言うなり、キョウは私たちに一つずつ武器を渡してきた。
私の方には普通の長剣を、シズクの方には大きな大剣を。
考え事を途中で遮られたけれど、とりあえず私はさっそく、手渡された剣の詳細を確かめてみた。
・鉄の剣 ATK:31、DEF:1、AGI:4
ごく普通の鉄から作成されたごく一般的な長剣。
これを見ると確かに、初期装備は弱いなって思う。ATKも初期装備の約6倍だし、他のステータスも上がるし。
ふとシズクの方の大剣も気になった私は、シズクに頼んでそちらも確認してみた。
・鉄の大剣 ATK:52、DEF:2、DEX:-2、AGI:-4
ごく普通の鉄から作成されたごく一般的な大剣。
ATKの上昇量がだいぶ高い代わりに、マイナス補正がかかってる。これはたぶん、かなりの大きさだからその分、動きが阻害されるからって事なんだと思う。
でも、DEFとかAGIが上がるのはどういう事なんだろう。なんだか不思議な感じ。
「このゲームの武具には個体値があってな、同じ種類の物でもピンからキリまで全く性能が違うんだよ。そして、これは俺からの一つのプレゼントってやつだ。もう会計も終わらせてあるし」
いつの間に買ったのさ……
でも、流石にこれは断らないといけない。こういうのは出来るだけ、自分で買わないとだし。
「そこまでされる訳にはいかないよ、流石に悪いし」
「いいんだよ、このゲームだったらこの程度は行き過ぎた支援でもないし、βの頃に金は荒稼ぎしてたし」
私がどれだけお金払おうとしても、キョウは受け取ろうとはしなかった。
こうなるとキョウは一切話を聞いてくれないから、不本意ではあるけどここは私が折れるしかないか。お金も十分にあるみたいだし、遠慮するだけ時間の無駄だもん。
「そっか、ならお言葉に甘えさせてもらうからね」
「おう、甘えとけ。んじゃこれで武器も用意できたし、さっそく試験クエストを終わらせに行くか。うまくやれば、今日中にトアの厄介なクエストも終わらせられるかもしれないしさ」
早くクエストを終えられるのに越した事はないんだろうけど、あんまり急いでもなぁ。私のに限っては明日になろうとしょうがないようなものだし、それどころか明日に終えられるかもわからない。
でも、このゲームを楽しむって決めたんだから、急ぐことにものんびりやることにもこだわる必要はないし、やりたいようにやるのが一番か。
今日中に今の目的地に行ける訳でも無いんだしね。
それから初期武器を二束三文で売った後、次の目的地に向かうためにお店から出たとき。私たちの話を聞いていたクリアさんが、何か引っかかったような顔をしていたのが少し気にかかった。
第三回目の用語解説コーナーです。……と言いたいのですが、今回の話にはこれと言って解説するものもないので、前回解説し忘れたものを紹介しようと思います。
スキル:スキルには武器・魔法・補助の三種類ある。それぞれにはスキルスロットが設定されており、初期では武器スキルは2つ、魔法スキルは3つ、補助スキルは5つまで装備することが出来る。SPを幾つか消費することで、上限を上げることも可能。
それでは今回はここまでです。
次もあるといいなー




