1-4 王都フォーティアス
光が収まり、身体の感覚が戻ったところで目を開けると、私は開けた広場のような場所にいた。
水が吹き上がるような音や、涼やかな感覚につられて後ろを振り向いてみると、そこには大きな噴水があり、その更に奥には、それなりに距離が離れているにもかかわらず見上げるほどの大きなお城が存在していた。更にこの広場から見える範囲では、左右と正面の3方向に大通りが遠くまで広がっている。
こうしてぱっと見るだけでも、この街はかなり広いみたいだってわかる。リソアさんは確か、王都だって言っていた気がするけど、それならこの大きさも納得できる。
「それにしても凄いなぁ……。ここがゲームの中だなんて信じられない」
噴水から流れる水の匂いも、いつの間にか着がえていた服や皮の防具の感触も本物と遜色が無いように思える。いや、皮の防具なんて実際に触った事ないけど、そう思えるくらいの肌触りだった。
それに、ここから見える光景は良いものだと思う。こういった街並みやお城は今では滅多に見ることが出来ないし、なかなかに得難い景色だよね。
だけどそう感じているのと同時に、私はどこか不思議な既視感も覚えていた。
「やっぱりあのお城……どこかで――?」
その時、一瞬だけ今見ている光景と同じような、だけど何かが決定的に違う光景が頭をよぎった。
――私は、この場所を知っている……?
「あっ、いたっ!」
ゲームとは思えないリアルさと、不思議な既視感にぼーっとしながら街並みを眺めていたら、不意に大きな声が聞こえてきた。
あれ。そういえば、何か大事な事を忘れてるような気がする。何だっただろう。
少し考えて、あっ、と忘れてたことを思い出して声がした方を向いた瞬間に映った光景は、雫が私に向かって思いっきり飛び込んできているところだった。
飛び込んできた雫に対して、ただぼーっとしていただけの私が何か行動を起こす事はもちろん出来るわけもなく、雫を支える事も出来ずにそのまま押し倒されてしまう羽目になった。
「ったた……」
「もう、探したんだよ! 待ち合わせてた場所で待ってても一向にお姉ちゃんが来ないから心配したんだよ!?」
「ごめんね、ついついこの辺りを眺めてちゃってた」
「俺はいつもの悪い癖で忘れてるだけだろうから、心配しなくても大丈夫だろって言ったんだけどな。シズクがどうしても探しに行くって聞かなくて。――やっぱり言った通りだっただろ?」
「そうですけど、キョウさんだって凄くそわそわしてたじゃないですか。今にも探しに行きそうなくらいに」
「いや、まぁ確かにそうだけどさ。綾って危なっかしいし――」
二人が言い合っている間にどれくらい時間が経ってたのか確かめたいんだけど……どこで確認すればいいんだろう。
あーでもない、こーでもないと悩んでいると、ヘルプ画面が出てきた。それによると、メニュー画面から各種情報やマップの確認、ログアウト等が出来るらしい。メニュー画面を出すには、『開け』と念じればいいらしい。
本当に最近の物は親切だなぁ、とか変に感心しつつ時間を確認すると、ログインしてから30分くらい経過してることがわかった。
どれだけの間ぼーっとしてたんだろう……、ちょっと恥ずかしい。
改めて気を付けなければ、と気持ちに新たにしたところで向こうの言い合いも終わったらしく、いつの間にかこちらに向き直っている。というか、雫の髪の色が水色になってる。
「っとそうだ、綾はキャラ名どうしたんだ? 俺はキョウで」
「私はシズクだよ、お姉ちゃん。二人してまんまだね」
「私のこっちでの名前はトア。なんだか下手に考えなくても良かった気がしてるけどね」
「俺たちはそういうのにあまり頓着しないだけからな、気にしなくていいさ」
確かに、二人ともあんまり細かいことは気にしないもんね。それで何度か酷い目に合った事もあるし……。いや、あんまり思い出さないでおこう。
あ、そういえば。
「ねぇキョウ。ギルドの試験クエスト受注がキャラ作成直後にあっだけど、確か自分でギルドに行って受けるんじゃなかったっけ」
シズクと一緒に予習した時には、確かそんな風に書いてあったはず。
ギルド証か仮ギルド証が無いと最初の町から出ることも出来ないから、始まってすぐにギルドに行って試験を受けるような注意書きがあったはずなんだけど……流石にクレームが来たのかな。
「シズクにも聞かれたけど、それはたぶん予想通りだと思うぞ? 実際にβテストが始まってすぐのときに、情報サイトにも『そんなの分かるか!』って感じのコメントもちらほらと見れたくらいだし」
「門まで行かないとわからないような、くだらない二度手間になるものは修正されて然るべきです」
ですよね。
「ちなみになんだけど。試験クエストは幾つか種類があって、全員そこからランダムで選ばれるんだ。俺はウルフの皮を5つ納品だった」
あ、そうなんだ。
私が受けたクエストだけじゃないんだね、って当たり前か。場所によっても難易度は変わるのかな。
「私はミニボアの爪を2つでしたけど、これって難度高い方なんですか?」
「そうだな。最初の方だと苦戦する敵ではあるし、試験クエストの中だとだいぶ難易度は高かった筈だ。トアは何だった?」
「私は氷結の森にいる、グリーンジェルのドロップアイテムを何でもいいから5個だったよ。これはどうなのかな」
「ん……? 何だそのクエスト、聞いたことないし、見たこともないな。
というか初めた時点のレベルだと、氷結の森は外周部でも難易度が高すぎるからありえないんだが……。外周部はせめて6レベルは欲しいんだよ、推奨が7レベルくらいだし。
しっかし氷結の森外周部のモンスターのドロップアイテムを5つって……なんでお前のだけそんなクエストなんだ? シズクのよりよっぽど難易度高いぞ。中心部とかっていう無理ゲーじゃないだけマシだけどさ。……つーか何となくだけど、多分このクエストは、他に発行されてない気がするな」
難易度が高すぎる? しかもそこそこレベル上げなくちゃいけないの?
そう言われて、クエストを確認してみると。
・ギルド試験クエスト
依頼者:ギルド受付・リソア
内容:氷結の森外周部に棲む『グリーンジェル』のドロップアイテムを5つ集めてきてください。
難易度はかなり高いですから、くれぐれも気を付けてくださいね! ですが大丈夫です、きっと貴女ならできますから!!
えっと……本当に難易度がかなり高いって書いてある。
リソアさん、今の試験クエストは形骸化してるから簡単です。って感じな事を言ってませんでしたっけ? そんな風に応援されても困るのですが……
んー、これって変更できないのかな。凄くチェンジしたい、切実に。
「無理だな。なんでか知らないけど、試験クエストは一度受けたら破棄も出来ないし、変更も出来ないんだ。諦めろ、ちゃんと手伝うからさ」
「私も全力で手伝うから、そんなに落ち込まないで」
「うん、二人ともありがと……」
なんかまた思考を読まれた気がしなくもないけど、気にしていられない。
他にも私のような事になってる人もいるよね、きっと。そう思えばまだ立ち直れる、というかそう思わないと立ち直れそうにない。
それにしても、何かまだ忘れてることがあるような気がする。何だっけ?
「とりあえずトアとも合流出来たんだから、早く武器屋行こうぜ」
「そうでした、武器はすぐに初期装備から替えた方が良いんですもんね」
このゲームだと初期武器は訓練用の○○というもので、攻撃力が5しかないためかなり弱いらしい。
だから出来る限り早い段階、つまりはゲームを始めた段階で買い替えるのがオススメらしいよ?
それよりも、この話でようやく忘れてたことを思い出した。
「ごめん、少しだけ待って。スキル取るの忘れてた」
「ああ、ぼーっとしてたもんな。悪い、気が付けなくて」
キョウが苦笑しながら謝ってくれたけど、別にキョウは悪くないんだけどな。
とりあえず、最初に取得できるスキルは確認してどれを取るかは大まかに絞ってあるから、まずは初期ステータスを確認するべくステータス画面を開いた。
NAME:トア Lv1 残SP:4
HP:500、MP:200、ATK:106、DEF:88、INT:117、MIND:111、STR:99、VIT:113、DEX:115、AGI:120
各種スキル無し
……正直な話、傾向としてはどんな感じなのかが全く分からなかった。
ごく普通に考えるのならたぶん、素早くて物理より魔法の方が向いてるって感じなのだろうか。でも決して物理攻撃が弱いわけじゃないし、さらに素早さも高いのなら後衛より前衛が向いてる気がするけど、物理防御の面においては不安が残る感じ。
うーん、駄目だ。どんな構成がいいのか全然わからない。とりあえず、キョウに相談してみようか。
さっそくステータス画面を可視化させて(というか、教えようと思ったら勝手になった)、キョウに見せて聞いてみる。
「ねぇ、キョウ。こんな感じのステータスだったんだけど、どんな構成にすればいいのかちょっとわからなくて。どうすればいいと思う?」
「ん? どれどれ……。DEFとSTRを除けば全体的に高くて、なかなかに上質なステータスだな。
俺的には、物理も魔法もどっちも出来て、敏捷系が高いのなら魔法剣士とかにすればいいんじゃないかと思うが。その場合は、DEFを補助するスキルも必要かもしれないけど」
「そっか。そんな風に両方成長させるような構成でも良いんだね」
「まぁな。このゲームにはジョブシステムとか無いから、そこは自分の好みのスタイルを選べってやつだ。
でもそっちに進むなら、最初は魔法より物理の方をしっかりと成長させた方が良いと思う。
普通のMMOとかなら気にしなくていいんだけど、これは実際に自分で身体を動かすものだから、最初は前衛としての動き方とかを身に付けた方が後々楽になるしな。
トアの場合、DEFが低いからなおの事立ち回りを確かにした方が良いし」
「なるほど。ありがと、キョウ。参考になったよ」
「おう。こんな相談ならいつでも乗るよ、俺が誘ったんだしな」
人懐っこい笑顔を浮かべながらキョウは、この程度は任せておけと胸を張った。こういうわからないことで素直に人に聞けるのは、純粋に頼りになるからありがたいな。
とりあえずキョウのアドバイス通りにするなら、まずは武器スキルだけで魔法はまだ使わないけど、いずれ並行して使うことも視野に入れつつ考えて――やっぱり選択の幅が一番広い『剣スキル』で。
次に魔法スキルはまだ取らないから保留。と言うか、魔法に向いてるなんて思ってもなかったから何も確認してなかったし。
補助スキルは、まず一番オススメされてた『熟練度上昇量増加』と、キョウの提案通りに一番低い防御力の補助のために『下位DEF強化』かな。それ以外は今は要らないと思う。
熟練度上昇量増加のスキルがなんでオススメなのかは、どうにも熟練度がスキルだけじゃなくてアーツや魔法にも設定されていて、熟練度が上がるとそれに応じて威力が上がったり、次に使用するまでの時間が短くなるかららしい。50レベルまでしか使えないけど。
SPが後1残ってるけど……。後の事を考えて、一応『触媒スキル』も取っておこうかな。杖か触媒を装備してないと基本的に魔法が使えないみたいだから。
そしてスキル取得後のステータスはこんな感じ。
NAME:トア Lv1 残SP:0
HP:500、MP:200、ATK:111、DEF:97、INT:122、MIND:111、STR:99、VIT:113、DEX:115、AGI:120
武器スキル:剣、触媒
魔法スキル:なし
補助スキル:下位DEF強化、熟練度上昇量増加(50Lvまで)
ATKとDEF、INTが若干上昇した感じかな。ステータス以外に変わったのは、私の腰辺りに新しく重みが増えたのと、左手首にブレスレットみたいなのが現れたくらいか。
思っていたよりも、剣の重みは少なかった。
「終わったよ、待たせちゃってごめんね」
「気にすんなって。それじゃあ改めて、武器屋に行くか」
これでようやく武器屋に向かうことが出来る。本当に面倒掛けてごめんなさい。
そういえば、何となく気になっていた氷結の森の中心部推奨レベルを聞いてみたところ、大体20Lv位必要らしい。外周部で本当によかった。
でも、森の名前とかを考える限り、目的地ってきっとそこなんだよね……。どうしよう。
第二回、用語解説のコーナーです
メニュー画面:アイテム、装備、ステータス、スキル一覧、取得アーツ・魔法、マップ、テキストチャット、ボイスチャット、フレンドリスト、ログアウトの10項目がある。それぞれの項目を開くと更に細分化されるが、今回は省略。
ステータス:HP、MP、ATK、DEF、INT、MIND、STR、VIT、DEX、AGIのの10項目。内容は簡潔にすると、体力、保有魔力、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、筋力、持久力、器用さ、素早さとなる。一部のステータスはLvUP時に他のステータス上昇量に影響がある。
クエスト:街の人や、国から等の依頼。基本的にギルドを介して依頼される。
このコーナー次話ではあるかな……




