3-7 守りたい者
「全く。あんなことやられたら、私も黙ってられないよね。――大剣、残り何本あったっけ」
お姉ちゃんがエルフィたちの援護に向かった後、私は思わずそんな事を呟いていた。
だって、あんなに凄い事を目の前でやられたら、黙ってなんかいられないもん。
やった本人は何でもない事のようにしていたけど、実際は恐ろしく難しい事を、お姉ちゃんはずっと繰り返していた。
あの動きそのものは、ステータスがそれなりに上がれば同じことが出来るようになるかもしれないけど、あの魔法の使いこなし方だけは絶対に真似できない自信がある。たぶんきっと、エルフィでさえも。
これはエルフィと一緒のパーティで行動するようになってすぐ位の頃に聞いた事だけど、このゲームでの攻撃魔法はそう簡単に使いこなすことは出来ないらしい。ファイアーボールみたいに、ただ放つだけのものなら、使うのはそう難しくは無いみたいだけど。
でも、さっきまでお姉ちゃんが使い続けていたロックスパイクだったり、アイシクルピラーなんかの魔法はそんな雑な風に扱ったら絶対に当たらないという話。
それが何でかと言うと、基本的に魔法を使うときには詠唱と同時に空間認識に座標指定、相対座標の固定、更には込めるMPの量の増減で威力だったり影響範囲を変えたりと……正直、考えたくないくらいかなり複雑な演算を頭の中でやるらしい。
だからあの類の魔法は、その辺りの計算をして正確に狙いを定めないとよほど相手の動きが鈍いか、運がよくない限りは当たらないんだって。
戦闘しながらもそれを行う難易度はかなりのもので、魔法に憧れて初めても結局そこまでやれる人は少なく、諦めて前衛に転向していく人や、そこまで複雑な計算が必要ない回復専門になる人がβの頃では多かったそうだけど。
そんな中でも色んな魔法を使いこなしていたからこそ、エルフィは『賢者』なんて二つ名を付けられたそうだしね。
けれど、そんなエルフィでも絶対とは言い切らないけれど、相当に練習と経験を積まないと出来ない事があると言われたことがあった。
それは、激しく動きながらの魔法の行使。
例えば走ったりしながらとか、別の攻撃をしながらだと計算が狂って詠唱途中で失敗したり、あらぬ方向に放ってしまうらしい。
無理をすればそれでも当てる事は出来ると言ってはいたけど、十回に一度当てることが出来れば上々。ましてや狙った場所に、正確に当てたりする事はほぼ確実に不可能だろうと言っていた。
でもお姉ちゃんは、そんな恐ろしく難しい事を何の苦もなくこなして見せた。
しかもそれどころか、あんな風に跳びまわりながらも完璧に使いこなしていた。
まさに天才としか言えないあれこそ、クリアが言う規格外なんだと私は思う。私自身の才能なんて、あれには遠く及ばない。
いくらATKやSTRの値が高くたって、お姉ちゃんみたいな規格外には程遠い。
私にある例外はとある知識だけで、それ以外には何もない。
これだけでは何の意味もないけれど、先に進むための、守るための力になる。
一度失いかけてしまった、私の大切な光。強いくせに弱い、たった一人だけの大切な家族を守り抜けるようになるまで、私は何処までも努力をしよう。
今度こそ守りきるために、私はもっと強くならなければならない。
そのための一歩を、今度こそ踏み出そう。
もう、あんな無力さを感じたくないから。
だからもっと、大切なものを守れるだけの強さが欲しい。
この世界で立ち向かうための強さを手に入れられるかは、まだわからない。結局は幻想の世界でしかないんだから。
でも、限りなく現実に近いこの世界でならきっと、私が望む強さはきっと手に入る。
私の望む、お姉ちゃんを守るための力を。
だから、あんなものを見せられて黙ってはいられないんだ。
二度と、あんなことにはさせないために。お姉ちゃんが笑っていられるように。
あらゆるものに立ち向かうための勇気を手に入れるために。
「今度は、全力で。出来るだけ壊さないようになんて考えないし、負けるなんて考えない」
鉄の大剣の手持ちは、今両手に持っている二本も合わせて残り十二本。たぶん……足りると思う。
よし、やろう。
もしミスをしても、クリアが対処してくれる。本来の相棒であるお姉ちゃんには悪いけど、今だけは貸してもらうね。
「――ふっ!」
一度、心を落ち着けてから一気に飛び出す。
んー……遅い。仕方のない事だけど、お姉ちゃんと比べるとどうにもね。
近づいたところで振るわれた鋏の縦振りを右半身を引くことで避けて、同時に引き寄せていた左手の大剣を相手の頭部に向けて横薙ぎする。
そして一瞬怯んだところに右手の大剣で突き上げて、更に左手の大剣を叩き込み、次々と攻撃を叩き込んでいく。
幾度もの攻撃による衝撃と勢いで左手の方は砕けたけれど、それでも止まらずに残った右手の大剣を逆手に持ち替えて相手の左腕の根本間接部に全力で突き込んで切断しようとした。
けれどこっちの強度が思ってたよりも脆いのか、向こうの骨格が予想よりも固かったのか判別はつかなかったけど、大剣の方が折れてしまう。
「……む」
武器が両方とも壊れてしまっては、攻撃のしようもない。どうにかして新しい大剣を取り出したいんだけど……流石にこれ相手に無理やり隙を作るのは――あ、出来そう。
クリアが外骨格を壊してくれた場所を狙えばたぶん、いける。
対処を考えてすぐに折れた方の大剣を両手で持ち直してから、お姉ちゃんがサンダーピアスを撃ちこんだ左側面部辺りの外骨格が砕けた場所に突き刺し、手を放す。
『Kyuaaaaaa!!!!!!』
よし、怯んだ。
これなら十分な隙が出来るから、その隙にストレージから新しい大剣を二本取り出して振るう。
今度は最初に攻撃した個所と同じ場所に二連続で。
その際に形振り構わずといったように右の鋏で攻撃してきたけれど、無理やりに大剣を交差させて防ぎきったところで、私の右側の方から鈍い音が響いてきた。
いったい何が起きたのかそっちを見てみると、クリアが左の鋏を蹴り上げて防いでくれていた。
「シズク。もう少し冷静に、もっと周りを視てください」
「……え? あ、ありがとうクリア」
「トアと貴女は、やっぱり家族ですね。色々と似ています」
「何でだろう。そう言われて嬉しいんだけど、何とも言えない感じもする」
けど、おかげで暴走してたのを落ち着けられた。
頭を振って冷静さを取り戻そうと切り替え、防いでいた右の鋏を弾いて、クリアが崩してくれていた体勢をより深く崩す。
すると、私が体勢を更に崩させたのを待っていたのか、それと同時に相手の頭部が下から突き上げられて、綺麗にひっくり返ってしまった。
……これは誰がやったんだろう。
いや、それは予想がつく。それよりも、あの子はいつの間にこの蠍の懐まで潜り込んでたんだろう。気付かなかったよ。
「わたしがいるの、忘れちゃ……駄目、だよ?」
「やっぱりセラだったんだ。凄いね、これ」
私も少し無理すれば出来そうだけど、あんなタイミングよく綺麗にひっくり返すのは難しそうかな。
「俺もいるの忘れんなよ。にしても、その小ささでよくあれをひっくり返せたもんだよな。どうやったんだ?」
「……あそこまで体勢崩れてたら、簡単。潜り込み方は……秘密」
「そりゃ残念――っと!」
「早く……片、付けるよ。お姉さんたちの所に、行かないと」
「だな。今はこっちよりも、あっちの方が大変なことになってるし」
どうやって潜り込んだのかをキョウさんが問いかけてたけど、素気無く返されてしまっていた。
でも、人と話すのが苦手なあのセラがキョウさんと普通に話してるなんて、何があったんだろう。
って、そんなこと考えてる場合じゃないか。確かにお姉ちゃんが援護に向かったけど、相変わらず多勢に無勢状態でだいぶ苦戦しているみたい。
しかもあらぬ事を考えてる間に二人は、それぞれ左右の鋏を斬り落としちゃってたし。
それどころか、よく見ると脚が半分ほど無くなっている。……もしかして、二人でここまで脚を削ってたから、あんなに動きが鈍かったのかな。
思い返して考えてみれば、最初はあれだけ動き回っていたのに、さっきまでは攻撃以外では動いてなかったし、その動きも鈍かった。それも全部、二人のおかげだったんだね。
なら、私も全力でやらないと。
この鉄の大剣の切れ味は決して良いわけではないけど、この硬さなら衝撃を加えて砕くくらいの問題は無い。その代わりにこっちも簡単に砕けちゃうけど。
「……ん?」
そうして斬りかかろうと改めてこの蠍を見た時、一つ違和感を覚えた。
なんだかこのお腹の部分、凄く柔らかそうに見える。周りの外骨格に覆われた部分と比べても色が薄いし、ぷよぷよしてそう。
しかも、何度も斬り裂かれた後がある。
もしかして、これはセラがやったのかな。
……うん、だったら試してみよう。
「せいっ!」
思いついたままに、柔らかそうな部位に思いっきり斬りつけてみる。
すると、想像していたよりも深く斬り裂くことが出来た。
…………これ、もしかしなくてもカモ?
その後、このスコルピオは一瞬で狩られたとか。
実を言うと、今話は前話と繋げたまま投稿しようかと思ってたのですが、そうするとあまりにも長くなってしまったので二話に分割することにしました。
これはこれでこちらが若干短くなるので少し悩みはしたんですけどね。
それでは今回はここまでです。
次話更新は次の日曜日の予定ですが、少しの間お休みするかもしれません。




