表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fragment of Memories  作者: 詩空
第二章
53/55

3-6 スコルピオ

今話はいつもより長いです。


 クリアの返事を聞いて、私たちは一緒に走り出した。私はだいぶセーブしながらだけど。

 走り出した瞬間になんだか、今全力やそれに近い速度で走ったら本当に制御できない気がしたから抑えて走ってるんだけど、何でだろう。



 ふと疑問に思って走りながらステータスを開いてみたら、一つだけおかしい数字が見えた。



 NAME:トア Lv18 残SP:3

 HP:1679、MP:1362、ATK:457、DEF:372、INT:554、MIND:413、STR:298、VIT:410、DEX:434、AGI:1045



 いつの間にかレベルが上がってたのは半ば予想してたから良いんだけど……何でAGIの値が四桁に突入してるんだろう。今までの上昇幅から考えたら、一つ上がったくらいではまだギリギリ超えないと思ってたのに。


 でも、それよりも気になるのが……値が四桁に入ったって事そのもの。

 さっきからなんだか、身体がかなり軽く感じるのもそれが原因の気がする。ステータスのある程度の値を境にして、変わる何かがあるのかもしれないね。


 それにそのせいか、今ならちょっとした無理も通せそうだし。試してみよう。


「クリアはそのままシズクたちに合流して、隙を突いて外骨格を壊していって! 私は攪乱に回るから!」

「わかりました、無理はしないように!」

「わかってるって!」


 そうしてクリアと一度別れ、少しだけ走る速度を上げて攻撃を防いでいるタンク二人の後ろに向かう。

 少し頼みたい事があるからね。


「フィア、エニグマさん!」

「トア? ここまで来て、どうしたのさ」

「ちょっと頼みたいことが」

「頼み事とな? 何でも言ってくれ!」

「それじゃあ遠慮なく。私が速さを生かしてこいつ――スコルピオの動きを攪乱しながら攻撃するから、それを二人で上手い事抑え込むことって出来るかな?」


 ちょっと不安に思いながらも聞いてみると、二人は一瞬顔を見合わせた。


 無理かな。なら、別な方法を考えるけど。


「出来ると思う?」

「応とも! その程度の事が出来なくて、何がタンクか!!」

「だよね。トア、それは任せておいて。バッチリとこなして見せるからさ!」

「ありがとう。たぶんその隙にクリアとシズクが外骨格を壊してくれるはずだし、セラちゃんとたぶんキョウも関節部を狙ってくると思うから。お願い」

「オッケー、好きなタイミングで行って良いよ! それじゃあやるよ、エニグマさん!」

「応よ!」


 よし、これならかなり楽になる。


 二本とも武器を抜いてからタイミングを見極めて、二人の背後から飛び出す。それと同時に、今までの全力よりも少しだけ力を込めて踏み込む。

 これでいつもよりちょっとだけ速いくらいか。


 でも、これでも七割くらいなんだよね。……全力だとどうなる事やら。

 まぁ良いや、とりあえずあれを試してみよう。まだ例の魔法は取得できてないけど、今ならこれでも十分だと思うし。


 えっと、あの辺りに座標を設定して――


「岩よ、穿て――ロックスパイク!」


 これは低級土属性魔法、ロックスパイク。

 指定した座標に直径60cm程度の棘を生み出す魔法で、本来は相手を串刺しにするもの。


 だけど、今回は別な使い方をする。


 本当はだいぶ熟練度が上がると使えるようになる、中級土属性魔法のロックウォールを使うつもりだったんだけどね。今ならこれでも行ける気がするから、試してみるだけ試すことにした。

 という事で追加で消費魔力を増やして、長さも調整したものを相手の行動疎外と、更なる足場のために四本ほど生み出す。気を引きながらも、その間に脚部関節を狙うのも忘れない。


 これで準備は終了。


 始めよう。


 スコルピオの鋏での横振りをバックステップで回避しながらその付け根を攻撃しつつ、作って置いた棘を駆け上がって他の一本に跳び出す。

 その際に勢いが足りなくならないように、けど蹴り砕かないかどうか気を付けて六割程度の力で蹴り跳んだけれど、足場にしたロックスパイクは折れてしまった。


 ……でもなんだか、不安定な足場を使った割には思ってたよりも勢いがある。もしかしてAGIって、敏捷が上がるんじゃなくて――いや、今はいい。そんな事を考えてる余裕は無い。


 跳び移るときに、すれ違いざまに尾の関節を斬り抜いて行くと同時に新しく、誰の影響も受けなく、かつ足場に最適な場所にロックスパイクを使う。

 そして着地しながらも周囲を確認すると、相手が怯んだ瞬間にさっきの攻撃を防いでいたフィアとエニグマさんが、相手の動きを止めにかかっているのが横目で見えた。


 私が今やろうとしているのは攪乱だけじゃなくて、このスコルピオが持つ一番危険だと思われる尾針を使えなくする事。


 その為にわざわざ、こんな回りくどい方法で攪乱することに決めた。


 そう考えながらも更に次の足場に飛び移ろうとした時、鈍い打撃音が複数聞こえてきたから、たぶんクリアとシズクが上手い事攻撃に移れたみたいだね。破砕音は聞こえなかったから、砕くまではいかなかったみたいだけど。

 たぶん後、何度か同じところを叩けば砕けそうな音ではあったけどね。


 とりあえず私は、あの怖い尾を斬り落とす事だけを考えよう。そうしないと、いくら抑え込んでもあの尾針に貫かれかねない。


 それじゃあ、もう一度!


「――ふっ!」


 今度は着地した時の勢いもそのままに使って跳び出して、剣を交差させながら斬り抜ける。と同時に、魔法が飛来してきてスコルピオを焼いた。

 これはエルとミツキさんかな。


 うん、これも予定通り。

 ちらっと見た限りでは、キョウとセラちゃんも関節部を狙いながら安全に攻撃してるしね。


 後はこれを繰り返して尾を斬り落とせれば……そう考えて、更に十数回ほど繰り返したところで予定外の出来事が起きた。


「へ? ………………あー!!?」


 ボキッ、と音を立てて、足を付けたロックスパイクが折れた。


 どうやら勢いを殺すことも無く跳ね返るように跳びまわっていたからか、その溜め込まれ続けていたエネルギーを完全には殺すことが出来なくなったみたいで、そのまま突き抜けて行ってしまう。

 ……完全に強度不足だった。と言うか、このやり方だとどんどんと勢いが強くなる事が、頭から完全に抜けてた。


「――っ! エニグマさん、あたしが鋏を押さえるから尾を!」

「請け負った!」


 跳び去って行く傍らでそんな会話が聞こえてきたけれど、急にミスをしたせいで迷惑をかけてしまった様子。


 ……ごめんなさい。


 内心で謝りながらも、何とか着地するために空中で体勢を立て直しつつ長剣の方を地面に突きたてて、勢いを殺そうとするものの上手くいかない。

 駄目だ、このままだと剣が折れる方が早い……!


「風よ、守りの盾と成れ――ウィンドシールド!」


 そして、武器が折れるくらいならと諦めかけた時、また別の声が聞こえてきたのと同時に背後で何か魔法が発動したのが感じ取れた。


「トアお姉ちゃん、無事!?」

「え、あ、うん。ありがとう……」


 その魔法に触れたとたん、さっきまでの勢いが完全に殺されてゆっくりと地面に降り立つことが出来た。


 えと、何が起きたんだろう。

 風属性魔法? でも、聞き間違えでなければウィンドシールドって聞こえた。もし聞き間違えじゃないなら、こんなクッションのように柔らかく受け止められないと思うんだけどな。


 地面に降り立ってからも困惑していたら、慌てた様にアリスちゃんが向かってくるのが見えた。

 思ったよりも飛んで行ってしまったみたいだね、後衛付近にまで来ちゃうなんて。


「良かったぁ……。でも、あんな無茶しちゃ駄目だよ? 心配しちゃうんだから」

「ごめんね、ちょっと勢いの事が頭から抜けちゃってて。でもさっきのは?」

「低級風属性魔法のウィンドシールドだよ。防ぐというより勢いを殺すって感じだから、クッションにも使えると思ったんだー」

「なるほどね、本当にありがとう。助かったよ、アリスちゃん」


 やっぱり風属性魔法って、色々と応用が利きそうな便利な魔法が多いよね。シャーリーが使ってたテイルウィンドも、完全に使いこなせれば便利な魔法だし。

 スキル欄的に魔法は後一個取れるから、候補に入れておこっか。


 っと、今はそんな事よりも戻らないと。


 スコルピオの攻撃は二人で何とか捌いてるけど、一撃一撃が重いからかダメージが蓄積してるし、さっきよりも攻撃が苛烈になってる。そのせいでクリアたちもなかなか手が出せていない。

 相手の移動自体は何とか制御出来てるけど、やっぱりあの尾がかなりの脅威になってる。


 私が頭上を飛び回りながら尾を攻撃してた時は、防ぐために気を取られててあまり激しくなかったからこそ、あそこまで簡単に抑え込められてたってだけだったのかな。


 それに問題は前衛だけじゃない。


 さっきから戦闘音に惹かれて来ていたモンスターから、コーディアさんが頑張って後衛を護衛してるけど、徐々に手が回らなくなってきてるみたい。まぁゴーレムとか強いのが来てないから、まだ私が戻らなくても平気そうだけども。

 けれどそれも時間の問題だし、早いところこの戦闘を終わらせるか、それが無理そうなら私は一度、護衛のために退く事も考えないといけない。


 出来る事なら短期決戦といきたいけど……どうかな。


 見る限りまだまだ元気なのがよくわかる。あの外骨格のせいで全然ダメージが入ってないってことなんだろうけど、どれだけ硬いんだろう。

 クリアたちが頑張ってるみたいで、所々に細かい罅が入ってるのも辛うじて見えるけど、思ってた以上に硬そうだし。


 たぶん、あれさえ砕ければ案外簡単に片が付きそうだと思うんだけど、あの尾のせいで上手い事進んでいない。早い所どうにか出来れば、対処するのは楽になりそうだね。


 ……そういえば、硬いのを砕くならあの方法があったっけ。

 でも、魔法でやるのはちょっと厳しいかな? 熱くする事ならまだしも、冷やすのが難しい。


 エルなら水属性魔法も使えるからそれで冷やせればって思うけど、いまいち冷えてるわけでも無いし。かといって氷属性魔法はそれこそ、あの時シャーリーが使ってたコキュートスみたいなものが使えないと効果的なほどに冷やすことは出来ない。


 なら下手な小細工無しで、純粋に衝撃で砕くしかなさそうだ。


「……今度は、こんなのはどうだろう」


 ある程度の算段を付けたところで次に、ふと思いついたことをやってみよう。

 これなら、上手くいけばあの厄介な尾を斬り落とせるかもしれないし。……でも、その前に一つ保険を。


「さのさ、アリスちゃん。一つお願いしたい事があるんだけど」

「なにー?」

「えっとね――――――ってことなんだけど、出来るかな」

「うん、出来るけど……無理はしちゃ駄目だよ、トアお姉ちゃん」

「大丈夫大丈夫。もし失敗しても、アリスちゃんがちゃんとカバーしてくれるでしょ?」

「もちろんだよ! でも……」

「本当に大丈夫。けど、もしもの時は任せたからね?」

「うん……気を付けてね!」


 不安気なアリスちゃんの頭を一撫でして、相手に向かって走り出す。


 走りながら、まずはロックスパイクを今作れる最大の長さで作る。動きが不自然に鈍り始めたスコルピオの斜め右後方付近に、少し離れた位置で。

 更に今度は、それを起点にして魔法を発動させる。


「氷よ、突き穿て――アイシクルピラー」


 ちょっと前に使えるようになった低級氷属性魔法のアイシクルピラーを使い、氷の棘をこれもまた今作れる最大の長さで作る。

 これで更に長さを伸ばして、高さを確保。そしてもう一度、今度はその真横から斜め上に向けて生えるように調整してアイシクルピラーを発動させる。


 下準備は終わった。


 次こそ、あの尾を斬り落とす。


「これは……お姉ちゃん!? 今度は何を――」

「フィア、エニグマさん! 抑え込んで!」

「なるほど、無茶するなぁ。けど……うん、オッケー! いくよ、エニグマさん!」

「ガハハハ! 思い切りが良いのは良い事だ!! 合わせようぞ、フィア!」

「あの馬鹿!」

「お姉、さん。また……」

「あれだけ無茶はしないで下さいと…………いえ、もう諦めました」


 なんだかクリアに呆れられた気がするけど、たぶん気のせいだと思う。


「岩よ、穿て――ロックスパイク」


 そして二人が一時的に動きを抑え込んだところで、タイミングよく足下にカタパルトの要領で土の棘を作り出し、それに乗って先に作って置いた柱に向かって飛び出す。かなり高い位置になってしまったけど、これなら十分に届く。

 ……作っておいて今更だけど、強度、大丈夫かな。


 ただ飛び出しただけじゃなくて、カタパルトとしての勢いも使って飛び出したからちょっと不安を感じたけど、たぶん重力とかの影響である程度は軽減されるはず。


 スコルピオの尾は――よし、丁度良い位置にある。


 シズクにキョウが上手い事引き付けてくれてるみたいで、そのうえで盾役の二人も挑発してるからか対象を絞り切れていない。

 クリアとセラちゃんも、その隙を突いて外骨格を砕こうと頑張ってる。これはもう、失敗する訳にはいかないね。


 しかもその相手は今まさに尾で攻撃しようとしてるけど、その攻撃をするときは少し溜める時間があるから意外と隙が大きいし、まだ誰を狙うかも絞り込めていない。だからその間にたぶん、目的は達成できると思う。


 けれど、油断はしない。


 改めて気を引き締め直しながら、身体の向きを反転させて突き出した氷の棘に足を付けた瞬間に、今度は勢いのままに遠慮なしの全力で踏み抜く。その衝撃で足場にした場所どころか、作りだしたロックスパイクとアイシクルピラーの複合柱すらも完全に砕け落ちた。


 でも、それも仕方ない。


 今回は勢いが足りなければ、確実に失敗する。


 少しでも狙いが逸れてもまた、失敗すると思う。


 だからこそ、万全を期してもう一つ手を打つ。


「雷針よ、縫い留めよ――サンダーピアス!」


 低級雷属性魔法、サンダーピアス。これもまた、ちょっと前に使えるようになった魔法。

 確かめることが出来ないからいまいち熟練度の上昇の仕組みがわからないし、魔法やアーツの取得条件もわからないけれど、今回は助かったと言えると思う。


 なぜならこの魔法はダメージを与えるだけじゃなく、耐性が無かったり怯んでいる相手に撃ちこむと数舜から数秒の間、動きを止めることが出来てかつ、上手くいけば少しの間だけ地面に縫い留めることも出来る。

 だからこの魔法を習得できた事は、単純に運が良かった。


 しかも、今はタイミングよくクリアが外骨格の一部を砕いてくれたおかげで、その場所に撃ちこめれば確実に動きが止まるはず。


 ……まぁきっと、クリアならわかってて砕いたんだろうけど。

 サンダーピアスを習得したなんて一言も言ってないから、何で気付けたのか不思議ではあるのはここだけの話だけどさ。


 っと、とりあえずこのくらいの座標指定なら何の問題も無い。しかもフィアたちが動きを止めてくれているのだから、なおさら外すことは無い。


 そして、雷の針が過たず狙いを撃ち抜いたのを確認して、斬り裂くべき場所を見る。

 狙い通りに尾の動きは完全に止まってる。しかも都合のいい事に尾針と尾そのものの付け根が一直線になってるから、一息に断ち切れるかな。……流石にそれは無理か。


 よし、決めた。尾針の付け根を長剣で、尾の付け根を短剣で斬り落とそう。


 数舜の間で確認とやるべきことを纏め上げ、接近したところで勢いのままに長剣を振り抜いて尾針を斬り落としたと同時に、そのまま手を放す。手に持ってても、今は邪魔にしかならない。

 続いて短剣を両手で、更に逆手にして構えて体勢を変えて尾の付け根に突き刺し、その半分ほどを斬り抜く。


『Kyuaaaaaa!!!!』


 斬り落とすまでは出来なかったけど、これでこいつはもう尾を攻撃には使えないし、針に限ってはもう絶対に不可能。

 なら、最善ではなくとも目的は達成できた。


 でも結局、アリスちゃんに頼んだ保険は必要なかったね。


「ふぅ、上手くいった。ちょっと手が痺れたけど」


 落としておいた剣を拾いつつ、スコルピオが怯んでいる隙に離れる。

 このまま近くに居たら怒りで暴走しかねないし、それに巻き込まれたら危ないから。


 と、フィアとエニグマの後ろまで戻った時だった。


「上手くいった、じゃないです。トア、私は最初に無理はしないようにって言いましたよね?」

「えと、その……」

「本当に、善処って言葉は当てに出来ませんね。全く」

「あはは……ごめん」


 そういえば一週間とちょっと前に、出来るだけ無茶はしないように善処するって言ってたっけ。

 たぶん無理だとは思ってたけど、一人では無茶しないならって話だったような……?


 でも結局、今回のこれって一人で無茶になるのかな。成功する可能性は十分に高かったし、だからこそ無茶をしたつもりも無いんだけど。


 それに、最近気付いた事だけど、私にはどうにも無茶の基準がわからない。

 だからこそ、何を言われても対応のしようがないわけだけど……これも話しておいた方が良かったのかな。


「だがまぁ、良いではないかクリアよ。これで相手をするのが格段と楽になったからな!」

「それとこれとは話が違います、エニグマさん。いったいトアが、何回こんな無茶をしてきたと思ってますか? 最初は注意散漫なだけでしたが、前なんて一人で森に向かって片腕を失って帰ってきたことも――」

「クリア! 今はそれよりも、スコルピオを片付けないと!」

「――それもそうですね。ですが、後でまたお話ですよ」

「お姉ちゃん。私、片腕亡くしたなんて話は聞いてないんだけど……後でちゃんと、教えてくれるよね?」

「……はい」


 自分のせいだとはわかってるけど、恨むよエニグマさん……。下手なこと言わなければもう少し軽くなったのに。


 ……あの時は辛かった。

 また、あの時間を過ごすんだね。あれって本当に辛いんだよ?


 確定した未来に少し遠い目をしながら構えようとした時、不意にキョウが会話に割り込んできた。


「前に何があったのか知らないけどさ、今回は勘弁してやれよ。勝算が無いわけじゃなかったんだし、保険も張ってたようだからさ。それに、あれも全部エニグマたちを信頼してたからの行動だろうし。――ま、そんな話は一旦置いといて。トアがここまで追い詰めてくれたんだ、今はこいつをさっさと倒すぞ」

「確かに、キョウさんの言う通りですね。今回は見逃しましょう」

「まぁ、それもそうですね。でも、腕については話してもらうからね。お姉ちゃん」


 あれ、許された。最低でも小言ぐらいは言われると思ってたのに。


 これは、珍しくキョウに感謝かな。

 でもシズクがちょっと怖い。腕についてはまた別の話だし。


「んー。じゃあ私も、お姉ちゃん見てて思いついたのをちょっとやってみようかな。これなら短期決戦に向いてそうだし。……まぁ消費が更に増えそうであまりやりたくは無かったんだけど、そんな事も言ってられない」


 そう言うなり、シズクは何か思案するように目を伏せた後、もう一本大剣を取り出した。


 えっと……それってもしかして?


「クリア、カバーよろしくね」

「はぁ……わかりました。貴女も、相当に規格外ですね」

「私もって、どういう事かな?」

「言わなくてもわかるでしょう? ――好きに動いてください。ある程度はフィアさんとエニグマさんが防いでくれるでしょうが、もしもの時は任せてもらって大丈夫ですよ」

「流石」


 この二人、何時の間にここまで仲良くなってたんだろう。


「話すのは良いが、早い事片を付けるかこちらの手助けをしてくれ! 私たちだけでは手が回らない!」

「トアお姉ちゃん、助けて!」


 あ、いつの間にかモンスターが大量に集まって来てる。

 確かに途中から魔法の援護が無いとは思ってたけど、こんな状況になってたら仕方ないよね。


 早く戻らないと。


「私は後衛の援護に戻るけど、二人も無茶しないでよ?」

「ごめん、お姉ちゃんには言われたくない」

「トアには言われたくないですよ。それに、私は無茶する人の支援なんですから、そんなことしません」


 そう言われるだろうと思ってたけど、だからこそ釘を刺したかったんだけど。

 クリアもあんなこと言ってるけど、なんだかんだ言って意外と暴走したりする気がするんだよね。大丈夫だとは思うけどさ。


 今、何よりも怖いのはシズクだから。


「さて、と。さっさと終わらせちゃおうか」

「はいはい。いきますよ、シズク。……本当は、トアと一緒の方が良いんですけどね。仕方ありません」


 エルたちの助けに向かう寸前に、そんな会話が聞こえてきた。


 最後にクリアが何を言ったのかはわからなかったけれど、少し残念そうな声音だった気がする。



今話は久しぶりの解説コーナーですが、魔法は話の中でおおよそは説明してたので省きます。


・スコルピオ

 体のほぼ全体を鉄よりも固い外骨格によって覆われた蠍型のモンスター。

 スコルピオは両腕部に子供よりも巨大な鋏と、大人の腕ほどもある尾針を持っており、このモンスターと戦う際に最も厄介なものはその尾針である。

 この尾針には神経毒が含まれており、掠っただけでも体が麻痺し、更に致死性の毒に体を蝕まれ続けることになり、もしも一人で行動中この毒を喰らった場合、助かる可能性はほぼゼロとなる。

 しかも毒耐性だけではこの神経毒を防ぐことは不可能であり、麻痺耐性も合わせて持たなければどれだけ毒耐性を上げていても体を蝕まれることとなる。

 それを知らずに立ち向かい、倒された冒険者は数知れない。


 ちなみに、腹部だけは硬い外骨格に覆われておらず、もしもひっくり返すことが出来たのなら容易く決着がつく事になるだろう。



それでは、今回はここまでです。

次話更新は次の日曜日となります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ