幕間
――私たちは本来、一つの存在だった。
私が自分の自我というものを持った時、そこには私一人しかいなかったのを覚えている。
数え切れないほどの数多くの本が本棚に所狭しと詰め込まれ、あらゆる場所に高く積み上げられている広い部屋。そんな場所に両手足の指を全て使っても到底数えられないほどの長い間、ただ一人で本を読むだけ。
最初はそれこそ、一人で居る事に対して思う事は何もなかった。もともと一人で居るしかなかったから、他に誰かがいるという事がわからなかったのだから。
けれど文字を覚えてあらゆる本を読み進めて行くうちに、次第に何故私は一人でここに居るのだろうかと、何で私は生まれてきたのだろうかと思った事もあったけれど、それでも生まれた意味を知りたくて孤独に耐え続けた。
そんなある日、何時ものように本を読んでいた私はとある一冊の魔導書を見つける。
その魔導書の名前は『自我』。
ただ一つのとある魔法についてだけ書かれた、それだけを追求した人物による一つの究極の魔導書。
実際にその魔法は、その世界では稀有な超越魔法と呼ばれる分類に含まれるもので、力のある限られた者にしか使えないようなもの。
そして、その超越魔法の名前は『アルターエゴ』。自分の能力の全てを半分にして分身を一体作り出す、超越魔法の中でもかなり特異で特殊な魔法。それを一部改変して、その分身体に新たな自我を生み出すようにした。
何故そのような改変を加えたのか。それは私がこの時、孤独を埋めようと必死になっていたから。この魔法を使えば、一人じゃなくなるんだと思ったから。
幸いにも私には魔法に対する高い適性を持っていたため、アルターエゴを習得することも、更にその魔法を改変することも容易く行えて、そこまで時間をかけることなく新しい自我を持った分身を生み出す事に成功した。
その時に生まれたのが、私とあの子だった。
こうして二つに分かたれた私たちは、比較的言葉を扱うのが上手かった私が姉となり、比較的言葉を話すのが拙かったあの子が妹として、あの冷たく広い部屋の中で共に仲良く過ごしていった。
あの寂しくも暖かった二人で過ごした時間はとても幸せだったと思うし、かけがえのない物だったとも思っている。
けれどこの時の行動は、人との関わりが無くていくら精神が未熟だったのだとしても、絶対にしてはいけなかった行為だった。
そしてこの魔法に出会ったその時から、私の運命は歪に捻じれ曲がってしまったのかもしれない。
今になったからこそ、そう思える。
この時私は、改変していなかったとしてもこの魔法を使うべきでは無かったんだと。
だけど今そんなことを思ったところで、もう遅い。
二つに分かたれた片方である私の本来の自我は、もうほぼほぼ失われてしまった。
残っているのは、意識の深奥に眠るだけの僅かな意思だけ。後はもう、怒りと絶望に染められてしまった。
私はただ、あの子を助けたかった一心で残っただけだったのに。それがあの子に深い傷を付けることになるなんて、これっぽっちも思わなかったんだ。
あの時二人で一緒に行けたのならまた結末は変わったのかもしれないけれど、それも今更な話でしかない。
今思うのはただ、あの子に謝りたいという事だけだった。約束を守れなくてごめんって、約束も守れないだらしのないお姉ちゃんでごめんねって……ただそれだけをあの子に伝えたいだけだったのに。
ああ。本当に私は、どこまで行っても迷惑をかける事しか出来ない、どうしようもないろくでなしだ。
そんな事を願ってしまったせいで、あの子だけじゃなくこの子にもこんなに迷惑をかけてしまうなんて。
――私は、絶対に生まれてきてはいけなかった。
後悔と自分に対する不甲斐無さしか、残り僅かな私には感じる事しかできない。
この世界は、理不尽だ。
今回の幕間は、とある誰かの独白になっています。
そして、超越魔法という大層なものが出てきていますが、この場でWoRの世界には無い事だけは断言しておきます。WoR内では、俗に言う失われた遺産と言ったところですかね。
なので、詳しい解説等を行う事もありません。
今話は短いので、もしかすると明日の19時頃にもう一話投稿するかもしれません。間に合わなかった場合は、また来週の土曜日か日曜日となります。
それでは、今回はここまでです。




