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Fragment of Memories  作者: 詩空
第二章
42/55

2-4 プール


「トア、本当にこれを着なければいけないんですか……?」

「そうだよ、これを着なきゃ入れないんだから。それに、私だって初めてなんだからお相子だって」

「ですが――」

「あーもー、うじうじしない! 上にこれを着ても良いから、ね?」


 そう言って、いつまでも渋るクリアに例の物と一緒に買っておいたパーカーの様な上着を渡す。

 確かに私も着たことが無いから恥ずかしいと言えば恥ずかしいけど、それでも楽しみにしてたんだしさ。


 それに、クリアが買ったのはそこまで酷く露出する訳でも無いんだしね。あれを外さなければだけど。


「……わかりました。こういうのに着替えなければならないのは知りませんでしたが、私もここには一度来てみたかったですし。覚悟を決めましょう」

「よし、早く着替えようか」

「はい」


 私たちは今、南の大通りのとあるお店で買い物をした後、お昼を食べてから西の大通りのとある施設の中にいる。


 そのとある施設とは公共施設のレジャープール。初日のシズクとの観光の時に見つけた場所で、その更衣室の中で色々と押し問答をしていた。

 ここに来る前のお店の水着屋でもクリアには渋られたけれど、何とか通ってよかった。


 で、クリアが着ようとしている水着はパレオ付きで水色のホルターネックタイプのビキニで、私が着ているのはチェック模様で薄緑色のボトムに前が開いたスカートみたいなのがついている布地が多めのビキニ。

 ちなみに、クリアの水着は私が選んで、私の水着はクリアが選んでいる。


 私がこの水着を選んだのは良く似合うだろうなって思ったのもあるけど、クリアの麦わら帽子も良く映えそうだなーって思ったからだったり。


「トア、着替え終わりましたよ。……どう、でしょうか」

「やっぱり思った通り、凄く似合ってるよ」


 うん、我ながら良いものを選んだね。

 麦わら帽子ともよく合ってるし、なんだかお忍びでやって来た令嬢みたいな感じ。


「ありがとうございます。トアも良く似合ってますよ」

「あ、ありがと」


 なんだか、クリアに褒められるのは凄く嬉しく感じる。


 どうしてなんだろうね。クリアと一緒に居ると、今まで失くしていた物を思い出したかのように、自分でもよくわからない感情が頭を出してくるようになった。

 これは、私が無くした感情の何かなんだろうか。


 それすらもわからないけれど、もし取り戻すことができたのなら、それは嬉しい事なんだと思う。


「それじゃあ行こう。入り口はあっちだって」


 少しだけ心臓がバクバクいってるの隠しながら、プールへの入り口へ向かう。


 いったいどんなものがあるのか楽しみだね。

 あっちでは流れるプールだとか、ウォータースライダーだとか色々とあるみたいだけど、魔法とかがあるこっちだとどんなものがあるんだろうか。


 だけど、私自身に一つだけ疑問があったりする。


 ……泳げるのかな、私。


「そういえば、泳ぐ際はこの……パレオでしたっけ、は外した方が良いんでしょうか」

「どうなんだろう。その辺りは私もよくわかんないから、何とも言えないかな。個人的には邪魔になると思うけど、それも人によると思うし」

「ですよね」


 泳げるかどうかちょっと不安に思いつつも、クリアの疑問に答えていく。


 というよりも、私も知らないことが多いから二人で一緒に悩んでいた。


 だって、今までこういった施設になんて来たことが無いから、何を聞かれても正直わからないよ。水着を着たのだって今回が初めてなんだから。


「あ、ようやく道が終わったみた――……凄いね、これ」

「――ええ。これは、本当に凄いです」


 そうして一緒に悩んで少しして、思っていたより長い道を抜けた時、目に入ってきた光景はとても幻想的なものだった。


 天井は完全ガラス張りになっており、しっかりと太陽の光を取り入れることができるようになっているのだけれど、だからといってその光が強くならないように光の強さが何かしらの方法で軽減されて、柔らかく降り注ぐようになっている。


 けれどこの場所は、そんなものでは終わらない。


 まず目を引くのは、空中に走っている水のトンネル。これこそ、まさに水路って感じだけど、その中を何人もの人が流れていってとても楽しそうにしてる。私も行ってみたい。

 他にも水の大きな玉の中で遊ぶようなものがあったり、私たちにとっては普通の流れるプールみたいなのだとか本当に多種多様なものがあって、ここに来て正解だったね。


 なんだか圧倒されるばっかりだ。


「これだったら、もっと早く来ればよかったですかね。そうすれば私が、トアをここに連れて来れたというのに」

「んーん、それは違うよ」

「え?」


 うん、それは違う。


 だって、だってさ。


「ここに今日、初めて来たのが二人一緒だったんだから、それ以上に私が嬉しいことは無いよ。だって――」


 ――それが私たちにとって、大切な思い出になるんだから。


「トア……。ええ、そうですね。沢山、楽しむことにしましょう。少しでも大切な思い出が増えるように」

「よし、それじゃあ早速楽しもう! まずはあれに行こう、クリア」

「はい!」


 ということで、まずは上空に見える水の道のアトラクションに向かうことにする。


 どこに乗り場があるのかなーと、周りを見渡してみると、少し離れた場所にそれらしきものを発見した。


 あ、看板がある。えーっと、何々? ――『ウォーターライドフォール』?


 へー、そんな名前だったんだね。まぁ、たぶんこっちの言語に直訳したような結果なんだろうけれど、水に乗って落ちる、か。

 まさしくその名前の通りだね。


「少し並びそうですね」

「だね。その間に帽子は仕舞って置いたら?」

「ですね。このままでは邪魔になってしまいますし」


 そして、乗り場に着いて並び始めてから、クリアは帽子をストレージ内に仕舞った。

 するとクリアの白い髪が光を反射しながら空中を踊って、元に戻っていく。


 ああ、そういえば。プールに入るのなら、髪は結った方が良いのかな。纏めないままだったら、髪が広がって色々と引っかかったりしちゃいそうだし。


「クリア、髪を結っても良いかな」

「はい。構いませんが、急にどうしたんですか?」

「プールに入ったら髪が広がっちゃうなって思ってさ、三つ編みに結ぼうかと」


 えーっと、これなら一本で纏めた方が良いかな。


 ここをこうしてこうやってっと。……よし、完成。これならそう簡単に解けることも無いでしょう。


「そういうことでしたか、ありがとうございます。トアはどうするんですか?」

「私も三つ編みかな。この長さだと、紐やゴムも無しに他の結び方はちょっと厳しいしね」

「でしたら、私が結びましょう」


 そう言ってクリアは私の背後の回ると、髪を弄り始める。


 だけど、これは普通の三つ編みじゃないのかな?


 両脇の髪の毛を編んだ後、それを使って後ろ髪を一つ結びにしているみたい。

 その後は後ろ髪を普通に三つ編みにしたのかな。なんだか見た目のわりに凄く手間がかかってるけど、クリアと違って脇の髪も長い私だと、こっちの方が確かに広がりにくいか。


 こんな結び方もあったんだね。自分でやるにはこの結び方はかなり難しいというか、無理な気もするけど。


「ありがと、クリア」

「いえ、このくらいなら何時でも大丈夫です。――と、もうすぐみたいですよ」

「あ、本当だ」


 いつの間にか前に並んでいた人が、あと一組だけになっていた。

 思ったよりは結ぶのに時間はかからなかったみたい、結ぶのが間に合ってよかったよ。


 そしてさらに少しだけ待って、私たちの番が回ってくる。


「ウォーターライドフォールへようこそ。お二人一緒に乗られますか?」

「あれ、一緒に乗れるんですか?」

「はい。その場合ですと、そちらの白髪の方があなたの背後に回りまして、後ろから抱え込む形になります」


 後ろから抱え込む形……って、それはそれでなんだか恥ずかしい格好になりそう。

 というか、絶対に恥ずかしいって。クリアに後ろから抱え込まれるって、考えただけでも顔から火が出そうなのに……でもまぁ、仕方ないかな。


「なるほど。それで入り口はこの先で良いんですよね」

「はい。この先のホールの中心に立っていただければ、自動的に感知して魔道具が作動しますので」

「わかりました。それでは行きましょうか、トア」

「ふぇ? え? うん」


 なんだか知らないうちに話が進んでるような……って、何で引っ張っていくの?


 あれ、クリア? クリアー?

 と、引っ張られるままに着いて道を進んでいくと少し広めの天井に穴のあるホールに繋がっており、そこは壁一面が水によって作られている不思議な場所になっていた。


 もしかしてだけど、これが動いて上に飛ばされてくのかな。

 等と考えながら手を引かれるままに中心まで行くと、クリアが手を離したと思ったら後ろから私を抱え込んでくる。


 って、急にやらないで欲しい。私にも心の準備というものがあるんだよ。


「楽しみですね」

「そうだね。――って、うわぁ!」


 クリアに抱え込まれた後、急に足下が揺れたかと思うと下から突き上げられて、思わず驚いて変な声を出してしまう。


 けれど、そんな気持ちは次の瞬間、跡形もなく消え去ることになった。


「なにこれ、凄い!」

「ええ、これは本当に凄いです!」


 そう、凄かったのだ。


 まず周囲の水の壁の下半分が唐突に消えたかと思うと足下から水が一気に吹き上がって、押し上げられた勢いのままに天井に開いた穴からかなり高い位置まで飛び出してからいつの間にか現れた水路へと背中から着水するという、単純だけど確かに合理的な構造をしてる。

 たぶんだけど、シズクが言ってた魔道具ってのを使ってるんだろうね。機械だとか人力だった場合は逆に不合理そうだし。


 その後は水で出来たトンネルの中を凄い勢いで滑り抜けて行くだけだったのだけれど、滑り抜けて行くときもただ単調に真っすぐに進むわけでは無く、グネグネと曲がったり縦に一回転二回転したり、更にグルグルと回りながら先に進んだりとなかなか飽きさせはしない造りになっている。


 けれど、何よりも凄かったのはトンネルそのもの。


 このトンネル中はどういう構造なのか不明だけど、色とりどりの柔らかな光があらゆる形状を形作っていたり、暗くなったと思ったら星空のように瞬いたりして……まるで万華鏡の中にいる様な感じ。


 凄く、凄く綺麗だと思う。


 まさかこんなものがあるなんて、思ってもみなかったよ。

 これだけでもここに来た価値があるって、そう思えるほどに本当に凄い。


 ああ、駄目だ。


 この場所を表現するには、私の語彙力が圧倒的に不足してる。凄いってしか言えないや。


「――わぷっ」


 そうして楽しみながらもこのアトラクションそのものに魅了されていると、いつの間にか出口まで辿り着いていて、準備も何もしていなかった私たちはそのまま放り出されてしまう。


 出口付近では一気にスピードが落ちてたから、それで気付ければよかったんだろうけれど、そんな余裕は私にはなかった。

 まぁ、当たり前だよね。あそこまではしゃいでたら周りなんて見れないし。


 で、どうなったかといえば。


 クリアと一緒に、一度頭まで沈んだだけで済んだ。きっと出口の場所が、水深の浅めの場所になっていたからだね。

 もしも深い場所になってたら、泳げるかわからない私がどうなったかもわからないし。


「ふぅ、楽しかったね」

「はい。まさかこの様なものがあるなんて、思ってもいませんでした」

「そうだね、私もこんなのがあるなんて思ってもなかったよ」


 次にやってくる人の邪魔にならないように、出口のプールから出つつ話を続ける。


 それにしても、本当にこんなアトラクションがレジャープールにあるなんて、なかなかに凄いものだね。向こうでもこんなものはなかったはずだし、あったとしてもここまで凄くはないはず。それに高くて、一回乗るだけで四千円くらいとかになりそう。

 他の場所でも、こういったような魔法の技術で作られた特色の強いものがあるんだろうか。


「――お姉ちゃん!? それにクリアも!」


 プールから出ながらそんなことを考えていた時、ふとそんな声が聞こえてきたと同時に、声の方を振り向く前に私は誰かに押し倒された。



 ……あれ? 最近も何か、似たような事があったような気がするのは私の気のせいかな。




ということで、回収された伏線は一章2-1でちょっとだけ出てきたレジャープールです。

こんなに早く出す気は毛頭なかったんですが、今回もまた何でか出してました。


で、今回も単語解説コーナーはありません。

どんどんと、今現在で解説するものが無くなってきました。もうちょっと進めば、一応まだまだあるんですけどね。


では、今回はここまでです。

次話更新は来週の土曜日となっています。


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