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Fragment of Memories  作者: 詩空
第二章
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2-2 あれ?


「あー、そっか。そういえば今って夏だっけ」

「いきなりどうしたの、お姉ちゃん」


 現実に戻って晩御飯を食べ終わった後、残り僅かになった夏休みの課題を片付けている時に、ふとそんな言葉が口をついて出た。


「いや、ちょっと明日の予定を立ててたんだけどね。向こうだと季節の感覚が薄いから、今が夏だって忘れてたんだ」

「なるほど。確かにあっちだと暑さとかって、何でかあんまり感じないからねー」


 雫の言う通り、向こうの世界だとあんまり気温の違いを感じることはない。

 あんなに肌の露出が少ない装備なのに暑さを感じることもないし、それで汗をかいた記憶も無い。まぁ、動き回って汗をかくのは普通にあったけど。


 そういえば、ゲームの中なのにあんなにリアルな汗をかくっていうのもなかなかに不思議なことではあるよね。


 まぁ、そんなこんなで今が夏だってことをすっかり忘れてたから、ちょっとしたことが頭の中から抜けてた。と言っても、実際に私が行ったことある訳じゃないんだけどさ。

 だってあそこも結局、機械を壊す可能性がかなり高かったし。


 でも向こうならその心配も無いし、行ってみるのも良いかもね。


「で、何でまたそんなことを?」

「明日クリアと遊ぶことにしたから、どこに行こうか考えてただけだよ。後で下調べもしてこようかって考えてるし」

「へー、そっかぁ。遊びにねぇ……ってクリアと行くの?」

「うん。最近はあんまり構ってあげられなかったから、そのお詫びにって」


 楽しんでくれるといいけど。


 最終的にあそこに行くことはもう決めたし、後はあのお店があるかどうかっていうのと、他にも何ヵ所か目ぼしい場所も探しておかないとね。


 あぁ、でも他にどんな場所があるだろう。

 確か美術館とかもあったけど、クリアってああいうの好きなのかな。個人的には好きだけど、今回は私が楽しむことがメインじゃないし。


 もっと気楽に楽しめるところを探しておかないと。


「いーなー。私も行きたいけど、明日は霧華(きりか)たちとあっちで遊ぶ予定だからなぁ」

「あれ、そうなの?」

「うん、丁度夏だしって事で誘われたんだよね。どこに行くかわからないけど私も特に予定なかったし、二つ返事で答えを返したんだけど……もう少し考えておけばよかったかな」


 ふーん、雫も遊んでくるんだ。

 けど、夏だしってことは……あれ? これ、もしかしなくてもあっちで遭遇する可能性高い?


 私の予想通りだったら同じ場所に行くかもしれないけど、何で雫は行く場所を知らされてないんだろう。知られたら困るとか?


 ま、いっか。


「だったらそっちの約束を(ないがし)ろにするわけにはいかないでしょ? それに、もしかすると出先で会えるかもしれないし」

「むー……それもそっか。それで、お姉ちゃんたちはどこに行くつもりなの?」

「今のところは買い物に行って、ちょっとした場所に行く予定だよ。他にどこに行くかはまだ決まってないけど」


 具体的にどこに行くかは、あえてはぐらかす。

 下手に教えたら、なんだかちょっと迷惑をかけそうな気がしたとか、そんなことは考えて無いよ?


 ……だって雫って、変な所で人の話聞かなくなるし。


「教えてはくれないんだ」

「うん」


 当たり前です。


「じゃあさ、後で下調べ行くときはついて行っていい?」

「良いけど、課題は今日中にもう終わらせるんだからね?」

「わかってるってば。後は世界史のプリント一枚分だけだし、すぐ終わるよ」

「そっか。じゃあ待ってるから、すぐに終わらせてね」

「あれ、お姉ちゃんもう終わってる!?」


 いや、だって残ってたの得意な国語だけだったし。

 もともとここまで時間かかってたのだって、情報系の宿題が出ない代わりに大量に出されてた他の課題に思ってたよりも時間取られただけだったしね。


 というか、私だけ今やってる範囲より先の課題出されるとか思わなかったってば。

 確かに高校課程の範囲なら、情報系以外はもう全部予習済みだって先生に話はしたけどさ。


 だからといってこれはないよね。だってこれ、大学入試の予想問題も混ざってたし。


 やっぱり理不尽だ。


「ん? あれ、これなんだろ。こんなの教科書のやってた範囲に載ってたっけ」


 雫の課題が終わるのをビジョンデバイスを取り付けつつ、のんびり先生に対する恨み辛みを思い返しながらも待っていた時に、そんな声が聞こえてきた。


 でも、雫もかなり優秀な方だし、そうそうわからない物は無いと思うんだけど。

 とか考えつつ端末の画面を覗き込んでみると、そこに映されていた課題は言っていた通り世界史の問題で、その中でも紀元前世界のかなり面倒な場所だった。


 確かこれは、私もちょっとだけ時間がかかった気がする。


 それに、後で改めて確認してみたら、二年生でやる範囲じゃなかったから今度の登校日に先生に伝えに行こうと思ってたんだっけ。

 答えは、えっと……王都グランヘイムに、ライベルト=ニコライオスだったかな。他はどうだったかあんまり覚えてないけども。


 紀元前九千年頃の時代にしては中世辺りのものと比べても遜色のない王制で、その後に起きた何かしらの出来事で滅亡した後は原始時代の文明に一気に近くなってたから不思議に思ってた分、頭に残ってたんだよね。


 流石に一般課題の方にこんな問題が出てくるなんて思ってなかったから、思い出すまでに少し時間かかったんだけど。


「えーっと……やってる範囲に載ってないや。じゃあもしかして、他の所には――」

「調べなくても大丈夫だよ。これ、まだやってないというか、三年生の範囲だからわからないのも当たり前だしね」

「へ? そうなの?」

「うん。教科書の何ページだったっけ、確か……」


 この世界史の教科書って前半分が二年生で、後ろ半分が三年生の範囲って感じに別れてるから、探すのは簡単――っと、あったあった。


 そういえば昔は文系とか理系とかって分け方があったらしいけど、今となってはもうそんなものは無くなってるんだよね。

 だって、分けたところで意味が無いし。


「ああ、ここここ。358ページからの所で、グレムバルド王国の栄華と衰退ってやつ」

「本当だ。――でもさ、こんな王国って本当に在ったの? 紀元前の話にしては、嘘みたいに優れてるけど」


 雫が疑問に思うのも仕方は無いと思う。

 前に読んだ本からの受け売りだけど、ほんの百年ほど前までは本当は存在していない王国だって思われてたらしいからね。


 でも、その後に見つかった遺跡とか、これまでに見つかってた文字が読み解けていなかった古代文明の遺産とかからようやく紐解けた内容から、実際にグレムバルド王国が存在していたことがわかったらしい。

 しかも、他にも同じような国家が存在していたらしいし、それ以前にもグレムバルド王国と比べると劣るけれど、そこに繋がるしっかりとした国が存在していたことも判明したみたいだし。


 だから、この国の事が教科書にちゃんと載るようになったのも、つい二十年前の事みたいだしね。それ以前の国についてはまだみたいだけど。


 と、いうような事を端的に話していたら、途中から雫が目を回し始めたから説明を終えることにする。


「まぁ、という事で実際に在ったみたいだよ?」

「……はい、よーくわかりました」


 あれ、目から光が無くなってる。

 そんなに長々と話してたつもりは……あ、一時間経ってた。


 んー、そこまで長いこと話してた気は無かったんだけど。ちょっと熱が入りすぎてたかな。


「――って、なんでこんな話になってたんだっけ」


 あ、正気に戻った。


「何でって、雫がグレムバルド王国が本当に在るかって聞いてきたからでしょ?」

「あ、そっか。……お姉ちゃんを焚きつけたの私のせいか」

「で、話を戻すけど。だから、それはやらなくても大丈夫だよ」

「……なんだかすっごく疲れたけど、結局もう課題は終わってたって事で良いんだよね」

「うん」


 凄く話がズレてたね、うん。誰のせいって、私のせいだけどさ。


 だけど、本当になんでこんな問題が混ざってたんだろう。そんな間違いをするような人では無かったと思うんだけどな、世界史の先生って。

 私用にって事でも範囲外の問題からは一切出さないような人なのに。


 まぁ、女の人なのに口調は男の人みたいで、それなのに背はかなり低いんだけど。授業中に度々、昔はもっと背が高かったのにとか愚痴ってたりもするけど。


 というか、四十代のわりに凄く若いんだよね。あの人。

 正直な話、知らなかったら中学生か……最悪小学生に間違えそうだし。それどころか、実際に間違われたのを見たこともある。


「よし! 残りの夏休みは全力で遊ぶぞー!!」

「だからと言って、復習は忘れないようにね」

「はーい。それじゃあお姉ちゃん、さっそく下調べに行こうよ」

「それは良いんだけど、その前に水分補給をしておいてね」


 時間だいぶ使っちゃったしね、夏場は水分補給をしっかりしておかないと。


 ……そういえば。ゲームしてる間って水分補給とか実際には出来ない訳だけど、ゲームを止めて現実に戻った時は始める前と身体の状態が全く変わってないような気がするんだよね。


 いったいどんな理屈なんだろう。

 まるで、身体の状態がそのままに維持されてるんじゃないかって思ったりするときもあるんだけど。


「うん、わかった。じゃあ、お姉ちゃんは先に行っててね」

「わかった。いつもと同じで噴水広場前で待ってるから」

「すぐに行くからね!」

「はいはい。ちゃんと待ってるから、そんなに急がなくても大丈夫だってば」


 もっとのんびりしても時間はまだあるんだから、水を飲みに行くくらいでそんなに時間が無くなる訳でも無いんだし。


 じゃあ、先にログインして待っておこうか。

 と、部屋に戻ろうと立ち上がった時、情けない事に足を(もつ)れさせて思わずテーブルに手をつけて体を支えた瞬間、私は久しぶりにやってしまったと思った。


 何故かって、手をついた先には――


「雫の、端末が……」


 ――雫の端末が置いてあったのだから。


「……って、あれ?」


 いつものように爆発してしまうと思って身構えつつ、雫にどうやって謝ろうかと頭をフル回転させていたのだけれど、いつまでたっても爆発しない事に疑問を感じてそちらに目を向けてみると、何の変化も無い端末が視界に入ってきた。


 そう、爆発も何もしない端末が。


「何で?」


 普通なら触れた時点で熱を持ち始めて、次第に膨張していって爆発するまでがワンセットなんだけど……。どうして何ともないんだろう。


 もしかして、内部の方で何かが壊れたのかと思い、雫の見よう見まねで端末の電源を入れてみると何の問題も無く作動した。


 ……だから何で?

 今までこんなことは無かったのに。


 何か条件が違うとか? ……そんなのは今、耳に着けているビジョンデバイスがあるかないかの違いしかないよね。


 という事は、これを装着していれば機械に触れても壊すことは無いのかな。


「あれ、お姉ちゃんまだ居たんだ――って、あー! 私の端末ー!! って、壊れてないよ? どうして?」

「いや、それが私にもわからなくて……」


 どうして壊れないのか悩んでいると、リビングに戻ってきた雫の叫び声が聞こえて来たものの、それは一瞬で困惑するような声へと変わる。


 その気持ちはよくわかる気がする。

 雫の立場になったら、私も同じ反応を返すと思うし。


「何でだろうね? もしかして、ビジョンデバイスのお陰?」

「今の私の状態から考えると、そうとしか思えないんだけどさ。どうなんだろうね」

「まぁ、壊れなかったんだから今は気にしなくても良いんじゃないかな」

「そうなんだけど……どうにも気になったから」


 これはいくら悩んでも答えは出ないかな。

 よし、この疑問はいったんどこかに放り投げておいて。


 それじゃあ下見に行こっか。




今更な話ですけど、似ている部分は多岐にわたりますがこの世界とは全く関係性のない世界です。

実際の紀元前九千年頃にあんなものありませんしね。



という事で今話はここまでです。

久しぶりに単語解説コーナーをやりたいですが、そのネタが全く出てきません。


次話投稿は……どうなんでしょう。もしかすると一時間後に投稿するかもしれないですし、明日月曜日に投稿するかもです。

まぁ、はっきり言って未定です。


どちらでもなかった場合は、いつもの如く来週の土曜日になるのは確実ですが。

それでは。


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