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Fragment of Memories  作者: 詩空
第二章
36/55

1-5 知りたい


『トア? トア!?』


 シズクさんが一人で、それに少し遅れてわたしとフィアさんが二人で一緒にフォーグルウルフを倒した時、その声が聞こえてきた。

 その声は不安さが表れているようで、けど、どうしようもない様な焦燥も感じ取れるようなもので、どうしたのだろうとクリアさんの方を向いた瞬間、わたしの足は考えるより先に動き出していた。


 だって視線の先には、クリアさんから少し離れた位置に倒れ込んでるトアお姉さんの姿と、お姉さんに攻撃しようとしている薄い緑色の、前のときに散々邪魔をしてくれたウルフがいたのだから。


 何でウルフのすぐ傍で倒れてしまっているのか、どうして起き上がる気配もないのかはわたしにはわからなかったけれど、それでも今危険な状態に陥っているのは理解できたから走り出す。

 そして、ウルフの風の砲弾が放たれる直前に相手の目の前に飛び出して、ギリギリで首に短剣を差し込むことで無理やり攻撃を止めさせることができた。


「ありがとうございます、セラさん」

「……(フルフル)」


 クリアさんには首を横に振って大丈夫だって、問題ないって返す。


 この人とちゃんと話すのは、まだまだ難しい。

 いい人なんだってことは何となくわかるけど、この人はエルさんと一緒でなんだか威圧感って言うのかな、を感じて話すのが怖いから。

 それに、やっぱり話すのはなんだか恥ずかしい。話すのが嫌いな訳じゃないんだけど、凄く恥ずかしくて。


 でも、お姉さんみたいにすぐ自分で話したいって思った人は、とっても珍しい。

 トアお姉さんは凄く表情豊かで、思った事、感じたことをよく表情に出しているみたいで、裏表があんまりなくて凄く話しかけやすい雰囲気をしてるし、わたしのことをしっかりと見て、話すまでの間ゆっくりと優しく待っててくれる。しかも、近くにいるとなんだかとても居心地がよくて、なんだかすごく癒されるの。


 だからかな、トアお姉さんとはすぐに話せるようになったのは。

 後はあれかな。初めて見たとき、話してないとお姉さんはこのままここから消えてしまうんじゃないかって思ったのも、話すだけの勇気が出た理由の一つかもしれない。


 それでもただ一つだけ言えるのは、お姉さんはとても不思議な人だなって事なのかな。会ってまだ少ししか経ってないわたしが言えたことじゃないのかもしれないけれど。


「クリア! お姉ちゃんどうしたの!?」


 と、お姉さんに対して感じる印象について改めて考えつつ、残っていたウルフを倒し終わった頃。

 シズクさんがお姉さんを介抱していたクリアさんに話しかけていた。


 やることも無くなって、心配だったわたしもすぐ傍に来ていたアリスと一緒に近くで話を聞くことにする。 


「わかりません。無理をしているようだったので、少し休むようにと言って離れて行ったのを確認した後すぐに倒れ込んでしまって……」

「お姉ちゃん無理してたの? いつから?」

「それもわかりません。トアが一人でフォーグルウルフと戦い始める少し前までは通話で話していたので、その時まではいつもと変わり無かったのは確かです」


 何でお姉さんが倒れたのかはわからないけど、話の内容的にクリアさんもボイスチャットが使えるのかな。


 そういえば、お姉さんがあの大きなウルフと戦っているの、凄かったな。

 見てたのはわたしだけだったみたいだけど、動きも凄く軽やかで、流れるように倒しちゃったんだもん。ほんとに綺麗だった。


 倒した後で、少しの間様子がおかしかったけど……まさか。


「……ねぇ、アリス」

「どーしたの、セラ?」

「あの、トアお姉さんだけど……大きなウルフを倒した後、武器、落としたり、頭抑えたりして様子、ちょっとおかしかった……気が、する」

「ほんとに?」

「えと……うん」

「わかった、ちょっとシズシズたちに混ざってくるね!」


 そう言ってすぐにアリスはシズクさんたちの方に行ってしまった。

 上手く話せないわたしがいってもあまり役には立てないから、アリスに任せるのが一番なのは自分でもわかってるけど……ちょっとだけ、自分が情けなく思う。


 だけど結局、今いる人の中でまともに話すことができるのはアリスとトアお姉さんだけ。シズクさんとフィアさんはまだ話しやすいけれど、それでもあんまり話すことは出来てない。エルさんとクリアさんとは、全く話せない。


 いつか、ちゃんとお話出来るかな。


「そういえば……」


 ちらっとだけ見えたあの時のお姉さんの表情は……らしくなかったと、思う。けど、きっと気のせいだよね。

 だってあんなに優しそうな笑顔を浮かべてた人が、あそこまで凄く嫌な笑みを浮かべるなんて――わたしには信じられないもん。


 だからきっと、あれはわたしの見間違い。気のせいのはず。



「なぁ、セラ。一つ聞きたいことがあるんだが、大丈夫か?」

「……(コク)」


 あの後、クリアさんが気を失ったままのトアお姉さんをおぶって次の町に着いてから、ポータルを使って初めてお姉さんに会ったお店――女神の宿場だっけ――に戻って来て早々にエルさんに話しかけられた。


 お姉さんは戻ってきてすぐに、お姉さんによく似た人に預けられて今は違うお部屋にいる。シズクさんもクリアさんもそれに付き添って行ってしまってる。

 フィアさんは用事があるみたいで、もうログアウトしているからここにはわたしたち三人しかいない。


 だから思わず頷いてしまったけれど、わたし一人じゃ会話できないからアリスを呼ばなきゃ。

 でも、聞きたい事って何だろう。


「アリスも来たところで、さっそく聞きたい事なんだがな。トアの様子がおかしくなった時、さっき挙げていたもの以外に何か変わった事は無かったんだな?」

「……っ」

「セラ?」


 何で、そんなことを聞くんだろう。

 もしかして、エルさんは何か知ってるのかな。断定するように聞かれたから、何か思い当たってることがあるのかもしれない。


 ……それは、何なんだろう。気になるけど、聞いても良い事なのかな。


 ううん。それ以上に、わたしが踏み込んでも良いのかな。


「その反応からすると、何かがあったのは確実か。……だが、無理をして言わなくてもいい。きっと、君もそれを信じたくないんだろう?」


 ……エルさんは、きっと何かを気づいてる。その言葉だけで、必要以上にわかってしまった。

 でも、それがわかってもわたしは知りたいと思うけど、同じくらいにそれを知ることが怖い。


 だけど、それでもわたしは――


「……エル、さん」

「――どうした、セラ?」

 

 一瞬だけ驚いたような顔をしたけれど、それでもしっかりとわたしを見て聞き返してくれる。

 少し話し方が硬いだけで、やっぱりこの人は良い人なんだと思う。


「エルさん、は……トアお姉さんの、あの……表情。何か、知ってるの?」

「ああ、やはり見たんだな。トアの、あの笑みを」

「……(コク)」

「そうか。……とは言ってもシズクやあいつも知らないだろうし、私も一度しか見たことは無いがな。だが、はっきりと言えることはある。間違いなくあれは――本来のトアではない」

「……そっか」


 その言葉を聞いて、わたしは密かにホッとした。


 決して見間違えじゃなかったけれど、他の人からもそう言ってもらえたことが、嬉しかったの。

 だってわたしが感じたことは嘘じゃなかったって、信じられるから。


 エルさんが言ったあいつって誰だろうって思わなくもなかったけど。


「セラ―、トアお姉ちゃんに何があったのー?」

「ん……これは、秘密。アリスでも、教え、られない……かな?」


 話に混ざれなくてアリスが聞いてきたけど、これは教えちゃ駄目だと思う。

 あまり言い広めても、やっぱり駄目だろうし。


「えー」

「そう不満げにするな、アリス。あれについては知らない方がいいからな、あまり深く詮索しない方がいい」

「んー……エルルンもそう言うなら仕方ないのかなー」

「今はそれで納得しておけばいい」


 たまに、アリスの呼び方の法則がわからないときがある。


 わたしのことやトアお姉さん、フィアさんに関しては普通だけど、ほかの人になると徐々におかしな方向に進んでいくし。……フィーちゃんは、普通で良いんだよね。

 シズクさんはシズシズだし、エルさんはエルルン。クリアさんは……どうなんだろう。


「それにしてもあれだねー」

「……どうしたの?」

「ほら、ね。セラもこのパーティの中なら、もうすぐアリスが間に入らなくても会話できるかなーって思ったんだー。そしたら、セラがトアお姉ちゃんと普通に話せたのでも凄く嬉しかったのに、もっと嬉しいなって思ったの!」


 ……そっか。そうだったね。


 わたしが現実で普通に話すことができる人は、まだアリスとお父さんお母さんしかいない。

 エルさんが最初にお姉さんに紹介してくれた時はああ言ってくれたけど、それなりに仲良くなってもちゃんと話すことはできないから。だからわたしがお姉さんと普通に話せたことを、凄く喜んでくれたんだろう。


 小さい頃からずっと、アリスにはお世話になりっぱなしだったから、その分も相まって凄く。


 アリスが言うように、このまま成長できるかな。もっと、ずっと……


「大丈夫! 今のセラならできるよ。ずっと傍にいたアリスが保証してあげるから!」

「……そう、かな」

「そうだよ! でも、たぶんいたのがアリスだけじゃ無理だったと思うよ? だけど、トアお姉ちゃんもいれば、セラはもっと魅力的になれるから!」

「そうだな。トアは決して外面に囚われずに彼女自身をしっかりと見てくれる人にはちゃんと向き合って親身になってくれるし、癒してくれる。そんな彼女がいるのだから、きっと君も良い方向に変わって行けるだろう。彼女の事が要因だとしても、今だって君は一歩踏み出せたのだろう?」

「……うん」


 エルさんからもそう言われて、本当にわたしは成長できるのかもしれないと思った。何となく、それが嬉しい。


 それにもしも無理だったとしても、きっと得られるものはあるはずだもん。


「ああそうだ。トアの事でふと思い出した事なんだが、一つ注意しておいて欲しい事がある。トアを本気で怒らせるのは止めた方が良い」

「トアお姉ちゃんを? シズシズじゃなくて?」

「ああ、トアを本気で怒らせると何が起こるかわからなくてな」


 何が起こるか、わからない?


「……ここだけの話にしてほしいんだが、一年近く前にトアを本気で怒らせた馬鹿が同級生に居たんだ。そいつはな、口だけで徹底的に潰された。これには何の比喩もない、本当に潰されたんだ」

「口、だけで……潰す、って?」

「いや、本当になんて言えば良いのかわからないのだが。相手が説き伏せられる度にどんどんと地面に崩れ落ちてったんだ、見えない何かに潰されるように。それとあの時は、周りの空気の重さが普段と段違いだったか。まるで、空気そのものに質量があるかのように」


 空気そのものに質量が……?


 よくわからないけれど、とにかくトアお姉さんを怒らせちゃいけないのは理解できたと思う。

 怒らせたいなんて、これっぽっちも思わないけど。


 そう考えた時、わたしたちの隣を誰かが通った気がした。



今回は、セラ視点での話になります。

それとこの子が考えなど一番表に出しにくいので、綾/トア以外ではこれからも比較的視点の対象にする確率が高いと思われます。


ちなみにの話ですが、何気にフィアの扱いが個人的に非常に難しくて困っていたりしています。他の人は案外動かしやすいんですけどね……どうしましょう。



それでは、今回はここまでです。

次話は明日の予定ですが、短いかもしれないのでまた二話連続投稿になるかもしれません。


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