1-4 異常な声
こちらは本日二話投稿の二話目です。
っとそうだ、その前に一つ。
残っている数匹のウルフを倒しつつ、繋げたままのチャットで呼びかける。
『クリア』
『はい』
『後ろのウィンドウルフ、狩りにいける?』
『少し厳しいですね。中央から抜けてくるウルフが多くて、エルフェリアさんたちの護衛で少々手一杯です』
ちらっと向こうを見てみると、今現在も十匹前後のウルフと戦っている様子。
それでももう、最初に比べればほとんどいなくなってる。シズクたちの方もフォーグルウルフが前に出て来てるくらいだしね。
『それなら仕方ないか、こっちもまだ戻れそうにないし』
『そちらの援護に行きましょうか? まだその位の余裕はあります』
『ううん、大丈夫。そっちを終わらせたらシズクたちの援護に行ってあげて。それと、そろそろこれは必要なさそうだし、切っちゃうね』
『わかりましたが……無理はしないように』
『大丈夫だよ、無理はしないって言ってるのに。じゃあ、また後で』
『ええ』
この会話でチャットの接続を切る。
ついでに中央の方も見ると、ウィンドウルフの弾幕は衰えてないけど、さっきより少しずつウルフの数は減ってきているみたいだ。シズクが度々襲ってくるウルフを隙を見て倒してるし。
増える様子が見られないって事は、シズクのスキル効果も薄れて来たみたいだし、そろそろ盤面をひっくり返す番。
だけどフォーグルウルフはまだ三匹とも健在だから、そこだけは注意しないといけないけどね。
「行こうか!」
その言葉と共に、一歩踏み込む。
こっち側に残ってたウルフはもう全滅させた、残りは中央に集中してて追加は来ない。こんな絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
行動パターンもすでに見知ってる、だから勝って見せる。
いや、勝つ。
そうして、フォーグルウルフに向けて走りだす。
守るための、支えるための動きから攻めるための動き方に変える。――意識を切り替える。
今は目の前の相手を圧倒するだけで良い。
何度か攻撃を流したり避けたりして思ったけど、今の私の方が確実に速い。なら、その速さで翻弄すればいいだけの事。
彼我の距離は2メートル、すぐに埋まる程度。
向こうは飛び掛かって来ているから、それを避けて後ろから――いや、違う。
攻めるのなら、この一瞬も利用すればいい。たぶんだけど、彼が短剣は攻めるために使うと言ったのは……うん、試してみようか。
回りながら飛び掛かりを避けて、すれ違った一瞬に左手に構えた短剣を横腹に突き刺す。そして引っ張られる力に逆らわずに同じ方に跳び、相手が着地すると同時に短剣を振り抜き、同じ場所を逆手に持ち替えた長剣で更に深く突き刺して抉りながら着地する。
武器を変える前の、神速を手に入れる前の私には出来なかっただろう芸当だけど、それを難なくこなせるようになった辺り、スキルの補正は凄いと思う。
怯んだ隙に次いで、短剣を順手に持ち替えて左前脚の付け根を斬って更に怯ませてから一度後退する。
と見せかけて、長剣を再び持ち替えて今度は全力で踏み込んで滑り込みながら相手の懐に入り込み、その勢いのままに長剣で隙だらけの腹部を駄目押しとばかりに斬り裂く。
やっぱり、切れ味が良くなると斬るのも楽になるね。
そして、そのまま進んでいくのをまた逆手に構え直した短剣を地面に突き刺して勢いを殺し、それを軸に向き直りながら立ち上がる。
更に、強く踏み込んで一気にトップスピードまで上げて近寄り、その勢いを利用して右後ろ脚を斬り落とす。さっきまでは抑え気味で動いてたから、全力だと思った以上に威力が上がったのには少し驚いたけれど。
さて、相手の機動力は根こそぎ奪ったし、致命的な攻撃を何度も与えた。だから後は一息に倒すだけ、嬲るのは趣味じゃないどころか嫌いだし。
倒れた相手に向かって、再び駆ける。
途中で高く跳躍し、落ちる勢いも合わせて背中に長剣を深々と突き刺して、首を短剣で深く斬り裂く。
ここまですれば、流石に倒れるだろう。
「あれからたった一日しか経ってないのに、もうここまで一方的になるんだね」
なんだか、理不尽なものを感じる。
大きく変わったのは装備とその構成、スキルだけなのに。たったそれだけで、あんなに苦戦した相手に圧倒出来るようになるなんてね。まぁ、スキルの比率が大部分を占めるだろうけど。
更にフォレストボアやリグニスといった、もっと圧倒的な強者を前にした経験からすると、そんなに脅威を覚えなかったって言うのもある。
しかも、最初の場所のボス的立ち位置だから特殊な能力も攻撃方法もないだろうし、成長することもない。だから、常に成長し続ける私たちとは違うのもわかってるけど……釈然としないものがある。私には上手く言葉にできないけどさ。
でも、なんかこんな風になっていくんだろうなって思うと、ちょっとだけ考えてしまうことがある。これはきっと、不自然に感じるこの世界に対する懐かしさからかもしれない。
……ああ。だからこそ、仮初とは言え一方的に命を奪っていくのが嫌なのかもね。
私だって仮初の死だとしても、死にたくないってだけのためや利己的な考えだけでこの世界での命をもうたくさん奪ってしまってるけれどさ、もし現実で大切な人がこういう風に奪われてしまったらって、奪ってしまったのならって……連想しちゃうのがいけないんだろう。
だから、こんな風に感じるんだろうね。
なんてことを考えた時だった。
「……っ。頭、が……!」
唐突に武器を取り落とすほどの痛みが頭を襲い、思わず頭を抱える。
――何故、貴様はそんなに理不尽に命を奪える?
「なに、こ、れ……」
記憶を刺激するかのようなその痛みと共に、謎の声が響いてきた。
――なぁ、我に教えてくれぬか。貴様は上に立つ者でありながら、何故そこまで無辜の民の命を、自らの臣下の命を容易く奪うことが出来るのだ?
――何故、貴様は無害な者たちの命を斯様に粗末に扱う?
――何故、貴様は我が唯一手に入れた温もりを、斯様に容易く壊す?
――何故、貴様は彼を殺めた?
――貴様の思うように動かせなくなれば贄を用いて脅し、抵抗出来ぬのを良い事に一方的に痛めつけ、殺めることが貴様の道理か?
――ならば、貴様のような低俗な命も、それを保有するこの世界も――必要あるまいな?
――おや。何故、貴様は怯える? 我がこれより行うことは、貴様と同じ事であろうに。
――貴様は自らの思うように動かぬ彼らが要らぬのだから殺めたのだろう? なればこそ、我も同じ事をするのみよ。
――彼の居らぬ世界に意味などなく、必要もない。更には、我の意に添わぬ事しかせぬ愚か者も居るときたものだ。なれば、この世界が存在する理由も我にはわからぬのでな、徹底的に破壊させてもらおうではないか。
――だが、貴様だけは最後に殺めてやろう。自らが犯した過ちによって世界が終わる様を最後まで見届けさせ、その朽ち果てた光景の全てを権力に溺れた愚かな瞳に焼き付けさせてから殺めよう。
――安心せい、貴様は楽に殺めぬて。
その声からは絶望と怒りを深く煮詰めたような怨嗟の響きしか感じ取ることが出来ず、たった一人への憎しみが全てを覆うほどに成長していくのが、手に取るようにわかる。
いったい、これは何なのだろう。今までの夢とかで感じたものとはまるで違う、純粋な恐怖しか感じない。
だけど、これだけは理解できる。これは絶対に、私の中にある求めていた何かじゃ、ない……!
こんなものは違う……だって、これは――
「アリス! 回復は!?」
「これで最後! もうMP無いー!!」
「くそっ、あたしももう支えきれない……!」
と、頭痛を堪えながらも再び深い思考の海に落ちようとしたとき、シズクたちの声を聞いて正気に戻る。
今は考えてる暇はない。今私がやるべきなのは、シズクたちを助ける事。
謎の頭痛と声による恐怖に耐えながらも取り落とした二本の武器を拾って、遠回りをしながら群れの後方に向かって全力で駆け出す。
向かうついでに、フィアにヒールを飛ばしておくことも忘れない。HPが半分を切りそうだったからね。
ウィンドウルフの数は、およそ十五匹。前衛のウルフがほぼいなくなったからか、フォーグルウルフ二匹は前の方に出てフィアの守りを崩そうとしてるから、私にはまだ気づいていない。
それに片方はかなり動けるようになったシズクに手痛い一撃を貰ってるみたいだし、問題は無い。
ちなみに、それまでシズクはフィアの守りから抜けてきて攻撃してきたウルフを倒したり、後ろに行きそうなのを大剣の長いリーチを使って倒したり、フォーグルウルフを文字通り吹き飛ばしたりしていた。
相変わらず凄いね、あれは。
じゃあ、そろそろこの戦いを終わりにしよう。
右後方から一息に近づいて、ウィンドウルフに攻撃を仕掛け始める。
流石にずっとこの場所にいたら、他の相手から集中砲火を喰らうだろうから長居はしない。だって、私がするのは一撃離脱を繰り返すだけで十分だから。
その証拠に、ほら。
「ありがとうお姉ちゃん! これで存分に戦える!!」
ウィンドウルフが攻撃を止めた時点で、シズクが溜まってた鬱憤を晴らすようにフォーグルウルフに斬りかかってる。
これならたぶん、すぐにでも終わるだろうね。
「エル! 魔法は!?」
「数発はいけるが、それ以上は無理だ!」
「わかった! アリスは弓で要らないだろうけどシズクの援護、セラはあたしと一緒にもう一匹の方をやるよ!! クリアさんはトアさんの援護に!!」
「はーい! 必要なさそうだったら、トアお姉ちゃんの援護するねー!」
「ん!」
あ、クリアとアリスちゃんが援護してくれそうだ。なら、こっちもちょっと楽になるかな。
フォーグルウルフと一対一ならまだ倒せることは出来たけど、流石にこの数のウィンドウルフは厳しいから。さっきもいたのがウルフじゃなくてウィンドウルフだったら、確実に私は逃げてたし。
だって、いくら今の私でもその組み合わせには絶対に勝てない。さっきまでのシズクとフィアみたいな目に遭ってやられちゃうし。
「トア!」
少し考えながら攻撃を避けていると、気づけなかった後ろから不意を突いてきたウィンドウルフをクリアが倒してくれた。
やっぱり、判断が鈍ってる。
「クリア、ありがとう」
「いえ。ですが、先程から動きが鈍ってませんか? やはり、無理をしてるんじゃ――」
「うん、そうだね……。ごめん」
「一度休んでください、後はもう大丈夫ですから」
「……わかった」
さっきから、どんどん頭痛が酷くなってきている。しかもそのせいで、まともに頭が回らない。
前にも似たような事があったけど、今回はちょっと酷い。少しの間意識が飛ぶのと、ずっと続く酷い頭痛は比べ物にならないってば。
とりあえず、クリアの好意を受け取ってこの場から走って離れようとした。――はず、だった。
「トア? トア!?」
あれ? 何で、地面が迫って来てるんだろう。
何で、足に、腕に力が入らないんだろう。
私は今、どうなってるの? 何も見えない、わからない。
ここから早く離れなきゃいけないのに……わたし、は……
そして私は、そのまま意識を失っていった。
後書きそうそう言うのもどうかと思うんですが、正直自分でもどうしてこうなった感が非常に強い今話です。
いえ、だからといって特にどうという事も無いんですが……ちょっと急ぎ過ぎた感はありますね。
ちなみに途中のあれですが、当分先になるでしょうがいずれわかると思います。
(でも正直に言うと、あれはあんまり書きたくないんですよね……)
そういえばですが、今回二話連続投稿になった理由は単純にかなり早く書き上がったって言うのもあるんですが、それ以外にもここはまとめて投稿した方が良いかなと思ったのが大きな理由です。
(……後書き書き直すのとかが面倒くさかったなんてことは無いですよ?)
では、今回はここまでです。
次話更新予定は、次の土曜日になってます。




