1-3 群れ
本日は二話投稿します。こちらはその一話目です。
一時的にシズクたちのパーティに参加して、リグルへニアに一番近い中継地点まで飛んできたところで軽い作戦会議になった。
「じゃあトアさんとクリアさんは取り巻きのかく乱と退治を主に頼むよ、もしあたしたちがピンチになってたらその場の判断で動いてくれてもいいから。
それでシズクは前と同じくあたしと前衛、隙が出来次第どんどん狩っていって。今回セラは後衛の護衛、あまり深追いはしないように。エルは後衛で、アリスは援護と回復に変わりなしね」
「はーい」
「……(こく)」
「じゃあ、出発するよ」
どうやらフィアが参謀役らしい、エルじゃなかったんだね。
でも確かに、エルはそういった方には向いてないか。相手を色々と陥れるのとかは得意そうだけど。
そういえばシズク、フィア、アリスちゃんの立ち位置は自己紹介の時に言ってたからわかるけど、エルとセラちゃんはどうなんだろう。
いや、エルは外見を見てれば何となくわかる。
後衛って言ってたし、防具も前衛向けじゃないローブを着てるからきっと魔法使いか何かなんだろうと思う。実際に今、長杖持ってるし。
でもセラちゃんがいまいちわからない。
防具としては全体的に真っ暗で、要所要所を最低限の皮や金属の鎧で守ってるだけで、私と似た様に動きやすさを重視しているみたいだけど。
武器もそれを裏付けるように、腰に二本の短剣を装備している。
これらから考えると……暗殺系統? いや、隠密って言った方が良いのかな。
私と方向性としては少し似たような形だけど、大きな差といえば表か裏かの違いなんだろうか。
動きやすさを一番重視してるのは同じで、違うのは速さでかく乱しながら倒していくか、気配を消して後ろから気づかれずに倒していくかくらいなんだし。
うん。改めて考えてみると全く違うね、これ。
「……お姉さん」
「ん? どうしたの、セラちゃん」
歩きながら二人の立ち位置に関して考えていると、セラちゃんが話しかけてくる。
アリスちゃんの近くに居る事が多かったんだろうけれど、今は私の近くに二人で一緒に居るのが普通みたいな感じになってるね。
何で二人にここまで気に入られたんだろう、まだ会って二時間も経ってないのに。
「あの、お姉さんって、どんな風に戦うの?」
「ああ、そっか。何も言ってなかったもんね。私は基本的に速さで相手の攻撃を避けたりして翻弄する感じかな、まだあんまり上手くいってないけど」
昨日のフォーグルウルフ戦から色々とイメージトレーニングはしてるけど、なかなか難しくて。
どこかにお手本が転がってないかと思うくらいではあるよ。
「そう、なんだ。わたしは、その……隠密だから。遊撃? とか、斥候、なんだって」
「なるほど、確かにそれらしい装備だもんね。それに、良く似合ってて可愛いし」
「! ……ありが、と」
ああ、もう。可愛いなぁこの子。
思わず頭を撫でると、一瞬だけ驚いたような顔をしてから嬉しそうに目を細めてくれる。こうしてみると、本当に子犬みたいだ。
そうして癒されていると、今度は反対側から声がかかる。
「トアお姉ちゃん! アリスにもやってー!」
「はいはい、わかったからそんなにグリグリしないで」
そんなに頭をグリグリ押し付けられたら、流石に少し痛いよ。
「エル」
「何だ、フィア」
「そんなに悔しそうな顔をして、彼女があの二人とあんなにあっさりと打ち解けたのがそんなに悔しいの? それとも――『黙ろうか』――はいはい、あんたも少しは素直になった方が良いと思うけどね」
「大きなお世話だ」
二人の頭を交互に撫でていると、そんな会話が聞こえてきた。
今度現実で会った時は少し甘やかしてみようかな、恥ずかしがって逃げるかもしれないけど。いつもは私が色々としてもらってるから、たまにはそういうのも良いんじゃないかな。ね?
そういえばシズクとクリアはどうしてるだろうかと姿を探してみると、少し先の方で襲い掛かってくるモンスターを倒しながら二人で何かを話しているみたいだった。
何を話しているのかはここからでは聞き取れないけど、顔を見る限りでは大事な話をしてるみたいだから、混ざりに行ったり、聞くのはやめておいた方が良いかな。
その後、セラちゃんとアリスちゃんから離れて話し相手を変えたり、モンスターの群れの相手をしたりして十分程進んだところで、昨日と同じ場所に到着する。
つまり、もうすぐフォーグルウルフがやって来るはず。
シズクたちも立ち位置を変え始めたから、私たちも取り巻きを相手にするために動くことにしよう。
前衛と後衛の中間辺りにそれぞれ左右に位置取ればいいかな。
「クリア。クリアは左側から来るのをお願いしていいかな? 私は右側から来るのを押さえるから」
まぁ全部は無理だから数匹は逃すかもしれないけど、そのためにセラちゃんを後衛の護衛に変更したんだろうからその時はその時だよね。
「わかりました。ですが、くれぐれも無理はしないでくださいね? わかってますか?」
「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても」
「何か嫌な予感がしてるんです、だから本当に無理はしないでください」
「――うん、わかった」
クリアの嫌な予感はよく当たる気がするから、気を付けておこう。
この前の氷結の森でも、クリアが嫌な予感がするって言ってたのも結局当たってたから、信用しない理由はない。
この辺りのモンスターの大体がもう簡単に倒せる相手だとしても、やっぱり数の暴力は怖いからね。今の状況で嫌な予感がするって事は、ほぼ確実に数の暴力になるだろうし。
……考えたくは無いけれど、もしかするとっていう可能性も一つあるけどね。
「来たよ! 昨日より多い!!」
シズクの声に意識を戻すとそこには、何時ぞやのスライムの大軍を思い出すようなウルフとウィンドウルフの群れに、三匹ほどのフォーグルウルフが見えた。
そう、三匹のフォーグルウルフが見えた。
「……なにこれ」
思わずそう呟いてしまうほど、考えた限りで最悪のパターンを引いたね、これ。
こんなの相手にしたら、支えきれないのも当たり前だよ。
でも、昨日より多いって事は昨日はまだこれよりはましだったって事か。それでもよく撤退まで行けたね。
そういえば、さっきあのスライムの大軍の事を思い出したけど、確かあれってシズクのスキルが原因だったっけ……って、まさか。
「これ、シズクのスキルが原因……?」
可能性は十分にある。でも、確率はかなり低いって書いてあったよね。
……これは、後で外せないか話してみた方が良いかもしれない。
「昨日より数は多いけど、出来るところまではやるよ! 二人は無理だと思ったらすぐに後退していいから!!」
昨日より酷い状況でも諦めないのは良い事だと思うけど、この数は流石に……でも、諦めないのなら私がとやかく言う訳にもいかないよね。
こっちには無理しないようにって言ってくれている訳なんだし。
けど、だからと言って逃げるわけにもいかないか。
一つ保険を打っておこう。
『トア、どうしました?』
『今回は離れて戦うからね、連絡用に繋げておこうと思って』
『わかりました。危険になったら退いてくださいよ』
『大丈夫だよ』
会話を一度切り上げて、エルとアリスちゃんが遠距離から数を減らしているのを横目に装備とスキルを確認する。
ウィンドソードに狼風の短剣はちゃんと装備してる、これで少し試してみたいことがあるからね。装備し忘れは無いように。
次に氷属性魔法は……使えるのは一種類だけ。もしかしたらって思ったけど、流石に無いか。あれはあの時だけの例外だもんね。
うん、おっけ。
じゃあ、始めようか。
右手にいつものようにウィンドソードを持って、左手に狼風の短剣を逆手に持つ、左半身を前に出して右半身を少し下げ、少しだけ腰を落とす。
構えはこれで良い。何となくだけど、こうやって構えるのが良い気がしたから。
少し試したかったことはこれ。あの時狼風の短剣で斬り落とした時から、何か足りなかったピースが見つかった気がして試してみたかったんだ。
この変則二刀。
そういえば、あの遺産も長剣と短剣の双剣だったっけ。そう考えれば意外と普通なのかな。
遺産の双剣についても少し考えていると、唐突に大きく視界が歪んだ。
そして急に変化した視界が元に戻った後に一瞬だけ青い長剣と、漆黒の短剣を構えた青年の姿が見えた気がした。
「さっきのは……」
いや、気のせいだろう。
頭を振って意識を切り替える。
「――来る」
フォーグルウルフも三方向に分かれたみたいだ。
一匹はそのまま真っすぐに、残り二匹は左右に分かれていった。後衛のエルたちを倒しに向かったんだろう。そしてそのまま挟撃ってことか。
『クリア、そっちに一匹混ざって行ったよ』
『わかりました。そちらにも行っているみたいですから、気を付けて』
『うん』
エルとアリスちゃんのおかげでだいぶ数は削れてるけれど、シズクのスキルの効果のせいかどんどんと合流してきてる。
出来るだけ早く頭を潰さないといけないけど、それは厳しい。
でも、抑え込むことは出来る。
今ならフォーグルウルフに後れを取ることは無いだろうから。
「氷よ、打て――アイスショット」
先頭のウルフに牽制の魔法を放つ。
それと同時に走り出して、違うウルフに斬りかかったものの。
「って、っちょ、はやっ、い!」
一気に上昇したAGIのせいで上がった速さに、体が一瞬追い付かなかった。
けど、振り回される感じはしない。それどころか前よりも走るときの動きやすさが違う気がする。
何となく前より動かしやすいどころか、思ったように動けなかったもどかしさが無くなってる。これって、移動系の身体能力が強化されたからかな。
まぁ、まだこの速さに体が追い付けてないけどさ。
でも、この速さに追い付けないのにも、何匹かウルフを倒した辺りで何とか制御出来てきた。
これならいける。
「アイスショット」
抜けて行きそうだったウルフに魔法を当てる。こっちも慣れてきた。
だけど、まだ駄目。
思うように体を動かせるようになったとはいえ、私の戦闘経験が少なすぎる!
この二刀流は思ってた通り、最初に感じていた物足りなさが解消されたけど、その分扱い方が難しくなってる。
基本的に短剣の方は補助に使うんだってことは何となくわかるんだけど、攻めとの切り替えの判断が難しい。
ウルフの攻撃を短剣で流しながら、長剣で斬り落とす。その勢いのままに、飛び掛かってきた一匹を左足で蹴り抜きながら、また違う一匹を短剣で斬り裂く。
次は順手に持ち替えて刺し、それを振り投げてまた違う一匹に当てる。
「ああ、もう! 全然近づけない!!」
フォーグルウルフに近づきたいのにって、ああもう! これ以上抜けさせるわけにはいかないのに、抜けていこうとするな!
「氷よ、打て――アイスショット!!」
他にも抜けていこうとしてるのが居るのに、周りのウルフのせいでここから離れられない!
今はこのクールタイムが恨めしい、他の魔法も取っておくべきだったかな。
……いや、ちょっと待って。
確か魔法スキル取得欄には、氷以外にも雷と闇も無かったよね。なら、イチかバチかでやってみる価値はある。
雷と闇の属性魔法の一つ目の詠唱は――
「雷よ、破裂しろ――サンダーボール」
よし、出た。
その片手間にもウルフの数を減らしていく。
次は……
「闇よ、打ち砕け――ダークボール」
これも、出た。
うん、上出来。これだけ魔法が使えれば、一匹も逃すことは無いと思う。
一応、情報サイトで魔法について確認しておいて本当によかった。そのおかげで、早くこの事に気付くことも出来たし。
それにこの二刀で戦うのにも徐々に慣れてきたし、もう油断もしない。
「なら、負ける理由は一切ないよ」
でも、MPの管理はしっかりしないとね。緊急の回復手段がないから、尽きたら当分使えなくなる。
――後ろから来るぞ。
わかってるよ。
その声にそう返して、後ろから飛び掛かってくるフォーグルウルフの攻撃を受け流す。流石に短剣だと無理そうだったから、長剣で。
体重移動とか上手いこと出来るようになったおかげか、前より受け流すのが容易になってる。
「って、誰?」
『どうしました?』
頭の中にクリアではない男性の声が聞こえて来たことに今更気づき、思わず声に出してしまってクリアの気を紛らわせてしまったようだ。
『あ、ごめん。何でもないよ』
『そうですか。こっちは何故かフォーグルウルフが退いたので落ち着いてきたんですが、そっちはどうですか?』
『こっちはまだまだかな。今フォーグルウルフと交戦中、もしかするとこの隙に何匹かウルフが抜けてくかもしれない』
正直、それが本当に気がかりだ。
幾ら手数が増えたからといっても、これを相手にしながらウルフが抜けるのを防ぐのは無理がある。
『わかりました。こっちが完全に落ち着いたらセラさんの援護に向かいます』
『ありがと』
攻撃が掠ることも減ってきたけど体力もそれなりに減ってしまってるし、一度回復しないと。
ウルフを蹴り飛ばしながら、回復魔法を使う。
「癒しの力よ――ヒール」
残りMPは320程、余裕はまだある。
速さはこっちの方が上。前と違って倒せなくても、負ける要素はない。
「――ソニック」
一瞬出来た隙を突いて、今度はアーツを使う。
こっちも速度が上がってるね、そのおかげで威力も上がってる。
「サンダーボール」
抜けようとしたウルフを魔法で牽制して、その間に更に周りのウルフを間引く。フォーグルウルフはさっきのソニックで一時的に怯ませたから、問題ない。
というか、もう何匹のウルフを倒したんだろう。十と少しくらいかな? 少し、感覚が麻痺してきた。
それに比例してこっち側もかなり薄くなってきたけど、シズクたちの方はどうなってるだろうかと少しだけ余裕が出来て中央の方に視線を向けると、そこはこっちよりも酷いことになっていた。
「シズク、これじゃあ突破できないか!?」
「無理!! エルフィとアリスが頑張ってくれてるけど、この弾幕じゃ出た瞬間に一瞬で狩られるってば!」
なに、あれ。そう言いたくなるのも仕方ないほどに、雨の様な風の砲弾とウルフたちの攻撃がフィアの盾に遮られつつも、絶えず続けられている。
ウィンドウルフの姿が見えないとは思ってたけど、まさかあっちに集中してるとは思ってなかった。
場所は……群れの後方。エルとアリスちゃんが倒そうとしてるけど、視線を遮られて上手く当てることが出来てないみたい。あれをどうにかしないと突破出来なさそう。
あっちを手伝うためにも、こっちも早く終えないと駄目か。でもどうやって――
――しっかりしろ! 横だ!
横? っていつの間に!?
声のおかげで気付けた、近づいて来ていたフォーグルウルフの一撃を速さに任せて避ける。これに気付かないほど考え込んで無かったと思うんだけど。
――ちょっとした隙でも、狼系の魔物は気づかれずに近づいてくるからな。仕方ないさ。
というか、貴方は誰? あの子じゃないのはわかるけど。
――ん? 俺か。悪いが、それはあいつと同じくまだ教えられない。
そっか、なら仕方ないよね。でもありがとう、さっきの教えてくれて。
――気にしなくていい。でだ、あの子たちを助けに行きたいんだろう?
うん、だけど私じゃあこいつを突破できない。いや、突破したところでこいつを連れて行ってより悪化させるだけだもん。
――いや、そんなことは無い。少し前のお前なら無理だっただろうけれど今の速さ、装備なら問題は無いさ。それに、都合よく取り巻きはただのウルフだしな。
どういう事?
――簡単に言えば、もっと自分に自信を持てって事だよ。お前なら、きっと出来るから。
え?
――悪いが時間切れみたいだ。あいつと違って、俺はそこまで繋がりが無いからな。だから今は最後に一つだけ。短剣は補助するために持つんじゃない、攻めるために使うんだ。
待って! 攻めるために使うってどう言う……駄目だ、もう気配が感じ取れない。
時間切れ、それに繋がりが無いってどういう事なんだろう。――ううん、それよりも短剣は攻めるために使うって、私の戦い方は間違ってたって言う事?
改めて考えれば確かに、防いだり受け流すのであれば盾で十分か。
手数を増やすための二刀流なのに、補助に使ってたら意味ないよね。
「それじゃあ、助言通りに攻めるように戦ってみよう」
こっち側の数も丁度良く減って来てるから、守りの戦い方じゃなくても十分。
なら、全力で走っても問題は無い。
「ここからは全力で攻めて行くよ」
今回は魔法解説からです。
・アイスショット 消費MP:40
低級氷属性魔法。
氷属性魔法を習得すると最初に使える魔法で、氷の飛礫を放つ。
詠唱:氷よ、打て
・サンダーボール 消費MP:40
低級雷属性魔法。
雷属性魔法を習得すると最初に使える魔法で、弾ける雷の玉を放つ。
詠唱:雷よ、破裂しろ
・ダークボール 消費MP:40
低級闇属性魔法。
闇属性魔法を習得すると最初に使える魔法で、相手に当たると破裂する闇の玉を放つ。
詠唱:闇よ、打ち砕け
という事で、正解はシズクのスキル『永遠の宿敵』でした。
正直、このスキルの存在を登場人物まとめで見るまで半ば忘れてて、この場面なら使えるんじゃないかという事で出しました。
……ここまで酷くなるとは思ってませんでしたが。
それと、セラからの好かれ具合については近いうちに本文で入ると思います。
では、今回はここまでです。
次話更新は一時間後の二十時です。




