1-1 エルフェリア
「もしかしなくても霧華なの?」
「ああ。数日ぶりだな、綾」
今、後ろに立っているのはおおよそ四年近く前からの付き合いで、私に前を向かせてくれた恩人であり、妹の雫や幼馴染の恭也を除けば一番仲の良い親友である羽刃桐霧華。
下手すると今では恭也よりも仲が良いかもしれない。やっぱりその辺りは性差が少なからず出るよね、いくら小さな頃から一緒に居るとはいえ。
「だがまぁ、この世界で現実の名で呼ぶのは禁止だからな。私の事はエルフェリア――エルかエルフィとでも呼んでくれ」
「ああ、そっか。私は――『トアだろう?』――そういえば最初はそっちで呼んでたっけ。どうして知ってるの?」
「どうしても何も……シズクから聞いていないのか?」
シズクから? 特に何も聞いてなかったと思うんだけど……んん?
「その様子からすると、何も聞いていないみたいだな。私はシズクと同じパーティでな、君がこれをやっていることも彼女から聞いたんだよ」
なるほど。それなら知っていることも納得。
でも、何でシズクは教えてくれなかったんだろう? きり――いや、エルがやってたのなら教えてくれればよかったのに。
「そう不満そうな顔をするな。シズクもシズクなりに君を取ら――『エルフィ!!』――おお怖い怖い、妹様が御冠だ」
エルと話していた途中、唐突に怒ったシズクが乱入してきた。
怖いとか言ってるけど、全然そんなこと思ってもいないよね。
それにしても、とら? ……虎? いや、無いか。脈絡が無さ過ぎるし。
いったい何を言いかけたんだろう。
「エルフィ! 何でここに居るの!? というかお姉ちゃんの前で変なこと言わないでってば!!」
「変な事とはなんだ。事実を言ってるだけだろう?」
む。エルが人をおちょくって遊ぶモードに入ってる。
今はあんまり関わらないようにしとこう。空気になるんだ。
「違う、違うから!」
「おや、愛しいお姉ちゃんの前でそんなこと言ってもいいのか?」
「っ! エールーフィー!!」
あー、楽しそうにしてるなー……
あまり言ってることの意味がわかってないけど、人の妹を弄って楽しまないで欲しいね。
下手に矛先が私に向かないように止めはしないけど。
ごめんねシズク。
「って、そうじゃなくて! 何でここに居るの!? 先に東の平原でフォーグルウルフを狩りに行くようにって言ったのに!!」
「君が急に戻るなどと言うからだろう。君を抜いて私たちだけで倒してもまた倒す羽目になる、それこそ二度手間だからな。ある程度レベリングして昼を済ませてから時間を潰してここに来ただけだよ」
「でも、なんでこの場所を……」
「フレンドリストの位置情報で確かめただけだが? それに他の皆も居るから、さっきの君の姿も筒抜けという訳だ」
「へ? ……うがー!!」
エルがどうしてここに居るのかは気になってたけど、フレンドリストってそんな機能があったんだね。
試しにキョウで確認してみようか。
えーっと、フレンドリストからキョウを選択。一覧に……あぁ、あったあった。
たぶん、この位置情報追跡ってやつだね。これを選んで――お、出た。
今キョウはフォーグル平原に居るみたいだ。この動き方からすると、フォーグルウルフを戦闘中かな。
けど、思ってたより進行が遅いね。私たちでも昨日のうちにリグルへニアにたどり着けたから、キョウならとっくに着いてると思ってたんだけど。
「ほらほら落ち着け。トアがついて来れてないぞ?」
「はっ! ……って、エルフィのせいでしょ!!」
ちなみに、シズクは親しい人相手だと普通に素の話し方で接する。キョウ相手にはあれだからよく勘違いされるけど、決して私相手だけじゃないよ。
何でキョウ相手には堅苦しくなるのかは知らない。昔はそうじゃなかったんだけど……何でだろうね。
「楽しんだところで、話を戻そうか。私がなぜシズクと同じパーティに居るかだがな」
「はぁ……。いいよ、私から話すから。えっとね、調べたいことがあるからって二日目の午後は私一人だったでしょ?」
「そうだね」
それは記憶にある、調べたいものに関しては教えてもらえなかったけれど。
「その時に図書館に向かおうとしてたんだけど……その、途中で偶然エルフィに捕まっちゃってね。本当は調べ物が終わったらお姉ちゃんたちに合流しようと思ってたんだけど、色々とあって……うん」
「そんな言い方ではしっかりと伝わらんだろうに」
「だって!」
「あはは……おおよそは伝わったから大丈夫だよ、シズク。言いたくないなら深くは聞かないから」
「相変わらずだな」
これには苦笑で返しておくことにする。
そうそう変わりはしないからね、こういったものは。完全には元通りにはならないもん。
……ここまで元に戻れただけでも奇跡なんだから。
思考が暗くなりかけてる、話を変えようか。
「ねぇエル。さっき他の皆もって言ってたけど、どういう事?」
む……。やっぱりエルっていまいち言いなれない。
「ん? あぁそうか、君は知らなかったな。それじゃあ紹介するとしよう、来てくれ」
「わかったよ」
「はーい!!」
「…………ん」
エルが呼びかけると目が覚めた後に増えていた人影の内、三人がこっちに向かってきた。
「君は最後にして、一人ずつ紹介しようか。まずはこいつ、緑の髪をしてるのがフィアだ。私もだが彼女もβからやっていてな、ゲーム内ではその頃からの付き合いだ」
「あたしはフィア、このパーティではタンク役をしてるんだ。よろしくね」
フィアと名乗った彼女は腰に長剣を装備して、背中に大盾を背負った薄い緑色のセミロングの髪と、同じような色の眼をしている。
大盾を持ってるって事はつまり、タンクはモンスターの攻撃を受ける人か。
そういったのの知識はいまだに少ないから、こういった事で補完出来ると嬉しい。
「次はこの金髪の元気っ子、アリスだ」
「回復役のアリスだよ! あなたがシズシズのお姉さんなんだよね? じゃあよろしくね、トアお姉ちゃん!」
「お姉ちゃんは私だけのお姉ちゃんだってば!」
「えー。いーじゃん、シズシズのケチー」
次に紹介されたアリスって子は碧眼で金髪のサイドアップテールって言うのかな? の髪型で背中に長弓を背負っていて、左手首に私のと同じ触媒が見える。
何でこの子にお姉ちゃんって呼ばれるのかはわかんないけれど。
というか、シズクはシズシズって呼ばれてるんだね。
「こちらの最後に、この茶髪の子がセラだ」
「……(こくり)」
最後に紹介されたセラは黒眼で茶髪の髪をおさげにしていて、犬耳が生えていることから種族を犬の獣人にしているらしい。なかなかに似合っていて可愛いね。
お辞儀だけで挨拶を済ませたところからするに、この子は恥ずかしがり屋なんだろうか。見てる限りでは人と話をするのが嫌だって感じではないし。
「すまないな。この子は話すのが苦手なのと恥ずかしがりらしくて、ある程度仲が良くなければ会話はアリスを介するんだ――『…………きれい、です』――なん、だと……!?」
「綺麗? あはは、そんなことを家族以外に言われたのはエル以来かな。問題なければ、どうしてそう思ったのか聞かせてもらって良いかな」
「えと、その……」
思ってもいなかった言葉をかけられて、それが気になって問いかけてみる事にした。
けれど、押し付けにならないように出来る限り優しく、圧をかけないように。恥ずかしがり屋の子にそういった態度で話しかけでもしたら怖がられたりするだけだから、注意しないとね。
「ああ、ごめんねセラー。えーっと何々?」
そうして問いかけて少ししたとき、シズクとじゃれ合っていたアリスちゃんが慌てて戻ってきた。
さっきエルが言ったように、通訳するためにだろうね。
「うんうん。えっとねトアお姉ちゃん、セラが言うには『よくわからない』だってー」
「そっか。何となく予想してた」
うん、これは予想の範囲内。
たぶんそうじゃないかなーって思ってたし。
「予想してたの?」
「そうだね。エルに聞いたときに返ってきた答えも、『わからない』だったから」
アリスちゃんの疑問には、穏便に答えを返しておく。
正確に言えば、『君の綺麗な笑顔に焦がれたと言ったが、綺麗だと思った理由も、焦がれた理由も全くわからない。だが、それが君の内面から出るものから感じたというのは……何となくわかる』だっけ。
後が怖いから下手に口に出しはしないけど。
「……」
「へ? え、ほんとに?」
「どうしたの?」
「いや、えと――『いい。わたし、言う』――そう? でも無理は駄目だよ!」
「……ん」
?
どうしたんだろう。
「……あの、改めて、挨拶。わたし、セラ。よろ……しく」
なるほど、アリスちゃんが驚いたのはそういう事だったんだね。
後ろから『なぜだ―!!』って叫び声と『しゃーないでしょうが。昔っからあんたは堅苦しいんだから』ってなだめる声が聞こえてきた気がするけど、無視。
……エルとフィアってそんなに昔からの知り合いだったんだろうか。
「うん。よろしく、セラちゃん」
「はい……。えと……その……」
「急かさないから。落ち着いて、ね?」
ゆっくり待つのは慣れてるし、私も似たような経験があるしね。
言葉にしたくても声に出せないのは……周りが思うよりも辛い事だから。
「ん……っと。わたしも、お姉さんって、呼んでいい?」
「――大丈夫、好きに呼んでいいよ」
「セラまで―!!」
少し驚きはしたけれど、無理なものじゃなければよっぽどでもない限り否定はしないし、この程度は可愛い物だよ。
それに、初対面なのにこんなにも懐いてくれてる子を無下にする訳にもいかない。
アリスちゃんと言いセラちゃんと言い、何で年下の子にお姉ちゃん呼びされるのかは不思議だけど。
……まぁいいか。
「じゃあ今度は私の番か。私はトア、シズクの姉で、そこで落ち込んでるエルの親友かな。それで一人パーティメンバーが居るんだけど……ちょっと待ってね」
クリアを紹介するのを忘れてた。
呼び出すのは……ボイスチャットで良いかな。
それじゃあコールっと。
『どうかしましたか、トア?』
すぐに繋がった、流石にクリアも慣れてきた様子。
『今どこに居るの?』
『今は部屋で休んでます。もう治まりましたけど、まだ少し目が赤かったので』
『ああ、そっか』
クリアはついさっき食堂に来る前の更にお説教される前に、色々とあって泣かせてしまったんだよね。
その時の目の赤さがまだ残ってたらしい。
『んー、今から食堂に来れるかな? ちょっと紹介したい人が居るんだけど』
『紹介したい人、ですか』
『うん。シズクのパーティメンバーなんだけど、クリアも紹介した方が良いかなって』
『なるほど、わかりました。今からそちらに行きますね』
それを最後に通信を終了する。
あそこからならすぐに到着するはずだし、その間に必要な説明は終わらせとこう。
「今から来るって。でも、注意しておいてほしい事があるんだけど大丈夫かな」
説明をするために、この事をエルに向けて問いかけておく。
どうもリーダーはエルみたいだからね。
「ふむ……みんなは大丈夫か? シズク以外だが」
「あたしは構わないよ」
「問題なーしっ!」
「……はい」
三者三葉の返し方だ。
二人っきりだと、こういうバリエーションが無くて案外寂しいよね。それはそれで気楽だけどさ。
「注意しておいてもらいたいのは、この一点。クリアがNPCだってこと」
「へぇ、NPCねぇ。エルから聞いてた通り、なかなかに酔狂な人だ」
「色々とあって、一緒に冒険することにしたんだ。で、ログアウトとかの説明はポータルを使って遠回しにだけどしてあるからあまり気にしないで良いけど、わからないことも多いからその辺りは配慮しておいてほしいんだ」
「わかった、みんなもちゃんと配慮してやってくれ。――にしても、君は本当に相変わらずだな」
相変わらずってどういう事さ。
確かに変な所で色々と背負い込むことは多いけど、それでもまだ普通の域だってば。……普通だよね?
いや、うん。止めとこう。藪蛇にしかならない気がする。
とか何気ない事を考えつつ待っていると、ほどなくしてクリアが食堂の入り口に姿を見せた。
不定期開催の単語解説コーナーです。
・フレンドリスト
フレンドになった相手に対してログイン状況の確認や位置情報追跡、チャット等の様々な機能が付属している。
NPCを登録するには、一定以上相手と仲良くなって信頼関係がそれなりに結べた時点で登録される。
はい、結局今週は二回投稿になります。
思ったより早く書きあげられたので、少し中途半端ですけれど区切って投稿することにしました。
ですが、正直に言いますと二章の構成を地味に悩んでまして、一章の時より更新が遅れる可能性が高めなのでその辺りは片隅にでも覚えて頂ければ幸いです。
という事で次話更新ですが、いつもと同じく来週の土曜日となっています。
では、今回はここまでです。




