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Fragment of Memories  作者: 詩空
第一章 リーザリア・エルフェルド
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4-7 約束


 場所は変わって、女神の宿場カウンター裏の恐らくシャーリーの個室。


 何事も無く無事にフォーティアスに帰り着いてこの部屋に案内されてから、インベントリから自分の腕を取り出して治療してもらおうとした丁度その時、帰ってきたときには居なかったはずのクリアが部屋に入って来た。


 そして、心配していたクリアに詰め寄られてお説教という名の話し合いが始まり、まずは何をしていたのかを説明するように言われて朝起きてからの出来事を話し始めたのだけれど、ここからが辛かった。本当に。


 説明を始めてから、クリアは何度か口を開きかけそうになってたりしていたけれど、最後まで聞き終えるまでは何も言わなかった。

 途中、特に左腕を斬り落とした時なんかは今にも泣きそうな顔をさせてしまったけれど、それでも話し終わるまでは。


 話が終わった後、それはもう凄かった。時を巻き戻せるのなら、今すぐ今朝の自分を殴ってでも気づかせようとするくらいにはもう。


 瞳に涙を湛えながらも、無表情で平坦な声音で『なぜ一人で無茶な事をしたんですか』とか、『なぜ何も伝えてくれなかったんですか』と責めるでもない淡々とした声音で言われるのも辛かったけれど、それ以上に辛かったのはこの後。

 堰が切れたかのようにさっきまでの表情の無さから一変して、ボロボロと涙を流しながら詰め寄られたことだった。


 そして泣きながら怒られ始めて少し過ぎた頃、クリアに抱き着かれた。まるで縋るように、堪えていた感情が爆発するかのように。


「トアっ、トア!! 貴女は、彼女のように居なくなったりしませんよね!? もう、もう嫌なんです! 大切な人が知らないうちに死んで行ってしまうのは!! まだ出会って二日しか経っていませんけれど、それでも貴女を失いたくないんです!!」


 そういえばクリアって、途中で長い間眠りについてたんだっけ。それにさっきの言葉を合わせて考えてみると……そっか。私は、その時と同じ思いを味合わせてしまうところだったんだね。

 きっとクリアが眠りにつく前、姿はどうかわからないけれど私に似ていたって人なのだろう。知らないうちに死んでしまっていた『彼女』は。


 長い間眠りについて記憶がほとんど無くて名前は覚えていないけれど、それでもその姿を、心を覚えていた人。心の底から信頼していた人。

 そんな人が自分の知らないうちに居なくなっていたら、死んでしまっていたら……どれだけ辛いだろう。私には想像もできない。


 私がその人ほど大切に思ってもらっているとは思ってはいないけど、失いたくないと言ってもらえるほど大切に思われているのは純粋に嬉しい事だ。けど、今回はそれがなおさら心に痛む。


「もう、独りは嫌なんです。だから、だからっ! 一人で無茶なんてしないでください、トア……」


 縋るような目で見上げられて、それを否定するなんてことは出来ないけど、無茶をしない保証がないから頷くのも難しい。


 けど、一人で無茶をしないなら……たぶん大丈夫、かな。


「うん、わかった。出来るだけ善処するから、もう泣かないで」

「善処、なんですね……」

「何が起こるかわからないから、これは絶対だなんて言えないよ。だけど一つだけ、約束できる」


 否定しきれないから返事は曖昧になったけれど、それでも約束できることはある。

 これも決して確約できるものでは無いけれど、私の思いの強さで成すことは出来るはずだから。この約束を結ぼう。


 これから先も、絶対に諦めないために。


 私を見つめてくるクリアの涙を流して赤くなった瞳をしっかりと見返して、言葉を紡ぎだす。


「私は絶対に、どんなことがあっても絶対に死んだりしない。どんな手を使ってでも、どんなに情けなくても、今回みたいに絶対に生き延びてみせるから。だからもう泣かないで、クリア」

「本当ですか?」

「本当に。シャーリーの助けがあったとはいえ、例の魔族からも逃げ切ったんだから少しは信用してほしいな」


 昨日も同じことをやった気がする、状況としてはまるで違うけれどね。


 その言葉にきょとんとしたような顔で固まったクリアを微笑ましく感じて、思わず頭を撫でる。

 するとクリアは少しだけ恥ずかしそうに笑って、目を細めて撫でられるがままに身を任して甘えるように私の胸に顔を埋めてきた。


 この姿が、クリアの素の状態なんだろうか。

 だとしたら、自分を殺して生きながら一人で過ごすのは、確かに嫌になるだろう。


 どれだけ長生きしていても、その分長い間眠りについていたらそんなものに意味は無い。やっぱり最初に感じていた印象は取り繕っていた物なんだろうね。


 本当の自分の事を知ろうともしないで近寄ってくる人を避けて、一人の孤独を隠すための殻。


 だからこそ『彼女』を失ってから、新たに出来た信頼できる私が居なくなることに対する拒絶。

 なら、この約束を違える訳にはいかないよね。私は。


「あら、少し離れていただけなのだけれど……どうしてそうなったのかしら」

「あ、シャーリー。どこ行ってたんです?」


 クリアの頭を撫でて落ち着かせていると、いつの間にか姿を消していたシャーリーが戻ってきた。


 何かを持ってるみたいだけど、あれは何だろう。二本の錆びついた棒状の何かに見えるけど。


「治療を後回しにしたのはごめんなさい。けど、あのままだと邪魔になるような気がして、忘れ物を取りに行っていたの」

「いえ、まぁ……それは構わないですけど。今は眠っちゃったみたいですが、クリアもあんな姿をあまり見られたくはないでしょうし」


 シャーリーが戻ってきた辺りで泣き疲れたのか、いつの間にか抱き着いたまま寝てしまったみたいだ。


 起きた後は少し覚悟しないといけないかもね。

 お説教は結局ほとんどされてなかったから、たぶん凄いことになるだろう。ウルフやミニゴブリン相手に油断した時も中々だったし。


「……そう。それじゃあ治しちゃうわね。腕を出して」

「お願いします」


 言われて腕を差し出す。斬り落とした方は机の上に置いてあるから、取り出すことは無い。


「深き癒しの力よ、失われしものを再生し、復元せよ――リストア。防具も直した方が良いわね。えっと、あれは確か……傷みし力よ、その輝きを取り戻せ――リペア」


 昨日に引き続き聞いた魔法と、聞いたことのない魔法の二つを唱えるとすぐに腕が元通りにくっつき、更に切り裂かれたままのレギンスの穴や、切り離されたアームカバーも元通りに復元された。


 防具の修復魔法だろうか、綺麗に直ってるけど。


 治った腕の具合を確かめつつ、そんな他愛のない事を考えてみる。


「大丈夫そうね」

「はい。思ったより簡単につながるんですね」

「もともとそっちに特化しているから、極めてしまえばこの程度は簡単に出来るわ。それと一つ、貴女に渡す物があるの」

「渡す物?」


 そう言ってシャーリーが渡してきたのは、さっき持ってきたそれぞれ長短二本の棒状の物。

 パッと見る限りでは完全に錆びついた剣に見えるけど……


 受け取ってしっかりと見てみると長い方はウィンドソードより長く、短い方は狼風の短剣より少し長いみたい。


「ええ、貴女にこれを。さっきの魔族が探していたって言う、英雄の遺産よ」

「英雄の遺産……何でシャーリーが?」


 リグニスがどれだけ探しても見つけられなかった、正体不明の何か。


 何でそんなものをシャーリーが持ってきたんだろう。いや、何で見つけられたんだろう。


「少し位なら教えても大丈夫かしら。……この前みたいに余計な事を言い過ぎないようにもしないと」


 言い過ぎないように? 前にも何か話してたっけ。


 記憶には無いけど、覚えてないだけなのかな。そんなに記憶力が悪いわけでは無いと思うんだけど。


「そうね、言うなれば私は『墓守』かな。前まであの場所を守っていた人が死んだ後、その役目を引き継いだの。それが誰なのか教える事は出来ないけれど」

「でも、そうだとしたら何で私にこれを?」

「この子たちは貴女に預けた方が良いと思ったの、今の姿ではまるで力にはならないけれどね。と言っても元の姿に戻すことは手伝わないわ、それはきっと貴女の役目だから」


 私の役目?


 その言葉に引っかかりを覚えながらも改めてその剣に視線を落として見ると、一瞬だけどこまでも晴れ渡った青空と、満点の星が輝く夜空が見えた気がした。

 何となくその空がそれぞれを表しているように思い、この剣の名前はわからないかと、試しに詳細を見てみる。



・錆びつき朽ちた双剣

 神代に活躍した英雄の遺産だが、長い年月を経て完全に錆びつき、朽ち果ててしまった。そのため、今では武器として使う事は出来ない。

 これを完全に修復するためには果てしなく希少な金属と、優れた鍛冶師が必要となるだろうが、最低限の武器として使うのであれば、そこまで希少な金属は必要ないだろう。



 名前はわからなかったけれど、説明を見る限り元通りにするのはかなり大変そうだ。……でも、何とか頑張って直してみよう。


 よくわからないけれど、この武器の本来の姿を見てみたいから。


「うん、私の予想は間違ってなかったようね。じゃあ私は仕事に戻るから、クリアちゃんが落ち着くまではここに居ていいよ」

「あ、はい。色々とありがとうございました」


 確認が終わって双剣をインベントリに納めていると、シャーリーがそれだけを言い残して仕事に戻って行った。


 それを見送った後、またクリアの頭を撫で始める。


 なんだか撫でるのが癖になりそうなほど撫で心地が良い。思ってたより髪質が柔らかいのか、かなりふわふわしてるし。

 私の髪はちょっと癖が強いからなんだか新鮮な気分。


「そうだ、今シズクやってるかな」


 ふと気づいたことがあって、リストを開いてシズクが今ログインしているかを確かめてみる。

 四人しか登録されてなくてまだまだ少ないリストの内、一番上にあるシズクの名前が白くなっているからやってるみたいだ。ちなみに、ログインしてなかったら灰色で表示されるみたい。


 とりあえず、ボイスチャットを繋げよう。

 戦闘中とかじゃなければいいなぁ。


 十数回呼び出し音が鳴ったところで出れないのかと切ろうとしたところで、ようやく繋がった。


『ごめんねお姉ちゃん、ちょっと戦闘中で手が離せなくてさ』

『やっぱり戦闘中だったんだ、ごめんね』

『いや、大丈夫だよ。それでどうしたの? お姉ちゃんから連絡してくるなんて』

『あ、それがね……うん。今日はお昼食べられないかもしれないから、私の分は用意しなくていいよ』

『え、どうして!?』

『いや、その……色々あって、ね?』

『色々あって……どうしたの、おねえちゃん?』


 あ、これは……はぐらかせないのだ。


 でも正直に伝えたら、シズクからも怒られそうな予感が――『お・ね・え・ちゃ・ん?』――はい。


『えっと、ね。簡単に言うと無茶をしてクリアに心配させちゃったから、クリアが起きた後に思いっきり怒られるだろうなぁ。って……』

『無茶を、ねぇ。ああ、ちょっと待っててね?』


 そう言うなり、シズクが私じゃない誰かに話しかけ始めた。


『みんなー! ちょっと今からフォーティアスに戻るから、私抜けるねー!! ――という事だから逃げないで待っててね、お姉ちゃん?』


 その言葉を最後に、ボイスチャットの接続が切れる感覚がした。

 ……結局、シズクからも怒られるんだね。



 お説教を覚悟しつつシズクが来るのを待っていると、クリアが起きてさっそくお小言を言われそうになったので、説明してちょっと待ってもらった。


 そして、シズクがやって来て二人からのお説教が終わるのにかかった時間は……正直考えたくもない。

 お昼を食べられなかったのは当たり前だというのと、全く覚悟が足りなかったと思うほどには、長かった事だけは確かだけど。



今回の単語解説コーナーです。……と言うか、魔法紹介コーナー? です。


・リペア 消費MP:250

中級特殊魔法。

特殊魔法をそれなりに使えるようになると使えるようになる支援魔法。

武具を修理することが出来る。極めればパーツさえそろっていれば元通りに修復できる。

詠唱:傷みし力よ、その輝きを取り戻せ



次が一章最終話になります。


それでは今回はここまでです。

次話は一応明日、日曜日を予定しています。


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