3-7 二人のちょっとした親睦会
「無事、倒せましたね。予想していたよりも強かったですが、ゆっくりしている暇はありません。もうじき呼ばれていたウルフの群れが到着します、ドロップ品を確認するのは後にして早く移動しましょう」
「うん、わかってる」
最後の一撃を決め、フォーグルウルフが光の粒子になって消えていくのを見送っていると、クリアが静かに話しかけてくる。
流石に、強敵を倒した後で多数のウルフを相手取る気は全くない。まぁ数匹ならまだしも、数十の群れが来たりしたらとんでもないし。
でも、どうしてか消えていくのを最後まで見届けたいと思ったから、静かに見送る。
「あれ?」
完全に姿が消えて行ったのを見届けてすぐにその場を離れようとしたとき、フォーグルウルフが倒れていた場所に何かが落ちていることに気づいて、近寄ってみる事に。
それが何か確かめるために拾い上げてみると、どうやらそれは小さな棒状の物――短剣だった。
これもドロップ品だろうけど、武器も落とすのか。一体どうなってるんだろうね、この世界は。とか内心で思いつつ、短剣のステータスを確認してみる。
・狼風の短剣 ATK:48、VIT:8、AGI:22
フォーグル平原の主フォーグルウルフを倒した際、極稀に落とす短剣。
風の力を宿し、その力は持ち主が窮地に陥った際に発現する。
……強い。私が今、装備してる武器よりもだいぶ。
それに、ここってフォーグル平原って名前だったんだ。初めて知ったよ。
と言うか、フォーティアスの『フォー』とリグルへニアの『グル』を取ってフォーグルなのかな。だとしたら、だいぶ安直な付け方な気もしないでもないかもしれない。
「トア―? どうしたんですかー?」
「あ、ごめん! 今行く!」
クリアに呼ばれたことでウルフが集まって来てるのを思い出し、慌ててクロスベルトに短剣を差して追いかけていく。
移動しながらも後方を確認してみると、何匹かのウルフが向かってきているのが見える。
けれど、なんだかフォーティアス近くや氷結の森で見たウルフと色が違うような?
「ねぇ。向かって来てるウルフの色がなんだか違うような気がするんだけど、どうして?」
「へ? ――ああ、本当ですね。よりによって『ウィンドウルフ』を呼んでいたとは、あちらも本気で殺しに来てたんですね」
ウィンドウルフ? ウィンドって事は、風の力でも使うのかな。あんまり想像がつかないけれど。
「ウィンドウルフは何らかの要因で風の力を得て、風の砲弾を口から放つことが出来るようになったウルフの一種です」
「へー……って。遠距離攻撃が出来るって事は、集まりきる前に倒しきれてなかったら――」
「まぁ、そうですね。十中八九、私たちは殺されていたでしょう」
だよね。
ウィンドウルフに囲まれて砲弾で動きを止められている隙に、フォーグルウルフに攻撃されでもしたら、一方的に蹂躙されて終わるよね。
あの時、一気に決める事を選んで正解だったみたい。
「先ほどの戦闘で私のMPもほとんど尽きてしまいましたから、今から戦うのも少々面倒ですし、早くリグルへニアまで行きましょう。そうすれば向こうも諦めるでしょうし」
「だね。私もちょっと疲れたし、早く休みたいかな」
少しでも気を緩めたらやられかねない戦闘は、思った以上に精神的にくるものがある。今までの相手は数は多くてもそこまで強く無かったから、そんなすぐにやられるって相手は少なかったしね。
ある意味どれもこれも片手間で倒すことも出来たからこそ、膂力で圧倒される相手は辛かった。私の弱点が色々とわかったのは良かったけど。
そこで、ふと視界端のHPゲージが目に入った。
・トア HP:502/1061 MP:619/687
んーっと、思ってたよりHPが減ってる。真正面から攻撃を受け止めた時とか、突進を防いだ時にだいぶ削られたのかな。戦うつもりは無いけど、一応回復薬は飲んでおこう。飲みたくないけどさ。
MPは当たり前だけど、あんまり減ってないか。……って、ちょっと待って。クリアはさっき、MPがほとんど尽きたって言わなかった?
私はアーツを三回しか使ってないから、MPの消費が少ないのは確か。でも、いくらクリアのMPが低くても、私より攻撃回数が多くてもそんなに多くはアーツを放って無いんじゃ?
もし攻撃にアーツが織り込まれてたとしても、クールタイムがあるからそれは確実なはずなんだけど。ちょっと気になるから、後で調べてみよう。
――そうして後で調べた結果、格闘スキルのアーツはクールタイムを無視して連続で使うことが可能らしい、っていう事がわかった。けど、その代わりのデメリットとして、連続で使うごとに消費MPが倍々になるらしい。
格闘スキルの初期アーツのインパクトは消費MPが20だから、連続で使うごとに40、80ってなる訳だね。
たぶん、クリアはフォーゲルウルフ相手にはずっとアーツを使ってたから、この時点ではもうMPがかつかつになってたんだと思う。
便利だけど、不便だね。格闘スキルって。
「そういえばさ。クリアは竜人だって話だけど、竜人の特徴って何かあるの? パッと見普通のヒューマンにしか見えないけど」
「竜人の特徴ですか。そう言われてみれば確かに、特に角や尻尾が生えてるわけでも、翼がある訳でも無いですからわかりにくいですね」
場所はフォーグル草原から変わって、リグルへニア西門付近の喫茶店みたいなお店。そこでのんびりと二人で話をしている。
あの後ウィンドウルフに追い付かれることもなく、門をくぐって街中へと入ったところで流石に休憩しようという事になり、手近な場所にあったお店に入った次第である。
適当に入ったお店とはいえ、お茶もシフォンケーキみたいなお菓子も美味しいから個人的には満足。
正直、メニューにあるのは知らない食べ物ばかりだったから勘で選んだけど、結果的に良い物を選べたと思う。それにわからないからこそ、逆に悩まなくて良かったし。
「んー、これと言って何が特徴かと言われると、それはそれで私もわからないですね。ですが、強いて挙げるなら瞳でしょうか」
「瞳? ……言われて見ると確かに、蛇みたいな目をしてるけど、見たことないような瞳の形してる。何で気付かなかったんだろう」
今見ると、本当になんで気付かなかったんだろうって位に瞳の形が違う。クリアの目の色は綺麗な金色なんだけど、瞳孔は蛇みたいな縦に細長いような形状になっていて、その周囲を幾つもの黒い線みたいなのが中心に向かって囲んでいるように見える。
なんというか、こうして見つめてると不思議と引き寄せられる様な魅力を感じるね。凄く綺麗。
「そうだ、私からも質問しても良いですか? トアばかり聞いてくるのはなんだか不公平です。私だって色々とトアの事を知りたいんですから」
「へ? ああ、うん。良いよ、答えられるのなら何でも教えるから」
見惚れてて危うく聞き逃すところだった。
でも、確かに私だけ聞きすぎたかな。NPCだからって意思や自我が無い訳じゃない一つの命なんだから、蔑ろにするのは駄目だよね。
――あれ、なんか一瞬だけ変な事を考えたような気がするけど……まぁいっか。
「そうですね。聞きたいことは色々と多いんですが、まずはこれにしましょう。トア達は何処から来たんですか? 一時期は眠りについてたとはいえ、長い間フォーティアスに住んでいても見たことが無いんですが。旅をしていて辿り着いた、というには少々レベルが低すぎますし」
「あー。それは、あの……。なんというか、クリアの知らない凄く遠くの所から来たんだ。ポータルみたいなのを使って」
一つ凄く気になる言葉が混ざってたけど、今は流そう。
まさか、最初からかなり答えにくいような質問が飛んでくるとは思っても見なかったよ。
上手な躱し方をとっさに思いつかなかったから思わずポータルを例に出したけど、これはこれでどんなものか聞かれたら答えようがないよね? 深く聞かれたらどうしよう。
内心、少し冷や汗を流していたけど。
「なるほど、道理で全く知らない人がいきなり増えたんですね。ようやく納得がいきました」
「今も度々戻ってるけどね。やることもあるし」
「だからお昼も駄目だったんですね」
移動手段に関してはあんまり気にしていない様子だから、助かったのかな。
それに、お昼を付き合えなかった言い訳もおまけで出来たから万々歳?
「次も良いですか?」
「うん、どうぞ」
さっきの質問のおかげで、答えにくい質問が一気に減った。これはこれで嬉しい誤算。
そんな感じで、少し気楽になってどんな質問でもどんとこいみたいな感じで待ってたら、さっきよりも別の意味で凄い爆弾が降って来る羽目になった。
「トアとシャーリーは親子とか、親類縁者とかの何かなんですか?」
「へ?」
「凄く容姿が似ているので、そのような関係だと思ったんですけれど。違うんですか?」
私とシャーリーが血縁関係? いやいや、それは無い。絶対に無い。
何より、私はこの世界の住人じゃないから、この世界の人とそういった関係があるわけでもない。
「違うよ。確かに私も、初めてシャーリーに会った時はビックリしたけど、血縁関係は無いよ。親代わりの人ならいるけど、私の本当の家族は、シズクしかいないから」
「そう、でしたか。すいません、不躾な質問でしたね」
「気にしなくていいよ。生まれた時から傍に居たのはシズクだけだったし、本当の親の事なんて今まで気にしたこともあまりないからね」
和樹さん達によると、冬場の河川敷に一枚の書置きと一緒に捨て置かれていたらしい。書置きの内容だけは決して話してくれなかったけれど、あの時の顔を思い出せば、それが良い物では無かったのだろうことは容易に想像は出来るけどさ。
でも、本当の親がいなくて辛かったことは無い。
和樹さん達には、恭也と同じように愛情を注いでもらいながら育ててもらったから、親の愛情を知らない訳でもないし、生きてきた中でもこれと言って苦労したこともなかった。
綾と雫って名前も親から貰ったものじゃないから、改めて考えると、本当に気にする理由が無いね。
親について残ってると言えばどうしてもって教えてもらった天川って苗字だけだけど、これを残してる理由については前にも言ったから特には何も言わない。
……ある意味、子供に対する呪いみたいなものなんだろうか。これって。
「……わかりました」
少しの間、クリアは目を細めて私の目を見つめてきた後に一つ頷いて、気持ちを切り替えたのか次の質問に移り始めた。
たぶん、本当に私が気にしてないのかを確かめたんだろうね。でも、もし気にしてないのが嘘だったのなら、何をしようとしたのかは少し気になるけど。クリアの事だから、凄く謝って質問も切り上げるつもりだったのかな。
そんな風に考えながらも色々と質問に答えていくと、どうやら最後の質問になったらしい。
「どうしても聞きたいのは、あと一つですかね。答え難いのなら答えなくて良いのですが、トアの特殊な体質って何ですか?」
「あー……。これはちょっと、説明が難しいかなぁ」
電気なんてものは知らないだろうし、機械なんてもっての外だよね。
どうやって説明すればいいんだろう、試しに直球で聞いてみよっか?
「ねぇクリア、電気って知ってる?」
「でん……き?」
ですよね。
えーっと……あ。そういえば、お昼にシズクから説明するのに丁度よさそうな話聞いてたっけ。
確か――
「それじゃあマナはわかるよね?」
「当たり前です。アーツや魔法を使うときのMP……魔力の素ですし、今の生活の基盤になっている機器もマナによって動いてますからね」
クリアの言った通り、この世界だとマナを込めたカードリッジを差し込んだり、空気中のマナを取り込んだりすることで動く電子機器みたいな物があるらしい。……シズク情報だけど。
このお店の明かりだったり、調理に使うときのコンロみたいなのも全部マナで賄ってるらしいから、マナが尽きたら大変なことになりそうだと思わないでもない。電気が無くなったら私たちも同じか。
電子機器が使えないのに電気に頼ってるなんて、どんな皮肉だろう。
「うん。で、電気っていうのはそのマナと似たようなものって認識してもらえれば良いかな」
「なるほど、わかりました。そして、そのでんき? っていうものが関係してるのもわかります」
こんな前置きをすれば、よほど頭の回らない人以外は気づくよね。
「そうだね。私は、その電気で動いている機械を受け入れない……と言うか、拒絶する体質みたいなんだ」
たぶん、電気そのものは拒絶しないんじゃないかと思うんだけどね。
本当に何で電子機器だけは駄目なんだろう。その割にはビジョンデバイスだけは平気だから、なおさら謎だし。
「この体質のおかげで周りからは怖がられちゃってね、さっき言ったようになりかけたんだよ」
「私たちで言うのなら、マナが使えない生活を送るって事ですよね……。そんなことは考えられないですし、想像も出来ないです」
「マナは電気とは違って生きるための一要素になってるんだから、仕方のない事だよ。それに私だって、機械が使えないからって電気に頼っていない訳じゃないんだから」
「トア自身、でんきが使えないのにそれを頼らなければならないのですか……。色々と難しい立ち位置なんですね」
その言葉には苦笑しか返せそうにないかなー……。改めて思えば、傍から見れば確かにかなり難儀な立ち位置なんだろうから。
これから先もこのままならまともに就職も出来ないだろうし、どうすればいいんだろうね、私は。
今回も解説コーナーはお休みですかね。……って何度もするのもあれなので、今回はフォーグルウルフの説明みたいな何かを。
・フォーグルウルフ
王都フォーティアス・交易都市リグルへニア間にあるフォーグル平原の主。
強靭な四肢と、他のウルフとは一線を画す体躯を持つが牙はあまり鋭くないため、基本的には爪や強靭な四肢による薙ぎ払いや大きな体躯による突進などで攻撃してくる。
縄張り意識がとても強く、特に初めてフォーゲル平原を越えて行く者にほぼ必ず牙を向ける。
窮地に陥った時や、不利な状況と判断した場合は配下のウルフやウィンドウルフを呼び出して、優れた連携攻撃を駆使して立ちはだかる最初のボス。
トアがクリアと二人で突破できたのは、フォーグルウルフが最初に油断していたのも理由の一つだったりする。(二人という小人数だっていう事で侮ってたんでしょう)
それでは今回はここまでです。
次話は一応明日投稿予定なんですが、もしかすると月曜日か来週の土曜日になるかもしれません。




