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Fragment of Memories  作者: 詩空
第一章 リーザリア・エルフェルド
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3-6 フォーグルウルフ


 移動を再開してから二時間ほど東に向かって歩いた頃、私の視界にようやく平原の風景以外のものが入り込んできた。


 そこは壁に囲まれてても分かる程多くの建物が建っており、フォーティアスよりも規模は小さいけれどかなりの活気を感じさせる場所で、門の近くに多くの馬車が見える事から交流も盛んなんだという事がわかる。


 というか、馬車があるって事はポータルって移動手段としてあんまり使われてないんだろうか。いやでも、昨日も今日も普通に使ってるNPCの人見たし……。


 あ、そういえば。一度でも行ったことが無い場所じゃないと、ポータルで移動できないんだったっけ。それなら馬車が移動手段としてあるのも当たり前か。


「予定より遅くなりましたけど、ようやく見えてきましたね。あそこが次の町、『交易都市リグルへニア』です」

「交易都市かぁ。なるほど、多くの馬車が見えるのもそういう理由なんだ」


 どうやら移動手段以外にも、交易品の運搬目的でも使われているらしい。つまり、ポータルは運搬目的には使えないって事かな。

 ポータルは便利だけど、万能ではないんだね。


「はい。この町は王都以外にも色々な都市や小さな村とも交流があるので、重要拠点の一つになっています。交易都市の割には王都に近いのは昔の交通の便が悪かったから、らしいです。それとですが、困ったことが一つありまして……」

「困った事?」

「あのですね、王都から初めてリグルへニアに行く人がいるとかなりの高確率で、とあるモンスターが襲い掛かってくるんですよ。――ああ、噂をすればなんとやら、ですか」


 そう言ってクリアはある一点を見つめていて、同じ方を見てみるとウルフとかと比べると少し大きめな影が私たちに向かって走って来ていた。


 あれは、何だろう。外見的にはウルフに似てるんだけど、なんか変な感じがする。


「来ましたね。フォーティアス・リグルへニア間の平原の主である、『フォーグルウルフ』です。今の私たちなら、何の問題も無く倒せる相手です」

「そっか。なら、気負う必要は全くない訳だね。それじゃあ今回も同じように私が正面で、クリアは隙を見て横からお願い」

「わかりました。ですが、いくら問題ないとはいえ油断はしないでください。一応とは言えこの辺りの主ですから、他のモンスターよりも強いですよ」


 一つ頷くことでそれに応え、前に出る。剣は中継地点に居る時とか一部の時以外は常に抜いてるから、後は構えるだけ。


 もう、油断はしない。その一瞬でやられてしまわないように、より一層の集中を。


 そして集中しながらも観察は怠らないように。目標の動きを把握してしまえば、その分戦いも有利に事を進められるだろうから。


 こうして近づいてきているフォーグルウルフを観察し続けていると、先ほど感じた違和感の正体にようやく気が付いた。


「あれ?」


 というより、最初に姿を見た時点で気が付くべきだったんだろう。


 これだけの距離でウルフより少し大きいという事は、近づいたらそれ相応のサイズになるって事で……。つまり、何が言いたいかって言うと。


「ちょっと、大きすぎないかな……?」


 という事。


 だってこの距離で見えるだけで、全高が3メートル弱もあるのがわかる時点でもう想像の埒外だし、違和感しか感じないのも仕方ないと思う。


 実際にはこんな大きな狼なんて存在しないし、他の動物では存在していても気性自体は大人しい動物が多いからか、何というかウルフとかには感じなかった本能的な恐怖を少し感じる。


「大丈夫です、トア。ただ大きいだけで、対処の仕方はそう変わりません。それにあの大きさですから、力はウルフに勝っても素早さの面では劣っています。しっかりと相対すればただの大きなウルフですよ」


 そ、そっか。なら問題は無い……わけないよね。


 スライムは動きが鈍くてわかりやすかったし、ミニゴブリンは九匹に囲まれても人型である以上、筋肉の動きから予測は簡単だった。ウルフやミニボアも全身が見える時点で動きの特徴は掴みやすかったから、特に問題は無かった。


 だけど、このフォーグルウルフは少し大きい。


 クリアの言葉の通りならウルフと行動パターンは大体同じだから、それを応用すれば動きに対応は出来るけど、単純に大きくなっただけでも避ける為の間合いを図るのも大変になるし、間合いがわかってもその分こちらの動きも大きくなるから体力をより消耗することになる。


「でもまぁ、それでもやるしかないか」


 意識を切り替えよう。


 フォーグルウルフがもうすぐそこまで近づいて来てるし、ピリピリとした何かが私を突き刺してきている。

 これが自然界における弱肉強食って言う摂理で、このピリピリしてるのが殺気ってやつなのか。


 個人的にはあんまり好ましい感覚じゃないけれど、それも仕方のない事だよね。私たちには自然界というものに馴染みは無いし、現代の人間には忘れ去られてしまった感覚なんだから。


 この感覚を知ることが出来るだけでも、このゲームを始めた価値はあるのかもしれない。


『グルルァ!!』


 だけど、今はそんなことを考えてる暇はない。相手はもう完全に戦闘態勢に入ってるんだから。


 ――さぁ、始めようか。



「ぐっ!?」


 始めに、先制とばかりに飛び掛かってきたフォーグルウルフの一撃を両手で構えた剣で受けた瞬間、想像以上の重い一撃に剣を取り落としそうになるのを何とか堪え、ギリギリで受け流して飛び退く。


 次いで襲い掛かってくる追撃も大げさな動きで避けていき、四回目の攻撃を受け流して地面へとめり込ませることで一時的に動きを封じて離れる。


「見た目より、よっぽど重い一撃だね……」


 あー。しっかりと防いだのに、まだ両手が少し痺れてる。


 これは片手じゃ絶対に受け止められないか。受け流しならなんとかいけそうだけどこっちから攻撃するのは厳しそうだし、今回は両手で戦った方が良いのかもしれない。


 幸いな事に前に立ってた私が対象になってるけど、私からも攻撃しないと相手の対象がクリアに変わる恐れもある。そうなったらクリアも動きにくくなるし、決定打も与えにくくなる。


 集中しろ、目を逸らすな。この重い攻撃だと、一手でもミスをしたら取り返しがつかないことにもなりかねない。生半可な攻撃で倒せる相手でもないだろうし、隙を見逃さないように。


 来る!


「ハッ!」


 右足の振り下ろしを渾身の力で弾き、返す刀で一撃を加えるものの、その瞬間に避けられた為に表面を軽く斬るに止まっているけど、たぶんまともに一撃が入ってても深くは斬れなかったと思う。


 敏捷性はウルフに劣っているけど、反応速度や防御力はやっぱりこっちの方が上らしいね。



 だけど、私は一人じゃない。



 フォーグルウルフが避けた先には、それを予測していたクリアが待ち構えており、着地した瞬間に右足を払って相手の腹に深い一撃を蹴り込んで、深追いをせずに離れていく。


 次に相手が怯んだ瞬間に一息で近づいて、さっき薄く斬り裂いた個所に重ねるようにもう一度斬り裂く。


 一度斬った感覚から、どうも今装備してる鉄の剣だと鋭い一撃でもない限り表皮を薄く斬るだけに終わりそうだから、同じ場所を狙っていった方が良いと判断。僅かな情報でも、大事な情報だ。


 そして、さぁもう一度。と考えた時、ふと思った。


 今の戦い方って完全に私のスタイルでは無い気がする、と。

 私のステータスはもともとDEFが低くてAGIが高い、素早さで相手を翻弄するタイプ。囮になることは出来るけど、間違っても真正面から攻撃を受けとめて反撃する、なんて戦闘スタイルはおかしい。


 だから、戦い方を戻さないといけない。今までのモンスターを相手にしてた時は、基本的に避けて一撃を加えていったり、受け流しながら隙を突くってスタイルだったんだから。


 ……いや、戻すだけだと駄目か。


 いくら敏捷さがウルフより劣っているとしても、それ以上の攻撃範囲なら避けた後に死角からの攻撃を受ける可能性もあるし、受け流しきれない攻撃をされるかもしれない。それに、受け身の戦い方を続けたら後手後手に回って、いずれ攻撃に回ることすら出来なくなりそう。


 一番理想的なのは避けながら攻撃して相手に隙を見せない戦い方なんだけど、それが出来るほどに戦いに慣れてるわけじゃないから、それは徐々に出来るようになっていこう。下手な攻撃をしてもダメージが通らなければ意味は無いし。これに限っては今後次第かな。


 避け、攻撃しながらも思考を重ねていって、結論を出していく。


 とりあえず今は攻撃を避けて隙を作って、攻撃を叩き込んでクリアに繋げる事。それだけを考える!


『ガァッ!!』


 右前足の横振り、これは後ろに飛び退いて避ける。


 追撃の左前足の斜め振りは左前足側に潜り込むように避けて、左後ろ足に一撃を入れて反転。両手に持ち替えて左後ろ脚関節にもう一撃を加えて離脱。私が完全にフォーゲルウルフの標的になったのを感じた。


 それを見たクリアが、フォーグルウルフがこっちを向いた瞬間の隙を狙って顎を蹴り上げ、更に踵落としをお見舞いしたのを確認して私も一気に近寄り、先ほど一撃を入れた間接に突きを入れるが、やっぱり皮膚が硬いのかあまり深くは刺さらない。


「くっ、浅い……」


 全力の突きでもここまでしか刺さらないって事は、これはもしかするとフォーグルウルフが硬いだけじゃなくて、私の攻撃力が低いせいもあるのかも。


 これらの情報から考えると、今の私ではたぶんダメージは通るけど完全に斬り裂けるまでは微妙に届いてないって事だと思う。となると、アーツをメインに攻撃しないとまともなダメージはあんまり期待は出来なさそう。


 じゃあ次はどう攻める? この相手にアーツを入れるなら、僅かな隙だと逆に反撃を食らいかねない。だったらクリアと一緒に怯ませて一気に終わらせる? でも、失敗した時が痛いよね。


 ならどうする? 弾くのも相当辛いからやりたくはない。……最初のように受け流して隙を作るのが一番早いかな。よし。


『グルァ!!』


 と、ある程度の方針を決めた直後。


 前動作も無しに突然フォーグルウルフが突進してきて、それに反応するまで数舜遅れたために辛うじて防御することは出来たが、その代わりに私は大きく後ろへと弾き飛ばされてしまう。


 吹き飛ばされた時点であまりダメージが与えられて無かったせいか、それから相手のターゲットが私からクリアに変わってしまっていて、体勢を立て直した私には目もくれずにクリアに向かって飛び掛かっていた。


 その連続攻撃をクリアは全て間一髪で避けていくが、決して受けようとはしない。

 けど、それも仕方のないことではある。クリアの武器は脚にしか装備していないから、下手に手で受け流そうものなら逆に手をやられるし、かといって脚で受け流そうとも、押し切られる可能性がある。


 だからこそ、私が相手を引きつけなければいけなかったのに……。でも、そのおかげでアーツを叩き込むだけの隙は十分にある。上手くいかなくても後悔するんじゃなくて、それすらも利用して相手を上回るんだ。


「トア!!」


 すると、クリアが私の魂胆に気付いたのか、あえてフォーグルウルフに大きな隙を見せる事で大振りの攻撃を誘発させて隙を生み出し、顎を蹴り抜いて相手を昏倒させた。おそらく意図的に脳震盪を起こして、一時的に気絶させたのだろう。


 この隙に、相手の機動力を削ぐ。


「『クロス』!!」


 もう一度左後ろ膝関節に、今度はアーツを入れる。


 次は毛皮などに遮られることなく深く斬り裂くことが出来たが、アーツを放つ距離が少し遠かったのか脚を切り落とすまでは出来なかったけど、これで機動力はかなり落ちたはず。さっきより楽に対処できるはずだ。


『グルルルル……』


 意識を取り戻したフォーグルウルフはそれでも、先ほどまでよりも強い光を瞳に宿しながら、未だにこちらを睨みつけてくる。


 だけど、流石に現状は不利だと判断したのか、何かを考えている様子を感じる。


『ォォォオーン!!!!』


 そうして少し逡巡した様子を見せた後、何かを呼びつける様な遠吠えを上げ始めた。


 遠吠えは何度も続き、その声に続くかのように周囲からも遠吠えが響く。


「何、何をしてるの!?」

「少し、悠長にしすぎましたかね」


 謎の遠吠えで開いたこの空白の時間に、いつの間にかクリアが少し厳し気な表情を浮かべながら近づいてきていた。


「どういうこと?」

「この遠吠えはフォーグルウルフが追い込まれたり、相手が強敵だと判断した場合、配下のウルフを呼び出すものです。そして遠吠えを上げている間も警戒しているので、不意打ちもあまり効果はありません」


 不意打ちはあまり効果は無いか……。でも、今の状態ならそうそう避けられることもない筈。ウルフがやってくるのなら、出来れば着く前にフォーグルウルフを倒してしまいたい。


 手負いではあるとはいえ、流石にウルフの群れと同時に相手にはしたくない相手だし、今ならまだ間に合う。


 答えを出して、行動に移す。


「クリア! それだったら来る前に片を付ける、行くよ!!」

「そうですね。トアが付けた傷は後ろ足、今がチャンスですか。でしたらトアは右から、私は左から追い込みます!」


 返事を聞いて、一気に踏み出す。


 こちらの動きを察知したのか、まるで逃げるかのように相手も行動に出る。ウルフが来るまで何とか持ちこたえようという考えが見えるが、私のステータスが一番高いのはAGI。


 脚を負傷した相手に負ける程、素早さは低くは……無い!!


 逃げられないように全力で踏み込み、一息に近づく。そしてすれ違いざまに左前足に走った勢いを乗せて斬り裂き、更に動きを鈍らせる。


 更に遅れて近づいたクリアが右前足を蹴り抜き、勢いを保たせたまま回転して左足で頭を蹴り飛ばす。


 そしてこっちに蹴り飛ばされてきたフォーグルウルフに追撃として『クロス』をもう一度喰らわせるが、それでも僅かに倒しきるには至らない。けれど、遠くからウルフが集まってきているからここでもう倒しきらないといけない。


 だけどクリアは無理な体勢で攻撃したからか、転んでしまっていてすぐには行動できない。私も、『クロス』をもう一度使うにはクールタイムがあるから、少しの間使えない。今から普通に追撃しても倒しきれる保証がない……どうする!?


 どうやって倒すか悩んでいた丁度その時、視界に一つのメッセージが浮かび上がってきた。



『剣スキルの熟練度が100を超えました。これにより新たなアーツ、『ソニック』が使えるようになります』



 新しいアーツ? 『ソニック』っていう事は、かなり速い一撃を放てるのだろうか。……いや、今はそんなことはどうでもいい。このアーツの出し方は? ――腰横に構えて、一気に抜き放つイメージ? これだと剣を抜いてないときでも使えるから、意外と便利かもしれない。


 それにこれなら、とどめも刺せる。


 判断は一瞬だけで良い。本能に従って剣を鞘に納め、構える。


「これで、終わり!!」


 一歩踏み出しながら『ソニック』を放ち、その勢いのままに斬り抜けて行く。


「……さよなら、ありがとう」


 あなたは、この世界に来て初めての強敵で、戦闘での私の弱い点をたくさん気付かせてくれた。


 そのことに、最大の感謝を。



今回の単語解説コーナーはお休みです。


今回は、次の町に着く直前のボスとの戦闘回です。

毎度毎度戦闘シーンを書くとき思うんですが、書くのが難しすぎてたまに戦闘シーンを丸投げしたい気分に陥ります。……いえ、そんな理由で投げ出しませんけれど。



それでは、今回はここまでです。次話は来週の土曜日の予定です。




17/8/28追記 フォー「グル」がフォー「ゲル」になっていた為、修正しました。


17/8/31追記 数字による章内の話数を追加しました。こうしてみると、一章二話は随分と短かったですね……


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