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Fragment of Memories  作者: 詩空
第一章 リーザリア・エルフェルド
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1-1 幼馴染からのお誘い


 私は今、森の中を全力で走っていた。


 土地勘も目立つ様な目印も何もがない森の中で、脇目も降らずに走り続けたせいで自分がどこにいるのかもわからない状態になってしまっている。


 マップを開けば大体の現在地はわかるだろうし、チャットを繋げば妹や幼馴染、それにあの人に助けを求めることも出来なくはないだろうけれど、今の私にそんな事をしている余裕はなかった。


 なぜならそれは――


「この猪っ、何でっ、こんなにっ、しつこく追いかけてくるの!?」


 ――何故かこの大きな猪、『フォレストボア』に追いかけられ続けているからだった。


「ここまでっ、逃げ続ければっ、見失うか諦めるかしてくれると思ったのに――あっ!?」


 悪路に苦戦しつつも全力で逃げ続けながら呟いたせいか一瞬だけ足元を疎かにしてしまい、私はほんの僅かに浮き上がっていた木の根に足を引っかけて、二転三転と盛大に転がってしまった。

 その衝撃で一瞬息が詰まったけれど、転がり続けながら何とか体勢を立て直す。


 ろくに整備もされていない森の中を走り続けて疲れが溜まっていたのもあるのだろうけれど、これはあからさまに自分の不注意のせいだったと思う。

 逃げる時はもっと集中しなくちゃいけなかったんだから。


 まぁ、逃げ続けている間に他のモンスターが出てこなかった事だけは、救いだったと言えるのだけれど。


「ああ、これは……もう、逃げきれそうにないかな」


 何とか体勢を整えながら立ち上がった時にはもう、かなり近くまで足音が迫ってしまっていた。


 私は覚悟を決めると、軽く呼吸を整えてから、動きを止めた私を追い詰めるかのようにゆったりと近づいて来ているフォレストボアと戦うため、振り返って剣を構える。


「戦闘なんてまだそんなに数もこなしてないし、武器もまだ上手く扱えないけれど……。もう、やるだけやるしかない」


 私はまだまだ右も左もわからない初心者なんだから、やれることを全力でやるだけ。

 勝てないだろうことはわかってるから、この猪から逃げれるだけの隙を作れればそれで良し。

 後の事なんて考えないし、今出来る最善を尽くすだけなんだけれど。それでも私は、思わず呟いてしまうのを止めることが出来なかった。


 何で――何で私はこんな目に合ってるんだろう、と。




 それは7月も半ばが過ぎ、もうすぐ夏休みに入ろうかというある日の事。


 私たちは自宅のリビングで、屋外では夏真っ盛りと言わんばかりに太陽がさんさんと光り輝いている中、のんびりと涼みながら出された課題を着々と進めてそこそこの時間が経った時だった。


「なぁ二人とも、今週末にリリースされるオンラインゲームを一緒にやらないか?」


 唐突に誘いをかけて来たこの幼馴染の名前は篠田(しのだ)恭也(きょうや)

 物心つくくらい昔からの長い付き合いで、気兼ねなく付き合える親友の一人である。


 とりあえず私は、いきなり何を言ってるんだろうと思いつつ、目の前に座ってのんびりとしたペースで課題を進めている幼馴染に問い返した。


「いきなりどうしたの? 恭也が私をその手の物に誘ってくるなんて、珍しいどころじゃないけど」

「そうだね。お姉ちゃんが電子機器なら、触れてしまえば何でも壊しちゃうことを知ってるのに誘ってくるのは、珍しいを通り越して怪しさしか感じられないね」


 そんな私の言葉に同意してきたのは双子の妹である天川雫。

 物心ついた頃にはもう両親がいなかった私たちにとってはお互い唯一の家族で、大事な妹である。……まぁ、双子というには全然似ているところが無いのだけど。


 私たち姉妹は、何故か全く外見の色が違う。

 雫は極東人らしく黒髪黒目なのだけれど、私は銀の髪で紫の眼を持っている。その理由はまるでわからないけれど。


 まぁそれは置いておくとして。雫が言うように、どうにも私は無意識に電子機器の類を拒絶しているみたいで、私が触れる機械類はすぐに壊れてしまうから、かれこれ10年以上も電子機器に触れて無い。

 更に、音声操作や人感センサーで動くものは一切反応してくれない。


 正直な所、あらゆるものが機械で制御されてる今の時代にこの体質は不便で仕方が無かったりする。


 学校だって、教科書や宿題等は個人端末で一括管理されてる中で私だけは紙媒体の物を使うしかなく、更には私専用の入り口まで用意してもらう等と、先生方には苦労を掛けている。


 自宅も、電子錠が使えないから昔ながらの鍵とチェーンの二重鍵だし。

 まぁそのおかげか、逆に防犯に関しては心配が要らなくなったけれどね。


 ちなみにこの家は、私たち姉妹を拾ってくれた恭也のご両親、和樹さんと美優(みゆ)さんに高校に進学した時に用意してもらった物だ。

 本当は養子として本当に家族にならないかとも言われたけど、それは丁寧に辞退させてもらった。顔も分からない両親だけど、それでも僅かに残った両親の子供である証を残しておきたいって思いが強かったから。


 和樹さんたちには本当にお世話になっているから、いつかきっちりとお礼を返さないとね。私が働けるかどうかは……うん、ちょっとわからないけど。


 そんな事を考えていた時、恭也が口を開いた。


「それならたぶん問題ないはずだ。ハードを作った人に綾の体質の事を相談してみたら、別パーツを組み込んだ特注品を作ればそれは対処できるって言われたんだ」

「そうなんですか? って、つまりは和樹さんの会社が作ってるハードを使うんですね、そのゲーム」


 和樹さんの会社はゲームのハードやソフトを制作している大手のゲーム会社で、かなり有名だったりする。


 それに加えて最近、歴史に残る程の新しいハードを開発したみたいで、さらに有名になってたはずだ。

 生産台数もそんなに多くないからかなり入手困難になっているらしく、それも相まって話題に拍車がかかってるって恭也が言ってたような気もするし。


 私には縁遠いことだったからそんなに凄い事だなんて実感はなかったけれど。


「ああ、最近親父の会社から発売された多目的端末『ビジョンデバイス』ってやつは知ってるだろ?

 あれのシステムは開発者が独自に一から作ったものみたいでさ、さっきも言ったけど綾の体質を話したときに、そう言った人も使うことが出来るようにパーツを追加して、対応させることも出来るって話だった。

 だから今度出る新作は綾も一緒にできるかもなーって思ってさ、二人を誘ってみたんだ」


「なるほど。――あ、そうだ、その追加パーツを他の機械に組み込むことは出来ないんですか? そうすればお姉ちゃんも、色んな機械を使えるようになるんだけどな」

「それも聞いてみたんだけどさ。それは根本的なシステムの構築が全く違うから無理だとかなんだとかで、正直何言ってるのかよくわからなかったけど無理らしい。別の方法でなら解決出来るかも、とは言ってたけど」

「そうなんですか……。残念です」


 その返事を聞いて、雫が心底残念だというように呟いていた。


 正直な話。私はそっち方面の事はまるっきりわからないから、正直ちんぷんかんぷんすぎて混乱しそうだけど、とりあえず一緒にゲームできるかもしれないって事だけはわかった。


 だけど、何となく誘ってきた理由は他にもある気がする。さっきまでの理由だけだとどこか急な気がするというか、一部分だけあからさまに抜けてる部分がある。


 どうして私を誘うに至ったかの理由が。


 確かに一緒にやろうって言うのに間違いはないだろうし、本心なんだと思う。

 けど、何で私の体質の事を相談してまで、私をこのゲームに誘おうとした理由がさっぱりわからないからそれを知りたい。


「ねぇ恭也、本当に理由はそれだけ? 他にも何か理由があるような気がするんだけど」

「む……やっぱり誤魔化せないか。出来れば驚かせたかったんだけどな」


 理由がどうしても気になって聞いてみたら、なんかサプライズみたいなのがあったみたいだ。ちょっと勿体無いことしちゃったかな。


「あのさ、綾は昔から奇妙な夢を見るって言ってただろ?」

「え? うん、確かに変な夢は見るけど。それがどうしたの?」


 恭也が言うように私は、昔からとある夢を繰り返し見ている。


 その夢は、周囲の全てが凍りついてしまっている森の中を延々と歩き続ける夢。目指すべき場所もなく、どこへ行くでもなく歩き続けるだけの奇妙な夢。


 でも、その夢は必ず誰かと出会ったところで夢から覚める。


 それが誰なのかなんてわからないし、そんな森があるなんて聞いたこともないからただの空想が作り出した夢なんだろうと思っていたけれど、どうしてもこの夢は現実に在った事だって心が感じている。

 現実感なんて無いのに現実としか感じられない奇妙な夢。そんな夢が恭也の言うゲームと何の関係があるんだろうか。


「綾が夢の中で見るって言う凍りついた森を、そのゲームの中で見つけたんだよ。夢の中の森そのものと同じかどうかはわからないけどさ」

「それは、本当なの?」

「ああ、少し前までそのゲーム――『World(ワールド) of(オブ) Reminiscence(レミニセンス)』って言うんだけど――のβテストをやってたんだ。

 そのゲームの中にある森の一か所に一部……というか大部分が凍りついている森があるんだ。そこに行けば綾の夢の事も何かわからないかなって思ったんだよ。

 まぁ、三人で一緒にゲームできるかと考えたら楽しそうだなって思ったのも大きな理由の一つだけどさ。で、二人ともどうする?」


 恭也は目を輝かせながらも、どこかこちらを気遣うように問いかけてくる。

 そんな恭也を見て、私は真剣に考えてみる事にした。


 正直、私はその夢の事は気になってはいたけれど、それを探す(すべ)どころか、この地球上に存在すら無かったから今まで知ろうともしなかった。だけど、こうして機会が訪れたのならそのチャンスに飛び込んでみるのも楽しそうだと思う。


 それに最初にも言った理由だけれど、確かに三人でゲームが出来るのはとても楽しそうだし。

 いつも二人がやってるのを後ろで眺めているだけだったから、一緒に出来るのは純粋に嬉しい。まぁ、まだ本当にできると決まったわけじゃないけれどね。


 でも、だとするならこれを断る理由は無いかな。うん、決定。


「そうだね、断る理由もないし私はやるよ。雫はどうする?」

「んー、お姉ちゃんがやるなら私もやるよ。私もお姉ちゃんと一緒にゲームしたいし」


 という事で、私たちは二人とも一緒にやることにした。

 夢の場所も気になるけど、みんなでゲームできるかもしれないのは楽しみだしね。


「お、やってくれるか。色々と用意した時間があまり無駄にならなくてよかった」


 えっと、それってまさか。


 恭也の言葉を聞いて雫も私と同じ不安を感じたのか、私より先に恭也に質問を投げかけた。


「あの、恭也さん? まさかとは思うんですけど、もう私たちの分のビジョンデバイスを用意しているんですか……?」


 その雫の質問に対して恭也は何を言っているんだと言うような顔をして、


「当たり前だろ。その辺りの準備は先に終わらせてから提案するもんだよ、準備にどれだけ時間が掛かるかもわからないのにさ。今回みたいなのだと、二人が断っても無駄になるのが俺の消費した時間だけなんだから尚更な」


 と、涼しい顔で言い切った。


 いや、まぁ確かにそうなんだろうけどさ、ビジョンデバイスの生産数が少しとはいえ増えるんだし、無理はするだろうけど決して損になる事じゃないんだと思う。

 昔っから恭也はこんな風に自分の事を度外視するけど、納得いかないなぁ。――と、不満に思っていたら恭也に


「別にいいじゃないか、お前らに迷惑かけてるわけじゃないんだしさ」

「いや、そうだけど……って人の心勝手に読まないで!」

「んなこと言われてもな、そういうのお前は顔に出やすいし」


 と笑みを浮かべながら言われた、やっぱり納得いかない。



次話は明日か明後日投稿予定です

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