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Fragment of Memories  作者: 詩空
第一章 リーザリア・エルフェルド
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2-3 クエスト達成と晩御飯


 グリーンジェル捜索を再開してからおよそ三十分程が経過して。


「ここは、どう!?」

「あ、ようやく五匹目だね」

「トア、あなたは運が悪いのですか……?」


 あれからもう何十どころか、百数十という数の石をひっくり返し、レベルが一つ上がるくらいモンスターを倒し続け、氷結の森外周部のマップが粗方埋まるんじゃないかというところで、ようやく目標数のグリーンジェルと遭遇することができた。


 まさか、ここまで出てこないとは思わなかった。なんか嫌われてるんだろうか、ドロップアイテムも一つずつしか落ちてくれなかったし。

 でもこれで、ようやくクエスト達成できる。


「結局、だいぶ時間かかっちゃったね。早く帰って報告しに行こうよ」

「そうだね、クリアの晩御飯をこれ以上遅らせるわけにもいかないし。何より、これ以上この森に居たくない。疲れた」


 思ってた以上に夜の森は神経を磨り減らすのか、五時間歩いてたのよりも凄く疲れた。本当にもう、対策無しで夜の森には入りたくない。


 それに、ふと思い出したことだけど、何か危険なのが住み着いてるかもしれないってリソアさんが言ってたし。えーっと何と言ったっけ、反統一派の魔族、だっけ? 今いる場所は中心部にだいぶ近い場所だろうから、少し警戒した方が良いかもしれない。


「はい、すぐにでも離れた方が良いかと。少し、嫌な予感がしますし」

「だったら、急いで帰ろうか」


 こうして、気持ち走り気味に外に進んで、約一時間半の探索を終えてようやく街に戻ることができた。

 何も起こることが無く森を出れたのは良かった。下手に何かが起きて、戻るのが遅れたりしたら面倒どころじゃないしね。



 んー22時28分か、まだ開いてるかな。




「――はい、確かに確認しました。お二方とも試験クエストを達成されましたので、ギルド証をお渡しします」


 場所は変わって、ギルド受付カウンター。


 ギルド自体は24時間開いてるらしく、特に問題も無く終了報告は終わらせることができた。今日はもう帰ったらしくて、受付の担当はリソアさんでは無かったけれど。


 手渡されたギルド証を確認してみると、それはカードのような形状をしていて、いつの間に撮られたのか写真まで載せられている。いや、本当に何時撮ったんだろう。


 とりあえず、目的は達成したし出ようか。これ以上ギルドに居る理由もないし。


「それでは、約束通り付き合ってもらいますね」


 そうしてギルドを出てすぐに、クリアが道案内をするために先頭を歩き始めた。


 着いてからのお楽しみだとクリアは言ってたけど、どこに向かうのだろうと疑問に思いつつもシズクと二人、クリアの後を付いて歩いていく。


 クリアの背中を追うまま東の大通りを進んでいき、道中のお店で散々倒したモンスターのドロップアイテムを換金しつつ、次は大通りの半ばにあった北の方に向かう路地へと入っていった。


 いい加減にどこに行くのか(いぶか)しみ始めた頃、クリアが一軒の建物の前で立ち止まった。そこは、どう見ても飲食店というようには見えなかったが、掲げられた看板の名前から、それも納得できる。


「到着しました。ここが、私が案内したかった場所。――『女神の宿場』です」


 ここは宿屋だ。それもこの外観等から総合して判断すると、造りの荒い安宿とかではなくて、かなりの高級宿って簡単にイメージできるレベルの。


 正直、今日稼いだお金で足りるような場所ではないと思うのは私だけじゃないと思うんだ。絶対に。


「心配しなくとも大丈夫ですよ、色々な事情からここの価格は良心的なので」

「そうなの?」

「はい。一番高い部屋ですと相応の値段はしますが、普通の部屋でしたら一週間で大体4500ガルド程でしょうか。食事をとる場合は別料金となりますけれど」


 4500ガルドなら十分払えるかな。さっきの氷結の森で集めたアイテムを売ったりして稼いだのが大体2~3万ガルドだから、泊まっても余裕はある。


 だけど、鉄の剣が1000ガルド以下な事を考えると少々高め? いやでも、一泊換算だと640ガルド程度だし、十分に安いか。


「それでは入りましょうか。ここのご飯はとても美味しいですよ」


 そう言うと、クリアは躊躇なく扉を開けて店内へと足を進めて行ったため、後を追って私たちも店内へと足を進めてみると、少し予想外な内装をしていた。


 外観から想像するに、高級ホテルの様な内装をしているのだろうと思っていたのだけれど。その予想に反して、店内は木の温かさを感じれるような素朴な造りをしている。

 どこか懐かしさを感じる場所だと思う。たぶん例えるなら、田舎の実家に帰って来たような感じかな? いや、私はその感覚はわからないけれどさ。


 そうして店内に入って少しした時、奥から一人の女性が出てきた。おそらく従業員か何かだろうその人を見て、私は驚きで少し言葉を失った。


「いらっしゃいませー……って、クリアちゃんじゃない。久しぶりね、今日はどうしたの?」

「お久しぶりです、シャーリー。私は一週間の宿泊と、晩御飯もいただけますか? こちらは三人分で」

「わかったわ。まずは、クリアちゃんにこれね。今回は205号室よ」

「ありがとうございます」

「それと晩御飯は大丈夫、まだ食べられるわ。三人分という事は、そちらの二人も……あら? 貴女はまさか――いえ、違うわね」


 クリアと女性が話していることはその驚きのせいで、あまり耳には入ってこない。


 私が驚いた理由は、その女性の姿が理由だった。


 その女性の姿はだいぶ成長してはいるものの、私の姿と瓜二つと言えるくらいに似通っていたのだから、驚いてしまうのも無理は無いと思いたい。顔は私より大人びているし、背も髪も伸びているけれど、後ろで一つ結びにしている長い髪は私と同じ輝くような銀色で、吸い込まれるような紫の瞳も全てが私と同じなのだから。


 他人の空似って言葉もあるし、世界には自分と同じ顔をした人が三人いるって話もあるし、ドッペルゲンガーって言う都市伝説みたいなのもあるんだから、そこまで気にする事は無い筈なのに。なのに、何かが引っかかる。


 これは、この感覚は何なんだろう。


「大丈夫? お姉ちゃん、顔色悪いけど」

「へっ? あぁ、うん。平気だよ」

「そう? 平気ならいいけどさ。それにしても、あの人お姉ちゃんに似てるね。10年くらい歳を前後させればそっくりになりそう」

「そうね~、私の若い頃に本当にそっくり。子供は作って無い筈なんだけどなぁ」

「ひゃっ!?」


 少しの間、女性から視線を外してシズクと話していたら、いつの間にか例の女性がこちらまで、というか私の後ろまで来て肩に触れてきたせいで、ビックリして変な声を上げてしまった。


 この人、さっきまでカウンターの向こうに居なかったですかね。本当に、何時の間に回り込んでたんだろう。


「あなた達は初めてよね。私はこの宿屋『女神の宿場』を経営してる、シャーリー・ホーマーよ。気軽にシャーリーって呼んでね」


 従業員だと思っていた彼女――シャーリーはオーナーだったらしい――が、微かに笑みを浮かべながら自己紹介をしてきた。


 オーナーだったこと自体は意外には思わないけど、なんだかイメージとは違う気がする。……従業員だった方が違和感あっただろうけど。


 とりあえずこちらもと自己紹介を終わらせると、どこか納得したような顔をして頷き始めた。一体何を納得することがあったんだろう。


「なるほどね。貴女がクリアちゃんを助けてくれたの、ありがとう。だったら、恩人にはお礼をしないとね。今日の晩御飯代はタダにしてあげる」

「良いんですか?」

「ええ。それと、あなた達は泊まってはいかないの? 泊まっていくのなら色々とオマケしてあげるけど」


 む、なかなかに良いお話だけど、泊まっていくつもりは無かったし。


 どうしようかと、シズクと顔を合わせてみると、シズクもどうしようか悩んでいるらしい。

 そうして二人で相談を始めようとしていた時、シャーリーが今度は悪戯っぽい笑みを浮かべながら小声で話しかけて来た。


「えーっと、二人はプレイヤーさんだよね? だったら泊まっていく方が良いよ。ここには収納が全部屋についてるから持ち物も預けられるし、持てる容量には上限があるからね。私たちも基本的には収納に持ち物を入れてるし」


 と、今度はさっきまでの大人びた話し方とは変わって、こう言っては何だけど、少し子供っぽいような話し方に変わっていたけれど、その話の内容は私の知らないもので、それを聞く限りは確かに泊っていった方が良いと思う。


 またシズクと顔を合わせると、今度は向こうも同じ考えをしているらしく、私たちもとりあえずのところ一週間ここに泊まっていくことになった。その結果、シャーリーが言ったオマケのおかげで一週間4500ガルドのところ、3000ガルドにクリアも一緒にまけてくれた。



 ちなみに、話の内容がプレイヤー以外では話には挙がらないような内容だったから、また少しビックリしたのはここだけの話。




「えっと、それじゃあ二人のお部屋は206号室と207号室ね。クリアちゃんと近い方が良いでしょう? で、次は晩御飯を用意するから右奥の部屋で待ってて頂戴ね」


 微笑みながらそう言うなり、シャーリーは私たちにそれぞれ鍵を渡してから、パタパタと奥へと戻っていった。


 うん、やっぱり他人の空似だろう。きっと、さっきの感覚は私の間違い。私にはあんなにころころと変わるくらいの色んな笑い方は出来ないし。いや、でも……。と、また堂々巡りになりそうな考えに(ふけ)っていると、考えに没頭して動かなくなってる私の手をシズクが引っ張って奥の部屋へと連れて行ってくれていた。


 それに気付いて、慌ててシズクにお礼を言うと、


「あんまり考えに没頭して、やるべきことを忘れないでね。いつも一緒に居るわけじゃないんだから」


 と、苦笑交じりに返ってきた。その通り過ぎて返す言葉もないや。


 そして、奥の部屋――どうやら食堂らしい――のテーブル席に座って少し話をしながらシャーリーを待っていると、十分程してから料理の乗ったカートを押しながらやって来た。


「はーい、お待たせしました。今日の晩御飯は、鶏もも肉の香草焼きと夏野菜のサラダ、それにコンソメスープとパンにフルーツの盛り合わせよ。疲れたでしょうから、いっぱい食べてね? パンはおかわりもあるから」


 私はシャーリーの言葉を聞きながらも、運ばれてきた料理に目が釘付けになっていた。この料理はどれも美味しそうで、いつも作ってる私たちのよりも美味しそう。


 さっそくとばかりに、手を合わせていただきますをしてから香草焼きから取り掛かる。

 香草焼きは皮がパリパリに焼けており、しっかりと熱が通っていることが一見してもよくわかる。そして、切り分けるためにナイフを入れると、中から溢れるような肉汁が流れ出してきた。


 晩御飯は食べていたから、いくらゲーム内だとはいえども入るだろうかと思っていたけれど、この光景はもの凄く食がそそられる。


 お肉を一口サイズに切り分けて食べてみると、その肉汁の量から少し油が濃くてこってりしているのだろうかという予想は裏切られた。鶏肉の大量の油の濃さはハーブによって気にならないくらいに抑えられていて、だけれど鶏肉の旨味はしっかりと口に残りつつ、ハーブ自体の後味もすっきりしている。


 ここまで美味しい香草焼きを、私は食べたことが無い。


 どんな素材を使っているのか気になるなぁ。こんなハーブは見たことないし、近いものも知らないや。


 夏野菜のサラダは彩りが豊かで、どれも瑞々しい。ドレッシングはかかってないみたいだけど、これだけでも十分に美味しそう。


 サラダの中にトマトの様な野菜があったので、それを一切れ食べてみる。


 すると、トマトと同じように酸味を感じるのと同時に、微かに塩のしょっぱさを感じた。何もかかってないと思っていたけれど、どうやら少量の塩が振りかけられていた様子。

 適度な塩が野菜の味を引き立てていて、より美味しさを感じれるようになっていたみたいだ。


 コンソメスープは鶏がらと野菜の出汁から作っているみたいで、二つの出汁が複雑に合わさって、深みのあるとても優しい味に仕上がっている。


 これらからだけでも、色んな工夫を凝らして宿泊客に満足して貰いたいという考えがよくわかる。そうでもなければ、こんなに優しい味を全ての料理で出せる筈が無い。


 クリアがここの料理をお楽しみにさせるのも納得だね。こんなに美味しいのなら、確かに何も言わずに食べさせたくなる。言葉でいくら尽くしても、この美味しさは伝えられはしないからね。


 あまりの美味しさに黙々と食べ続けていたら、いつの間にかフルーツ以外を全部食べきってしまっていた。


 いや、自分でもビックリだ。いくら途中で散々動いたとはいえ、二度目の晩御飯でもここまで食べれるとは思ってはいなかったしね。


 最後のフルーツも食べてしまおう。何気に楽しみだったんだよね、果物好きだもん。

 そうして、最後まで食べ終えると、これまたいつの間にか近くまで来ていたシャーリーが話しかけて来た。


「どう? 美味しかったかしら……って、聞くまでもなかったわね。その笑顔を見れば十分、私も作った甲斐があるわ」

「はい。とっても美味しかったです、私たちが自分で作ったのよりも遥かに」

「それはそうでしょう。これでも何百年以上もここを経営していたんだから、そう簡単に超えられたら私の立つ瀬がないもの」


 え、何百年って……この人、一体何歳なの? というか、この人はヒューマンじゃないって事なのかな。


「そっか、トアちゃんは知らないんだものね。私はヒューマンじゃなくて、いわゆる魔族って種族。こう見えても、もう数千年くらいは生きてるかしら」


 数千年……? この外見で数千年生きてるって、魔族って種族はどれだけ長生きなんだろうか。もしくは寿命が無いとか?


「別に魔族に寿命が無い訳じゃないの。力が強ければ強いほど、魔族は長生きをするし、外見も変わらなくなるの。まぁそういうわけだから、自分で言うのも恥ずかしいけれど私はかなり力の強い魔族、ということになるわね」


 なるほど。


 でも、そうなのだとしたら何でシャーリーは宿屋なんて経営してるんだろう。それほどに力が強いのなら、他にも出来る事は会ったような気がするんだけどな。


 というか、どれだけ強いんだろう。この人は。そう考えた時、クリアのときと同じく私の視界に一つのウィンドウが開いた。



NAME:シャーリー・ホーマー Lv???

HP:???、MP:???、ATK:???、DEF:???、INT:???、MIND:???、STR:???、VIT:???、DEX:???、AGI:???



 あれ、全部のステータスが読み取れない? 何でだろう。


 そのことに少し違和感を感じていると、シャーリーが今度もまた小声で話しかけて来る。


「ああ、私のステータスを見たんだね。プレイヤーの人は、私たちのステータスを見れるんだったっけ。――でも、それじゃあ私のステータスは見れないよ。だって、私は結局ただの残滓でしかないんだから」

「残滓……?」


 どこか悲し気に、更に自嘲気味に呟かれたその言葉が、凄く気になる。

 よくわからないけれど、そんなことは無いと何かが叫んでいる気がして、思わずその言葉を否定しそうになった。


「そう、残滓。でも、これ以上は怒られちゃうから教えられないけど、一つだけ忠告をさせて」

「忠告って、一体」


 けれど、それは言葉にならない。


「私から言えるのは、ただこれだけ。記憶に押し潰されないで」


 なぜなら、続けられた言葉に私の思考は捕らわれてしまったから。


 記憶に、押し潰されない。

 こんな忠告をするってことは、私の事情を知っているのだろうか、この人は。


 今まで自分すらも欺いてきた、あの胸を占める空虚感を。あの、偽りだと思ってしまう思いを。彼女は知っているの?


 いや、でもそれはありえないよね? この世界はゲームの中の世界なんだし……私の事を知っている訳がない。


「っ……!」


 頭が、痛い。


 頭の内側から何かが割り這い出てこようとするかのような、鈍く、鋭い痛みが襲い掛かって来ている。

 それと同時に、なんだか知らない、けれど何故か知っている様な気がする景色が次々に頭に浮かんできた。


 ――暗い、ただただ暗い空。夜でもないのに、光は差し込まない。


 ――何万もの本の壁。何度も何度も読み返したから、その全てのページが磨り減ってしまっている。


 ――ここに、私は一人? 他には、誰も居なかった。親も、知り合いも。何も。本の山の中に、私は独り。


 違う、知らない。こんな場所、私は知らない!!


 ゲーム? これはゲーム、だよね?


 わからない、わからないよ。誰か、私を……助……けて。




 そうして、混乱している私をどこか優しい笑顔で見ていたシャーリーは、見方を変えてみるとどこか、悲しげに微笑んでいるようにも見えた。



日曜日中に上げたかったのですが、思ってたより途中で詰まって時間がかかってしまいました。


それでは、第6回の単語解説コーナーです。


ガルド:この世界での一般通貨


収納:一部の宿屋や、マイホームに設置できるアイテムを収納するための空間。形状は箱やタンスなど様々で、持ち物が上限いっぱいにならないように、必要のない物をしまっておくことができる。


では、今回はここまでです。次話はおそらく早ければ2~3日後になると思います。

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