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闇に溶ける視線
その影は、雑踏の中に佇んだまま動かない。
周囲の人間は誰一人として、その存在の異常さに気づいていなかった。まるで、彼とその影の間だけが世界から切り離されたかのように、冷たい空気が流れている。
ドクン、と再び心臓が脈打つ。
『本能』が叫んでいた。
──あれは、ただの人間ではない。
危険を察知した俺の足は、無意識のうちに一歩、後ろへと下がっていた。逃げるべきだ、という理性が頭の片隅で警鐘を鳴らす。これ以上、あの視線に囚われていてはいけない。
信号が完全に青に変わり、人々が波のように動き出した。その一瞬の隙を突いて、俺は反転し、人混みの中へと駆け出した。
背後から突き刺さるような視線を感じながら、路地裏の狭い道へと逃げ込む。息を荒くしながら振り返るが、そこにはただの薄暗い街灯が灯っているだけだった。
「巻いた、のか……?」
胸をなでおろそうとしたその時、耳の奥に、先ほどと同じ『不規則な呼吸音』が、すぐ近くから聞こえてきた。




