表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【資本主義無双】異世界が太平洋に出現したが、狂った転生商社マンとマッハ1のウサギ村長が地球の超大国を丸ごと買い叩く  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/47

EP 3

アバロンからの親善大使(算盤の通じない世界)

「……クソッ! どうなってやがる!」

執務室のデスクに、政宗の拳が激しく叩きつけられた。

灰皿の赤マルが転げ落ち、床に火の粉を散らす。

魔導端末の画面には、ルナミス帝国の最高峰の医師団や、レオンハートの呪術医たちを莫大な金で雇い入れた『送金完了』の履歴が並んでいる。

だが、彼らがどれだけポポロ村に駆けつけ、最高級の霊薬や魔法を施しても、倒れた村人たちの「魂の摩耗」は1ミリも回復しなかった。

『……王様。私の計算シミュレーションでも、治癒率0%。このままだと、あと数日で村人の精神は完全に崩壊シャットダウンするよ』

通信越しに聞こえる蘭の声も、いつになく暗い。

物理法則や論理のパズルで解けない「バグ」に、彼女のAIも完全に沈黙していた。

「……金で解決できねえ問題なんて、この世にあって堪るか……ッ」

政宗が血走った目で端末を睨みつけていた、その時。

『力武様。……村の正面ゲートに、来訪者です』

外で警戒に当たっていたリバロンから、通信が入った。

『武装はゼロ。ですが……極めて厄介な「外交特権」を持ったお客様です』

ポポロ村の広場。

絶望的な空気が漂う中、空間がガラスのようにひび割れ、そこから禍々しくも美しい漆黒の馬車が姿を現した。

降り立ったのは、アバロン皇国の特命全権大使——魔族の貴公子ルーベンスだった。

「おや。活気に満ちていた『世界の心臓』が、随分と静かになってしまいましたね」

ルーベンスは、倒れ込む村人たちを冷ややかに見下ろし、優雅な笑みを浮かべた。

「てめえらアバロンの仕業か!?」

信長が魔導ライフルを構え、自警団がルーベンスを取り囲む。

「おやめなさい、野蛮な。ガオガオン様の雷が落ちますよ」

ルーベンスは全く動じることなく、肩をすくめた。

「それに、我々は『攻撃』など一切しておりません。あれはただの……自然現象です」

「自然現象だと?」

広場に駆けつけた政宗が、低い声で鋭く睨みつける。

「ええ。我がアバロンの絶対者、魔王ラスティア様。……彼女は今、この村のウサギのお嬢さんに振られたことで、酷く深く『悲しんで』おられるのです」

ルーベンスは、まるで天気の崩れを語るように淡々と言った。

「強大すぎる魔力を持つ者の『悲哀』や『絶望』は、ただため息をつくだけで、致死量の瘴気となって世界を覆う。……今、この村に降り注いでいるのは、魔王の純粋な『悲しみ』。病でも毒でもない。ただの感情の重圧プレッシャーです」

「ふざけんな! それがテロじゃなくてなんだ!」

「法的、ならびに科学的な因果関係は証明不可能です。よって、これは『武力攻撃』に該当しない」

ルーベンスは『方法序説』の冷徹な論理で、政宗の抗議を完璧に封殺した。

「……そもそも、悲しむことを禁じる法律など、この世界のどこにもありませんからね」

完璧な合法。法の網の目をすり抜けた、精神への直接侵略。

キャルルが、震える足でルーベンスの前に進み出た。

「じゃ、じゃあ……どうすれば、みんなを助けてくれるの……っ?」

「簡単なことです。原因を取り除けばいい」

ルーベンスは、悪魔の笑みを浮かべた。

「キャルル様。貴女がアバロン皇国に赴き、我が君と『魂の隷属契約』を結ぶのです。貴女が魔王の所有物になれば、悲しみは消え、瘴気も晴れる」

「……っ」

キャルルが、息を呑んでうつむく。

「させるか、クソ野郎」

政宗が、キャルルを背中に庇うように前に出た。

彼の目は、修羅の『算盤』の光を取り戻していた。

交渉ディールなら俺がやる。……ルーベンス。お前らの目的はなんだ? 資源か? 領土か?」

政宗は、懐から魔導端末を取り出し、画面をルーベンスに見せつけた。

「ポポロ村は今、世界中の中央銀行だ。いくら欲しい? 百億か? 千億か? お前らの国の国家予算の十年分を、今すぐポンと払ってやる。その金で、魔王のご機嫌を取る宝石でも何でも買い集めろ」

政宗のロジックは絶対だった。

地球の超大国ですらひれ伏した、資本主義の暴力。金で買えないものなどない。買えないのは、単に『提示した金額が足りていない』時だけだ。

「……さあ、値段を言え。お前らの『悲しみ』は、いくらだ」

だが。

ルーベンスは、政宗の提示した天文学的な数字を見ても、眉ひとつ動かさなかった。

「……ふふっ。あははははっ!」

やがて、彼は可笑しくてたまらないというように、肩を震わせて笑い出した。

「な、何がおかしい」

「いや失礼。あまりにも『滑稽』だったもので」

ルーベンスは、哀れみすら込めた目で、政宗を見つめた。

「力武政宗殿。貴方は致命的な勘違いをしている。……我々魔族は、寿命を持たない不老不死。食事も、睡眠も、寒さを凌ぐ家も必要としない。……そんな我々にとって、貴方が得意げに見せびらかしている『貨幣(数字)』に、一体何の価値があるのです?」

「……っ!」

政宗の顔から、スッと血の気が引いた。

「金で買えるのは、肉体(物質)に縛られた脆弱な人間の欲望だけだ。我々が求めるのは、そのような下等な紙切れではない。絶対的な『美』であり、純粋な『魂』の輝きのみ」

ルーベンスは、政宗の魔導端末を指先でトンッと弾いた。

「貴方は今、芸術の品評会に『電卓』を持ち込んで威張っている、ただの哀れな道化ですよ。……我々の世界アバロンには、資本(算盤)などという概念は最初から存在しないのです」

ガチャン。

政宗の腕から力が抜け、魔導端末が石畳に落ちて乾いた音を立てた。

(……俺の、算盤が……通じない……?)

金が、世界最強の武力が、全く意味を成さない。

己が信じ、世界をひれ伏させた誤った信念が、目の前の魔族の冷たい微笑みによって、根本から粉砕された瞬間だった。

「期限は三日です。三日後、この村の魂は完全に擦り切れ、全員が二度と目覚めぬ植物人形となるでしょう」

ルーベンスは優雅に一礼し、漆黒の馬車へと戻っていく。

「よくお考えください、キャルル様。……貴女のその『愛』とやらで、算盤の壊れた村をどう救うのかを」

馬車が空間の裂け目に消えた後も、広場には絶望的な静寂だけが残された。

政宗は、足元に落ちた端末を見つめたまま、一歩も動くことができなかった。

世界を支配したはずの悪徳商社マンは、今、たった一つの村の命すら救えない「無力な男」に成り下がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ