EP 24
開戦(世界を買う男)
冷え切った執務室に、政宗の低い声が響いた。
「どいつもこいつもよぉ、、たった1人の女によってたかって、、気に入らねぇな」
画面の向こうの『怪物たち』——各国の首脳陣は、突如として割り込んできた見知らぬ日本人の青年に、怪訝な顔を見せた。
アメリカ第七艦隊のフォークナー海軍大将が、不快げに葉巻を咥え直して声を荒らげる。
「だ、誰だ!貴様は!」
「黙れ三下共」
政宗は赤マルからタバコを1本出して火を付けた。
カチッ、というライターの無機質な音が、奇妙なほど大きく執務室に響き渡る。紫煙を深く吸い込み、画面の向こうの権力者たちの顔へ吹きかけるように細く吐き出した。
政宗の背中で、彼のジャケットを掛けられ、限界を迎えて意識を失いかけていたキャルルが薄く目を開けた。
彼女は、ボロボロの体で政宗の背中を見つめ、震える声を漏らす。
「政宗く、、くん?」
政宗は振り返らず、キャルルの頭をポンと無造作に撫でた。
「キャルル 後は任せろ」
その言葉には、一切の迷いも、打算もなかった。ただ純粋に、彼女をこの理不尽な重圧から解放するという絶対的な意志だけが込められていた。
国家のトップを「三下」呼ばわりした謎の男の不遜な態度に、中国の張大使が顔を歪め、ロシアのオルロフが怒号を飛ばす。
「な、名を名乗れ!」
政宗は、ニヤリと凶悪に口角を吊り上げた。
かつて、ゴルド商会で血も涙もない冷徹な商社マンとして恐れられた、本物の『修羅』の顔。
「俺の名は力武政宗 この喧嘩、、俺が買ってやるよ!」
宣言と同時だった。
政宗の左手が、傍らに置いていた魔導端末の実行キー(エンター)を、文字通り『叩き割る』ほどの勢いで打鍵した。
ターンッ!!
「……狂人が。言葉遊びに付き合う暇はない、通信を切れ」
日本の若林幹事長が呆れたように鼻で笑い、側近に指示を出そうとした、その時である。
ピーーーーーーーーーッ!!!
各国の首脳たちのいる部屋——ホワイトハウス、北京の執務室、モスクワのクレムリン、そして日本の官邸のシステムから、一斉に鼓膜を破るような非常警告音が鳴り響いた。
「な、なんだ!? 何事だ!」
画面の向こう側で、怒声と悲鳴が入り乱れる。
フォークナーの背後にある戦況モニターが次々とブラックアウトし、張大使の持つタブレットが真っ赤なエラー画面に染まった。
「大将! 第七艦隊の補給システム(兵站)が完全にダウンしました! 同時に、ウォール街のメインサーバーが未知のハッキングを受け、米国債が暴落し始めています!」
「張大使! 上海総合指数が異常な速度で下落しています! 軍事物流のAIが全てロックされました!」
「……な、何をした! 貴様、一体何者だ!」
オルロフが、血走った目で画面越しの政宗を睨みつける。
「言っただろ、喧嘩を買ったんだよ。お前らが大好きな『算盤(経済)』の土俵でな」
政宗は、タバコの灰を落とし、冷酷に告げた。
「ゴルド商会の裏ルートを使って、地球の軍事物流と金融ネットワークの心臓部に『世界経済ロック・プロトコル』を仕掛けさせてもらった。……今この瞬間、お前らの国の経済は、俺の指先一つで完全に止まってる」
「ば、馬鹿な! たった一人で世界のシステムを落とすなど、そんなデタラメが……!」
若林が、信じられないものを見る目で政宗を凝視する。
「デタラメじゃねえ。これが『資本主義』の最も脆い急所だ。お前らがこの村を孤立させると脅すなら……俺は、お前らの国ごと世界経済を『孤立』させてやる。数日もすりゃ、自国で暴動が起きてお前らの首は飛ぶぜ?」
政宗の目は、狂気に満ちていた。
彼はハッタリなど言っていない。たった一人の少女を守るために、本当に世界を道連れにして破滅のボタンを押したのだ。
「さあ、交渉の再開だ、ジジイ共。……俺の女に手を出した落とし前、高くつくぜ?」
武力でも、政治でもない。
地球の怪物たちを最も恐れさせる『超特大の経済的テロル』。
転生商社マン・力武政宗による、たった一人での『世界大戦』が、今ここに火蓋を切った。




