18話 城の薬師
タルフはハナが持ってきた甘いお菓子を頬張りながら、ハナの話を聞いていたのだ。
「つまり、一緒に来てほしいんだね?」
「実は、そうなんです。
お妃様をタルフにも見てもらいたいと思いまして・・・
もしかしたら、タルフの生まれた世界では、簡単に治る病気なのかもしれません。」
ハナは大きな黒い瞳を輝かせながら、僕に懇願したのだ。
僕は口の中のお菓子を急いで飲み込むと、ハナをまっすぐに見て話したのだ。
「ハナ・・・確かに、僕がわかる病気かもしれない。
でも、それをどう伝えるんだい?
僕が何か治療を施すことは出来ないんだよ。
この世界の医療技術と、かけ離れた治療をする事は本来許されない事なんだよ。」
僕はこの世界の歴史に関わる事をしたくなかったのだ。
ポラリス様のアクセスが切られた状況でも、彼女の教えを守りたかったのだ。
ハナには申し訳ないが、少し強い口調で話してしまったせいか、ハナは少し戸惑った表情をしたのだ。
しかし、すぐに猫の姿の私の手を握ると、ニコリと微笑んだのだ。
「そうでしたね・・・でも、原因さえわかれば、この世界の治療でも治るかもしれません。
病の原因を突き止めるだけでも大丈夫です。
タルフ、お願いします。」
黒いキラキラした瞳で見つめられると、僕はそれ以上断る事ができなかったのだ。
ハナ達が城に招かれたのは、それからすぐの事であった。
僕は小さなネズミと言う生き物の姿に変わり、ハナの抱えているカバンの中に入り、ちょこんと顔だけ出したのだ。
城の入り口である大きな門の場所には衛兵が数人待機しており、中に入る者達を厳重に確認していたのだ。
ハナから城の中は、ケイシ家や街の家とは違うことは聞いていたが、城の入り口に着くと、その大きさや荘厳さに圧倒されたのだ。
何だかんだと、僕も中に入る事が楽しみとなっていたのだ。
ケイシ家の主人の後に続いてハナと僕も門をくぐると、城の重たそうな大きな扉が開かれ、すぐに大広間に通された。
僕は周りをキョロキョロと見回すと、綺麗に装飾された柱や壁、見上げると天井には素晴らしい絵画を見ると事が出来たのだ。
それは、街では見る事の無いものばかりだった。
まるで、この世界の芸術の全てが詰まっているような城に感じたのだ。
広間には、すでに十人くらいの人達が集まっていた。
今回、同じく集められた薬師達らしい。
ケイシ家の主人はその者達と比べると、正直頼りなく見えたのだ。
しかし、ハナの話によると、多くの患者から信頼されている存在らしい。
少しすると反対側の扉が開き、7人の気難しそうな老人達が入って来たのだ。
その者達に気づくと、誰もが姿勢を正し、頭を下げたのだ。
どうも、この者達が王室に仕える薬師のようで、街の薬師とは立場が大きく違うらしいのだ。
薬師の中でも王室付きは特別で、王に直接進言できる立場であった。
その為、国の祭り事にも大きな影響力があると言われており、薬師であれば、誰もが憧れる存在らしいのだ。
そんな風にハナから前情報を聞いてはいたが、僕にはやはりただの気難しい老人達と言う印象だけであった。
「まあまあ、頭を上げなさい。
よく呼びかけに応じてくれた。
感謝するぞ。
早速だが、知らせの通り王妃様の病状を順番に見てもらおう。
すでに我らがずっと見ておるのだが、王のたっての希望で街の薬師達にも意見を伺いたいそうだ。」
一人の老人が不満そうにそう話したのだ。
無理もない。
王室付きの七人の意見に納得がいかず、街の薬師などの意見を聞こうと言う事自体が、彼らのプライドを傷つけたようなものなのだ。
しかし、仮にもこの国の中では優秀と言われている薬師達なのだ。
彼等でもわからないのであれば、ここに集まった者達でも同じでは無いのだろうか?
王の心配はわかるのだが・・・
僕は何だか釈然としないものがあったのだ。
そんな事を考えていると、気難しそうな老人から、これまでの王妃の細かな病状について説明が始まったのだ。
集まった薬師達は、それぞれメモをとりながら、真剣に話を聞いていたのだ。
ここで、手柄を取る事が出来れば、今後の仕事に大きな影響がある事は誰もがわかっていたからだ。
もちろん、ハナの主人も真剣に話を聞いていたが、他の薬師と違い、出世や金儲けなどには全く興味が無い人物だったのだ。




