第七話・初陣
そして、一週間後の朝がやって来た。
「おい、起きろ雪平」
「おう……」
「今日は町の外に出るぞ」
これが初陣か……緊張するぜ……
これから命がけの戦いが始まるかと思うと……
軽鎧を身につけ、大剣を持って
ヴァイスに連れられ町の外に出る。
門番のおっさんに生きて帰って来いよといわれた。
不安をあおるような事を言わないでくれよ。
「この辺りの怪物の特徴は頭に入っているな?」
「スラだっけ?大丈夫だ」
命が掛かっているから必死にもなる。
「先ずは単体でうろついている怪物を探す」
程なく草原を這う怪物の姿が眼に入った。
一メートルくらいのダンゴムシに似ている。
赤くて硬そうな殻には凶悪な短い棘が生えている。
ヴァイスに聞いたスラという怪物の特徴と一致している。
「先ずは俺が手本を見せるから良く見ていろ」
声を落としてヴァイスは言い、剣を抜き放つと駆け出す。
速い……そして軽やかに跳躍すると
殻と殻の継ぎ目を縫うように
ヴァイスの持つ黒い杭のような長剣が体重を乗せて怪物を貫く。
鮮やかな奇襲だった。
スラと言うらしいダンゴムシの怪物は
ピン止めされた昆虫標本の用にもがいていたが
やがて怪物は動かなくなり、殻だけを残して
その血肉は湿った砂のような物質にあっという間に変わった。
「奇襲で殺せるなら一番良い。怪物の動きに慣れるためにも
お前には動いている奴も相手してもらうが……
本来は無駄にダラダラと戦いに付き合う必要も無いだろう」
ヴァイスは手馴れた手つきで元怪物の殻と砂を掻き分け
ビー玉サイズの小さな透明な丸い結晶を取り出した。
「これが怪物の核だ」
「これが核なのか……」
これも事前に説明を受けたがこの結晶には魔力が封入されているらしい。
使い道は多岐に渡り
バスターの討伐記録にもなるからきっちりと集めるように言われた。
「一番最初はサポートしてやるから怪物を狩って見ろ」
「わかった」
「適当な獲物を見つけたら俺が雷で動きを止める。即座に斬れ」
また単独でうろついているスラを探し……見つけた。
以前の獣避けの結界を張るのは除き
ヴァイスが魔法らしい魔法を使う所は初めて見る気がする。
音も無く黒い長剣でスラを指し示すと……
「雷刃」
ヴァイスは散文的、端的にそれだけ呟いた。
長々とした詠唱も大げさなジェスチャーも何もない。
即座に効果は現れ、一筋の雷光がヴァイスの剣の先端から迸る。
雷に打たれたスラが黒煙と焼ける臭いを漂わせ這いずっていた動きを止める。
「やれ!」
魔法の効果に驚いている暇も無くヴァイスが合図した。
「うおおおおおおおおおおおっ!!」
俺は気合と共に駆け出し、怪物に肉薄する。
スラが大剣の範囲に入った瞬間
大地を踏み込み得た力を腰から腕に伝えそして大剣を振るう。
遠心力の乗った大剣が怪物の殻に激突し……
恐ろしく硬い手ごたえを返す。反動で弾き飛ばされないよう踏ん張り
さらに遠くへ大剣を振り切る感じをイメージして……
「っっしゃあ!」
怪物が折れた棘と斬られた傷口から体液を巻き散らしながら僅かに吹っ飛んだ。
明らかに深々と切り裂かれており……やがて動かなくなる。
こいつも先ほどと同じく殻の一部と核だけを残して湿った砂になる。
「やった……」
思わず深い安堵のため息が漏れた。
「……良くやった」
「あざっす!しかしこいつら本当に硬い……」
「次は一人で動いているスラを相手にしてもらう」
今よりよほど危険だぞ。窮地に陥らない限り助けないから覚悟を決めておけ」
次は動いているこいつらか……まだまだ気が抜けなさそうだ。




