第八話・急襲
ヴァイスのサポート付だが俺は初めて怪物を斬った。
一メートルはあるダンゴムシのような怪物、スラの核を拾うと
今度は動いている奴らを倒すことになった。
怪物の動きに慣れる為に。
「分かっているとは思うが刃の角度と位置が悪いと切れずに剣が轢かれるだけだぞ」
「心配すんなって」
あいつ等は縦回転してくるらしい。
当てる剣先の位置が回転するスラの中心より下だと叩き斬れないだろう。
再び町の外、魔物避けの結界の範囲を外れた草原をうろつく。
単独で地面を這いずるスラを見つけると、俺はこちらに注意を引くために小石を投げた。
「ほら、かかって来いよ!」
そう挑発すると怪物の反応は劇的だった。
丸まってこちらの方に突進してくるのだ。
坂も無いのにその勢いは強烈だ。
まるで自動車……しかも巨大なトラクターについてるごついタイヤだけが
こちらに外れて飛んでくるようだ。
しかもこのスラというダンゴムシに似た怪物の殻には凶悪な棘がついている。
その棘が地面を抉りながらこっちに来る。
あの速度の突進をまともに喰らえば大怪我をすることは間違いない。
恐怖を感じないといえば嘘になる。
だが、あいつの動きは直線的でこっちの体に体当たりしようと狙いをつけている。
それさえ分かれば……
「ここだあっ!!」
俺はスラの軌道変更が不可能なタイミングで
体を左に倒しながら踏み込んだ。
俺の持つ大剣が体の動きと踏み込みに合わせて振られ……
スラは俺の体がつい一秒前まで居た位置……
現在そこには遠心力を乗せて振られる俺の大剣の刃が待つ。
交差攻法、クロスカウンター気味に俺の大剣と回転するスラが衝突した。
大剣の柄から伝わる強烈過ぎる衝撃に手を離さないように握り締め
やがて硬質の殻を打ち破り肉を裂く手ごたえに変わる。
刃が真芯でスラの殻を捉えた瞬間
スラの中身の詰まったタイヤのような構えは崩れ怪物の体がくの字にへし折れる。
へし折れただけでは相手の勢いも俺の大剣も止まらず、真っ二つに叩き斬った。
真っ二つに斬られた怪物がボスッ、ボスッ、と音を立てて地面に落ちる。
「よっし!狙いはばっちりだぜ!」
「お見事」
ふう……
僅か一合、長い訓練に比べて余りに短い戦闘時間だ。
でも実際はこんなもんなんだろう。
だが特訓のかいあって初撃で決めることが出来てよかった……
ダラダラと長引かせて良い事なんかない。
殺るか、やられるかだ。
本当の真剣勝負なんて初めてだったからなあ。
やっぱりどっと疲れが来る。
倒したスラの残骸を見ると程近い所に核が転がっていた
怪物が落としたコアを拾い上げながら俺はヴァイスに尋ねた。
「なあ、ヴァイス、こいつらって本当に生き物なのか?」
「どうしてそんなことを聞く?」
「なんというかその……気になったんだよ
俺たちの世界じゃこんな死んで直ぐに
砂に帰っちまうような生き物居ないし……でもやっぱり生き物なのか?」
「こいつ等は断じて血の通う生命などではない!!」
妙にきっぱりと大声でヴァイスは断言した。
しかも物凄い剣幕だ。
聞いているこっちが驚くくらいに。
なおもヴァイスは続けた。
「怪物と魔物の全ては邪神と魔人の作り出した狂った玩具だ。
人を喰い殺すだけに作り出された哀しくも唾棄すべきモノだ。
絶対に止めさせねばならん。止めねばならぬ。
こんな不毛なことはな」
額に眉根を寄せてヴァイスがそういうのを俺は黙って聞くしかなかった。
彼の酷く強い意志と怒りを垣間見た気がした。
「……こっちに来て見ろ、雪平」
ヴァイスの手招く方向へ近寄ってみるとある物があった。
「うげ……」
ヴァイスに言われるがまま近寄るとそこにあったのは野ざらしの死体だ。
既に完全に白骨化しており割れた頭蓋骨や散乱した骨
それにこびり付いた赤茶けて変色した衣服の残骸らしき布……
錆びた剣が一振り転がっている。
「恐らくはバスターになろうとして怪物に殺された食い詰め者の末路だな」
ヴァイスの声は既に平坦に戻っていたが……
「こりゃひでえや…………」
ヴァイスがあんなに怒りを露にしたのもわかる気がする。
たとえ宗教がかった理由だとしてもこれを許せないというのは良く分かる。
「怪物が居る限りこんな事は日常だ」
「なんとかしなきゃ、ってのは良く分かるぜ」
なんまいだ、と呟いて俺は手を合わせた。
「成仏してくれよ……埋めてやらないか?」
「雪平には悪いが怪物が徘徊するこの草原でそれをする時間は……
それにこういうのはこの辺りには幾らでも転がって……」
「それでもこのままにしとくのは……」
食い下がろうとしたとき、異変は起きた。
「うわあああああああ!!!」
悲鳴のような騒ぎ声がここまで聞こえてくる。
二百メートルくらい先の町に続く街道の方を見ると一台の馬車が疾走している。
その後ろを馬車と同じくらいのサイズの怪物が追いかけている!
鋭角的なフォルムと銀色の金属質の皮膚。
体格を支えるには細い四本の足。
何より目立つのはメスのような形をした巨大な一対の刃の触腕……
まるで金属で出来た巨大なカマキリに似た怪物……
良く見れば馬車の幌の一部は無残に切り裂かれている。
「馬車が襲われている……マリウスか……不味いな。
魔法耐性が高くて地上を徘徊する奴の中では強いほうだ」
「助けに行かないと不味いだろそれ!!」
「……先にいく……何れやりあう相手だ、お前も来い。
だが間違ってもお前は奴の正面には立とうとするなよ」
そういってヴァイスは風のように走っていく。
「ちょっと待て!俺はこの剣あるしアニキみたいに身軽じゃねえんだぞ!!」
大剣の重みがかなり辛いが俺は可能な限りの速度でヴァイスの跡を追った。
ようやくそろそろ女の子が出せそうだ……




