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第六話・修行、遥かに遠い故郷と風呂と音速剣

俺はヴァイスの指導の元、只管に修行と鍛錬に打ち込んだ。

皮鎧に身を慣らし、明けても暮れても大剣を振る日々。

「……腕の力だけで上手く振れる訳が無いだろうが」

「これじゃダメか?」

「それじゃ直ぐに手首を傷める。

もっと足の踏み込みから腰の捻り……

全身の力を使うんだ。

出来るまで今日はやってもらうからな」

中々に難しい。

竹刀とはまるで勝手が違う。

これだけの超重武器を扱ったことは無いからな……

修行の時間は実際以上に長く感じられた。

しかし密度の濃い充実した時間だった。

「まずは縦に振ろうとするな。

担いでからの縦の切り下ろしはその性質上溜めが出来て

重さが乗せられるから威力も大きい分隙もできる。

まずは隙を最小限にすることから考えろ

縦の攻撃は自在に振り回せる膂力と技量がついてからでも遅くは無い」

「はいっ!」

この横振りの攻撃というのが難しい。

全身の力をフルに使わなくちゃならないから

腕も足も酷い筋肉痛になった。

それでも止める訳にも投げ出すわけにもいかない。

やると決めたんだ。

こんな所で止めたら何の為に始めたかも分からなくなる。

「剣を持ったままあの木まで可能な限り早く走れ。

剣先を地面に引きずるなよ」

なるほど、この訓練がどういうのを想定しているのかは良く分かる。

剣を持ったままどれだけ速く敵に詰め寄れるかは大事だ。

構えを作っては構えを解く訓練もやった。

これを可能な限り素早く行う。

これは防御姿勢の訓練だと理解できる。

……分かっていたことだけどやっぱり辛い。

肉体を酷使し苛め抜く過程、辛いものは辛い。

そういえば元の世界の体育会系の部活動全般の事を思い出す。

こういう地味で基礎訓練が嫌で辞めて投げ出してしまう奴らもとても多いことに。

でもやっぱりそういうのを受け入れて何処まで自分で頑張れるかによって

何処まで伸びるかは決まってくると思う。

何処まで育つかも分からない、才能は未知数で頑張っても成果など上がらないかもしれない。

そういうことに努力という水を与え続けることの出来る

環境や意志の強さを持ち続ける事が出来る方が珍しいのだと俺も思う。

何処かの誰かが言っていたがやはり学校は箱庭なのかもしれない。

俺たちは箱庭の中の小さな才能や優劣ばかりに眼が行って

努力することの意味を何処かに見失って忘れてしまいがちだ。

俺の今やっている鍛錬、努力、訓練、修行は

元居た世界でいう頑張りとは何かが違う、絶対に違う。

止めれば、緩めれば、死ぬ――そういう類。

弱い心に流されて少しでも手を抜けば今此処で死ななくても

怪物と戦えば恐らく死ぬ。

情けも容赦も無い相手が本気で殺しに来ることが

そう遠くない未来に確定している……そういう類の剣の修行。

そう、現代では銃を使った戦い方が主だから

恐らくは戦国時代の武士やらがやったのに近いと思う。

今、俺は自らの生存を掛けて剣を振っている……

「ああ、これがただの訓練だったら!!」

俺は叫んでいた。

心の底から今こそそう思う。

ヴァイスは何も言わない。

ただ黙って俺が剣を振る所を見ている。

腕が完全に上がらなくなった所でヴァイスがようやく口を開いた

「……少し体を休めろ」

その時は返事をする気力も無かった。

呼吸が落ち着き、筋肉が溶けそうな疲労を抱えながらも俺は考えていた。

恐れないためにはどうすればいい?

死なないためにはどうすればいい?

ただ只管に、そう浮かぶ迷いを

現実の手法と具体的な行動に切り替えていかねばならない。

生き残る為に。生き残って怪物を倒し、強くなって冷孔を開いて元の世界に帰る為に。

勝利しなければ俺には真の安らぎは訪れない。

かといって手を休めれば心折れたまま妥協と偽りの人生が待っている。

それだけは……それだけは嫌だ。

例え死ぬことになろうとも耐えられない。

思考を必要なことに戻す。

必要以上の恐れは邪魔だ。

恐れて縮こまり、筋肉が萎縮すれば剣は振れまい。

恐れる心を黙らせて、集中すべきは相手の動きと自らの動きの把握。

恐れるくらいなら叫びでかき消す。自らを誤魔化そうとも。

俺自身の継続戦闘能力はどうだ?

元の世界の記憶を必死に掘り出す。

計算が苦手な俺でも、元の世界での最速レベルでの剣速は覚えている。

確か構えから打突まで0.1秒。

……戦闘中の5分、試合中の5分って無茶苦茶体感時間長いんだよなあ……

予備動作や駆け引きを無視すると

最低でも300秒戦い抜くには300回は振れるようにしておきたい……

そんなことを昔考えたことを思い出す。

15分で大体900回……実際はそんなに数を振る事は恐らく無いが。

そういえばそれに合わせて漫画やアニメ、ゲームで出てくる……

音速剣とか剣から衝撃波とか出すのってどれくらいの速さが必要かも考えたことがある。

音速は340メートルを1秒で進む。

一振りの速度が0.0025秒で400メートルを一秒。

三十四倍の速度で動ければ音速剣が可能。

ブン……ブン……とかもっさり、という擬音表現が余りにぴったりな

このクソ重い剣だと気の遠くなる遠さだ。

零一つの桁が余りに遠い遥かな領域。

幻想に近い遥かな領域だといって、目指していけない理由なんか無い。

……もしも魔法がこっちにあるなら、何時かやって見せる。

遥かに遠い世界の故郷も、遥かに遠い剣も、目指して何が悪い!!

そういうことを考える余裕が出来ると

ふと自らの体の臭いが少し気になった。

「そういえばこっちに来てから熱い風呂に入ってねえなあ……」

こっちのファンタジー異世界に来てから余りにも余裕が無さ過ぎた。

宿では水場で体を流してゴワゴワした布で体を拭いていた。

元の世界で学校で練習が終わったあと学校のシャワー室を借りて

そこのボイラーが調子悪くて冷たいシャワーを浴びた気分に良く似てる。

我慢できないことは無いけどさ。

「ヴァイスさん、こっちの世界に熱い風呂ってないの?」

「前から思っていたがちょっと贅沢な奴だなお前は。

熱い湯が張られた浴槽は設備が整ってる高級な宿屋とか

王侯貴族の贅沢品だぞ」

お前の装備とかで色々蓄えが心ともない、とヴァイスが付け加えた。

「あー、こっちではそうなるのか……まあ我慢できないことはねえけどよ……

もう一個頑張る理由が出来たな……絶対に早い所風呂に入れるようになってやる」

女っ気の無さはそのうちどげんせんといかんなあ。

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