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第五話・防具選び

俺とヴァイスは武器屋での支払いを終えて防具を選ぶ店に向かっていた。

武器の支払いの時にヴァイスがバスターカードを見せていたのが

気になったので質問してみた。

「そういえば武器屋の支払いのときにバスターのカードを見せていたのってなんだ?」

「ああ、あれか。バスターカードは商店や宿で提示すると割引が利くんだ」

「へー。便利だな」

「命がけで怪物と戦うバスターへの支援策の一つなんだ。

ただしバスターの資格だけ取って割引サービスだけ

受けようなんて馬鹿が出ることを防ぐため

魔物の討伐記録か冷孔の解放記録の

どちらかが無いまま二ヶ月を過ぎると失効する。

ヒーラーだけ職業の特性上少し毛色が違うが……」

なるほど、色々考えてあるんだなあ。

しかし割引をしても結構な量の金貨を俺の武器の為にヴァイスは支払ってくれた。

これから稼ぐにしても気合入れてかねえとなあ……

「さて着いたぞ、次は防具だ」

俺たちは防具を扱う店に入店した。

金属や鉄の金気のある匂い

それに皮や布、その他得体の知れない獣っぽい匂いもする。

日本の靴屋や服屋にも一種独特な匂いは有るがここまでダイレクトではない。

金属製の鎧や盾、皮製の鎧などは俺でも何とか分かるが……

明らかに謎の生物由来の素材で出来た防具なども置いてある。

「これ、怪物の一部で作った防具か?」

海老や蟹のような甲殻類の殻のような物を材料に作られた鎧を指差してヴァイスに尋ねる。

胴鎧に使えるだけのこれだけのサイズの甲殻を持つ蟹を想像してちょっと俺はゾッとした。

「そうだな、だが今の所お前には縁が無い。

只でさえ重い大剣を振り回しながら重装鎧を身につけて戦えないだろう?」

それもそうだ。

「お前が選ぶべきなのはこっちだ」

ヴァイスが指差したのは皮鎧のコーナーだった。

「軽鎧を身につける前に鎧下を選ばなきゃな……」

当然俺は鎧の選び方や良し悪しなど分からないのでヴァイスに任せることになる。

それから俺たちは随分と時間を掛けて鎧を選んだ。

「鎧下の類……クロースアーマーやギャンベゾンも

身につけずに鎧を直接着込むと擦り傷だらけになるぞ」

「町の中の傭兵とかバスターらしき人にはあんまり気にしてなさそうな人も居たけど?」

町の中のそれっぽい人の中には、明らかに肌を露出した人も居た。

「中には機動性と動きやすさを重視して鎧着込まない奴も居るがな……

怪物の種類によってはキツイ一撃を貰ったら

そこで終わりって奴も居るからいっそ鎧を着ないというスタイルもあるにはある。

だが素人の内から格好やルックスに気を使ってどうするんだよ。死ぬぞ?

そういうことは一人前になってから言うんだな」

もっともな意見だ。確かに半人前以下の段階で見た目を気にしている場合ではない。

「まあ、お前のスタイルだと大剣使いだからほぼ軽鎧一択だな……」

ヴァイスの意見を参考にしつつ俺は鎧や装備の試着を繰り返した。

「フィット感や動きやすさが生死の境を分けるから気に入るまで慎重に選べ」

幾つもの篭手や肩パッドや膝パット、ギャンベゾンやクロースアーマー……

何着もある皮鎧をひたすら着ては動きを確かめ、脱ぐ作業。

「そういえば魔力、とか魔法の掛かった鎧とかもあるのかな?」

気になったのでヴァイスに聞いてみることにした

「当たり前だろ?防護や軽量の術式が刻まれた服や鎧などの防具は当然存在する。

だがお前の先ずやるべき事は軽鎧をつけた状態での動きに慣れてからだ。

最初から魔法頼りにして基本の動きを疎かにして良い訳が無いだろ」

「気になったから聞いて見たんだ。はなから頼る気なんかねえよ」

「そのあたりはバスターに慣れてから防具に不足を感じるなら自分で金を貯めて買うんだな」

「そうするよ」

再び防具の感触を確かめる作業に戻る。

しかし、防具を着け外しする作業というのは思っていた以上に時間が掛かるもんだな。

何時間掛かっただろうか?

ようやく、一通りの防具を選び出す作業が終わった。

「まだぎこちなく着慣れない感じはするが中々様になってるじゃないか」

「そうかな……?」

俺が今現在身につけているのは

体にフィットする黒く染められた皮製の全身ツナギ。

日本であったライダースーツに良く似ていてデザインもそれほど悪くないように思える。

そういえばライダースーツはもしものとき擦過傷を防ぐため実用性があることを思い出した。

その上から金属製の肩パット、肘パット、膝パット。

思っていた以上に動きを阻害しない。

篭手は皮と金属を合わせた物で手の甲の部分には金属板が張られている。

空手やスポーツで使うファウルカップに似た局部を覆う物も身につけている。

重要なことはわかるがちょっとそのままでは気になるところだったが

胴体部分を保護する黒の皮鎧がそれを目立たなくしてくれる。

鋲を打ち込まれて強化されており、色も黒く染められているので皮鎧なのに

そこまでデザインは悪くないように思える。

靴自体は日本で買ったスニーカーのままでヴァイスに問題ないといわれたのでこのままだ。

これだけでもなんだか十分強くなったような気分にしてくれる。

「そこまでさせておいてなんだが、防具自体は決して過信するな。

あくまで怪物との戦闘で受ける擦り傷程度の軽い攻撃のみ防いでくれるだけだ。

避けるのに徹しろ。そして大剣を使った防御技術も覚えてもらう。

怪物のいい攻撃を貰ったら死ぬと思え」

今まで選んでいた時間を全否定するようなヴァイスのあんまりな発言に思わず突っ込んでしまう。

「それってつける意味あるのか?」

ヴァイスは出来の悪い生徒を見る教師のような眼で俺を見た。

「……お前もままごと程度とはいえ剣を振っていたなら心当たりはないか?

小さな擦り傷や傷の痛みで集中を乱された経験は?」

うっ、心当たりがある。滅茶苦茶強い一撃を貰うと胴や篭手越しにも痛いんだよな。

今まで精神力で何とかしてきたつもりだったが……

「何の為に俺が鎧を着込んでると思ってるんだ。

怪物との戦いで万全を期さなくて良い訳が無いだろう。

痛みを堪えるには集中力と精神力が居る。

まだ奴らと殺り合ってたことが無いからわからんだろうが

僅かなこととはいえ無駄に精神力を失うのが

怪物との戦いでどれだけ痛手になるか全然分かっていない。

防具をきちんとつければそんな些細な些細なことでも避けられる可能性が生まれる。

死に易い素人ならなおさら必要に決まってるだろう。

戦闘の些細な事を疎かにする奴は何れ負けるし、怪物との戦いで負けは基本的に死だ」

「……生意気言ってすいませんでした」

確かに、小さなことの積み重ねは大事だと俺も思う。

「分かれば良い。まあバスターの実情を知らないから仕方ない面もあるがな……

おいおい覚えていけばいいさ」

「はい……」

「ああ、あと何故俺が極力魔法抜きでお前を鍛えようとしているか分かるか?」

ヴァイスにそんなことを聞かれた。

ヴァイスに言われた事今まで聞いてきた事を総動員して考えてみる。

そういえば冷孔の無い所では魔法を使うとき精神力と生命力を直に使うと言っていたな……

「魔法に頼るようになると油断が出来て不味いから?」

ヴァイスは少し頷くようにして続けた。

「それも勿論ある。だがそれだけでは正確じゃない。

正確には前衛のバスターとして大成できなくなるからだ。

確かに魔法は便利だ。軽量化や強化が施された武器防具や補助魔法、攻撃魔法。

前衛でも魔法が使えるのに越したことは無いしその恩恵は計り知れない。

だが……解放されていない冷孔の主と相対するときの勝手は随分違う」

「なるほど……」

「閉ざされた冷孔の主と戦うとき

魔法を使うには生命力精神力を嫌でも消耗することになる。

俺たち前衛で武器を取って戦う奴らは魔法のあるなしに戦わねばならんのだ。

雪平、お前は使えるものを何でも使うという道を最初に覚えさせたくは無い。

魔法で強化した武具防具を身に纏い……

町の周りで既に開かれた冷孔の補助を受けて

比較的安全に地上をうろつく怪物だけを倒す……

そういう道もあるし大多数のバスターはそうする」

「それで自分が強いと勘違いすると不味いってこと?」

「その通りだ。それで強くなったと勘違いして冷孔の主に挑んで

無残に壊滅したり命を落としたバスターを幾つも俺は見てきた。

魔法が使えなくなった時点で心が折れたり動揺を表に出すようでは前衛として話にならん」

なんか眼に浮かぶようだわ。

使えるものを使って何が悪い!って感じで。

魔法や武器や防具の強さを自分の強さだと勘違いするとか

周辺の怪物にラクに勝てるから生半可に自信着いちゃって……

自分だけは例外、って思って冷孔に特攻する様を……

そりゃまあ、使えるものを使うことは悪いことじゃないんだけどなんだろうこの違和感。

使えるものを使うことに対する危うさと言うかなんと言うか……

その危うさってどっかで見たこと有るぞ。

「……使えるものは使う、その事自体は構わないんだけど

慣れないというよりは自分のものにしていない事が不味いのか?

教習所出たてのペーパードライバーが走り屋紛いの爆走するようなもんか。

そら事故るよなぁ……となるとあれか。

最初から魔法頼りってのはオートマ車に乗って

町の中回るみたいなもんでそれじゃレーサーや走り屋にはなれねえ。

素の自分のテクニックを磨かねえとな……

魔法に頼り切るってそんな感じなのかなあ」

「そのオートマ車とかペーパードライバーとか言うのは良く分からんが……」

ヴァイスが良く分からないといった表情をしている。

あ、やべぇ。俺には分かるかも知れないけど

こっちには自動車とかねえんだ。

そういえばこっちに来てから馬車は有っても自動車は見かけなかったなあ。

「ええと、車ってのは馬車とか乗り物とかそういう感じ」

この説明でいいのか?もっとちゃんと説明した方が良かったのか?

「なるほど。そういうことならわかる。

どうやら大体俺の言わんとしているところを理解したようだな」

「便利なものを知るのはきちんと基礎を身につけた後からでいい、ってことだろ」

「そうだ。魔法の補助を受けないことは最初は辛いし勿論危険になるが……

怪物の危険を肌で感じ取れるし最終的な地力が全く違うようになる。

雪平、全てに慣れろ。武器にも防具にもだ

これから一週間ほどで地上をうろついてる怪物との戦いで使い物になるように

お前を鍛えていく。一週間後には魔法抜きで怪物を実際に一体狩って貰うからな」

「わかった、やって見せるぜ」

俺は躊躇い無くそう答えることができた。

辛いしキツイ道だが、それでこそやりがいがあるというものだ。

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