第五十七話・落ちる影
クラフトさんの所で俺はようやく完成した新しい武器と防具を受け取った。
大太刀・雪花風月と加速の魔法が篭められたグリーブ。
三百枚近くあった金貨は支払いを済ませた時には約半分に減っていた。
素材は自前で用意して色々オマケしてもらっているとはいえ……
良い武器でしかもオーダーメードだとやはり費用が嵩むようだ。
武具店を出た後二人に聞いて見ると……
「小冷孔の主の素材製の武器の相場はそんなもんじゃない?」
「エンチャントの成されていない普通の金属や皮で作られた武器防具。
それに地上をうろついてる怪物の素材で作られた代物なら一般人でも手が届くが……
オーダーメイドやエンチャント品、冷孔主の素材の物は
金持ちか或いは成功したバスター以外には基本的に手が届かないな」
ヴァイスとミルクがそう話してくれた。
確か金貨一枚十万円くらいだったかな、だとするとこの世界の金貨の価値から考えて
今回俺が作ってもらった大太刀とグリーブを日本円に換算すると全部で千五百万円くらいかな?
小冷孔の怪物退治の褒賞で俺も金貨三百枚くらい貰ったし……金銭感覚がおかしくなりそうだ。
「ふうん、やっぱりバスターって儲かるんだな」
「バスターはパラダイムで最も儲かる職業のひとつだからねー」
「その分、危険も大きいがな。
その危険を少しでも減らすために街の平民がバスターになる時最初にするのは
家財や家を質に借金をしてエンチャント武器防具を買い揃える所から始まる」
ヴァイスがそう説明した。
家財や家を質に必要なのはバスターが死の危険と隣り合わせだからだろう。
順調に行けば返済できるだろうが死亡して借金の返済が無い場合家や家財が取り上げられるわけか。
「あ、そういうのが普通なんだ」
「普通にやっていたら普通にしかなれない。
正直雪平がここまで物になるとは思っていなかった。
最初は諦めて街で暮らす事を選ぶと思っていたが……
良く俺の方針に着いて来れたと感心しているよ」
珍しく感心したような口ぶりで話すヴァイスの言う事も今ならなんとなく分かる。
皮鎧と大剣で魔法も無しに怪物に挑むのは相当な無茶振りだ。
幾ら魔法や武器防具に頼らない地力と基礎力を付ける為とはいえ……
命が乗っているのに更にリスクを上乗せできる奴はそういないだろう。
まあ、あの時の俺には家や家財なんか無かったしどの道魔法武具は買えなかっただろう。
ヴァイスの方針に従う以外選択肢が無かったともいえるかもしれない。
「ただ俺は進む方法があるのに諦められるほど物分りが良く無いだけだよ」
俺はそう答えていた。
彼についてバスターにならなければ俺は多分帰還に近づく事も無く
タジンの町で身寄りも無く日々働いてそこで一生を終えたかもしれない。
今は帰還に近づいている気がするし共に戦う仲間も出来た。
楽な道を選ばず結果的には正解だったと思う。
そんな事を話しながら俺とミルクとヴァイスは王都郊外へ繰り出していた。
久しぶりの怪物退治だ。
「しかし王都って広いよなあ、何かやたら壁や門が多かったし」
王都を出るまでに随分掛かってしまった。
王都郊外の平原から王都を見やるとタジンの街より高い石壁が見える。
その向こうに王城の尖塔や背の高い建物の屋根だけが何とか見えるくらいだ。
「王都はどんどん広がっているの、私もそんなに詳しいわけじゃないけど……
周囲の小冷孔や中冷孔から魔力を送って怪物避けの結界の範囲を広げるの。
その拡大に伴って街の壁や街も大きくなってるのよ」
「へえ~、なるほど。王都の中にやたら壁があったのはその名残か」
「うん、王城周辺を取り巻いてる内壁が元々の結界の範囲。
今は貴族やお金持ちが住んでる地区。
そこから新しく拡大された結界にそって出来た中街と外街が有るんだけど……
それでもやっぱり人の住む場所が足りないのよね……」
ミルクは哀しげに呟いた。
「住む場所が足りない?」
「あれを見て」
ミルクは王街の外壁を指差した。
王都の外壁の外、寄り添うように視界の端の方にみすぼらしいあばら屋やバラックの群れが見える。
「もしかしなくてもあそこって結界の外じゃねえか!?」
「そう。あれはスラム街ね。
お金が無くて土地や家が買えない人や事業に失敗した人……
そんな人たちが怪物に脅えながら暮らしているわ。
人は増えてるのに全然土地が足りないの」
「それなりの規模の街では以前からよく見かける光景だな」
ミルクは哀しげに呟きヴァイスも声を落として呟いた。
「こりゃひでえや……」
あそこで暮らしている人間がどんな暮らし大体想像が付く。
貧乏だけならまだしも怪物の恐怖に常に晒されるとか哀れすぎる……
「あんなんじゃ直ぐに怪物に襲われちまうぞ……」
「一応、あそこにも結界はあるのよ。
ただし、冷孔の魔力補助範囲外だから魔力じゃなくて
あそこに住む人皆の生命力で結界を張ってるの。
だから病気が流行りやすいし平均寿命はすっごく短いって話よ」
貧困や貧乏は俺達の世界でも大きな問題だったが……
それに加えて命の危険が更に追加されるのは酷い話だ。
「……俺達も出来る事を頑張ろうぜ。
まずはこの辺りの怪物を狩り尽くすつもりで戦おう
あそこに住む人たちのためにも」
「そうね……教義では全ての大冷孔が開く時こそ
全ての人が怪物の脅威と苦役と受難から解放される時だと言われているけど……」
残り七つも残っている。
一体何時になったらこんな事が終わるんだろう、と言わんばかりに
ミルクの横顔には憂いが満ちていた。
「……そう長い事はかからねえよ、もうすぐ一個は絶対に開くしな」
俺は搾り出すようにそう言った。
少なくとも、俺が帰る為には一個は大冷孔を開けなくてはならない。
でも関わった彼等を見捨てて俺だけ帰る事が男らしい事か?
いや、それは薄情だと思う。
だがこの世界の事は彼等がケリをつけることが筋ではないか?
俺に何かが出来るとして、部外者で異世界人の俺がしゃしゃりでてもいいものか。
そんな内なる声、迷いが俺の中で渦巻いていた。




