第五十六話・雪花風月
ミルクにはちょっと怪しまれて冷や冷やしていた所に
クラフトさんが話に割り込んだ。
「おう、そうだ。坊主にはこっちのグリーブの方も渡しておくぜ」
そういえばドミンの余った素材で足防具の方も作ってくれるって言ってたな。
タイミングも良いしいろんな意味でありがたいぜ……
クラフトさんはカウンターの下から白銀に輝く脚絆を取り出した。
「へえ……素敵なデザインね」
ミルクが褒めたとおりこちらの方の意匠は凝っている。
膝下の前面を覆うタイプの物で、羽や風をモチーフにした細かな細工が施されており
グリーブの中央にはめ込まれた深い蒼の宝石は……何らかの怪物の核だろう。
裏側には動物の毛皮と思しき緩衝材が張られている。
丈夫そうなベルトで留める様に出来ている。
「おおっ……このグリーブもカッコいいし強そうだな……
怪物の核が埋め込まれてるってことは魔法防具だよな」
「ああ、『加速』の魔法がエンチャントしてあるんだ。
術式を刻んだのは俺じゃねえがな。
念じれば発動するが、実戦投入するまえに使い勝手を自分で覚える事を薦めるぜ」
へぇ、思っただけで発動するってのは便利だな。
「でも常に動きが速くなるんじゃないんだ」
ゲームとかだと結構恒久的な速度上昇とかありがちだけど。
「バカヤロウ、そんな風に使ったら
あっという間に封入された魔力が切れちまうじゃねえか。
坊主、エンチャントされた魔法防具を使うのは初めてか?」
「あ、はい……」
そういえばこの前ミルクと話した時リチャージがどうこう言ってたな。
魔法が付加された武器防具は個別に魔力……MPが設定されてるようなもんか。
そりゃ常に使ってたらすぐに防具の魔力が切れちゃうな。
「だったら説明しとかねえとな。
こいつは自動充填と吸収式の複合型だが……その辺のことは知ってるか?」
吸収式は自分で魔力が篭めることが出来るようにした奴だったな。
その代わり冷孔から吹き出る魔力の薄い街の外では消耗が激しいらしい。
自動充填は街に居れば自動で魔力を貯めてくれる奴だった気がする。
「大丈夫です、その辺りは知ってます」
「こいつは内蔵された魔力を使い切った後、町で自然回復を待つと丸三日は掛かる。
待てないようだったら適当なリチャージ屋を見つけるこったな。
それと加速の魔法を使ったときは普段と動きの勝手が違うから注意しろよ」
クラフトさんからそう注意を促される。
注意の内容はなんとなく想像がついた。
「いきなり加速したらぶつかりそうですもんね」
「新米のバスターが加速の魔法で壁や木にぶつかって怪我するってのも良くある話だ。
グリーブの魔力が切れた瞬間もアブねえ。
その辺はまあ自分で練習してなれとく事だな」
「確かに……怪物に隙を晒すのは間違いなくヤバイから気をつけるよ」
怪物に斬り込んでる途中で加速魔法が切れたら洒落にならない。
タイミングが間違いなく狂うし減速して隙だらけだ。
自転車やローラースケートみたいに、このグリーブの方も
使用感や加速魔法が切れるタイミングを体に叩き込んでおいた方が良さそうだ。
ふと、大太刀のほうに視線を向けるとあることに気がついた。
「そういえばこっちの方の大太刀にも核を埋め込んで魔法を付加することって出来るかな?」
クラフトさんに日本刀の構造や製法の方は一生懸命説明したのだが
それに付加すべき魔法のほうは俺もすっかり失念していた。
クラフトさんもしまった、という感じで頭をポリポリと掻いた。
「そういえばそれも坊主に聞いておくべきだったな。
色々と新しい試みだったから俺もこいつのエンチャントの方まで気が回らなかったぜ」
「いや、俺も魔法に詳しくないからどれをつけていいのやら」
「……その辺りは雪平が補助魔法になれてからで良いだろう。
武器につける魔法効果は慎重に選んだ方がいい」
それまで沈黙を保っていたヴァイスがポツリとそう呟いた。
「そうだな、アニキの言うとおり大太刀に付ける魔法はじっくり考えてからにするよ」
「すまねえな。坊主が次来るまでに柄頭か鍔辺りに核を埋め込める仕組み考えとくからよ」
「何から何までありがとうございますクラフトさん」
「いいってことよ」
「この大太刀、名前って有ります?」
俺はクラフトさんにそう尋ねた。
折角オーダーメードで作って貰った俺の刀だ。
名前くらいは知っておきたい。
「……銘は切ってねえな。坊主が好きにつけるといい」
「それじゃお言葉に甘えて……」
俺は冴え渡る冷たい三日月のような大太刀を眺めながら、しばし考えてこう答えた。
「雪花風月、なんてのは?」
美しい景色や風景を表す言葉に花鳥風月や風花雪月という言葉がある。
それをちょっと自分なりに手を加えてみた。
雪花は雪の降るのを花にたとえた俳句の季語。
風月は心地よい風と美しい月の事だ。
「いいんじゃねえのか?」
「思ったよりネーミングセンスのあるいい名前なんじゃない?」
「ああ、相応しいと俺も思う」
クラフト、ミルク、ヴァイスが同意してくれたので決定だ。
「それじゃ、この大太刀は雪花風月だ。
折角装備も新調したんだし……怪物退治に行こうぜ!!」
俺はヴァイスとミルクにそう促した。
この大太刀・雪花風月のお披露目もしたいしグリーブにも慣れたいし。




