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第五十一話・悩み事

ヴァイスとミルクとの幾つかの今後の打ち合わせをして

食事を終え、宿の庭で大剣素振りの練習をこなした。

本ばかり読んでいては体がなまってしまうからなあ。

現在素振りに使っているのはクラフト武具店で借りた代剣だ。

新しい剣が出来るまでの借り物だ。

全体のバランスの良い品では有るのだけど俺にはちょっと軽くて物足りない。

「……二百九十八、二百九十九、百!!

ふうぅ~こんなもんか……良し、今日のトレーニング終わり!!」

その後俺はすぐさま暁の英雄亭のベッドに倒れこんだ。

……そういえば見たことの無い魚だったが海鮮定食は

塩気が効いていて非常に美味かった。

この世界の食事が塩気の薄いのは

海の大冷穴にオーヴァーロードや怪物が居る事も

少なからず影響しているのだろうと漠然と思った。

日本みたいに塩の工場があるわけでもないし

浜辺や海に怪物が出没するようでは

中々塩などを取る事も難しいのだろう。

この世界の怪物はこんな所にも悪影響を及ぼしているようだ。

「あ~疲れた……」

しかし今日は慣れない本を読み続ける作業で

すっかり疲れてしまった。

だがガイアの極光や神隠しの話など

帰る事にヒントになりそうな情報もいくつか入った。

でもとにかく大冷孔を開けないとなあ……

転移用魔力を確保する為にも大冷孔の開放は必須だ。

「けどその前に中冷孔か……」

つい独り言が出てしまう。

大剣を振る事もそれなりにこなせる様になったし

炎の魔法というか魔法剣も覚えた。

だけど俺はまだまだ強くなった気がしない。

きっと中冷孔の怪物も非常に強いのだろう。

しかし、これまでとやる事は変わらない。

ヴァイスとミルクと協力し、強くなりつつ怪物を倒す。

……怪物に雑魚など居ない。

自分が強くなる事でそれなりに渡り合えるようにはなったが

無敵に成ったわけでは決して無い。

回避や防御の技術が上達しただけで

怪物の攻撃力が完全に無力化されたわけではないのだ。

スラの体当たりですら顔面に直撃すれば大怪我は免れない。

購入したシールドリングも過信しない方がいいだろう。

攻撃を受け続けて魔力が切れたらその間は唯の指輪に戻ってしまう。

もしもの時のお守り程度に考えておいた方が良さそうだ。

確かに良品で防御面も強化されているだろうが

それに頼りきって防御や回避が疎かになれば本末転倒だ。

ヴァイスの言っていた早いうちから魔法や強い武器防具に

頼るなと言っていたのはこういうことだろう。

ドミンに跳ね飛ばされて死に掛けた痛みと苦痛は

忘れられない未熟さの苦い教訓だ。

武器防具に頼って腕を磨く事を忘れたら

防具のエンチャントが切れた時点で死ぬ。

次はさらに攻撃力が高いであろう中冷孔の怪物が相手だ。

用心に用心を重ねた方がいいだろう。

「あー、俺の新しい剣、早く来ないかなあ」

おっと、明日は調整の為にクラフトのおっさんの所に顔を出さないと……

そういえば……ミルクの奴、元気なかったなあ……

中冷孔を開放するって言ってた時あんまり乗り気じゃなかったし。

うーん、何か悩み事でも抱えているのかな?

話してくれれば良いのに、とふと思い

俺の方も隠し事をしている事に気がついた。

本当はパラダイムの人間ではないことを。

俺は自分に素直に生きたいと思っている。

だから、隠し事や嘘は好きじゃない。

でもミルクはガイアが死後の天国だと信じている。

彼女にそんな事を言っても信じてもらえるかどうか……

それにこの世界には魔人族とかいう奴等も居て

そっちのほうを連想してしまうかもしれない。

そういうのの勘違いでトラブルに巻き込まれたくはない。

仮に話したとして頭のおかしい奴扱いや誇大妄想扱いされたり

したときの事を考えると気分が沈む。

唯でさえまだ俺は未熟で足手まとい気味なのに。

嘘はつきたくないし隠し事をし続けるのは

俺の性格上絶対向かないのは確かなのに

話す内容がこっちの常識と照らし合わせると

突拍子も無さ過ぎて信じてもらいにくいかもしれない。

目的のみを見据えるヴァイスのアニキみたいに

些事って片付けてくれるかどうか……

アニキも余り人に触れ回らないほうがいいって言ってたしなあ。

俺は乱暴に頭をかきむしった。

「ああもう、どうすりゃいいんだよこりゃ。

嘘は言いたくない、けど本当の事を言えば面倒が出る。

悩むのは俺には向いてねえのに……

もうとりあえず寝ちまおう……」

こういう答えの出ない悩みに向き合うのはどうも困る。

いくらでもやる事は有るのに……

この事についてはとりあえず現状を保留にしておくしかないな。

今なら泥のように眠れそうだ……

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