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第四十八話・ガイアの極光

とりあえず、スフレが置いていってくれた

冷孔転移と地脈の本について読み進め始めることにした。

これを読破し、元の世界に戻るための転移の術式を

見つけ出さなければならない。

もしガイアに直接転移出来る術式が無かった場合

一から自力で作り出さねば成らないと思うと少々気が重くなる。

「うう……」

思わずうめき声が出てしまう。

本は古びていてかび臭いつんとした匂いが鼻を突く。

開いたページからは素早い動きの銀色の虫……

小さな紙魚がシュッと床を滑りまた本棚と本の隙間に消えていく。

それはまだ些細な事だった。

染みの有る羊皮紙に目を凝らし

魔力を目に集めて翻訳の術を使いながら文字を追うのは

想像以上に辛い作業だった。

パラダイムの言語で書かれている文字を

知っている日本語に置き換えてくれる翻訳術式の使い方は

一度覚えてしまえばさほど難しくは無かったが……

「これ一日や二日じゃ終わりそうにねえぞ……」

早くもうんざりした気分に襲われる。

概念と計算式交じりの転移術の専門書は

お世辞にも数学が得意とはいえない俺にとっては

翻訳術の連続使用とあいまって精神的に非常にしんどい。

怪物と戦ったり修行してるほうが遙かに気分的に楽だ。

しかし日本で受けてた数学の授業や勉強みたいに

諦めて居眠りしたりほっぽり出したりしようものなら

永遠に帰れない事が確定する。

「とほほ、俺がこんな形で勉強する羽目になるとは……

もうちょっと真面目に数学やっときゃ良かったかも」

嫌でもやらざるを得ない。

高度な数学とは縁が無いと思ったら必要になる日が来るとは皮肉だ。

睡魔を振り払いながらページを捲る。

「……計算式は後だ後……

もうちょっと基本的なとこからやらないと多分わからねえ。

とりあえず分かる所だけ拾っていかないと……」

ページ全体が掛けて来る難解さの催眠術に

抗いながらなんとか読み進める。

「自由転移の失敗例……」

大変グロテスクで悲惨な失敗例が幾つもあった。

体の一部が空間に切断されて転移した地点に残されたり。

人間の体がゼリー状に融解したり……

あるいは、術を発動した瞬間、本人そっくりな石像が

発動地点に現れたりしたらしい。

「ぐ、グロい……失敗するとヤベえ事になるんだな転移って……

えーとなになにこれ以降自由転移は……

術式の難易度や危険性から衰退し……

自由度は低くなるが地脈を利用した安全で簡単な冷孔転移に推移していく事になる……」

……後は再び術式についての考察や論文が続く。

ひとまず本を閉じて積み上げた本の山に戻す。

今度は地脈について書かれた一冊を手に取る。

「あ、こっちの方がまだ分かるぞ……」

こちらの本は術式や計算よりも

地脈についての解説や伝説や伝承が主な内容だ。

その名の通り主に地下を通るからと言うのが地脈という名称の理由のようだ。

地脈と言うのはどうやらパラダイムを通る魔力の通り道らしい。

冷孔から出る魔力が順路を辿って冷孔から冷孔へ移って世界中を巡る。

その際に、魔力の流れが空間をトンネル状に捻じ曲げ、かつ安定させる。

その空間のトンネルを魔法で強化したりその順路に沿う事で

長距離のテレポートが簡単かつ安全に行える。

……ただし順路が決まって居る為

自由転移のように座標を指定して好きな所にいくことは出来ない。

怪物が居座る冷孔は魔力が全て怪物に吸われる為地脈は塞がっている。

「……ちょっとまてよ。

好きな所へ行くテレポートは冷孔転移が出来てからは廃れてる。

これだと地脈が繋がってるパラダイム以外の場所には

簡単には行けないって事じゃないか。

何か良い方法は無いのかよ……」

さらにページを追うと地脈の伝承や伝説のページに移る。

「ガイアの極光……?」

そのページには、時たま地脈が乱れて

本来地下を走っているはずの魔力の奔流が地上に噴き出し

天に向かって魔力が吹き上げ、七色の極光になる現象に付いて書かれていた。

「これは……!!」

ヒントになるかもしれないと貪る様に先を読み続ける。

「この自然現象は吉兆とも凶兆とも呼ばれており……

ガイアの極光の根元には宝物が埋まっていると言う伝承や

三回願い事すると叶うと伝えられている。

いやいや、もっと他に……」

次の項目は神隠しについて書かれている。

この極光の根元を探ろうと追いかけていった人間が消え去ったらしい。

他にも、この極光が千二百年ほど昔に

小冷孔に作られた鬼人族の村で立ち昇り

その時たまたま転移魔法陣が起動中だった為に

魔法陣の周囲に居た数十人が行方不明になったらしい。

「……神官たち曰く、ガイアに導かれたと主張する。

逆にソーサラー達の見解では地脈の乱れによって地中や

この世の何処かのあらぬ所に飛ばされた可能性のほうが高いと言い張っている……」

これは、パラダイムからガイアに行った種族の話かな?

さらに読み進めると逆に極光から落ちてきた

見慣れぬ人間族の話もちらほらと見かける。

その多くが死んでしまうという。

高所から落下して落ち所が悪かったり……

ガイアの極光の多くは街の外で立ち上る為、怪物に食われてしまった人間も多いと言う。

これにはちょっと背筋がぞっとした。

「確かに俺、高い所から落ちてきたわ……」

あの時木と建物の残骸がクッションにならなかったら。

もしヴァイスが通りかからなかったら怪物の餌だ。

「俺……運良かったんだな……」

しみじみとそう呟いた。

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