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第四十六話・知の蔵

俺はミルクと共に魔法書庫に入った。

僅かな黴の臭いと羊皮紙独特の匂いが入り混じっている。

ずらりと並んだ本棚には所狭しと本が納められていた。

がっしりとしたオーク材で出来た本棚が

年月の経過を経て飴茶色の良い色合いになっている様は素人目に見ても渋い。

アンティーク家具のファンが見たら泣いて喜びそうだ。

「あ、学院外からのお客様ですね」

書き物机に向かって一人の妖精族の女性が座っていた。

こちらに気づいた彼女は手を止めて軽く頭を下げた。

綺麗な女の人だ。

身長は140センチくらい、緑のロングヘア。

背中の蜻蛉にも似た光の翅は

椅子を貫通している所を見るとどうやら実体ではないらしい。

「私はこの魔法書庫の司書のリエージュです。

入出簿にサインをするのでお二人のお名前をどうぞ」

リエージュさんは穏やかに挨拶した。

「私はミルクです、よろしくお願いしますー」

「あ、俺は雪平です、どうもよろしくお願いします」

俺とミルクも挨拶した。

「雪平さんにミルクさんですね。

本は汚したり破いたりしないよう気をつけてくださいな。

あ、此処の本は魔法学院関係者以外には

基本的に禁帯出なので学外のお客様に貸し出しは出来ないの……ごめんなさいね。

代わりに本の場所の事で分からない事があったら聞いてくださいね」

ううむ、魔法書は学院関係者以外には禁帯出なのか……

まあ、そういえばこの前ミルクたちとの会話で本、

特に魔法書が高級品っていってたからな……

俺の居た日本でも本屋から大量に本をパクって

古本屋に売る万引きが後を絶たないって話はよく聞くし……

こっちでもそういうのは深刻なのだろう。

持ち出されて売られたら大変だろうしなあ。

「ミルクさんと雪平さんはバスターの方ですか?」

「ええまあ……神官もやってますけど」

「そうです」

「まあまあ、進んで魔法の知識を求めるのは感心ですね。

此処の学院生や教授以外で魔法の知識を

求める方となると専門の魔道具職人さんや

怪物に対抗する更なる知識を求めるバスターさんくらいの物ですから……

応援してますよ、頑張ってくださいね」

「はい!それでえーと、私は風属性関連、治癒関連の魔法書が読みたいんですけど……」

「それでしたら向かって右側から三列目の書棚は全て風術です。

中級、初級ほぼ全ての魔法系統のものが置いてありますね。

治癒、治療、回復を扱う術書は……右側から八列目の手前の書棚がそうです」

リエージュさんは丁寧にミルクに指し示した。

「わかりましたーご親切にありがとうございますー

……ひゃー、あの一列全部風魔法の魔法書か……

大聖堂の経典院にも負けてないかも……」

そういってミルクはお目当ての本を探しに行った。

「雪平さんはどんな本をお探しですか?」

「俺は転移や地脈に関する専門書とかあとは炎属性の術が書かれた本で」

調べる事は転移や地脈関連の本だが

時間があったら炎の術の本にも目を通して置きたい。

「炎属性の術書は右側から一列目の棚全てですね。

転移や冷穴、地脈に関する専門的な本は……

確か一番左側の最奥、三千世界儀のオブジェがある前の書棚がそうですよ」

三千世界儀?

オブジェって行ってそれっぽい置物があるところがそうか。

「どうもありがとうございます。

また分からなかったら聞きに来ます」

「頑張ってくださいねー」


 ††††††††††††


柔和に微笑むリエージュさんに教えてもらった通りに書棚の列を進む。

「一番左側の奥でオブジェのあるところ……」

本棚と本棚の間にテーブルが置かれており

その上に奇妙なものを見つけた。

一言で言ってしまえばガラス製の透明な重箱だ。

上から見た形は正方形。一段の高さは五センチほど。

背の低い水槽を三つ積み重ねている。

一番上段の水槽には白く染められた液体が詰められている。

中段には透明の液体のなかに銀粉が均等に混ざり

蒼い怪物の核が一つ浮いている。

どうやらこの核が水槽の中に流れを起こしているらしい。

下段は黒い水が詰められていて何も見えない。

「……なんだこりゃ、これが三千世界儀って奴なのか?」

「そのとおりっ。ガイアとパラダイムとヴォイドの世界モデルだよっ!!」

「うぉっ!!」

背後から急に声をかけられた。

幼い女の子の声だ。

「ガラスが次元の壁。

浮いてる蒼い核がパラダイム。

混ぜられた銀粉は遠くの星々。

本当は一個の水槽が無限の厚さと広さを持って、無数の星を内包してるんだけど……

観測限界の千億二乗リルテを持って暫定的に

縮尺をこの大きさまで縮めてあるんだよっ。

しかもあくまで分かりやすさ重視だから次元の壁が

本当にこの形してるかどうかは誰にも分からないのさっ」

一息、しかも物凄い早口でまくし立てる声の主を振り返ると

リエージュさんよりもさらに小さな妖精族の少女が立っていた。

「……ど、どちらさま?」

あっけに取られた俺は

とりあえず一番の疑問を口にした。

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