第四十話・金の羊毛亭
ヴァイスが向かったのは街の一角に有る大きな酒場だった。
大きな看板に羊の絵が書かれている。
「なんて書いてあるんだ?
俺も文字が読み書きを覚えた方がいいかもなあ……」
「金の羊毛亭、よ」
ミルクが説明してくれた。
「訓練や怪物狩りの合間でいいなら私が教えてあげようか?」
「よろしく頼むよ」
そんな事を話しながら俺達は酒場のドアをくぐった。
「いらっしゃい!何にするんだい?」
陽気で恰幅のいい酒場のおかみさんが俺達に声をかけてきた。
「この店にクラフト武具店の主人が来ていないか?」
「酒場で話が聞きたかったらまず何か頼むのが筋ってもんじゃないかい?」
ヴァイスがそう尋ねるとおかみさんはちょっとだけ顔を顰めてこういった。
「……とりあえずエールを一つ。
……ミルクと雪平も何か頼んだ方が良い」
ヴァイスにそう流されてミルクは書いてあるメニューを眺めた。
「あ、じゃあ私はこの特選ミックスジュースで」
「何頼んだらいいかちょっとわからねーし
俺もミルクと同じ奴で良い」
「はいよっ、ちょっとまってな」
そう注文するとおかみさんは途端に笑顔になり
程なくしておかみさんが泡立つ黒いビールと
乳白色の飲み物がなみなみと注がれたジョッキを持ってきた。
「それで話の続きなんだが……」
「ああ、クラフト武具店の旦那だね。
あそこの窓際で飲んでるのがそうさ」
そう告げるとおかみさんは仕事に戻っていった。
ヴァイスは一息にジョッキの中身を空けると軽く額に手を当てた。
「……ふう……こればかりは何時までたっても慣れんな……
二人はゆっくりそれでも飲みながら待っていてくれ」
アニキはお酒が苦手なのだろうか。
「おう」
「はーい。あ、このジュース美味しい」
ミルクに習ってジュースを一口飲んでみる。
牛乳に桃とリンゴを混ぜたような薄い甘さのジュースだ……
確かに悪くない。
ヴァイスが向かった方向に眼を向ける。
日本で見る透明なガラスではなく黄色い色ガラスの窓の傍には飲んでいる男が居た。
「てやんでぇばぁろぉー……」
禿頭で態度はぶっきらぼう、肩幅の広くがっしりした体格。
厳つい顔には口の周り全体的に一センチくらいの髭を蓄え
肩幅は広く手はごつごつしている。
まだ日も高いと言うのにオーク材のテーブルの上には幾つものジョッキが転がっている。
その男はまた一杯とエールのジョッキを飲み干した。
「おかみさんもう一杯エールだ!!
まったくどいつも……こいつも……
今日びの奴らと着たら……
見てくればかりに気を使いやがって……
そりゃおまんまを食うために
……そういう仕事もやんなきゃなんねえのは……百も承知だがよ……
だが入ってくるのはそんな仕事ばかり……
これが呑まずにやってられっかってんだ畜生め……
……武具ってのは……そういうもんじゃねーだろうが……
怪物をぶっ倒す為にあるんじゃねーか……」
こちらにも聞こえる大声で管を巻いている。
「ああクソご先祖様みてぇによぅ……
一流の戦士一流のバスターのための仕事がしてぇなあ……」
「ならばその仕事、受けてみる気はないか?」
ヴァイスはそう切り出した。
「ああん……?」
「誰だてめぇは……?」
いぶかしげに武具店の主人はヴァイスをにらみつけた。
「ヴァイス、バスターをやっている」
「ヴァイス、だあ?随分な優男だな……
その名前を名乗る銀髪紫眼で
人間族の剣士って奴らならそれこそ掃いて捨てるほど……」
そう言いつつ、ヴァイスは店で買った指輪をテーブルの上に置いた。
クラフトのおっさんの目が酒でとろんとした眼から
鋭いまなざしに変わったように俺には見えた。




