第三十九話・鑑定眼
「うーん……」
俺達はクラフト武具店の武器防具を見て回っている。
デザインや象徴性に優れた武器防具は
数多く置かれているのだが……
「……ん?」
その中で少し武器防具と言われると首を傾げる物が
おかれている一角があった。
「おーい、これってどういう風に使うんだ?」
俺はガラスケースに入った装飾品類を指差した。
金細工のブレスレットに核が嵌め込まれたものや
同じく核が象嵌された銀細工のリング。
バックルに核が使用されたベルト。
ネックレスやブローチなどが入れられている。
「あー。シールドリングの類かあ……」
近寄ってきたミルクがなるほどという感じで呟いた。
「要するに魔法が封入されたアクセサリね。
貴族の護身具としても人気なのよね。
この銀の指輪なんか念じて翳すと結界の盾を創るタイプね」
「へぇ……」
そういうのも有るのか……
「でもこれも高いのよねえ……
見てこの値段、最低金貨十二枚からよ」
身につける分には良さそうだが
この手の品で固めるとなるとあっという間に散財しそうだ。
こちらに気が付いたヴァイスがやって来た。
「……武器防具ばかりに眼が行って
そちらアミュレットやタリスマンの方は確認していなかったな……」
そう言ってヴァイスはガラスケースを覗き込む。
「……不適格、並、並、不適格、並、並……」
端的で容赦の無い冷たい口調でヴァイスは
一つ一つの装飾品を指差しながらつまらなそうに呟いた。
「一体どういう基準で選んでるのよ。
このブローチなんて綺麗だと思うんだけど……」
ミルクがヴァイスに尋ねる。
「封入された術式の精度、核の純度と容量。
魔力に対する術式効果比率を見ている。
そのブローチは良い核を使ってはいるが術精度が良くない、並だ」
デザインや見た目などについては一切触れていない。
「完璧に実用面しか見てないわね……」
ミルクが呆れたような苦笑いを漏らした。
「アニキらしいっちゃらしいけど……」
「美術工芸品としてはこの値段でもおかしくは無いだろうがな」
綺麗に磨かれたメインの装飾品展示ケースから
ヴァイスは興味が失せた様に冷たく視線を外した。
「む……?」
クラフト武器店の片隅、本当に目立たないコーナーの一角
紙が張られた埃を被った装飾品展示ケースに彼は目を留めた。
「あの張り紙なんて書いてあるんだ?」
「在庫処分品一律金貨一枚だってさ」
ミルクに尋ねるとそんな答えが返ってきた。
ヴァイスはケースの埃を無造作に払うと
食い入るように真剣に張り紙のされた装飾ケースを見ている。
「なんか良いものでもあったのか?」
「……係数四、良品」
良品と言う評価が初めて出たぞおい。
「はい?」
ミルクが素っ頓狂な声を上げた。
「……此処の奴をいくつか買ってとりあえず出るぞ」
最早決定事項といわんばかりにヴァイスは端的に言った。
「ちょっとどういうことよ?」
「後で説明してやる」
その後直ぐにさっきの店員さんが呼ばれてケースの鍵を開けた。
「このアクセサリの作者は分かるか?」
カウンターで支払いをしている際
ヴァイスはポニーテールの女性店員にそう尋ねていた。
「これですか?これはうちで作った品物じゃないんです。
魔法学院のスフレって人が作った物で……
彼女変人って話だし……この指輪見た目がちょっと地味ですし……
私はどうかと思ったんですけど……
お父さんが置いてやれ、って勝手に決めちゃって……」
「そうか……代金はこれでいいな?」
「はい、ありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております」
店を出た俺達はヴァイスに尋ねてみた。
「あの店良くなかったのか?」
「……そんなことはない、只本当に使える実用向けの品が
見えるところには置いていないというだけの話だ……
どうやらあの店、眼の効かない奴には本物を売る気も武器を作る気もないらしい」
「どういうことよー詳しく説明しなさいよー」
「……まずこのシールドリングを見てみろ」
ヴァイスは先ほど叩き売りというか投売りのコーナーで買った
核の付いた銀の指輪二つを取り出して俺達に渡した。
素材は銀らしいが黒ずんでいて殆ど輝いていない。
「全然手入れされてないわね……あれ、でもこれ……?」
「ん……黒ずみにまぎれてるけど……」
非常に細かい文字がリングの裏にも表にも刻まれている。
「封入術式は強力な対物理結界。
魔力の補給方法は充填式、吸収式のハイブリッド……
しかも自動充填機能付きだ……」
「ちょっと待って!その魔力充填方式って最高級品じゃない!!
間違っても金貨一枚で買える代物じゃないわ!!」
ミルクが驚いて声を上げた。
「ごめん素人の俺にも分かるように説明してくれ」
「私はヴァイスさんみたいに魔法武具の目利きで
術の詳しいところまで分かるわけじゃないけど……
ええとね、魔法武具やこういうアクセサリーが効果を発揮するためには
魔力が必要……それが切れると普通の材質に戻るってのは
さっき店の中で説明したわね」
「おう」
「そういう魔法武具の魔力充填方式には幾つか種類があるの。
一般的なのが怪物の核の結晶に魔力を貯めて服やアクセサリに取り付け
それが切れたら町のリチャージ屋やソーサラーに魔力を補充してもらう充填式。
私の今着てる神官服のスペルクロスがこれね」
「続けてくれ」
「もう一つが吸収式。身につけた人間の魔力を吸い取って術式を起動するタイプ。
充填式は核にある魔力を使うから町の外でも消耗は無いけど切れたら町でチャージしないと駄目。
吸収式は身につければ自前の魔力がある限り効果を発揮し続けるけど消耗は激しいの。
「両方一長一短あるわけだな」
「で、その上位互換バージョンがハイブリット式。
充填と吸収を組み合わせて、核に充填されてる魔力を使い切ったら
こんどは吸収式に移行する……それに大気に魔力がある所なら
自動で核に魔力を貯める自動充填機能をつけたものが最高級品なの」
「なるほど……大体分かったぜ」
ハイブリット式+自動充填機能>ハイブリット式>吸収式or充填式
こういうわけか……
「これを作った人間はかなりの腕前のソーサラーである事は確かだ。
術式を限界まで入れる為に曇り止めの術式を削ってある。
守るべきは指輪の輝きではなくそれを嵌める人間ということだな……」
ミルクが俺に説明し終わったのを見計らってヴァイスが口を挟んだ。
「店番の娘はともかく
品物を作っているという店主の腕前がヘボとはどうも俺には思えん」
「見た目ばかりって酷評してなかったっけ?」
「泥を被り怪物と戦えば駄目になるであろう華美で精緻な細工……
あれだけ見事で美しいものを作れる腕があるのにか?
……おそらく店頭に置いてある武器や鎧が
一度も戦場に出る事は無い事を店主は理解しているんだ」
「一度も戦わない……あ、わかったかも?」
ミルクは何かに気が付いたようだ。
「カッコいい装備したいだけ貴族のボンボンや華美な鎧を美術品として
手元に置いて置きたいだけの商人とかが買うんじゃない?」
「ああそういうわけね……そういえばヴァイスが典礼用って言ってたなあ……」
ミルクの話とヴァイスの説明で俺にもなんとなく理解できた。
ターゲットにしている客層の違いと言うか……
まあそういう典礼用やファッションとしての用途もあるだろうが……
なんというか……あのクラフト武具店の主人は
見る眼のない奴に怪物と戦え役に立つ武器防具を売るつもりは無いのだ。
怪物と戦う事がどういうことか分かってなくて
只人気やブランドの有る物を求めるボンクラバスター……
権威や武具の見た目だけを重視する実の無い奴ら……
或いは武具防具にそれ以外の価値を求める上流階級……
そういう奴らには綺麗でカッコいいだけの武具で十分……
おそらくそういうことなのだろう。
「ようやく気が付いた気がするよ……
ヤバイ強度を持ってる怪物の甲殻製の武器防具なんか殆ど見なかったしなあ……」
俺にも怪物の素材製かどうか位の見分けなら何とか付く。
「今のところそれだけ分かれば十分だ雪平。
……それでも対人や地上をうろつく怪物には十分だろう」
「あぶなー……余計な恥を掻かなくてすんだわ……
……ちょっと反省かも……
綺麗さにつられて本質を見る眼がないってのは頂けないわ……
でも客を試す真似をするなんて性格悪いわよねー」
「……武具は本来使用してこそ価値が出る。
職人の誇りと貴族に対する皮肉なのだろう……
気難しいと言うのは本当のようだな……」
「で、ヴァイスのアニキ、俺達は何処に向かってるんだよ?」
出てきたはいいがヴァイスが何処に向かっているのかさっぱり分からない。
「酒場だ……」
「え?」
「はあ?」
俺とミルクは一緒のタイミングでヴァイスのセリフに疑問の声を上げた。
「なんでまた……?」
「一体どんな用があるってのよ」
「……俺の予測が正しければあの店の店主は昼間から酒場で飲んだくれているはずだ……
鍛冶の腕の振るい甲斐の無い奴らばかりに飽き飽きしながらな……」




