第三十七話・偉大なる剣士の後裔
王都クルーゼの広い通りには立派な建物が軒を連ねている。
商店の類の量も質もタジンの街とは規模が違う。
王城へ向かうと思しき大通りの脇には堂々とした佇まいの屋敷が立ち並ぶ。
鉄の柵で囲われた広い庭園。
仰々しい門の前には雇われたと思しき傭兵が目を光らせながら
通行人を睨んでいる。
「そっちは王城通りだ……俺達の行き先はそっちじゃない」
ヴァイスにそう言われて
慌てて通りの風景に目を奪われて居たことに気がつく。
「さて、あの鍛冶屋はまだやっているだろうか……」
思案げに顎に手を人差し指を当てながら
ヴァイスは迷い無く歩いていく。
暫く通りを歩いていくと
幾つもの通りの交点が円形の広場のようになっている場所に出た。
その中央には何かの記念碑と思しき
大剣を持った青年剣士の姿を形取った人間族の青年像が建てられている。
いかにも英雄然とした凛凛しい表情で遠くを見つめ
華美で豪華な鎧を身に纏った所を察するに名のある人物なのだろう。
台座には直線を多用した楔型の文字でなにやら書かれているが読み取れない。
「なあ、あの像は誰の像なんだ?」
「……今から七百年ほど前に立てられた
ロンド・クルーゼ建国王の石像だ。
この石像は王国の建国三百年を記念して作られたもので
大冷孔を開放した三人の内の一人でもある」
ヴァイスがそう俺に説明してくれた。
「大冷孔を開放した内の一人……」
俺にとっては先達に当たるな……
「……ん?」
良く見ると中央に立っているその石像からは離れているが
何体もの石像が中央のロンド・クルーゼ像を見守るようにして立っている。
その殆どが見知らぬ種族の見知らぬ像だが……
「あれ、これって……」
その中にヴァイスに似た石像があった。
髪型は短髪で手にしている剣も違う。
だが着ている鎧のデザインなど今ヴァイスが着ているものと瓜二つだ。
顔立ちも雰囲気もどこかヴァイスに似ている。
「あー。ヴァイスにそっくりだねこれ。
髪型や細かい所は違うけど良く似てる……」
ミルクもそれを見つける。
「ミルク、下の文字って何が書いてあるか読めるか?」
「えっとねえ……何処かより来て……
……我の危難を幾度も払い……
揺蕩う死の淀みソラリスを共に打ち倒すも……
かの怪物の甲殻より創りし鎧のみを受け取り……
……また何処かへと去った高潔なる我が友ヴァイス
――建国王の遺せし記録から抜粋、だってさ」
そこでヴァイスを振り返ると彼は凄く渋い顔をしていた。
「……何時まで油を売っているつもりだ。
……さっさと行くぞ」
そういうとさっさと歩き出してしまった。
「お、おう……」
「あ、ちょっとまってよ!!」
俺もミルクも慌てて彼についていく。
「どうしたのよそんなに不機嫌になって……」
「……偉大過ぎる先祖を持つと余計な苦労を背負い込むという事だ」
ミルクの問いかけににべも無くヴァイスは答えた。
まるでそれ以上話す気は何もないといわんばかりに。
「ちょっとー、隠し事?」
「あー、ミルクちょっといいか?」
「なによ?」
さらにヴァイスに突っ込んだ質問をしようとするミルクを止める。
「先祖にすっごい事をやった人が居る場合ってさ……
結構辛い思いをすると思わないか?」
「え?」
ミルクはきょとんとした顔をした。
「だってさあ……どんなに頑張っても常にその先祖と比べられるんだぜ?
良い結果を出せば流石英雄の仲間の子孫だ!!って言われるし
悪い結果を出せば英雄の仲間の子孫なのにそんなのも出来ないなんて……とかさ。
ヴァイスの兄貴のあの無表情さっつーか冷徹さって
クールで無欲な先祖のイメージを壊さないように頑張ってる表れでもあるんじゃないかな?
確かに俺も気になるけどさ、アニキが話したくないっていうなら
聞かないで上げるってのも仲間なんじゃないかな?
自分から内情を話してくれるまでじっと待つのもさ」
そういわれてミルクはちょっと胸につまされたような表情をした。
「そうね……」
くるりとヴァイスに向き直り彼女は軽く頭を下げた。
「ごめんなさい……軽率だったわ」
「……気にしていない……良いからさっさと行くぞ」
それから、ヴァイスの後を付いて歩く事五分。
俺達は大きな武器屋の前で足を止めた。
「クラフト武具店……確か王都で一番大きな武器屋よ」
ミルクがそう教えてくれた。
「……随分と様相が変わったものだな」
そう呟きながら中に入ったヴァイスを追いかける。
「ほ~……」
店の中は整然と武器防具が並べられている。
床は小奇麗に掃き清められ
剣や鎧はその多くが金銀で
優雅で美しい細工を施されたものが多く
怪物の核の結晶を鎧の胸元にあしらったり
鍔や柄頭に象眼されている物も見受けられ
どれもこれもよく磨かれて光り輝いている。
タジンの町の武器屋で見た品物は何処か無骨な物が多かったのに……
「どれもこれもかっけえなあ……」
「此処にあるのは大体が典礼用だな……」
ヴァイスが多少不満の色が混じった声音で
武器防具をじっくりと検分している。
「表面の飾り加工、意匠性を重視……象眼された核は地上怪物下級。
鎧自体は軽く薄めで防御結界で補うとはいえ……
人相手には十分な代物だが結界強度が下位魔法クラス程度では
ヌシ級ともなると心とも無いな……」
ううん、典礼用って事は外で戦わない街の兵士や
見た目でも恥ずかしくないようお城の兵士達が着る奴か……
確かに格好よくてデザインはばっちりだけど
ヌシに心もとないといわれると
これ着て戦場に出るのは途端に不安になる。
どうせ防具を買い換えるなら切実に守備力が欲しい。
ドミンの一撃で軽鎧つけてるのに肋骨を持ってかれた。
というか鎧つけて無かったら
あの時内臓破裂で即あの世行きだったことを
忘れるほど時間はたっていない。
命が掛かっているから俺もヴァイスの武器防具検分を
見習って真剣に鎧とかを一緒に見ている。
実用性さえあれば多少見た目が悪くても死ぬよりマシだ。
パラダイム世界の怪物の攻撃力は半端じゃないのだ。
良い一撃を貰うと簡単に骨が砕け散り下手すれば死ぬ。
防具大事!!マジで!!




