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第三十六話・王都クルーゼ

翌日……荷物を纏めた俺達は王都に向かうために

タジンの町の転移施設を訪れていた。

ドミンの居た小冷孔から帰って来る時に通りがかった

巨大な石柱の立ち並ぶパルテノン神殿のような建物に。

今この施設の周囲を通る人並みも一般市民とは多少違うようだ。

転移を使って他の町に行くにしろ来たにしろ……

皆それなりの身分或いは金を持っていると見受けられる。

安っぽい草木染のチュニックではなく

着ている者も高そうなビロード製だ。

おそらくはそれなりの規模の商人か貴族。

彼らの顔つきは高慢で道を通る農民や市民を

明らかな蔑みの眼で見ていた。

「……さっさと行こうぜ」

余り気分のいいものではない。

俺はそういってヴァイスとミルクを促した。

「……そうね」

ミルクも同意したようで

俺達は料金を払う検問か関所と思しき場所に赴く。

「お前達、そこで止まれ」

衛兵の手にする槍が十文字の形に組み合わされて

俺達の行く手をふさいだ。

そして横柄な態度の衛兵に呼び止められた。

「身分を証明するような持っているか?

何の目的で何処まで行く?」

前通った貴族か商人のような奴らには割りとすんなりというか

恭しい態度だったのに。

……腹が立つ態度だがまあ俺達は金を持っているようには見えないだろう。

「全く……この七芒星紋とバスターカードが見えないの?」

ミルクが明らかにプリプリ怒りながら

着ている神官服の紋章と銀色のバスターカードをちらつかせた。

「……」

ヴァイスは無言でバスターカードを見せた。

俺もそれに習う事にした。

明らかに衛兵の態度が変わった。

「し、神官様とバスター御一行でしたか……

目的地と旅の予定をお伺いします……

一応規則となっておりますので」

さっきの横柄な態度は何処へやらだ。

ううむ……バスターと神官ってそれなりに権威があるのか……

「……王都クルーゼまで装備の新調に行く」

ヴァイスは何時ものように平坦で感情を滲ませぬ口調でそう断言した。

「王都まででしたら……割引を含めましてお一人様金貨三枚となります」

金貨三枚……高っか!!

金貨三枚ってこの世界の一般市民の月収とそう変わらないじゃないか!!

割引してこれかよ!!

これじゃあ一般市民が怪物に襲われる危険を冒してまで

街道を行くしかないわけか……

俺達は黙って金貨を払うとさっさと検問を通過した。

建物の中にある転移ゲートと思しき場所には茶色のフードを被った男が居た。

手には大きめの怪物の核が付いた杖を持っている。

どうやら転移ゲートを管理する魔術師らしい。

「どちらまでいかれるのですか?」

「俺達三人を王都クルーゼまでだ」

「承知しました、お忘れ物はございませんな?」

「……ああ」

「それでは魔法陣の中央へどうぞ」

ヴァイスと俺とミルクは魔法陣の中央に立った。

ミルクが目隠しを付けた。

この世界の教義には転移中目を開けてはいけないという

妙なタブーがあるせいだ。

俺も眼を閉じる事にする。

あの極彩色で派手に光が明滅する転移中の風景をずっと見ていると……

確かにあの転移中の風景を見ていると気分が悪くなってもおかしくは無い。

なんだったけなあ、現代日本で似たような病状があった気がするぞ。

ああ。思い出した、ゲームの画面酔いや

もっと酷い症例になる光なんとか発作って奴だ。

そういう医学的根拠があるタブーなのかもしれない。

そんな事を考えてると魔力の奔流が俺達を包み込んだ……

「スヴェアにようこそ……もう目を開けても結構です」

……あれ?

確か王都に向かってたんだよな俺達。

目を開けると相変わらず茶色のローブの転移ゲート管理人が見える。

先ほどの男とは声が違う、別人だ。

「俺達王都に行くんじゃなかったけ?」

そんな事を俺はヴァイスとミルクに尋ねた。

「ちゃんと王都に向かってるわよ

タジンからだと地脈を乗り換えないといけないから

一気に王都までは行けないの」

「此処は中継地点の街スヴェアだな……

王都行きの転移ゲートに乗り換えるぞ」

「あー、そういえばそんな事聞いた気がするな……」

そういえば電車みたいに乗継があるんだった。

冷孔転移は地脈の繋がっている所しか行けないから……

俺達がスヴェアの王都行き転移ゲートまで行くと少し待たされた。

「現在地脈の安定まで暫くお待ちください」

茶色のローブの若い女の人にそう言われて

俺達は冷孔転移ゲート前に置いてある石造りのベンチに腰掛けた。

こうしてみると列車を使った旅行を思い出すな。

「そういえばタジンの街の衛兵さんは態度にバラつきがあったなー」

最初にドミンの小冷孔から出てきた時会った衛兵さんは感じのいい人だったんだけど

今日会った検問に居た衛兵は横柄な態度だった。

「ほんとよねー。

今日会った衛兵なんていかにも権威主義みたいで感じ悪かったし。

というか見た目一発で貴族や大商人って分かる人には丁寧なのにさ」

「あまり見る眼がないのだろう。

ミルクの神官服に気が付いてようやく態度を改めていた」

「あー、そうだったよなあ。

というかさあ、それなりの強さのバスターだったら何時か

貴族とかになるかもしれないんだから

そう考えると頭悪いかもなあ」

「実際はそうなんだが……

バスターは確かに宗教的社会的に貢献している背景から

それなりの立場を与えられるが……

腕っぷしだけのごろつき寸前の荒くれも結構多いからな……

多少軽く見られても止むなしだろう」

やれやれ、といった感じでヴァイスはそう言った。

「なるほどなあ……まあ、良いけどな……」

ちやほやされたくてやってるわけじゃないし。

そんな事を雑談していると……

「お待たせしました、準備が出来ましたよ」

茶ローブの女の人にそう促されて俺達は再び転移魔法陣の上に乗る。

酔いたくないのでしっかりと目を瞑りながら

転移の魔法の魔力の流れに身をゆだねる……

なんだか足元がふわっとして落ち着かない。

「うっ……!!」

なんだ、また誰か俺を見ている気がする……

背筋を冷たい手で撫でられた様な……

今度は意識が遠くなるような事は無いが……

「王都クルーゼへようこそ!!」

「うおっ……と……!!」

急に声をかけられてびっくりした。

はっ……どうやら着いたらしい

目を開けて辺りを見渡すとそこは転移ゲートが幾つもある広い場所だ……

目の前に居るのは転移ゲートを管理する魔術師……

「どうしたの雪平?汗びっしょりよ。

……まさか転移の時に目を開けてたんじゃないでしょうね?」

隣に居たミルクがお馴染みの目隠しを取り外しながら

いぶかしげにこちらを尋ねた。

「違うっての……なんか転移の時の魔力が肌に合わなくて

ちょっと気分が良くねえだけだ……

うわっ、鳥肌立ってら……」

腕を見るとちょっと鳥肌が立っている。

「転移酔いかしら?まあそういう人は珍しくないって聞くけど」

「あの足元がふわってするのがどうも俺には合わん……」

「ふーん……私は全然気にならないかなあ」

……まあ、ミルクは翼があって浮けるし飛べるしな……

足元が少々おぼつかなくても気にならないし慣れているのだろう。

「アニキはそういうのある?」

「いや、別段どうということはない

冷孔転移はもう慣れ切っている」

ヴァイスはあっさりと答えた。

「何回くらい乗った事あるの?」

「多すぎて覚えていない」

まあ、アニキなら小冷孔の開放やら

街から街への転移も慣れてるか……

歴戦のバスターって感じだもんな……

俺達が転移施設から出ると、そこは人でごった返していた。

タジンの街は人間族以外……

つまりは様々な色の瞳や髪をしている

外国人のような人しか殆ど見なかったが……

此処には様々な人が溢れている。

「はぁ~……凄いもんだなこりゃ」

気の抜けた声が俺の口から漏れる。

道行く人の中で目を引くのは

人間だけど猫や犬のような尻尾や耳を持つ男女の姿。

あれが話に聞く獣人族だろう。

コスプレかなあとぱっと見はそう思うかもしれないが……

風以外にピクピクと動くさまは明らかに自前だ。

しかもヘヤバンドやアクセサリーの人工物の不自然な継ぎ目が無い。

あの耳や尻尾に神経と血肉が通っているとしか思えない。

それに額から短い角をはやした大柄な青年も居る。

日本の御伽噺に聞くよりは大分人間よりでスマートだ。

肌も赤くないし毛深くも無い。

あれが鬼人族か……

他にも小さな子供くらいの背丈の女の子の一団が居る。

不釣り合いなぶかぶかのローブから出ているのは半透明の羽。

他の種族と違って耳の形は尖っている。

手には本を持って騒ぎながら何処かへ向かっていく。

妖精族だろうなー……

「タジンの町ではあんまり他種族を見なかったのに」

「そりゃそうでしょ。小さい小冷孔の村や中冷孔の町は

冷孔アカウント所有者の種族で大体は固まっちゃうもんだから」

「ということはタジンの冷穴は人間族が開いたのか……」

「そうなるな……大体アカウントを持つ領主の種族で固まってしまう。

様々な街を旅する商人かバスター以外の一般市民は

自らの街から出る事は殆ど無い」

そういう住み分けが自然と行われているのかな。

確かにあれだけ転移料金がクソ高くて

町の外には怪物がうろついてるんじゃあ

戦闘能力の無い一般市民が気軽に旅をすることなど出来ないだろう。

「だがここは大冷孔の都市にして人間族の王族が住まう

王都クルーゼだからな……

規模も大きく豊かだ……例外的に様々な種族が集まる」

「へえ~……っと、ありゃ城か?」

遠めにも分かる大きな城が見える。

クルーゼの街の中心と思しき場所にでかでかと立てられたそれは

幾つもの尖塔を有する西洋風の巨大なお城だ。

その周りの城壁も壁材もまっ白。

白い大理石と思しき石材を刻んで作られたと思しきまさに白亜の城だ。

「もう、あんまりキョロキョロしないの。

おのぼりさんみたいに思われるのは恥ずかしいでしょうが」

「おっと……わりいわりい」

ミルクにそうたしなめられてしまった。

しかしまあ物珍しいんだから仕方が無い。

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