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第三十四話・魔法の限界・生命の交換

俺はタジンの食堂でヴァイスとミルクに

この異世界パラダイムの魔法について色々聞いていた。

「なんつーか魔法ってマジで色々出来るんだなあ……

できる事の上限とかないの?」

「魔法の上限か……」

ヴァイスは考え込むようなそぶりを見せた。

「その上限を確かめたものは居ないが……

ある理由から禁呪と暗黒魔法以外で

使用が禁止されている魔法が幾つかあるな」

「あー、本当に使えたらどんなに素敵で

いいのに、って心底思う魔法達ね……

死を覆し滑り落ちる命繋ぎとめる魔法……」

ミルクが本当に哀しげに、そして悔しげに顔を曇らせた。

使えたら素敵な魔法……

人間が魔法に望む一番使いたい魔法……

死を覆す魔法……

「生き返り……蘇生魔法なのか?禁止されている魔法って」

「パラダイムではずーっと数千年の昔から研究されてきたわ。

怪物に殺される人間が後を絶たないし……

死んだ恋人や家族に会えるなら全てを投げ打っても構わない人は沢山居るわ。

全ての種族全ての身分の術師が血反吐を吐きながら術式を探して……

ようやく一つの完成を見たけど……それは完全な形の蘇生じゃなかった……

それでも一縷の希望に縋って今も探し続けている人は沢山居るわ」

ミルクは酷く哀しげだった。

「何がどう駄目なんだ?

失敗理由は色々予想が付くけど……

例えば怪物や化け物になって蘇ってきてしまうとか……」

「それは蘇生魔法黎明期の失敗例だな……

核や砂を使ったのが原因で人を生き返らせる復活ではなく

怪物を再活性する賦活の術になってしまったり

肉体は戻せても精神や魂が宿らなかったり……

だが、パラダイムの人間は終に死んだ人間を

死んだ時そのままに呼び戻す術を見つけた」

ヴァイスは嘘を言っているように見えない。

「マジか!?マジでそんなことが……」

死んだ人間を生き返らせることが出来るなんて……

「それが『復活』の奇跡……

自分の生命力を全て相手に注ぎ込む事で蘇らせる術式よ」

「え、それって……自分の生命力を全てって……」

俺は慄然とした。

それ……成功してもその術を唱えた人間は死んじゃうじゃないか。

自己犠牲魔法……という言葉が頭をよぎった。

「それでも成功率は一割を切るがな……

術を行使する人間の力量、生命力が足りなければ

共倒れになるだけだ」

しかも失敗有りか……成功率一割切るとか……

魔法があるからといって全然甘くなかった。

人を生き返らせることには……

やはり凄絶な代償を伴うのだ。

「それ、何とかなんねえのかよ?

ほら、例えば二人で術を使うとかさ……

それだったら生命力を吸い尽くされずに術を使えるかも」

「おんなじことを考える人は居るのよ雪平……

人数を増やせば増やすほど生命力の波長の摺り合わせが難しいの。

人を増やせば術の成功率が下がるんだって……だから今でも研究されてるの」

「うーん……じゃあさ、俺達が魔法使うとき

魔力が足りないときは生命力精神力を使うじゃん。

あれの逆やってさ、魔力を生命力とか精神力に変換して……」

俺が魔法を失敗した時

生命力を使って魔法を発動させた時の事を思い出す。

また、冷孔から吹き出る魔力の恩恵をドミンが独占していた時に

ミルクが自らの生命力で魔法を発動させていた。

そのことを考えると魔力を生命力に変換することは出来るのではないか?

「確かに、魔力を生命力に変換することは出来る。

それには生命と魔力の交換比率の壁が立ちはだかる」

ヴァイスは何時ものように冷たくて平坦な口調で断定した。

「交換比率……?」

「生命力をほんの少し燃やすだけで多大な魔力に変換できるんだ。

逆に魔力を生命力に交換しようと思ったらそれこそ莫大な魔力が必要になる……

蘇生術式を行使し、一人の生命力の代償を魔力で賄おうとすれば

それこそ小冷孔中冷孔程度の噴出魔力では全く足りない。

大冷孔を使い潰すつもりでもしかしたらという程度だ。

試した奴は今のところ居ないからなんともいえないが……」

「今開いてる大冷孔は例外なく大都市よ。

神都や王都の結界も都市機能もストップさせるわけには行かないもんね……」

「だな……数万の市民を怪物の脅威に晒してまで

蘇生術式を実験するなど王も教皇も絶対に許可しないだろう」

人を生き返らせる為の魔力を捻出しようと思えば大冷孔しかないわけか……

だけど今ある大冷孔はもう既に何万もの人が住んでる大都市で……

結界やインフラに使われている魔力を割けないわけか……

「……だから禁止されてるんだな。

どの道、その冷孔のアカウントを持ってないものは

冷孔の全ての魔力は使えない。

そうなると実質的に生命力で払うしかなくなるわけか」

「そうだ。基本的に命を燃やし尽くしても足りなくなる恐れがあるのが禁止魔法だ。

時間を止めたり戻したりする魔法、生命蘇生の魔法などが禁止魔法に当たる」

「そういえば若返りを望んで時間魔法を使って衰弱死した人も居たわねー

若返ってたけどガリガリの骨と皮だけになってたって噂を聞いたわ。

暗黒魔法や禁呪と違って死罪にはならないけど……

それ自体自殺行為だからねえ……

術式に要求される魔力が巨大すぎて唱えたら最後。

全ての生命力・精神力・魔力を持ってかれて枯死しちゃうわ」

法的な罪にはならないが……

だけど唱える事自体が自殺になる魔法もあるのか……

人間が魔法に良く望む事……

死者の蘇生、時間を操る魔法。

それらが自らの死、命と引き換えにしか発動しないとは……

「まったく……切ない話だな……」

悪い魔法ではない、本当に悲しい魔法の話だった。

禁止された魔法など、やはりそれなりに理由がある。

でも蘇生の魔法はひょっとすると……

もし、俺がその術を知っていたら……

衝動に任せて使ってしまうかもしれない……

俺の仲間に何かあったときとか……

と、いかんいかん。

こんな魔法、使うのも使われるのも切なすぎる。

そんな事が無い様に俺は腕を磨かなけりゃならない……

自己犠牲前提の蘇生魔法など使わなくて、使われなくて済むように。

皆を守れるように。

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