第三十三話・種族の魔法
魔法の修行に一区切り付いた俺達は
タジンの街の食堂で夕食を取る事になった。
今日のメニューはこんがりと焼けた鳥の腿肉と
コンソメ風味の野菜スープにパンのようだ。
「おっ、来た来た……いっただっきまーす」
良く焼けた鳥の腿肉にかぶりつく。
「もぐもぐ……うん、うめぇ」
美味いがこの世界の料理は全体的に薄味だ。
マヨネーズが欲しいなあ……
「ミルクも歌の練習してたけど……あれってどんな魔法なんだ?」
「攻撃力を上げる呪歌の練習をしてたのよ」
「へえ、上手くいきそうか?」
「うーん、ちょっとね……
練習では音階も旋律も完璧に歌いこなせてる自信は有るけど……
実戦ともなると……」
確かに戦闘中に歌うともなると大変そうだ。
相当の度胸が要求されるだろう。
「そういえばその魔法って一人にしか効果が無いのか?」
「いいえ?歌の届く範囲になら全員に効果があるわよ」
「そりゃいいな……あれ?それって怪物にも掛かったりしないの?」
「邪悪な怪物は神聖な響きも魂震わせる旋律にも耳を貸さないのよ」
「その点は問題ない……怪物は詩情を解する心を持たないからだ」
ヴァイスとミルクがそれぞれ説明してくれた。
「ふうん……上手く出来てるんだなあ……
そういえばさ、詩吟魔法とか舞踏魔法とかたまに聞くけど……
それって具体的にはどういう代物なんだ?
俺の剣の動きが舞踏魔法に似ているとか言われたけど……」
「雪平には各種族の魔法系統については説明していなかったな」
「そういう説明はヴァイスさんのほうが詳しそうね。
私は詩吟魔法以外にはあんまり詳しくないし」
そういってミルクはスープ皿の方に集中し始めた。
「パラダイムには種族毎に代表的な七つの魔法系統が存在する。
基礎、呪符、舞踏、詩吟、精霊、竜語、神聖の七系統だ」
「ふむふむ……」
「まずは鬼人族が得意とする呪符魔法から説明しようか。
特殊な製法で作成された呪符に文字を刻印して意味を持たせるのだが……
これが意外と応用範囲が広くてな。
物体に文字を刻みつけて術式を付与する事に長けている。
雪平も目にした事があると思うが怪物避けの楔やバスターカードなどに使われているのが
呪符魔法の応用だ」
「へー、なるほどな……」
そういえばバスターカードには結界術式と転移術式が記録されてるんだっけ。
「次に獣人族が編み出した舞踏魔法について説明する。
踊りやステップやジェスチャー、モーションに意味を持たせたり
手で印を結ぶことで魔法を発動させる。
儀式場など魔法を使いやすい場を整えたりする事も得意だ。
熟練した獣人族の舞踏魔法の使い手は舞うように戦い武器と共に魔法を繰り出す。
身近なところだと雪平の剣振りの動作が対象指定の術式として機能しているのが
舞踏魔法の応用だな……」
「ふむふむ……」
「……詩吟魔法の説明だが……
実際に使い手が居る事だしミルクの方が詳しいだろう」
話を振られてミルクは一旦食事の手を休めた。
「ん、詩吟魔法について聞きたいの?
詩吟魔法は私達鳥人族に伝承される魔法体系よ。
詠唱に特化した体系で音階や旋律、曲調、歌詞に意味を持たせるの。
特定の節回しやメロディに乗せて唄うことで発動する魔法よ。
回復魔法や補助魔法に長けてて一番の特徴は効果範囲の広さね。
優れた歌い手なら歌声の届いたパーティ全体の傷を癒したり
戦歌や呪歌で全員の身体能力を一気に高める事も可能になるわ」
「頼りになりそうだなあ」
「もちろん、これからも回復と補助は任せてよね」
「話を続けるぞ……次は妖精族の精霊魔法だな。
形無き精霊に働きかける事で様々な効果を齎す。
物質の性質を変化させたり作り変える『変成』
強大な力持つ精霊を呼ぶ『召喚』
石や木の巨像を作り出す『創造』
そして敵対者に幻を見せる『幻影』などが代表的だな。
妖精達は非力なものが多いが変成を使って強力な魔法武器を作り出すも得意だ」
「怪物の素材を妖精族が変成して鬼人族が刻印した
最高級品には物凄い値段が付く事もあるのよ」
「ふーん……いつかは手にしてみたいかもな」
無論、実力に見合わない武器は逆に
武器頼りになって成長を妨げる事くらい知ってるから
本当に強くなってからにしたいけど。
「竜人族の使う竜語魔法……
魔法体系中一二を争う攻撃力と破壊力を秘めた魔法だ。
身体能力を超強化する『息吹法』
様々な属性のブレスを吐く『咆哮』
巨竜の姿に変身する『竜変化』などが上げられる」
「なんというかさすがドラゴンって感じだな……」
「神族の行使する奇跡、神聖魔法について説明しよう。
特徴は永続性……効果時間の非常に長いものが多い。
代表的なものは『加護』だな」
「タジンの聖堂で受けたあれか……」
成長率を永続で上げてくれるってのは嬉しい。
「最後になったが人間族の使う基礎魔法について説明する。
いろんな他種族の魔法のごた混ぜだな……
呪符魔法から魔道具、舞踏魔法からジェスチャーと儀式。
詩吟魔法から詠唱を、精霊魔法から錬金術。
竜語魔法から攻撃魔法、神聖魔法から回復や防御の魔法を参考にしている。
種類に富み覚えやすく扱いやすいが……
威力や効果はそれぞれの種族魔法系統の特化には及ばない」
「なんか器用貧乏って感じだな」
「魔法についての歴史は人間族は浅いからねえ……
それぞれの種族魔法の『基礎』なのよ。
だから基礎魔法って呼ばれてるの」
これで七体系……
各種族事に一つずつ魔法体系があるんだ……
あれ、何か抜けているような……?
「なあなあ、絶滅したと言われてる魔人族の魔法体系ってないのかな?」
ヴァイスはちょっと渋い顔をして
ミルクは明らかに引きつった顔をした。
「確かに有るわ……あんまり私から話せる事じゃないけど……」
「……魔人族の魔法とパラダイムの七種族に呼ばれているのが暗黒魔法だ。
その効果のあまりの恐ろしさと非人道的な効果によって禁呪とも言われる。
一部の怪物なども使用する。
人を石化させたり動物に変えたり
相手の体内の魔力を使って悪影響を齎させる『呪詛』
病原体をばら撒く『病魔』
人間の血肉を捧げて滅んだ怪物を活動可能にする『賦活』
人の精神や記憶を弄ったり自由意志を奪う『魅了』や『支配』などが
魔人族の魔法とされている」
「うわ……えげつねぇ……」
「もういいわ……ご飯が美味しくなくなるわ。
ちなみにどの暗黒魔法も対抗法以外を研究したり
その使用が露見すれば問答無用で死罪よ」
「まあ当然だわなあ……」
どの暗黒魔法も洒落になってない。
しかし……パラダイムの魔法ってのは色々な種類があるんだなあ……




