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第三十二話・魔法修行・後編

何日間もかけて俺は、繰り返す。

幾度と無く失敗を。

ひたすらに繰り返して呪文を唱える。


炎弾を撃とうとしたが手が思いっきり燃えた。

「あちっ熱っうわっちゃちゃちゃ!!!」

「自己の身を守るための防護壁を展開するんだ……

火の玉を投げるつもりなら自らの手を魔力で包むようにしてみろ……」


二メートルくらいの至近距離で俺の撃った火球が暴発して危うく巻き込まれそうになった。

「うおおおおあぶねえええ!!!」

「……手元に魔力を貯める事を意識しすぎているぞ」


人から見れば滑稽に思えるかもしれない。

こうしてトライアルアンドエラーを繰り返す事は……

世の中には、こういう魔法を手足のように自然に使える奴も

まあ、居る事だろう。

息を吸って吐くように出来て当たり前の奴も居る。

泳げる事を疑う魚は居ない。

鳥が飛べることを疑わないように。

虎やライオンが元々強いように。

だが俺は鳥でも魚でも虎でもない。

俺は俺でしかない。

桜田雪平というありふれた人間の一人に過ぎない。

才能や才覚ある彼らがそういうことを容易く出来ると言うのは知っている。

だがそれは……

俺の努力すること自体には実はあんまり関係が無い。

俺に才能があるかどうかなんてことは考えないようにしている。

彼らに追いつけるかどうかなんて考えない。

時間の無駄かもしれないなどと思わない。

多くの人は優秀な人間の一部の傑出した才能だけを見て……

やっても無駄と思い込む傾向にあるように見える。

それにしても……

俺に言わせれば皆努力に見切りをつけるのが速過ぎる。

努力して直ぐ結果が出ないと飽きてさっさとやめてしまう。

それが賢い事だと思っている。

だが本当にそうなのだろうか?

実際問題として現実は非常に厳しいから努力したって

望み通りの結果が出ない事も有る……

いや、本当は努力して結果が出る方が希なのだ。

まあ、当然だなあ……

だって程度差は有れど皆努力しているんだもの。

高校野球なんか良い例じゃん。

皆真剣に努力してるのに優劣が決まる。

何年も頑張ってきた奴を易々と飛び越していく奴も居るし。

そういうことも普通に有るだろうさ。

だけど……だからって無益や無駄と思い込むと

修行の効率って上がらないんだぜ?

俺はそれほど頭は良くないがその事は知っている。

武術やスポーツでは地味な練習や基礎トレーニングが一番辛いんだよ。

努力の成果が分かり難いから。

それが苦にならない奴はやっぱり強くなる。

そして……皆何でもかんでも才能、環境、運でくくり過ぎじゃない?

才能環境努力に運、全部が合わさればそりゃ無敵無双になるけどさ。

大概……その眩しさに目がくらんで目を背ける。

だけどそういうことが出来ない性格なんだなあ、俺は。

眩しさに目がくらむ気持ちも分からなくは無いけど……

それよりは出来る人間を良く観察してみようと思うほうが先立つ。

天才とか才能が有るとかいわれる人間の動き……

いや、動きだけではなく思いや生活……

そういうのの一挙一挙動を観察し

それが道理にそぐうか一つ一つ検証し……

可能であるかとか俺の役に立つか分析する……

そうすると……凡人と才能のある人間の一線を画す

無数のちょっとしたコツや上手くやる方法……

最適効率の手法がほんの僅かではあるが浮き上がってくるものだ。

……俺には全部を真似する事は厳しい。

人の優劣勝敗は深遠だ……

中には自明の理という奴も居るが

俺の頭なんかじゃ理解がとても追いつかないほどに。

才能や環境、運という小さな単語に

どれほど沢山の思いや事例や事象が詰まっているのか追いきれない。

ほんの些細な力の欠片、ちょっとしたことが無数無限に集まって彼らを形作っている。

絶対的に見える彼らも何かほんの僅かに欠ければ

その場所に居なかったんじゃないかとすら思う。

彼らは思っていたよりもたゆたっているのかもしれない。


だから……俺は拾う。

人がなんと言おうと黙って拾い続ける。

ほんの些細な力と成功の欠片を拾い続ける。

幾度失敗し続けても……その中で見出していく。

才能、環境、運……

そんなもの、結果が出た後任せれば良い。

人に言わせておけば良い。

……俺の努力にビタ一文掠りはしない。

いや……かすらせは、しない。


ふと自問自答から立ち直り周りを見渡すと

ヴァイスの姿が目に入る。

彼は声を荒げる事も出来ない事を笑うでもなく……

何時ものように端的に。

何がダメなのか、どうすれば良いのかのみを冷静に告げる。

事実を冷たく突きつけられることが安易な嘲笑や怒声よりも

よほど厳しく俺の心を痛めつける事もあるが……

師としては非常に頼もしい。

「……もう一度だ」

ヴァイスに促されて俺は呪文を唱える。

「熱き炎よ、我が内外に満ちる魔力よ集いて敵を討つ矢と成せ……炎弾!!」

魔力と生命力を精神力で分離……

掌に集めた魔力を収束、増幅……

それを炎に変えて球を形作る……

いいぞ……ここまでは上手く出来ている……

でもって……目標の大岩に向かって投げる!!

「よっしゃ行け……!!」

おおっ!!ちゃんと火炎玉が飛んで……

しかし、完璧だったのは火弾が十メートルほど飛んだ地点までだった。

火弾は重力に引かれて落ちてしまい……

大岩のかなり手前の地面で火柱を上げた。

「ああ~っ!!くそっ!!飛距離が足りねえか!!

今度こそ上手く行ったと思ったのに……」

地団駄踏んで悔しがる俺をヴァイスとミルクが励ましてくれた。

「初日と比べれば格段の進歩だ……」

「うんうん、後飛距離だけじゃん。

手から煙り出してた頃に比べると大分マシになってるわね。

かなり良くなってるけど何かが足りない気がするのよねえ……」

ミルクは首をかしげて考え込んでいた。

「もう少しで何かが掴めそうなんだけどなあ……」

ふと、訓練場の端に置いてある自分の荷物

そこに置いてある俺の大剣に目が留まる。

「次はちょっと剣を振っていても良いかな?」

「……構わんぞ、今の雪平は大分魔力を消耗しているしな」

「大剣の方も疎かにしちゃダメだしな」


俺は剣の素振りを始めた。

何気なく大剣をさっと振りながら……

ふとこのまま魔法を使えたら

ちょっとカッコいいかもと思ってしまう。

体にしみこんだ魔力を

手に付いた水滴を払いのけるような感じで……

そういえば詠唱の内容って変えることが出来るのだろうか?

言葉によって魔力に指向性と属性を与える事が出来るなら……

別に長ったらしい詠唱でなくても良いような気がする。

詠唱というよりは技名みたいな方が好みだ。

物は試しだ……やってみるか……

炎……火……

緋色……

緋色の炎を纏う剣……

「……纏緋剣」

剣が燃え上がり綺麗な緋色の炎の尾を引いた。

「あ、出来た……」

思ったよりもあっけなかった。

「何でその魔法剣が出来て単なる炎弾が撃てないのよ!」

ミルクが呆れと突っ込みと微かな怒気の混じった叫びを上げた。

「難しいのか、これ?」

そんな事を言われても俺はキョトンとするばかりだ。

「普通直ぐにできるようになるもんじゃないわね

魔法と武術を組み合わせるのは高等技術よ」

「普通なら……武器に魔力と術式を留めることが出来て初めて使える。

基本的に術式を完璧に制御できるようにならないと使えないな」

ヴァイスとミルクにそんな事を言われた。

確かに武器と魔法を両方同時に使うのは難しいかもしれないが……

俺にとってはこっちの方がイメージが良くまとまるのだから仕方ない。

「……動作が入ったのがよかったのかもしれん。

獣人族の舞踏魔法に似ている……

雪平、今度はお前のやり方で良いからもう一度だけ挑戦してみろ」

「……わかった」

……この数日間標的にしていた大岩に向き直る。

剣の構えはひたすらに反復練習を繰り返したため

もう既に体に染み付いている。

考えなくても滑らかに実行できる。

構えを普段よりも幾分かゆっくり形作りながら……

同時に魔力を練る。

宙空と体内に渦巻く力……魔力と生命力。

精神力……意思と気合の力を用いてこの二つを分離。

大剣を握る柄から刀身へ魔力のみを集め、高め、収束、増幅する。

後は……

「飛べ――纏緋剣!!」

言葉で属性を決め、斬り下ろしと共に解き放つ!!

変化が、起きた。

大剣が一瞬で緋色の熱い炎に包まれたかと思うと……

それが剣が描く弧の軌道に従って炎の三日月を作り出す。

もし振っている最中に剣が伸びたならそのラインの先にあるもの……

この数日間標的にしていた大岩目掛けて一直線に。

炎の月刃が斬撃の射線上に沿って飛ぶ。

「……やった!!」

炎の刃が見事に大岩に命中した。

ヴァイスが手本に見せてくれた炎弾の焦げ後の上に

岩にはっきりと一本の線が刻まれた。

大岩を切り裂くとまでは行かないが……確かに命中した。


「技名が属性指定か……この場合魔法弾の形状指定は弧を描く斬撃軌道に依存……

魔力の収束具、杖代わりとして大剣を代用……

それに平行して剣振りの動作が対象指定の術式として機能している……

これはステップや身振り手振り、体の動きを術に変える舞踏魔法の領分……

強引だが一応術式の基礎条件は満たしている」

ヴァイスがどうやら俺の使った魔法について説明してくれたようだ。


「なんつー強引な魔法構築よ……まあ雪平らしいっちゃらしいけど……」

ミルクも少し俺のやった魔法に呆れているっぽい。

うん、俺も力技だと思う。

今まで魔法の練習を頑張った下地があるとはいえ……

幾ら口で呪文を詠唱して火の玉を投げようとしても駄目で……

慣れ親しんだ剣を振ってやった途端上手くいくなんて……

「これはちょっと皮肉だぜ……」

そう呟かずには居られなかった。

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