第二十九話・パーティ命名の儀
打ち上げの翌日……
俺はベッドの上で目を覚ました。
窓から差し込む太陽から察するに随分と日が高くなっている……
「うーん……もうこんな時間か……」
随分と疲れていたらしい。
大分寝過ごしてしまったようだ。
「まあしかたねえか……」
昨日の小冷孔の戦いは随分と長く感じられた。
色々な事がありすぎて恐ろしく密度の濃い一日だった。
宿の部屋から出ると、控えの間兼食堂にはミルクが居た。
半分眠ったような目でモグモグとパンをかじっている。
「あ、おはよーゆきひら……」
「おはよう!」
俺もイスを引いて席に座る。
「いただきまーす」
今日の朝食はパンとスープか……
コーンスープの方は俺が寝過ごした所為か大分冷めてしまっているが
それでも十分美味い。
パンの方も固くて黒ずんだものではなく
白くて柔らかい普通のパンだ。
この世界の食事はほんっとうにランクに寄ってバラつきが有るなあ……
日本の食事のクォリティって実は結構凄かったんだなあ……
「うん、うめえうめえ……そういえばヴァイスのアニキは?」
「部屋には居ないみたいだけど……」
ふとテーブルを見ると彼の分の
食べ終わった皿がカートに片付けられている。
「あれ、何処かに出かけたのか?」
そんな事を話していると
こつ、こつ、と静かに階段を上ってくる音が聞こえた。
「……今、起きたのか」
どうやらヴァイスが出かけた先から帰ってきたらしい。
だけど今日は背中に白い布に包まれた長い荷物を担いでいる。
「おかえりアニキ」
「あれ、どこに行ってたの?」
「……お前達が中々起きないから色々とな」
白い布に包まれた長い荷物を降ろしながらヴァイスは説明し始めた。
「ドミンの素材の回収に行ってきたんだ」
どうやらあの白い布の中身は昨日倒したドミンの素材らしい。
「俺一人で旅してるなら素材は拾わない主義だが……
今はパーティを組んでるからな……
雪平の装備も、力量に合わせて新調していった方が良いと思ってな」
ヴァイスのアニキは本当に気が利く……
ううう……本当に仲間の有り難さが身に染みるなあ……
俺はまだまだ弱いからいろんな人のお世話になりっぱなしだ。
早く実力をつけて皆の役に立てるようになりたい。
「俺の為に何から何まで……
ありがとうございます、アニキ」
「なに、気にするな……
お前が強くなれば俺もそれだけ楽になる」
「へえ……前から思ってたんだけどヴァイスさんって
意外と面倒見が良いのよねー。
うんうん……実は結構優しい人?」
ミルクがちょっとニヤニヤしながら茶化した。
「何言ってるんだミルク。
アニキは不器用だけど良い人だぜ」
俺もそれには同意する。
「む……そんな勘違いをされては困る。
俺はただ純粋にパーティの戦力を考えてだな……」
「はいはい、そういうことにしときましょうか」
ヴァイスは少し大げさに咳払いをする。
「……バスターズギルドに行ってアカウントの売却手続きをするぞ。
二人とももたもたするな」
「はーい」
「うぃーす」
††††††††††††
それから暫く後……
俺達は再びバスターズギルドに顔を出していた。
何時もの片眼鏡をつけた老紳士が出迎えてくれる。
「おや、これは久しぶりですな。
本日はどのようなご用件で?」
「おう!今日は三人で冷孔開放権の売却に来たぜ!!」
ヴァイスに促されて背負い袋からドミンの核を取り出した。
青く光るソフトボールくらいの大きさの核だ。
大きさの割には軽いとはいえ……
結構かさ張って袋の中身を圧迫する。
「おお……これは小冷孔の核ですな……
少々お待ちくだされ」
そういって老紳士はカウンターの奥から何かを取り出そうと
ごそごそと探している。
どうやら目当ての物が見つかったらしい。
老人が手にしているのは小さな怪物の核の付いたルーペのような魔道具だ。
それをドミンの核に当てると
にわかにドミンの核が青白い光を放ち
数行の謎の文字列が空中に浮かび上がる。
「新規開拓の地脈と冷孔からの転移記録……
遠隔起動中の術式は結界展開術式……
アカウント登録者はヴァイス……ミルク……ユキヒラ……間違いありませぬな」
「なあなあ、あれは何を調べてるんだ?」
気になったので二人に聞いてみる。
「あれはあの核が確かに新規の核かどうか調べてるのよ。
目には見えないけれど、専用の魔道具を当てれば
バスターカードから冷孔のヌシの核に焼き付けられた術式が見える仕組みになってるの」
「同時に解放者の名前もヌシの核に刻印されるからな。
解放者以外がその冷孔に新しく術式を登録したり
魔力の配分や流れを決める事は基本的に出来ない」
不正を防ぐための処置か……
「お待たせしましたな。
それでは売却の手続きに入らせていただきますとして……
協力開放ということですのでお三方のバスターカードをお貸しくだされ」
俺達はバスターカードをギルド受付の老人に手渡す。
俺のカードを見て老人が何か気が付いたようだ。
「おや……こちらの方のカードはブロンズカードですので
昇格の手続きも同時に行わせていただきます。
カードを作り直しますのでしばしお待ちくだされ」
「よろしくお願いするぜ」
「しっかし早いわよねー。バスターになってから一週間強で
ブロンズバスターからシルバーバスターになるなんて」
ミルクが殆ど感心したように、そしてちょっと不満げにそう言った。
ミルクはヒーラーでその職業特性上昇格するのに
色々苦労した経験があるからなあ……
「確かに異例の速さかもしれませぬな」
ギルドの受付のおじいさんもそう呟いた。
「あ、はは……皆がいてくれたお陰さ。
俺一人じゃ絶対無理だったし」
間違いなくそう断言できる。
俺一人ではまだ小冷孔のヌシを一人で倒せる力など無い。
ヴァイスとミルクの協力が無ければ絶対に無理だった。
「謙虚なのはいいことね……
そういえば不思議なのはさあ、ヴァイスさんってなんでシルバーバスターなの?
上位魔法使えるし立ち回りといいどう考えても中冷孔のヌシにも普通に太刀打ちできそうじゃん。
でもどうして中冷孔の開放経験が無いの?」
そういえばそれは俺も不思議だと思う。
ヴァイスのアニキなら全然いけると思うんだけど……
ヴァイスは少しだけ躊躇いがちに切り出した。
「……中冷孔の開放の為に戦いに参戦した事はある。
実際何度も開放には立ち会った。
だが……ヌシの怪物と戦えることとアカウントの権利を得る事はまた別の問題だ」
ミルクは何か察したようだ。
「あー、うん……そっかあ……戦える実力があっても
開放権取れるかどうかはまた別問題だもんね……
入ったパーティが悪いという事があるだろうし……」
そういえばヌシの怪物を倒した後も
誰がアカウントを得るかでもめる事は良く有るっていってたな……
「ヴァイスのアニキはそういう面倒ごとに巻き込まれるくらいなら……
権利放り投げちゃう人だろうからなあ……
でもこのパーティなら大丈夫さ、アニキもすぐゴールドバスターになれるって!!」
おれは自信たっぷりにそう答えた。
「そういえばパーティで思い出したけど……
この面子のパーティー名というかギルドチーム名って決まってなかったわよね?」
ミルクがそんな事を言い出した。
「え?そういうの有るんだ?」
初耳だ、そんなのがあるんだ。
「俺も一時加入ばかりで決まったチームやパーティは持たなかったからな……」
「じゃあ今決めちゃいましょうよ。
そうねえ……風神旅団とかどうかな?」
「ううん……」
まともそうだけど絶対自分の信仰で決めただろミルク……
「俺もこういう名づけを考えるのは苦手でな……
1236……とか」
「どういう基準でその数字が出てきたのよ……」
ミルクがげんなりした顔をした。
俺にもアニキのネーミングセンスは分からん……
「じゃあさ、オープンドシールってのはどうよ?」
俺が何気なく提案してみた。
「ん?」
「ほう……」
「いや、だからさ、俺達は七つの大冷孔の封印を開くために頑張ってるんだろ?
だから、開かれた封印を言い換えてオープンドシール。
こういうのは皆の目標にするといいんじゃないかな、と思ったんだけど……」
「オープンドシールか……俺はそれで構わん」
「あー、なるほどねえ……
確かに全ての善き神を信仰する人たちの共通の悲願ではあるわね……
他の神の信者がパーティメンバー入りすることもあるだろうし……
無理にねじ込む必要は無いか……これはこれで相応しい気もするわね。
私もそれでいいわよ」
「じゃあ、決まりだな。
俺達のパーティというかチーム名はオープンドシールで!!」
とりあえず、俺達のチーム名は決まった。
このチームがこれからどうなっていくかはさっぱり分からないが……
上手い事皆の目的が叶うように願いたい。




