第二話・最初の街
夜明け近く、まだ眠い眼を擦りながら
ガッチガチに石の様に固く、黒ずんだパンと
塩気のきつ過ぎる干し肉の朝食を俺は齧った。
分けてもらって悪いとは思いつつ俺は切り出した。
「なあ、飯って何時もこんな感じなのか?」
ヴァイスは少し顔を顰めながらこう答えた。
「……俺は料理は出来んのだ。
自分でやってみたことも有るが古びた匂う革靴みたいなことになった。
明けても暮れても戦いばかりやってたからな……
それに旅の間の保存食は何処へ行ってもこんな感じだ。
それでも食えるだけマシといった所だな。
食料自体がこの世界じゃ貴重なんだ」
ヴァイスさんは出来そうなイメージがあったけどなあ。
冷静沈着で銀髪紫眼の二枚目イケメン剣士ってだけの先入観で
判断するのはやっぱりよくないな。
ううむ、それにしたってこれは酷い。
やっぱり日本とファンタジー世界じゃ違うんだな……
国によって大分食文化や料理の腕前は違うって聞いたことあるけど。
日本の食事って美味かったんだな。
よし、決めた。
現状に不満を言うのは誰だって出来る。
安易な道に流されるのは嫌だ。
自分から建設的な事を始めなければ何一つ変わらない。
「なるほどなあ……一回でいいから今度作るときは俺に任せて貰ってもいいですか?」
「心得があるのか?」
ヴァイスが少しだけ嬉しそうな顔と声色をした。
本当に微かな変化だが。
分かりにくい人だが、信頼には値すると思う。
「多少なら」
「……今、お前を拾って初めて良かったと思ったぞ」
やっぱり、ちょっとは厄介者と思われてたんだなあ。
何時までもこの立場に甘んじているわけには行かない。
速い所、なんとかしないといけないな。
食事の後、朝日に照らされながら俺たちは出発した。
道中、絶えずヴァイスが周囲に怪しい影が無いか気を配っている事が良く分かった。
怪物や追いはぎに不意打ちされるのは俺だってごめんだ。
こういうところはヴァイスは旅慣れているらしく本当に頼りになる。
「タジンの町が見えてきたぞ」
いくつか丘を越えたところで街が見えてきた。
高さは大体三メートルくらいのレンガの壁に囲まれている。
「行くぞ」
「ういーす」
門のところでは草木染と思しき赤や緑のチュニックのような
衣服を纏った商人らしき人が馬車を門の中に入れている所だった。
周囲には皮鎧や金属製の鎧を纏った護衛や傭兵らしき人たちの姿も見える。
順番を待って門の前にたどり着くと門番らしき人に呼び止められる。
「そこで止まれ。身分を証明するようなものは持っているか?」
ヴァイスは黙って荷物から銀色のプレートらしきものを差し出す。
「バスターか……何時もご苦労さんだな」
門番らしきおっさんは俺のほうをジロジロ見ている。
「見慣れない格好だな……」
「そっちは俺の連れだ。バスター見習いをやらせようと思っている」
「ふむ……」
いぶかしげな目線を送る門番のおっさんにヴァイスが何かを握らせた。
小さな丸い金属……銀貨のように見える。
「いつも大変だな。これで酒でも飲んで体を温めるといい」
途端に門番の顔が疑惑から喜びに塗り換わる。
「おう、こいつはすまねえな。へへ……話の分かる奴は嫌いじゃないぜ
おい、もう行っていいぞ。そっちの餓鬼も死なないよう頑張るこったな」
門番のおっさんは掌に握った銀貨に集中して俺たちをもう見ていない。
やっと俺たちは町の中に入れた。
「マジ助かったよヴァイス……俺はこっちの身分なんか有りはしないからなあー」
「忘れていいぞ。金で解決できる面倒もあるということだ。
……その服は目立つし余り戦いには向いていないな」
「変に注目を浴びるのもやだしな
また頼りっぱなしだな……ほんと悪りい……」
ヴァイスに申し訳ないし
なにも何も出来ない自分がちょっとみじめだった。
「忘れていい。初期投資は仕方が無い。
お前にとって幸いなことに俺は賭けもやらんし
女を買ったり酒や煙草もやらんから蓄えは少々有る」
ほんと禁欲的というかストイックな人だな……
「マジでありがとうございますアニキ……」
自然とそんな言葉が口をついて出た。
なんだろう、なんだかそんな感じがするんだ。
自分に兄弟や兄が居たらこう呼んでいたと思う。
「アニキ、か……」
ヴァイスはなにやら考え込んでいたようだったが
直ぐに軽く頭をふって俺にこう告げた。
「まあいい、宿を取ったら服と鎧、それに武器も見繕わなくてはならん。
他にもやること覚えることはいくらでもある、ぐずぐずするな」
「はいっ!」
ぐだぐだと考えるのは後でも出来る。
いまはやるべき事をやるだけだ。
バスターになる為に最初の一歩を踏み出した主人公。
いまだにヒロイン未登場。女っ気が無いなあ。
本格的に魔法を習得するのは何時になることやら……




