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第一話・郷愁、そして示された目的

俺がこの謎のファンタジーな世界に流れ着いてもう何キロ歩いただろうか?

正確なところは少しもわからない。

整地されていない森を歩くことなど初めての経験で

何度も足をとられて躓き、木々から生える小枝に引っかかれながら歩き……

それに足元に生える草の棘に皮膚を刺された。

体は鍛えているつもりだったが慣れない事が重なりすぎて

足は疲労でガクガクだ。

ああ、ベッドで眠りたい……

夕方になった頃森を抜けて少し開けた丘のところでヴァイスが口を開いた。

「近くに水場もある。今日は此処で野営するぞ」

「うぃ~す……」

ヴァイスは俺に小さなナイフを差し出してこう命じた。

「このあたりの草を刈って寝る場所を作るんだ。

小さな石とかも取り除け」

それからヴァイスと俺は二人で草を刈って石を取り除く作業に没頭した。

なんとかその作業を終えて座り込んでいると

ヴァイスは荷物から文字が刻まれた杭のようなものを取り出し

地面に幾つも打ち込んでいく。ちょうど今しがた作った空き地を囲うようにだ。

「なんすかそれ?」

「虫除けと怪物避け、警戒の式が刻まれた結界を作ってるんだ」

端的にヴァイスはそう説明した。

「……そっすか」

やっぱり魔法もあるんだな。

原理を尋ねたり効力に懐疑を示す余裕は今の俺には無い。

まったく……ファンタジー過ぎて困るぜ……

それから二人で設営を完了させ

ヴァイスの煎れてくれたむやみやたらと苦いお茶のようなものを飲んで

体を温めながら火を囲むことでようやく俺は人心地つけた。

「あ~帰りてぇなあ……」

我ながら情けないと思いつつしみじみと俺は呟いた。

単調で機械的な学園生活の中で馬鹿なことをする。

日本で高校生をやってた時はこれほどつまらないものは無いと

思っていたのだったが、いざ全く取っ掛かりの無い世界に放り出されて

初めてありがたみが身にしみた。

平和も退屈も結構なことじゃないか。

コンクリートで海も川も大地も固められて鉛色の陰鬱な空。

薄汚れていても、やはり故郷は故郷で楽しい事や美しいことも確かにあそこには有ったのだ。

だが今俺の眼に映るのは自然で一杯のクソッタレファンタジーの夜の闇ばかり。

文明の光などありはしない。

しかも怪物や追いはぎなどという現実味の無いものが跋扈する危険な闇だ。

「帰りたい、か……そうだな……故郷はいいものだ

それがどんな厳しい所であろうとも……」

ヴァイスから意外な一言が聞けた。

自分でも正直情けない事を言ったと思うし

てっきり何か斬って捨てるようなことを言われると思ったのに予想外だ。

「意外だな……俺、てっきり甘えるなみたいなことを言われるかと思った」

「お前は迷って此処にきたのだろう?誰だって心細いはずだ。

それに俺だって故郷に帰る事を目指しているんだ。

七つの【大冷孔】を解放し、遥か遠い故郷に帰る」

物憂げにヴァイスはそう呟いた。

悔しいが……いやしかし絵になるなこの男。

イケメンすぎるだろ。

ちょっと現実離れした美形だ。

その物憂げな表情だけで女の子が放って置かないだろう。

向こうの世界ならそのままアイドルや俳優でもやっていけるだろうなと思う。

それはそうと俺は思った疑問を口にする。

「大冷孔ってなんだ?」

ヴァイスが本当に驚いたような表情を形作る

「本当に知らないのか……?お前は何処から来たんだ?」

「日本だよ!にっぽん!ああ、こっちじゃ通じないかもしれないな……

えーと、チキュウの日本!テラ!アース!ガイア!」

俺は思いつくがままにそれっぽい世界の名称を並べ立ててみた。

「……本気で言っているのか?」

ヴァイスはいぶかしげに眉をひそめた。

「え、なんか俺おかしい事言った?」

「地球も日本とやらも知らんがまさかガイアとは……」

「え。知ってるの!?」

「ガイアは彼岸、あの世だ。天上に有る死後の世界……魂の行く場所とされている」

「あの世……マジかよ……こっちの世界……あの世……

一体全体……此処はどうなってるんだ……」

「信じないわけではないが何処から来たかは吹いて回らないほうがお前のためだ」

「分かったよヴァイス……頭のやばい奴扱いされたくないもんな」

「聞かれたら記憶喪失とでもしておけ」

「おう……で、大冷孔って何なんだ?」

「それを説明するにはこの世界の神話から始めなければならないな」


そういってヴァイスは語り始めた。

善き神と悪しき神が空の星達の支配権を巡って果てしない争いを

繰り広げたのも今では昔のこと。

争いの末に善き神は冷たい場所に悪しき神を封じ込め、その上に蓋をするように

この世界を創ったとされている。

善き神の封印は悪しき神から魔法の力を吸い出し世界を豊かにするはずだったが

悪しき神の置き土産である怪物が魔力湧く泉である【冷孔】の元に居座り続けていた……


「へー。なんか、聞いたことのあるような無いような……」

空の星たちの支配権?何か引っかかるんだよなあ。

似たような話をどっかで聞いたような……

「小さな規模の冷孔は山ほどあって、その傍に村があったりする。

地上にはびこる怪物退治や冷孔に居座る大物の怪物を退治する職業

【バスター】は今も引く手数多だな。

功績によっては栄達、栄耀の道が開けるし貴族になれることもある」

「なんとなーくニュアンスで冷孔がこの世界で重要視されてるのは分かったけど何故なんだ?

そして何で怪物が居座ってるのは分かったけど……

怪物はそこで何してるんだ?どうして怪物をどけなきゃならない?」

「あー。そこも説明しないといけないか……いいか?

冷孔を開放する利点の方から説明するとだな……

第一に冷孔の開いているところと閉じている所では土地の実りの豊かさが全く違うんだ。

それに冷孔から出た魔力だけじゃなく冷気は食料の保存に使える。

第二に魔法で出来ることが増える。

冷孔のバックアップ有りと無しではその強さは比較にならなくなる。

煮炊きする火。安全な水も魔法で出せる。魔法で作られる様々な便利な魔道具も作れる……

何より大きいのは魔物、怪物避けの結界を冷孔の魔力で展開できることだ。

冷孔の開いていない土地でも魔法は使えるが生命力精神力を直に削ることになる」

「あー。なるほどなあ……食い物と技術と防衛か……大事だよな」

子供でも知ってることなんだがなあ、とヴァイスが肩をすくめ付け加えたのがちょっと辛い

ほんとに、迷い込んできただけの一般ピープル、健康優良日本男児なんだよおれは。

「他にも魔物をどけなきゃならない理由はな

悪神、邪神の使いとされている魔物や怪物は基本的に人を殺し、喰う」

「うわぁ……」

「冷孔に居座る大物は魔力を吸って生きるからその場から殆ど動かないが……」

「その大物の怪物に魔力を食われてその冷孔は使い物にならない、と」

「その通り。冷孔に居座ってる大物は地上をうろつく怪物や魔物とは比較にならんくらい強い。

保有している魔力の桁が違うからな……

肉体も強化されてるし中には強力な魔法を使う知能の高い奴もいる」

「なるほど、じゃ、大冷孔ってのはそれの凄い奴か」

「ああ、現在見つかってる大冷孔は全部で十、その内解放済みは三つ……

現在、世界最大の三つの都、帝都、王都、神都になっている」

「なんか凄いんだな」

「一個でも解放すれば最大級の名声と富が得られるだろうな。

歴史上、英雄と勇者と初代教皇以外、大冷孔の解放には成功していない……

さっき、一般的な神話に対しては話しただろ?」

「善き神様が、とかってやつだろ?」

「冷孔の解放は民を富ませ怪物の脅威から人を護るだけではなく神意にも沿うと

一般的には考えられている。冷孔を解放すればするほど

悪しき神の力は弱まり善き神が強くなる……

つまりは宗教上の権威も非常に大きいんだ」

「なんか色々ともめそうだなぁ」

「そう、もめる。具体的には冷孔を開放する命知らずは常に歓迎されるが……

開いた後の利権がなあ……」

「まためんどくさい話だなあ……細かいことはあんまり考えたくないぜ。

とりあえず冷孔を開放すれば皆にとって良いんだろ?」

「民は富むな。それがきちっと分配されるかどうかは別問題だが」

「だったらそれでいいんじゃねーの?」

「……それにな、もし雪平が本当に帰りたい

いや、生身のままガイアに行きたいのなら……

大冷孔を開くことでしか可能性はないと思う」

「どういうことだ!?」

「大冷孔の魔力を利用してガイアまでの空間を繋げる魔法を使うんだ。

冷孔の魔力を利用して長距離転移をする術式は存在するが

ガイアまでとなるとまるで未知の領域、雲を掴むような話だ」

「未知だろうが何だろうが可能性があるならとにかくやるっきゃねーよなあ……」

「そういう結論になるのか?」

「はい?」

なにいってんだ。その結論しかないだろ。

「俺が送ってやるから危険を冒さず街で暮らすという手もある」

「やだよ。チャレンジしないうちに諦めて安易な道に走るのなんて

俺の世界そんな奴らばっかりだぜ。そんなの俺はもうごめんだ。

危険は嫌だけどさ、どうせ命は軽いんだ。

やっても居ないのに逃げるのは死ぬより嫌だ」

拳を握り締め自分に言い聞かせるように俺は吠えた。

「夢はでっかくハートは熱く!能力や見た目や持ってる金が価値の全てじゃねーだろ!

男の生きる道に本当に必要で頼れるのは

己の燃え滾る鋼の魂!元の世界じゃ理解も賛同もされないし

古臭く錆びちまったが……俺はこういう生き様が好きなんだよ!」

俺は俺の生き方が元の世界じゃ時代遅れなんじゃないかなーとは

うすうす気が付いてた。

でも時代遅れだろうが何だろうが俺は好きなものは好きという。

それが本当の個性ってやつなんじゃねえの?

「……くっ、くくくっ、はーっはっはっはっはっ!!こいつは良い!!痛快で傑作だ!!

俺みたいな大馬鹿が他にも居たとはな!!」

「俺にはヴァイスが馬鹿には見えないぜ。少なくとも俺より賢そうだ」

「いやいや雪平、俺の目的である七つの大冷孔の解放なんて

世間的な価値観に照らし合わせれば

十分大馬鹿の戯言、鼻で笑われる子供の夢想のようなものなんだよ。

一つで英雄や勇者に成れる大事なんだ。七つ全部は……」

「こまけえことはいいんだよ!世間がなんと言おうがやるつもりなんだろ?

やって故郷に帰るんだろ?」

「無論だ」

「じゃあそれでいいじゃねーか」

「……片や、七つの大冷孔を開放すると決めた大馬鹿と

片やガイアを目指すと誓った大馬鹿か……子供の空想だが悪くない、悪くないぞ……

まずは雪平には怪物と魔物を狩り冷孔を開放する【バスター】になってもらわないとな!」

主人公、熱血馬鹿。

そして世界観の説明を少しさせていただきました。

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