第二十六話・自己の輪郭
……またこの闇だ。
世界は黒一色。
以前もこの暗黒を見た気がする。
たしかタジンの冷孔の前で倒れたときだったか。
これもまた夢なのか?
前は何もかも曖昧模糊としていたが……
今回は少し様相が違う。
黒一色の世界で自分の輪郭だけがはっきりと見える。
普通、真の闇の中では自分の手足さえ良く見えないのに。
此処にあるのは闇に近いけど全く違う何かなのだろうか?
……足元が水中に居るように頼りない。
地面が無いのだ。
粘性の高い液体を蹴って浮いているような感覚を覚える。
手にも何か纏わり付くようだ……
粘り気の高いべた付いた糊のようなものが……
酷く肌を刺す。
息が出来ないわけではないが……
凍えるように冷たいのに
焼けるように熱い。
電気を流されたように
肺も喉も痺れる。
得体の知れない真っ黒な何かがこの空間に静かに、
しかしみっしりと密集してわだかまっている。
長い間此処に居てはいけない気がする。
まるで自分の輪郭が溶けていきそうだ……
「うわ、わっ!!」
溶けていきそうだでは無い!
実際に溶けて行っている!!
ちょこっと爪の先とか身に付けてる鎧の一部とか……
この黒い霧か液体かに呑まれて溶けている!!
「俺に触るなどけって!!」
纏わり付く何かを必死に振り払おうと俺はもがいた。
このまま抗わずじっとしていたら
きっとこの黒に呑まれて消えてしまう。
俺は自己の、自分の輪郭を保とうと必死だった。
「何だよこの黒い霧は!!」
《かつて……我…………力》
まただ。
以前タジン冷孔で聞いた覚えがある声だ。
《扉――けよ》
今回もまた掠れており、ノイズがあって良く聞こえない。
「誰か居るのかよ!!居るなら姿を見せてくれ!!」
《……開けよ》
「だーかーらー、俺の質問に答えろって!!」
††††††††††††
「はっ!!」
いつの間にかまた俺は気絶してしまっていたらしい。
自己の輪郭がなくなるってのは
あんまり気分の良い夢じゃないな……
「あ、起きた!!ねえ大丈夫!?」
ミルクが心配そうにこちらをゆすっていた。
「……体に異常は無いか?」
ヴァイスもそう尋ねてくる。
「何でもねえ……冷孔のヌシのドミンに
大怪我を負わされたせいかな……
その所為でちょっと悪い夢を見ただけだよ」
「魔法で傷はふさいだとはいえ
……体力をかなり消耗しているのかもしれん」
「そうね、一旦切り上げて町でしっかり休んだほうがよさそうね……」
その時、ヴァイスが何かに気が付いたように俺を見た。
「む……雪平の最大魔力が上がっている」
「あ、本当だ、雪平の魔力が上がってる……」
ヴァイスとミルクがそう言った。
「マジか!?どのくらい上がった!?」
「……ようやく一般人レベルといった所だ」
「前見たときは不自然に少なかったもんねー。
今は普通の人と同じくらいあるわね」
「…………」
なんだかちょっと泣きたくなった。
俺の魔力、一般人より少なかったんだ……
多分訳の分からん魔法に取られてる所為だろうけど……
剣を振るのに支障が無いから別にいいんだけどよ……
なんだろうこの切なさ。
才能ないって言われたときのあれは……
これはミルクに脳筋扱いされても仕方ないと思う……
「まあいいや……上がっただけでも御の字という事にしとこう……」
「そう落ち込むな……」
「と、とりあえず雪平の魔力も上がった事だし帰りましょう」
「そうだな……ゆっくり休む事にするか」
「おう……」
心折れないように頑張ろう……
魔法のほうは才能無いかもしれないけど……




