第二十五話・その力は誰のものだ?
「……結界を張るぞ、主の核を引っ張り出すから手伝え」
ドミンの青色の核は見えているのだが
甲殻が邪魔して手が届きそうに無い。
「あ、そうだね。このままほっとくと別の怪物が寄って来ちゃうし」
「おっと、そういえばそれが残ってたな……」
そういえば結界を張る作業が残ってたんだった。
「ミルク、辛いだろうが砂をどけるのを頼めるか?」
「ちょっと休憩したし風打一発くらいなら何とか……
怪物を退けたから周囲に魔力が満ちてきたし……」
「あれ、ヌシの核が有るのに魔法ぶっ放して大丈夫なのかよ?」
「下位魔法一発程度なら大丈夫だ。核の魔力が開放されるのは
核の持つ魔力以上の攻撃をした場合に限るからな」
ミルクの風打が怪物の組織と体液の残骸の砂を吹き飛ばす。
ようやく青色の核が取り出された。
デカイな……
地上をうろつく弱い怪物の核の大きさがビー玉サイズで二センチほど。
ちょっと強い怪物でピンポン玉サイズの大体四センチ。
マリウスとかだとテニスボールサイズの六センチ位なのに……
だがこのドミンの核の大きさは十センチ位か……ソフトボール位のサイズはある。
蒼い水晶玉みたいだ。
「あーもー疲れたー!!」
ミルクがしゃがみ込んだ。
さっきまで激戦を繰り広げていたのだから無理も無い。
「お疲れ様……二人とも、バスターカードを」
「はーい……」
「おう」
俺とミルクは揃ってヴァイスにバスターカードを渡した。
ヴァイスは三枚のカードを重ねると、
ヌシの核に触れた。
「……結界術式展開」
ヴァイスが平坦な声でそう呟くとカードとヌシの核が光り輝き……
辺りの空気が変わった気がする。
気温自体は寒いままだが気配が違う。
人の立ち入りを拒むような気配から少し安心できる気配になった。
「これで、もう怪物は入ってこれない。
人数制限の結界から怪物避けの結界に切り替わったわけだ」
「なるほどな……」
「そういえばさー、この冷孔どうするの?」
ミルクがそう尋ねてきた。
「俺は領地など持つ気は無い。
売って金銭に換えて三等分する。
新しい装備を整えるなり旅の資金にするなり金は何かと入用だ。
二人ともそれでいいな?」
「俺も土地なんか持ってもしょうがねーよ」
そういえば怪物から開放した土地はバスターのものになるんだっけ。
「……ふうん、そっかそっか……
あたしもそれでいいよ」
ミルクは何か少し思う所があるようだった。
「躊躇い無く三人分でアカウントをとるなんて
やっぱり普通のバスターと違うかも」
「三人で協力して開放したんだからそれが普通なんじゃないか?」
「実際はもっと揉めるのよ」
ミルクはため息を付いた。
「大抵は大人数で冷孔を開放した場合
誰が怪物の討伐で一番活躍したかですっごいもめるの。
その人がアカウントを手に出来るから」
MVP……って訳か。
「皆が平等に開放した、って形の協力開放もあるんだけど
協力開放って事と単独開放ってことは大分旨みが違うから……
お金に変えるにしたって人数が多ければ多いほど一人の取り分は減るの。
アカウントは一人で持ってれば地主だし
お金に変えられるからねえ……色々とトラブルが付き纏うのよ。
私だってシルバーカード手に入れる為にすっごい苦労したのよ?
態々お金に変えること前提のバスターチーム探して、
報酬の殆どを放棄することを約束してようやくランク上げられたんだから!!」
ミルクはプリプリと思い出し怒りをしている。
「ヒーラーは直接怪物に手傷を負わせにくいからな……
大人数で冷孔を開放した場合
最悪冷孔開放権を巡って殺し合いにすら発展する。
冷孔の戦いは基本的に誰も見ていない……
仲間を怪物との交戦で死亡したことにしてな」
ヴァイスは苦味を僅かに口元に湛えて言った。
「なんだよそれ……馬鹿げてるぜ」
一緒に戦った仲間を殺してでも金が欲しいのか?
だが中にはそういう奴らも居るんだろな……
「ああ、馬鹿げていると俺も思う」
「全くね、敵は怪物なのに人間が私利私欲でお互い争って……
協力し合わないと冷孔の開放は中々出来ないのに……
その辺りが冷孔の開放が遅々として進まない理由でも有るとあたし思うのよ。
神様もお怒りだと思うわ。
教義で一番やってはいけないこと、禁じられた事が
種族は違えど同じ人間同士が私利私欲でいがみ合い殺しあうことなのに……
そんなことしてたら何れ人間は怪物に滅ぼされてしまうと言われているわ」
「……俺もそう思うよ」
心の底から俺はミルクに同意した。
この世界の神様割と良いこといってるじゃねえか。
この戦い、ヴァイスが引きつけ、俺が怪物を攻撃し、ミルクが傷を癒す。
誰が欠けてもなし得なかっただろう。
それくらい怪物は強いのだ。
「このパーティの雰囲気はいいわ。
ヴァイスさんは無愛想だし雪平は突撃馬鹿だけど……
背後にまで気をつけなくていいもの」
ミルクはしみじみとそう言った。
「倒すべきは怪物だろ?何で味方同士殺しあわなきゃなんねーんだよ」
「報酬でもめるなど時間の無駄でしかない」
「あんたらはそういう奴らよね……うん……
あ!そうだ雪平!さっきみたいな無茶はしないでよね!!
軽い怪我ならまだしも重傷を負うとヒーラーにすっごい負担が掛かるんだから!!
怪物を怖がらないのは認めてあげるわ!!
でも死んじゃったら元も子もないじゃない!」
さっきのしおらしい態度とは打って変わって凄い剣幕で怒鳴られた。
「わ、悪かったよ……ほんとごめん……
俺ももっと冷静にまわり見て戦わないとダメだな……」
「……一度手痛い目にあってそれに気づけたようなら俺からは何も言わん」
ヴァイスはそれ以上はこのことについて何も言わなかった。
それから黙って荷物を紐解いて火を熾す準備を始めた。
「あれ、すぐ帰るんじゃないの?」
「雪平に魔力になれてもらわねばならないからな。
疲れているようならミルクは先に帰っても構わないんだが」
「こうなったら最後まで付き合うわよ」
そういえばすっかり忘れていたが……
此処の冷孔を開けたら
魔法の使えない俺の為に冷孔から出る魔力を浴びて
最大容量を上げるって目的も有ったな……
俺たち三人は火を囲んでそのまま暫くそこに居ることになった。
今、この小冷孔に有るものといえば怪物の死骸と蒼い光を放つ核
そして火を囲む俺たち三人……
戦い終わって汗が冷えてきたら冷孔の寒気が余計に寒く感じる。
戦闘直後は涼しくてありがたい位だったが……
じっとしていると火に当たらずには居られないくらいに寒い。
まるで空間全体から寒気が染み出しているようだ。
「どう?何か変化はあった?」
「んー……寒さ以外でなんか……
手足の先がピリピリする以外には別に……」
「魔力が浸透しつつあるのかもしれん。
区別のためにもちゃんと手足は暖めておけよ」
「へーい」
凍えて震えたりするのとはまた別種の感じだ。
微弱な電流と一緒に流しながら細かい針でつつき回されているような……
しかし俺にとってはこの魔力というのがどうにも肌に合わない。
魔法が凄いって言うのは分かる。
ヴァイスのアニキが使う雷もすげえし
ミルクが使う回復魔法や風の魔法も凄いとおもう。
ミルクに直して貰わなければ俺は今も重症で生死の境を彷徨っていただろう。
下手をすると死んでいたかもしれない。
だけど……俺は何か、怖いのだ。
この凄まじい魔法と魔力という力が。
魔力が無い所ではミルクはあんなにやつれながら魔法を唱えなければならなかった。
本来の魔法というものはああいうものなのではないだろうか?
冷孔からは相変わらず魔力と冷気が噴出し続けている。
その力は誰のものだ?
本当に俺達のものにしていい物なのか?
本来は怪物の動力源……その源となっているのは
封印された邪神……
魔力って一体なんだ?
「なあヴァイスのアニキ……核ってのが怪物の魔力の源だよな?」
「そうだ」
「怪物は魔力さえあれば生きていけるのか?
冷孔に集まる性質もそうだし……」
「生きている、というのは正しくないが……魔力ある限り動き続けるだろうな」
「生き物としておかしいな……
魔力さえあれば生きていけるのに何で人間を食い殺すんだよ?」
人間以外の生物は生きていければ無駄な争いなんて基本的にしないはず……
いや、縄張り意識でもあるのか?
「一つ、怪物は人間と神々と戦うために創られた。
二つ、怪物が人間を食い殺すのは人間の体内にある魔力を求めてのことだ」
ヴァイスは相変わらず端的にそういった。
「ううん……」
やっぱり魔力が鍵なのか……?
「まあ、神と人間の敵の事について倒し方以外に考えても無駄じゃない?
そんなこと本当のところ魔人と邪神しか知らないんじゃないかな」
ミルクはそう言った。
まあ確かに倒し方以外についての考えはそれ以上どうなるものでもないけど……
「魔人ってなんだ?」
また新しい単語が出てきた。
「魔人ってのは七種族に数えられない
邪神を信仰し怪物に命令を下すヒト種の裏切り者よ。
邪神の持つ強大な力に魅入られた愚か者……
呪われた暗黒魔法を使い災厄を齎す存在……とされてるわね。
まあ、教会や国家の尽力もあって……
パラダイムでは全滅したって話が出てるし気にすることは無いわよ」
全滅した……か……
彼らは何を思って邪神に組したのだろうか?
ひょっとして冷孔の向こう側の世界ではまだ彼らが生きているのではないのだろうか?
俺はふと、小冷穴の中心に目を向けた。
まただ――誰かが、俺を見ている気がした。
「う……またこの感覚かよ……気持ち悪……」
「雪平?」
火に当たりながら、俺の意識はゆっくりと闇に落ちていった。




