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第二十ニ話・小冷孔の戦い・前編

タジン平原は広い。

現在の進行方向である山脈で視界が遮られる北側はともかく

東側には地平線が見えるくらいにだだっ広い。

日本では地平線が見えるような場所は北海道くらいにしかない。

殆どが人工的な建物で視界が遮られて国内で地平線を見る事は難しい。

東側に地平線が見えるということはあそこから……

最低でも数十キロ相当な距離が離れているはずだ。

俺達は楔形の簡易結界の中で野営して一夜を過ごし……

北に歩く事さらに半日。

ようやく目的地が見えてきた。

草原の中に広がる円形の凍てついた地面。

管理されてない冷孔の冷気は

冷孔本体の大きさに比べて遠くまで広がるんだな……

照りつける日差しは強いのに

吹き付ける風は冷たくなってきている。

タジンの町の中冷孔と比べると小さい範囲だがその中心は僅かに窪み

中心に大きな怪物が居る事が分かる。

取り巻くように見慣れない魔物も見かける。

「うろつく怪物が変わってきたな……」

スラやマリウスやハマレイアは余り見かけなくなった。

変わりに芋虫のような怪物が多く、少数の蜂の様な怪物がうろついている。

「冷孔のヌシのテリトリーが丁度

人間の出入りを制限する人数制限の結界の範囲内になってるのよ。

冷孔周囲では棲む怪物が違ってくる事も多いしね」

「飛んでる針の有る怪物がファブリだ」

体長は五十センチくらいだが

それと同じくらいの長さを持つ

もはや針というよりは槍やレイピアにそっくりの尾針をもつ巨大蜂をヴァイスが指し示す。

「……毒をもつ尾針も脅威だが何より厄介なのは

あいつは特定のルートを巡回し、敵を発見すると音を鳴らして仲間を呼ぶ。

だが上手く避ければ無駄な消耗をせずに主にたどり着ける」

「うげぇ、仲間を呼ぶのか……」

「怪物に連携されると死が見えるからな」

「ファブリの群れに襲われて全滅した商隊やバスターチームの話もたまに聞くわね」

ミルクもさらっと恐ろしい事を言う。

怪物はどいつもこいつも厄介な性質を持ち合わせてるなあ……

あいつらが集団で襲い掛かってくると槍の雨が降ってくる自体もありえるわけか。

……ああ。槍の雨が降るって言葉現実ではありえない事

だって諺のはずだけど、実際にこのパラダイム世界ではありえそうだな……

「暫くは此処で様子を見るぞ」

低周波を伴うかなりうるさい羽音が行きつ戻りつしている。

身を潜めながら待っていると

巨大蜂ファブリが遠くに離れていこうとしている。

「お、離れてくぞ」

「此処は本来ファブリのテリトリーではないからだ。

他の冷孔の様子を見に来ただけだ」

「あー。小冷孔のヌシがナナだったら

警護すべき冷孔から離れるなんて事はありえないわね」

「ナナが相手だと今の雪平では向かないだろう」

「それもそうね」

「どういうことだ?」

「えーとね、ファブリは本来ナナっていう小冷孔のヌシに統率されているの。

ナナの見た目はファブリを太らせて何倍にも大きくした感じね」

「空を飛ぶナナとファブリの群れは雪平には相性が悪すぎる」

察するに、女王蜂と働き蜂、みたいなもんか。

確かに飛ぶ相手は大剣しか攻撃手段が無い

今の俺にとっては天敵過ぎる。

「バスターズギルドから買った情報によると

この小冷孔のヌシはドミンで取り巻きはガルだからな」

「それなら大丈夫そうね」

「ガルってのはあの大芋虫かよ?なんか厄介な攻撃してくるのか?」

「動きは鈍いし他の魔物に比べて体は柔らかいが

土の魔法を使う。視界は狭いから正面に立たなければ問題ない」

「わかった」

「それでは始めるぞ、先ずは取り巻きを片付ける!」

「おう!!」

俺とヴァイスとミルクは飛び出した。

俺も手近にいた全長二メートル、体高一メートルは有る

大芋虫の側面から駆け寄り大剣を振るう。

「おぉぉぉらぁ!!」

気合一閃、横薙ぎに払った剣が芋虫の胴体を斬る。

剣は余裕で通る……確かに他の怪物と比べて脆いし遅い。

分厚いゴムを斬ったような感触だ。

生理的嫌悪感さえ我慢できればたいした相手ではない。

「ほらほら、こっちこっちー!」

あちら側にいる飛べるミルクなどは超余裕そうだ。

魔法発動前のかすかな唸りが聞こえた気がした。

ガルの手前の地面が盛り上がり、地中から鋭く尖った岩と石が飛び出す……

あれがヴァイスが言っていたガルの魔法か……

確かにあんなもんまともに喰らったら大怪我間違いなしだが……

からかうように宙を舞い遊ぶミルクには全く当たっていない。

華麗に回避している。

「そんなトロイ魔法当たるもんですか!!

ガルは柔らかすぎて風打はそんなに効果が無いから……」

魔力と風がミルクの周囲に集う。

「速き風よ、我が神の名の下に集いて敵を討つ刃となせ!風刃!!」

風の刃が大芋虫の怪物を切り刻む。

ヴァイスは……

「アニキの方は心配するまでも無いよな……」

ふと目線を向けると、ヴァイスのほうは戦闘というよりは作業だった。

彼は一言も発せず流れるように駆け寄り、すれ違いざまに頭部を一突き。

魔法など使うまでもないとでも言うかのように。

疾走し、すれ違いざまに刺し、また次の獲物へ向かう。

中には最短距離の怪物の正面から行き、

怪物の魔法が発動する直前には頭部を刺していた。

1秒前までヴァイスが居た位置に一拍遅れて土の魔法が炸裂した。

「俺も出来る事を頑張るか……!!」

二人に遅れをとり続けるわけにも行かない。

俺は再度大剣の柄を握り締めると取り巻きの怪物に向かって駆け出した。

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