第二十一話・バスターの裏技・怪物の核と結界
俺とヴァイスとミルクは小冷孔の開放を目指すべく
タジンの町を出て北に向かって歩いていた。
相変わらず天気は快晴。
背の高い草やところどころに茂る幾つもの潅木の間を
踏み分けながら俺達は進んだ。
「あー、翼が小枝に引っかかるー……」
ミルクがブツブツ呟いている。
空を飛べて便利だけどこういう地上を進むときは不便そうだ。
「一人だけ先行するわけにも行かないだろ?
野営用の荷物は俺とアニキが持ってるんだし」
俺もヴァイスも前日準備した荷物を皮袋に入れて背負っている。
ヴァイスは先頭に立ってしきりに周囲を警戒している。
「余り騒がしくするな……小冷孔に付くまで無駄な魔力と体力の損耗は避けたい。
バスターズギルドから買い取った小冷孔の情報によると
たどり着くまでには一日半は掛かるからな……」
結構な長い道のりだ。
「でも帰りが冷孔転移で一瞬ってのはありがてえなあ……」
冷孔転移のシステム上怪物の居る所には転移できないが
倒してしまいさえすればワープで一気に帰ることが出来るのはすごい便利さだ。
怪物との戦いでくたくたになった所を歩いて帰るのは考えるだけでも億劫だ。
「あ、そういえばヴァイスのアニキ
怪物避けの結界を作る楔みたいなのもってたじゃん。
あれって使えないのかな?」
「あー、そういえば雪平は怪物避けの結界の仕組みを知らなかったわね」
ミルクがやれやれといった感じの声で呟いた。
「結界の仕組み上移動しながら使うのは難しいのよ」
「……怪物避けの結界は基本的に設置型で冷孔から常時供給される魔力が前提なんだ」
ヴァイスの話をミルクが補足する。
「そ。結界を展開している間中ずっと魔力を使うからね。
楔形魔道具に充填されている魔力を使い切ったらそれでおしまいなのよ。
効力は大体半日くらいね」
「なるほど……今歩いている最中に結界使ったら野営できなくなるもんな」
そういう問題があるのか……
「あ、だったらさ。沢山【楔】を持ち歩いて各人持ち歩いてってのはダメなのか?」
「それもちょっと難しいのよねえ……」
「さっき設置型だと言っただろう?
結界は術式を刻んだ楔型魔道具の線を結んだ範囲を怪物から守る。
手に持った所で動きが激しすぎれば線は乱れて効力がかなり下がる。
自分は含まれないから余り意味は無い」
「綺麗な直線が結べないと上手く結界を創れないわけか」
納得した。上手くはいかないなあ……
早々簡単に楽は出来ないってことか。
「そういうことね。意外と融通が利かないのよ。
地面に刺すなりなんなりして何かに楔を固定しないと術式が安定しなくてね……
詠唱や魔道具を使って自力で結界を展開した所で
冷孔の補助を受けていない所ではどんどん体力と精神力を奪われていくわ。
現実的じゃないわね」
ミルクはやれやれという感じで両手を挙げる。
「雪平も怪物に襲われる馬車見たでしょ?
馬車の柱や部分部分にも楔形魔道具は埋め込まれてるんだけど
封入されてる魔力が尽きればそれまでだし
マリウスみたいにしつっこい魔物に見つかるとヤバイし」
「なるほど……万能じゃないんだなあ。
そういえば、どうやって道具に魔力を封印してるんだ?」
「あんたも良く知ってるものを使ってるわ。
怪物の核は魔力を蓄える性質があるのよ。
一体の怪物に一個しかないから討伐記録にもなるし
そして換金対象になるのは知ってるだろうけど
魔力をためれる宝石だから魔道具の材料として需要があるわ」
「へー!怪物の核にはそういうことにも使えるんだ!!」
綺麗なだけの宝石じゃなかったんだ。
「……核は怪物の魔力の源、動力源で心臓部だ。
これを破壊、及び抜き取れば大抵の怪物は倒せる」
「壊すのは勿体無いし大抵怪物の体の奥深くにあって狙えないし
全くお金にならないから普通やらないけどね。
お金目当てでやってるわけじゃないけどやっぱり旅には色々と入用だし……」
「行き道がてら核の詳しい説明とそれを使ったバスターの裏技について説明してやる」
何かの役に立つかも知れないしな、とヴァイスは言った。
「よろしくお願いします」
役に立つ事なら何でも聞いておきたい。
「バスターの裏技?」
ミルクは怪訝そうな表情だ。
「俺の知る限り核は特定の魔力波長を持つ、物質化し安定した魔力の塊だ」
ヴァイスが説明し始めた。
「物理的な作用で破壊してもただ砕けるだけだが……」
「ふんふん……」
「核が吸収してる魔力の量よりも多い魔力での魔法攻撃を行ったり
上位魔術を核に与えると話は別だ」
「そうするとどうなるんだ?爆発とかすんのか?」
魔力の塊に強い攻撃魔法をぶつけると多分そんな事になると思うけど……
「おおむね正解だ雪平。魔術的な衝撃を受けて核の魔力が一気に開放される」
「へー!それがバスターの裏技なんだ……始めて聞いたなあ」
ミルクが感心したように呟いた。
「バスター中級者や魔法の専門家なら知っている人間も居るだろう。
開放された核の魔力は与えられた攻撃魔法の方向性に引きずられるから
核の種類によっては魔法の威力を倍に高める事も可能だ。
無論そういう使い方をすれば核は粉々に砕けて使用不能になるがな。
そうでなくても核をこういう風に使うと暴発の危険もある」
「確かにそれは裏技ね……核をそういう風に使えば
魔法の威力を高められるって分かっていても普通勿体無くて出来ないもの。
よっぽど裕福か、楽に怪物を狩れる腕前がないと……」
ミルクは何か考え込んでいるようだ。
「今のは攻撃に使う場合だが防御にも使用できる。
こっちのほうが難易度が高いがな。
魔法を使う怪物のタイミングと角度を図って核を投げてやる事で
怪物の魔法をあらぬ方向に誤爆させたり……
あるいは目標の手前で暴発させてやる事で身を守ることも出来る」
「それはまた……一歩間違えば自爆寸前の荒業ね……」
「下手打てば怪物の魔法を強化するだけで終わりかねないよなそりゃ……」
「……怪物の核の魔力は強固に物質化している所為で
基本的には専用の魔道具を使わないと魔力を出し入れできない」
「ああ、それは私も不便に思った事有るわー。
核の魔力がちょこっと自由に使えたり引き出せたりしたらなあーって
普通に握って魔法使っても核の中の魔力はビクとも動かないのよね」
「それは波長が違うためだ。
態々町に魔力注入や取り出し用の巨大な魔道具があるのは安全のためだろうな」
ああ、街中に有る大きい機械ってそのための物なんだ……
冷孔の魔力を核に入れて充電したり
逆に魔力を核から取り出したり……
「核の魔力を自在に出し入れして自らの魔力を補充できるのは
魔法専門に特化したソーサラーのクラスだけだ。
魔道具も使わず戦闘中にそれが出来る熟達の魔導師となるとさらに数は少なくなる」
「そういえばソーサラーってそんな事も出来るのね」
「なるほど……今回の話も為になったぜ」
「いざというときには核を使って強力な一撃をすることをお勧めする。
出し惜しみをして命を落とす事になったら元も子もない。生きてこそ、だ」
俺達は道中そんな会話をしながら小冷孔への道のりを進んでいく……




