疑惑は晴れたようです
ベラが試験問題を解き終わった後、試験用紙を受け取った教師たちがすぐに採点に移った。
通常の試験ではすぐに採点に移ることはないが、ベラが不正をしていないことを証明するための試験のため、その場で採点をしている形だ。
「こちら採点が終わりました。そちらはどうですか」
「こちらは後少しですね」
この場に居る教師総出で採点をしているため、数分もすればベラが解いた試験問題の採点も終わるだろう。
目の前で自分が解いた問題を採点されている状況にベラは緊張し、後ろで待機しているはずのエリオットの方へ振り向くこともできないまま、採点が終わるのを待っていた。
「これで終わりですね」
採点が終わり、教師が試験用紙をまとめていく。
「ありがとうございます」
自分の試験結果により、再試験という形で付き合わせてしまっている教師に少し申し訳ないと思いながら、採点が終わったことを確認してからベラはそう声を掛け、頭を下げた。
「いえ、これも仕事です。それに、貴方もこのような時間までお疲れ様です」
そう言いながら教師は採点結果をまとめていく。
「問題はないですね。いきなり試験を受けた状態で、これだけ点数が取れていれば不正もないでしょう」
「それはよかったです」
問題を解いていた際の手ごたえは悪くなかったためその点で不安はなかったベラだったが、教師のその言葉に安堵し胸をなでおろした。
「今回の件でお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか」
「えっと、はい」
不正の疑惑は晴れたようだったが、教師の一人がそうベラに言葉をかけて来た。
「今回受けてもらった試験問題は前回の試験問題でした。しかし、アルコットさんは前回の試験でここまでの結果は出していません。その理由は何でしょうか」
先ほど受けた試験の結果が書かれた紙をベラの前に出しながら教師はそう問いかけて来た。
実は先ほど不正をしていないかの確認のためにベラが受けた試験内容は、前回の試験内容だった。
確認のための試験で前回の試験を使用したのは、前日の試験内容が先日受けた試験内容の基礎に当たる物で、先日の試験結果が良いのであれば、前回の試験結果も悪くないはず、という判断の元に採用された。
結果、ベラは前回の試験から時間が経っているにもかかわらず好成績を出したため、どうして前回の試験からこの結果を出さなかったのかと問われている形だ。
「婚約者の成績に合わせていたためです」
「なるほど、そうですか」
婚約者に合わせて、釣り合いの取れる成績を取る生徒は意外と存在し、それは相手を不快にさせないためや、相手に合わせる能力を見せるために行うことが多い。
しかし、その多くは自分よりも能力の高い婚約者に合わせるため、勉学に力を入れている場合が大半で、ベラのように態と試験結果を悪くするということは稀だ。
教師の中でも生徒間の婚約者の話は共有されている。ベラとゴードンの婚約が白紙になったこともこの場に居る教師は把握していたため、ベラの言葉を聞いておよその経緯を理解した。
「今後についてなのですが」
「はい」
「アルコットさんは今後も今回のような試験結果を維持し続けるつもりはありますか。そのつもりがあるのであれば今のクラスではなく、上のクラスに移籍することも検討できますが、どうしますか」
ベラの後ろに一度視線を向けながら教師の1人がそう提案してきた。
学園のクラスは年に1度前年度の成績によりクラス分けがされる。そのため、現在ベラは中程度の試験結果を取っていた生徒が集まるクラスに所属している。そして当然だが、その中には成績の近かったゴードンもいる。
婚約が破棄されるよりも前からベラとゴードンが教室内で会話をすることはほとんどなかったが、今の状態で同じクラスに居るという状況は少し居心地の悪さをベラは感じてもいた。そのため今回を機に別のクラスに移動することも視野に入れてもいいかもしれないとベラは考えた。
通常であればこの時期に所属クラスが変わることはないが、稀に成績の悪化や別の理由などで下位クラスへ所属が変更される生徒も存在はしている。
しかし、今回のように上のクラスへ移籍する事例は本当に稀で、数年に1度あるか無いか、それくらいには珍しいことだ。
「可能であれば、お願いします」
本来とは違う時期にクラスが変わる。それも上のクラスへの移籍になる。これは周囲の生徒から良い方面、悪い方面の両面から注目されることになるだろう。
それを理解したうえでベラはその提案に乗った。
「わかりました。ではこれについては試験結果が張り出された後、詳しく説明することになると思います」
「はい、ありがとうございます」
ベラがそう返事をすると、クラスを移籍することを提案してきた教師が気を抜いたように息を吐いた。
「これでいいですか。エリオット王子」
「ああ、すまない。手間をかけさせた」
どうやら今回の件に関わっていた様子のエリオットがベラの横へ移動してくる。それと同時に今エリオットに声を掛けた教師以外の2人の教師がこの小教室から退室していった。
「いいですよ。あなたの言う通り、ここまで成績のいい生徒を今のクラスのままにしておくのは、学園側からしても教師としてもよくないと思いますから」
話の展開について行けず、ベラはエリオットとその教師のやり取りをその場で聞くことしかできなかった。
「アルコットさんもこちらから圧を掛けることになってしまい申し訳ない。不正が疑われている手前、厳しくいかなければならなかった」
「あ、いえ。そうする理由はわかりますので大丈夫なのですが、これはいったい?」
エリオットと親しそうに話す教師にベラは状況の説明を求める。それに対して教師ではなくエリオットが答えた。
「もともと、ベラが今回の試験で好成績を出すことが分かっていた。その結果このように不正の疑いがかかることもな。そのため、事前にそうなる可能性があることを私が伝え、ある程度再試験の内容にこちらの意見を組み込んでもらったのだ」
「なる、ほど?」
不正疑惑で呼び出されたにもかかわらず、ベラを呼びに来たのが教師ではなく王族であるエリオットだったのはこれが理由だった。
「再試験で前回の試験を採用するよう助言したのは私であり、その結果が良ければ所属クラスの移籍を提案するように言ったのも私だ」
「えっと、それはどういう意図で、でしょうか」
エリオットが自分のためにそこまでする理由が分からず、ベラはそう質問をする。
「先ほどヤタ教諭が言った通り、ここまで成績のよい生徒をあのクラスのままにしておくのは問題があると思ったからだ。それとまだ話すことは難しいが、私の都合も関係している」
「そうでしたか」
エリオットの都合という点が少し引っかかったベラだったが、話すことは難しいと言われたことでそれ以上、聞くことはしなかった。
「上位の試験結果についてはこれまでと同じように明後日、大講堂の黒板に張り出されることになる。この場で成績を伝えることはできないのでアルコットさんはそちらで今回の試験結果を確認してください」
「わかりました」
それから少しの間、エリオットと試験に関する話をした後、ベラは校舎を出るまでの間エリオットに送られ、そこから寮の自室へ戻った。
今日から夜も更新します。




