期待には応えたいものです
エリオットに逢引きと言われベラは戸惑った。
噂を聞いてそれが自分に関わることだと認識し、エリオットの心配をしていたものの、ベラにはその噂の当事者である自覚がなかったのだ。
(そういえばエリオット様の逢引き相手と取られているのは私でしたね)
状況の客観視はできていた。しかし、しすぎていたことでベラ自身が噂の当事者である意識が抜けていたのだ。
噂の中にベラの情報が含まれていなかったのも自覚できなかった要因の1つだろう。
「ええと」
エリオットの言葉にどう返すべきかベラは悩んだ。
最近親しくなってきている相手とはいえ、エリオットは王族だ。下手な返しをして恥をかかせるようなことになっても困る。そう考えてベラは言葉を詰まらせてしまった。
それと逢引きに近いことをしているという事実を認識したことで、ベラはそこはかとない恥ずかしさを感じ、エリオットのことをどう見ていいのかわからなくなり少し顔を伏せた。
「ふむ。まあ、実際はそう見えると言うだけだがな」
ベラがどう反応を返せばいいのか迷っていることに気づいたのか、エリオットがそう言って話を打ち切った。
「そ、そうですね」
エリオットの方から話題を終わらせてくれたことでベラは安堵で胸をなでおろした。しかし、同時にそう見えるだけ、逢引きではないときっぱりエリオットが否定したことを受けて、ベラはほんの少しだけ胸を痛めた。
「ああ、そろそろ時間か」
そう言ってエリオットは椅子から立ち上がる。
本来であれば立場的にベラも同時に立ち上がりエリオットを見送るべきなのだが、それは2度目にエリオットが来た際にしなくてよいと言われたため、それ以降はベラは座ったままエリオットを見送る形になっていた。
「もうそんな時間でしたか」
エリオットがそう言ったことでベラは机に置かれている懐中時計を確認した。確かに時計はエリオットがここから居なくなる時間を指していた。
いつもと変わらない時間、普通に会話をしているだけなのだが、ベラは最近その時間がより短く感じるようになってきていた。
「それではまた来よう」
「はい」
自分に対して微笑みかけそう言ったエリオットの背中をベラは見送った。
その背中を眺めながらベラは少し名残惜しさを感じながらも、エリオットの姿が見えなくなったところで勉強を再開した。
「これは意外と押せば行けるか?」
エリオットは図書室から出ていく際そう小さく漏らしたが、小声だったことと距離もありベラの耳にはその言葉は届くことはなかった。
ベラはエリオットを見送り、その姿が見えなくなって勉強を再開したが、それ以降普段よりもあまり集中することが出来ずにいた。
(自覚するとなかなか恥ずかしくなるものですね)
エリオットがこの場から居なくなる少し前位から、ベラの顔はいつもより少し熱を持っていた。これは恥ずかしさから来るものなのか、それとも他の何かなのか、ベラにはわからなかった。
少しでも早く顔の熱を冷まそうとベラは優しく頬を揉みこみながら考える。
(最初に噂の話をしだしたのは私ですし、エリオット様はそのような気はないのでしょうけれど、あのような美丈夫の方に逢引き云々の話をされると、どうしていいのかわからなくなります)
先ほど感じていたそこはかとない恥ずかしさ。それの原因は自分が逢引きのようなことをしているという、今まで自分が体験することのなかった恋愛関連の行動をしていると自覚したからだ。
幼いころからゴードンという婚約者が居たベラにとってこのようなことは経験がなく、全くと言っていいほど恋愛関係に耐性がなかった。
自分がそのようなことに関わると今まで一切思っていなかった状況で、不意打ちを食らった感じになっているのも、余計に恥ずかしさを増長させていた。
(どうしましょうか)
これまで意識しないよう努めていたが、さすがに今回の件でベラはエリオットのことを意識せざるを得なくなってしまった。
いつまでたっても集中力が回復しなかったため、ベラはいつもよりも早めに勉強を止め、自室へ戻って行った。
そうしてしばらく、エリオットは噂のことを気にすることなくベラの元へ訪れ、噂が下火になりつつある中、あと数日で試験期間に入る、そんな日の放課後。
ベラはいつもと同じように図書室の奥に置かれている机で勉強をしていた。
試験期間が近いということもあり、図書室では勉強するために訪れている学生で溢れていた。中には勉強しようと来たものの同じように勉強に来ていた生徒たちが多く机が空いていなかったことで、図書室で勉強するのを諦めて帰る生徒の姿も見られた。
ベラが使っている図書室の奥に設置されている机は位置の関係か、完全には埋まっておらずいくつか空いている席が存在していた。
図書室は人が増えたことでいつもより少し音が多くなっているが、騒いでいる生徒は1人も居ない。その中でベラは黙々と試験勉強を進めていた。
今回の試験でこれといった目標を設定していないベラだが、できる限り好成績を残してみよう、そう考え全力で勉強に励んでいた。
エリオットは試験前ということで自身も勉学に励むという理由により、少し前に比べてベラのところに顔を出す機会が減っていた。事前に来る機会が減ると聞いていたことでベラが不安に思うことはなかったが、少し物足りなさを感じていることは否定できなかった。
そろそろ寮へ帰らなければならない、そんな時間が近づいて来ていた。
この時間になれば図書室に残っている生徒は、ベラのように余程熱心に勉強をしている生徒や、試験に自信がなく必死に試験範囲の情報を頭の中に詰め込もうとしている生徒くらいしか残っていない。
そんな中、図書室の入り口付近で小さく騒めきが上がった。
聞こえたのは一瞬だけだったが、ちょうど休憩するタイミングだったベラは何事かと入り口付近に視線を向ける。
当然、奥の机がある場所から入り口を見ることはできないため、聞こえてきた騒めきが何だったのか見ることが出来ず、確認するのを諦めベラは視線を机側へ戻そうとした。
しかし、そうするよりも早くベラの視界にエリオットの姿が映り込んできた。
「ああ、良かった。まだ残っていたか」
いつもと違い少し息を切らせたエリオットがベラの元へやって来る。
その様子にベラは違和感を覚えながら、内心エリオットに会えたことに喜びを感じていた。そしてエリオットの息が整うのを待ってから言葉を返す。
「こんなギリギリの時間に来るのは珍しいですね」
学園の図書室は寮生活をしている学園生が多い関係で閉まる時間は夕食の前になっている。
今回エリオットが来た時間は図書室が閉まる少し前だった。普段であればエリオットはとっくに帰っている時間ではあったが、どうしてこの時間に来たのかベラは内心首を傾げた。
「ああ、試験が終わるまでこちらに顔を出せそうになかったからな。少し時間を作って試験前、最後に君の顔を見に来たのだ」
「そうでしたか」
自分の顔を見に来た、そう言われてベラは気恥ずかしさと嬉しさで、小さくはにかんだ。
「勉強の具合はどうだ?」
かれこれ1月以上、ベラが勉強しているところを眺めていたエリオットは、ここ数日のベラの試験勉強の進み具合が気になっていた。
「順調、といえばそうですね」
すでに試験範囲を何度も復習するくらいにはやりこんでいるため、順調どころか完璧に近い状態ではあるのだが、割と自分のことを過小評価する気があるベラはエリオットの問いにそう答えた。
「なるほどな。それならば試験の結果は悪くないだろう」
「そうだといいのですが」
エリオットの言葉に自信なさげにベラはそう答えた。
少し自信なさげに言ったベラの様子を見て、エリオットは座っているベラの視線に合わせるように少し身を屈め言う。
「あれだけ勉強していたのだからもう少し自信を持て。そうでなければ他の者たちの立場がなくなる」
「あ、ありがとうございます」
自分の目をしっかり見つめ、真剣な表情でそう言われたベラは言葉に詰まりながらもそう感謝を伝えた。
そのベラの反応を見て満足そうな表情をしたエリオットはそのまま微笑みながら言葉を出す。
「期待している」
「でしたら頑張らないといけませんね」
そうストレートにエリオットから伝えられたベラは、はにかみながらそう言葉を返した。
そうしてベラはより試験勉強に身を入れ、数日後に行われる試験にできる限りの力で挑んでいった。
次の更新は夜になります。




