噂が立っているようです
図書館でエリオットとベラが会ってからしばらく。
ベラは相変わらず放課後は図書館で勉強をする日々を送っていた。
しかし、変わったところもあった。
今までは図書室の中央付近に置かれていた勉強机を使用していたベラだったが、今では図書室の奥に設置されている、より集中したい生徒のために置かれた机で勉強をすることが多くなった。
より集中するための机と言ったが、確かに集中はできるかもしれないが実際のところ図書室の奥に設置されている関係で利便性は完全に終わっている机だ。
新しい本を取りに行くにも移動距離が増えるし、重い本であればそれを運ぶ時間も増えるということだ。
ゆえにこの机は余程物好きな生徒か、本当に集中したい生徒でなければ使う者が居ない。
そもそも本当に集中したい生徒は必要な本を借り、自室で勉強をするのが普通である。
とはいえ、図書室の本を借りるには補償金としてそれなりの額を用意する必要があるため、すべての生徒が本を借りることが出来るわけではない。
ベラもその補償金を用意することが難しかったため、自室ではなく図書室で勉強をしているという形だ。
どうしてベラがこのような場所の机を使うことが増えたのかと言えば、エリオットの存在が主な理由になる。
あれ以来、エリオットは図書室で勉強しているベラを見つけるとそこへ行き、少しの間会話をするようになったのだ。
ベラはどうしてエリオットが自分のところに来るようになったのかわからず困惑しているものの、何だかんだ考え方や会話の波長が合うのか、勉強の途中にエリオットが話しかけてきてもあまり不快になることがないため、ベラはこの状況を受け入れつつあった。
しかし、周囲の生徒からすれば少しの時間であっても王族が近くにいるというのは居心地が悪く感じるもので、最初のころはベラが図書室に入ってくると嫌な顔をする生徒が居たのだ。
それに気づいたベラは図書室でも目立たない、エリオットが来ても他の生徒の視界に入らない奥に設置されている机で勉強することにした。
「少し申し訳ないな」
「何がでしょうか」
いつものようにベラが勉強をしているところへエリオットが訪れていた。エリオットはベラが使っている机の隣に座り、ベラが勉強している様子を眺めていた。
「私が来ていることで君の勉強場所をこのような場所へ移動させてしまっているだろう」
エリオットも自分のせいでベラが使う場所が図書室の奥になってしまっているのを気にしていた。
少しでも嫌がる素振りを見せればやめるつもりだったのだが、ベラがそのような態度を示さなかったため、エリオットは申し訳ないと思いつつもベラの元へ来ていた。
「別にそれは気にしていないので大丈夫ですよ。頻繁に使う本を変えるということもありませんし、あったとしてもそこまで変わる物でもないので」
ベラは本当にこの場所で勉強することを苦とは思っていなかった。むしろ人目に付きにくい分、勉強するには向いている場所だと思っているくらいだ。
「そう言ってくれるのは助かるが、嫌ならはっきり言ってくれるとありがたい」
「わかりました」
そう言ってベラはまた勉強に戻る。しかし、すぐ何かを思い出した様子で顔を上げ、エリオットへ視線を向けた。
「そういえば」
「なんだ?」
「エリオット様の噂が流れているのはご存じでしょうか」
ここ数日、学園の中でエリオットに関するある噂が流れていた。それを聞いたベラは少し心配になり、エリオットに直接どう思っているのか聞こうと思ったのだ。
「ああ、あれか。まあ、放っておけばその内無くなるだろう」
エリオットはそう何も気にしていない様子でベラの問いに答えた。
「そういうものですか?」
「前の時もそうだったからな」
前というのは、エリオットが元婚約者との婚約を破棄した時に流れた噂のことだ。当時は王族が自分勝手な理由で婚約破棄をしたと、事実とは少し異なる噂が流れていたが、今ではその噂話をしている生徒は居ない。
今回流れている噂というのは、エリオットが学園内で特定の女生徒と逢引きしているというものだ。
その相手に関する噂は聞かないが、ベラがその噂を聞けばすぐ自分のことだと気づくのは当たり前だった。
そもそもどうしてエリオットが逢引きしているという噂が立ったにもかかわらず、その相手がベラであることが広がっていないのか。
それはある意味、単純な理由だ。
噂を口にしている者たちからすればエリオットの相手が誰だろうと構わないのだ。あくまで王族の1人が学園内で逢引きをしている、それが一番重要な部分だからだ。
それにエリオットと一緒に居る女生徒の姿を見たところで、その女生徒がベラ・アルコットであると判断できる者自体少ない。
ベラ自身も図書室でエリオットと会っていると言いふらすようなことはしていないため、噂のエリオットの逢引き相手がベラであると知っている者はほとんどいないのだ。
「エリオット様は気にしていないようですが、王子として立場を考えるとあまりよろしくないのではないでしょうか」
「所詮、娯楽に飢えた者たちの遊びの一環だろう。問題があれば王族として対応するが、放っておけばその内飽きる。それに」
エリオットはそう中途半端な位置で言葉を区切った。
どうして言い切らなかったのかとベラはエリオットの顔を見つめた。
「逢引きしているのは嘘ではないだろう?」
エリオットはそう言うとベラに向かって微笑んだ。




