好奇心は新しい出会いを生むのかもしれない
※このエピソードはエリオット王子に焦点を当てた話になります。
学園へ向かう前、王宮内の自室で軽く事務処理を進めているところ、自分に付けられている使用人から学園からの報告を受けた。
「サラー伯爵家の次男とアルコット家長女の婚約が白紙になったのか。理由は聞いているか?」
「詳しい報告は来ていませんが、勉学上の理由と聞いております」
「勉学…か」
その理由を聞いて、エリオットは少し前に婚約を解消した元婚約者の顔を思い浮かべた。
エリオットは3回生に上がる前、当時婚約者だった侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡していた。
理由は向上心が見られないため。
その令嬢は学園に入ってからずっと試験の成績が中央より少し上くらいを維持していた。
普通の貴族の婚約者であればそれでも問題はなかっただろう。しかし、王族の婚約者である以上、一定の実力を示せない者を身内に入れるわけにはいかない。そう考えたエリオットはこのままその成績を維持するのであれば婚約は解消すると忠告していた。
しかし、その侯爵令嬢はエリオットが直接忠告をしたにもかかわらず、婚約破棄を回避するような行動を一切せず、2回生最後の成績も変わらず中位を維持していた。
少しでも努力の気配を見せれば婚約を解消するつもりはなかったが、最後までそのような気配を見せることはなかった。そのためエリオットは宣言通り、正式にその令嬢との婚約を破棄した。
人としてはそこまで悪い相手ではなかった。性格も貴族としては穏やかな方であったが、いかんせん向上心に欠けた態度で、このまま王族の婚約者としてやっていくのは難しいと判断した面もある。
令嬢の親である侯爵へも忠告を出していたのだが、それも意味をなさなかった。
「少し調べるか」
学園生の間に婚約が破棄される事例自体、特別珍しいことではない。年に何組かは家の問題で解消されることもあるのだ。しかし、家の影響ではなくその個人が起因とした理由で婚約が破棄されることはそう多くない。しかも近い理由で破棄されること自体、過去の事例を見てもそうないだろう。
婚約破棄されたアルコット子爵家の令嬢がどんな人物なのか、それに関して少し興味が出たため、その日の放課後エリオットは教諭室へ足を延ばした。
教諭室に出向き、アルコット家の令嬢であるベラ・アルコットの関連情報を得て、ベラが普段図書室に居ることが多いと教諭から得た情報をもとにエリオットは図書室へ向かった。
ベラ・アルコットの親しい人物に居場所を聞けば、確実にベラ・アルコットの居場所を知ることが出来ただろうが、婚約を破棄された件についてはしばらく公表することはないと情報を得ていたため、エリオットは自身の行動からそれが周囲に伝わらないよう行動していた。
図書室に着くと、司書だけでなく図書室に居た生徒たちがエリオットを見て驚いた表情をした。
普段あまりこのような場所に居る人物ではないためだが、王子が放課後校舎の中に残っているというのも珍しいのだ。
エリオットの姿を見てそそくさと図書室から出ていく生徒の様子を気にすることなく、エリオットは図書室の中にベラが居るか探すために見渡した。
すると図書室のやや奥、普通の学生が勉強するために備え付けられた机の1つにベラが居ることに気づいた。
ベラの様子を窺うため、エリオットはなるべく静かに近づいていった。
静かに移動したからなのかベラに気づかれることなく、エリオットはその背後に移動することに成功した。
様子を窺っていることを気づかれないよう、自身の影がベラの視界に映らない位置からベラの使っている机の上を観察する。
さすがにここまですれば気づかれると思っていたエリオットだったが、よほど集中しているのかベラはエリオットの存在に気付かなかった。
(あの本は2回生で使う教科書の応用本だが、これを今読んでいるのか?)
ベラが現在使用している本は2回生の授業で使用する教科書の応用本だった。
いずれ使うことになる物ではあったが、現段階ではまだ習っていない範囲が書かれた本であり、勉学に問題がある、そういう理由で婚約破棄された令嬢が今読む本ではない。その点で聞いた情報との齟齬が生まれ、エリオットの中で疑問が生まれた。
(これは本当に勉学に問題があるのか?)
確かに事前に読み込んだ情報ではベラ・アルコットの成績は平均よりやや上程度だ。
しかし、すらすらと自前のノートに本の内容を書き写し、さらにそこから自分なりの解釈を付けてまとめていくベラの姿を見ると、それが事実とは異なるのではないかとエリオットは考えた。
エリオットはこのまま考えるだけではらちが明かないと判断して、ベラが自分の存在に気づきやすいよう、自身の影がベラを覆う位置へ移動した。
図書室でベラと軽く会話をした後、エリオットはそのまま自室へ帰宅していた。
「ふむ。なかなか悪くない出会いだった」
最初は興味本位で探し、見つけても様子を窺うだけでエリオットは会話までするつもりはなかった。
しかし、実際にあってみればなかなか興味深い人物で、声を掛けてみたくなってしまったのだ。
「次回の試験が少し楽しみになったな」
ベラとの最後の会話で、次回の試験では加減することなく挑むと聞いたため、エリオットはどのような結果が出るか少し先の未来を想像し、小さく笑みを浮かべた。




